経験値は闇女神の力という設定
アルフレドは瞳を爛々と輝かせる。
魔人レイはドン引きしていた。
同じく、四天王も
「おい…。アイツはなんだ?まるでアズモデ」
「君は本当にボクに対して失礼だね」
「ドラちゃん。まだ抜け出せないの?」
「拙者にも無理でござる。ゼノス氏、自慢の鱗で抜け出せないでござるか?」
因みに声は出せるが、何故か動けなかった。
最初は闇の波動のせいと思っていた。
「ゼノス氏ってなんだよ。って、それくらいもうやってんだよ」
「ボクとエルザも魔法を出せないしね。だからイツマゾクも使えないし」
「これが闇の女神の力…。こんなの勝てるわけないじゃない。アタシたちだけ、時間が止まったみたいに」
「時間は止まってないみたいだよ。こうしてボクたちは話せてるんだし」
闇の波動は魔物の力を大きく減退させるから、体が動かない。
その間に、勇者たちは仲間割れにも見える行動を繰り返している。
あんなにも動いているのに、1mmも動けないとか流石に在り得ない。
実際、口は出せている。喋ることも考えることもできる。
この現象はアレに似ている。
「あれ…。それって。…いや、そうとしか思えない。だとしたら、勇者が動かない限り、俺たちは動けない」
「魔人氏!何を言ってるのか、分からないでござる」
「ドンドンIQが落ちてんだけど。ドラちゃんもどうにかならないのー」
「そっちは無理だ。ドラグノフが魔王城に閉じ籠もってたのは、一人で外に出ると迷子になるからだ」
「脳筋武神の説明はいい。何故、俺たちは動けないんだ」
何度も口にしたから、説明するのも恥ずかしい。
「まだ後衛を選択中なんだ。何せ0ターンで後退可能なんだ」
「そうでござった!彼奴らは目にも留まらぬ速さ!イツマゾクもビックリでござる」
「そろそろ黙ってくれないか。竜人族にはお前に憧れてる奴もいる」
つまり、闇のヴェールを放ったターンから進んでいない。
今までこんな設定なかったとかは愚問だ。
ユーリと同じ存在はユーリだけで十分だけど、対の存在だからいらっしゃる。
「ユーノ…。どうして何も喋らない。この事態を解消するには、ユー…」
声を出して、メタ主の判断を仰ごうとした、その時
四天王たちが動き始める。勿論、レイ自身も
「解けたでござるぅぅぅう!!」
「来るぞ!!」
「とりあえず、どうしたらいい?」
「…って、なにこれ。やっぱり体が重いし」
即ち、次のターンが始まった。
やはり闇の波動は発動していて、動きは緩慢だった。
だから勇者パーティの攻撃から始まる。
「この戦いを手早く終わらせます‼」
「終わらせて、終わらせて、終わらせて…」
リディアとキラリという異色のコンビが前衛ドラグノフとぶつかった。
「ゼノシュ…、わらわの為に死ぬのだ!」
アイザは単独で、元ストーカー・ゼノスに物理で攻撃を仕掛ける。
彼女達は後衛キャラだが、後衛だから攻撃できないシステムではない。
だが、やはりおかしい。
1ターン消費する筈なのに、後衛が前衛と入れ替わっている。
「貴様がお父様を‼」
「おやぁ。君も記憶があるのかい。羨ましい限りだねぇ」
「アタシもいるよ。エクナベルの名に懸けて」
「研究では世話になった…らしいねぇ」
半魔サラが戦うのは両親の仇であるアズモデだった。
サラも後衛型のヒロインだ。
そこに前衛も後衛もいけるマリアが参加する。
確かにDLC前ラスボスアズモデには、これくらい必要だろう。
「アンタに恨みはないけどっ」
「私はあります。よくも村を‼」
「武闘派とヒーラー?良いコンビだけど、そっちは柔らかいんだろう」
そしてエルザには、恐らくメンバー最強の戦士エミリと、メンバー最強のヒーラーソフィア。
これは流石にエルザがきつい。
後衛の魔法魔物を倒すのは定番だが、なんかおかしい。
「で、俺にはアルフレド…、が来ない?っていうかさ‼ゲームシステムはどうした!!俺のフォローはどうした‼コッチはプレイヤーの行動待ちで襲わない紳士な悪魔たちだぞ」
意を決した顔で一人が魔人に突撃する。
勇者隊の最後尾は名前がなかったキャラだ。
アルフレドとユーノは後衛で見守っている中で、八人もヒロインが戦っている。
ピシッ…
その音は誰の耳にも届かない。
漸く見えてきたDLCにプレイヤーも気付けない。
ストッ…
更にピースは、歯抜けの画面に吸い込まれていく。
そこに描かれているのは、DLCユーノルートの、とあるカタチだ。
「レイ‼アンタの相手は私っ‼」
「フィーネっ‼お前、もう大丈夫なのか?」
「当然よ。私はアルを支え続ける。今までも、これからも」
全員が戦うというのは、明らかなシステム違反。
もしくはバグ。そんなのはもはや、愚問だろう。
ユーノはユーリと対の存在で、超越者で、神様で、メタな存在だ。
「信じて戦うしかない」
「アル様が仰るように別の手段に賭ける」
「勇者様、見ててください」
「違うでしょ。ユーノ様の為に戦ってるんだよ」
先のDV彼氏勇者、サイコパス勇者、若しくは一途な勇者。
それに付き合わされる悲劇のヒロイン、負けヒロインたち。
好感度マックスの呪いによって、負けること、滅びること、家族を失うこと、住んでいた世界を壊されるまで付き合わされる。
とは言え、ピロー枢機卿団で賢い女たちだ。
抜け道を探すに決まっている。
法律も何もかもが崩壊した世界で、我が身を守る為に考える。
例えば…
「俺の言葉はそういう意味じゃないぞ。アルフレドよりも先に魔王を倒しても、アルフレドが勝ったと世界は見るんだ」
「何よ、それ‼」
そういう考え方も出来た。
だけど、ムービーがある限り、必ず一つの道に繋がる。
ヒロインたちが、エンディングを決めるDLC前とは違う。
「どう…して‼」
「ここは魔王の間だ。世界は滅ぶ一歩前。シナリオはレールに乗って進んでいく」
幼馴染の戦い。
フィーネは直接攻撃の魔法を使わず、バフのみで戦う。
レイピアの裁きは一級品だが、剣のみの戦いだと子供の頃からフィーネはレイに勝てていない。
今、互角に戦えているのは、レイが力を抜いているから。
ハーレムルートにはフィーネも含まれるんだから、と
ムービーの蘊蓄を語った彼だが、力が抜ける。
少し手を抜いたチャンバラは、幼少期を思わせた。
「レイっ‼私たちに協力してよ‼ユーノのお兄ちゃんでしょ‼」
「お兄ちゃんじゃない。ユーノは」
「そうじゃなくって‼ユーノと私とアルのお兄ちゃんって意味‼…大将でしょ」
ストッ…
またピースは、少し埋まったがまだ歯抜けのキャンパスに吸い込まれる。
ただ、レイは顔を歪ませて、その隙にフィーネの細身の剣が、強くはないが悪くないダメージを与える。
「そうやって…、私に対しては手加減してくれたじゃない」
「えっと…。それはそう…かも?」
「かもじゃなくて‼」
神・設定資料集に書かれてたっけ、
いや、あの悪魔の本に書かれていたのは、傍若無人にして悪人。
村の財産にさえ手を出す悪ガキで、村長の息子だからと白い眼を向けられるだけ。
そんなことは一分も書かれていない…が
「私とアルに対してはそうだったじゃない…。でも」
「でも……?」
流石は人外の動きが出来る勇者の花嫁候補。
手も足も体幹も揺るがずに口を動かす。
その洗練された動きを、魔人レイは羨ましく見ていたい。
「でも、レイはユーノに冷たかったよね」
「え…?いや、ガキ大将だったんだろ?…それに」
ヒロインたちの特攻にも似たがむしゃらな攻撃には狙いがあった。
勿論、勇者無しでのゲームクリアを目指したのは事実で、アルフレドとユーノが指揮のみをしているのは、その狙いを看破していたからだ。
「レイ。手を止めないで。私たちは戦い続けないといけない」
「あ、そか」
だが、もう一つある。
これは偶然に生まれたピース
フィーネもピースの内容は知らないのだが
そしてフィーネとレイをぶつけることが、全員での特攻作戦の真の意味だった。
「レイは年上だから、いつも実力が伴わないのに威張って。その割にユーノには興味なかったでしょ」
「それはアルフレドとユーノは似たような生まれで、一緒に育って…。フィーネだって知ってるだろ。フィーネに言うべきかは分からないけど、二人は仲良しで」
「レイが冒険に出たのは、両親を殺されたから。…それって変でしょ?」
レイは大きく目を剥いた。
ドラグノフのような脳筋ではないので、一応思考回路はある。
ただ、彼がアクセスしているのは神・設定資料集で、その脳内資料集をある理由でぱたんと閉じた。
載ってるわけがない。
フィーネの話はユーノの話。しかも内容はゲームが始まる前。
「変…かもしれないけど、俺はユーノに興味なかったんだろ?」
「そうよ。私、ずっと変だと思ってた」
「そんなこと言われても、あの時は子供の頃から一緒だったユーノが連れ去られて、アルが熱くなって、フィーネはアルについていくって」
彼女の話は最初の出来事を振り返る内容で、確かにそうだけれど、レイも両親を失ったという動機があった。
あやふやで、論破も出来そうな話だ。それもその筈。
フィーネが言いたい話も、それではない。
「私、見てたと思うけど、さっき死にかけた。走馬灯まで見た」
「う…。それは大変…だな」
「大変どころじゃない。でも、死の間際で…。走馬灯で…思ったの」
ストッ…ン
それはレイも耳を疑う話だった。
走馬灯だから、幻、夢かもしれない。
だけど、彼女は言った。
「ユーノって赤ん坊のころから私たちの近くに居た?レイなら覚えてるでしょう?」
「それは間違いない。だって、そういう設定……だった……よう…な」
どろりと流れる。
ここは、闇の波動という結界の中。
闇女神が生み出した、プラチナ因子。それは神・設定資料集でなんと言われていたか。
黄金の勇者たちは黄金含有量の高い器を持っていて、その上に経験値を乗せていく。
これが魔物と同じ構造で、神に近づく、即ちレベルアップの理由。
でも、ゲーム上は経験値と呼ばれていて、敢えて経験値と呼ばれるのは、
経験したから
経験は記憶と繋がっていて、それが魔人レイの記憶が奪われなかった理由の一つとなる。
そのプラチナ因子が散りばめられた空間だからこそ、それは起きた。
突然に——
▲
メビウスの世界は光と闇の二元論。
そのグノーシスの間、若しくは逢魔が時。
一人の子供が頭を押さえながら彷徨っていた。
???「あのクソ野郎!もう、ぜってー帰らねぇ!今度こそ俺は家を出る!いや、城に戻る!」
髪をくしゃりと握ると、しなやかさの違う黒い髪束がしょっこり顔を出す。
染めているのではなく、母親の髪色遺伝の黒い髪。
ただ、大部分を占める銀髪は父親譲りだという…話。
(へ…?またムービー?)
銀髪の子供「思い切り殴りやがった。アイツは絶対に俺の父親じゃねぇ。だいたい禿てるし、残ってんのも白髪じゃねぇか」
アーモンドは元々銀色の髪だったと言う。
だが父を知る村の大人たちが、村長は昔金髪だったと言っていた。
それを問い質そうとしたらぶん殴られたから、少年は家から飛び出した。
少年の名前はレイ。後に2mを越える悪役顔の大男になるが、8歳だからまだまだ愛らしい。
(って俺⁈フィーネの話だろ?フィーネが思い出したって…。違うのか…?)
レイ「ええっと…。城があるのは東だっけ。結構遠いって言ってたけど、…これで足りるかな」
机の中から適当にひったくった銀貨と硬くなったパンを鞄の中に押し込んで、夜を越す為の外套も取り敢えずぶんどって、少年は家を出た。
それから、勇者の伝説という大好きな本と共に、大冒険が始まる。
本の勇者は綺麗な金色の髪だけれど、そんなの関係ない。
可能性は∞に存在する。
レイ「お城にお姫様が閉じ込められていて、魔王がそこにいて、俺も勇者様みたいにこうやって剣を」
本当は銀髪の勇者かもしれない。
木の棒をブンブン振り回して、鞄を盾代わりに構えてみる。
スタト村は大陸の端っこのド田舎だけれど、幼少期からスパルタで鍛える習慣があった。
だから8歳だけど、それなりには戦える。
…と、少年レイは自分勝手に妄想していた。
(もしかして…、繋がってる?ユーノが生み出した経験値の空間が、フィーネの経験から俺の経験を引き出している…のか)




