ナーフされた悪役は返り咲く
魔人レイのラストは、「ちょっと待った」と駆けつけるバトル。
DLCレイモンドはナーフが酷すぎて、勝手にソレは無くなったと思い込んでいた。
加えて、勇者がレイモンドを置いてきた説も存在していた。
真偽はさて置き、今回は間違いなく人間レイは死んだ筈だ。
「アンタってそんなに強かったっけ」
「やっと気付いたか。そのヒョロガリなど捨てて」
「って、アンタじゃないわよ。っていうか、誰よ?」
新島礼は真に人間の頃、レイモンドを置いてクリアしたからか、
このイベントも初見だった。正確には一部初見だった。
前のドラステムービーが入っていたが、セリフは一部変わっていたし、拝見なんて大きく様変わりしていた。
レイの頭には大きな角が生えた。それどころか見た目も大幅なバージョンアップが付け加えられていた。
「もう忘れてんのかよ。追い出されたシルバーリザドンβだ。ん…?シルバーリザドンβって言ってんだけど。はぁ?」
「どうやらボクたちは彼の部下扱いらしいね。ボクの名前は、金道化師アズモデって、とこかな」
「嘘…でしょ。アタシも紫美魔女エルザ…。変換されてるし」
「我もやってみるか。我が名は武神ドラグノフ…。成程、確かに」
「確かにじゃねぇよ‼まんまじゃねぇか。アズモデもエルザも変換されてんのは厨二・二つ名で、名前自体はちゃんと言えてんだよ‼」
しかも対魔人レイモンド戦はレイモンド対多数という、鬱陶しいレイモンドの処刑枠なのに対し
「ねぇ…、レイ…なんだよね。アタシたち、こんなことしてる暇ないんだよ」
「後ろからってことは外から来たんだよ。運転手さんなら空がおかしいって気付いたよね」
「あぁ。空がってか、世界がヤバそうだなぁ」
「だったら、そんなガキ大将してないで大人しく下がりなさい。子供の頃じゃあるまいし」
なんと大魔人レイは四体の魔物を引きつれて登場する豪華仕様だ。
「成程、大将か。ボクたちはレイの部下。ボクの弟も大出世だねぇ」
「アタシにとってのワットバーン。それで名前がおかしくなってるのね」
「我は家臣を持ったことがないが、そんな我が家臣か。敗戦の将故に何も言えぬな」
「てめぇは一言も変わってねぇだろ。ってか、その理屈ならレイ、お前のせいじゃねぇかっ‼俺の名前はシルバーリザドンβ…って‼マジで言いにくいだろ」
左右対処に、しかも前衛役と後衛役。
大魔神レイのポジションはリベロと言ったところだ。
レイが指示したわけではなく、ムービー終了後に四天王がそこに居た。
「いや。だって俺も知らないし。こういうのはムービーで説明してくれないと」
「いいかげんにしろっ‼そうやって時間を稼いでも無駄だ‼」
そう叫んで、アルフレドは剣を構え直した。
この状況で彼が一人立ち向かうのは、当然のこと。
大魔人レイたちは緊張感に欠ける。
「皆、行くわよ」
「そうだね。どう見たって、アイツは悪者だし!」
「ちょっと待てって。俺は大魔人レイであってるよな。俺は——」
知らないムービーを回収に来ました。
なんてのは、勇者たちに伝わる筈もなく
「もう、僕たちの邪魔をするな。——勇者超大雷神斬‼」
勇者が単体で放つ最大の攻撃。
それに対して、レイはただ逃げる。
知らないムービーと知らないパーティ戦、
「てめぇ!逃げんな!こうなったら戦うしかねぇんだよ!」
あと、忘れてはいけない。
あぁ、レイは忘れているかもしれないけれど、ムービーにはある特性があった筈だ。
「分かってるよ。俺たち、いや俺は」
「アル様待って!あたしも戦う!!殺されたお父さんとお母さんの為にも、平和な世界を勝ち取らなくちゃ三人、あれ?」
魔人レイは人間を辞めた。
記憶を保ったままの彼は、裏で何をコソコソとやっていたか。
魔人レイとはそもそも、遺伝的に誰だったか。
「ユーリ様の期待に応えなくちゃぁなぁ!──茨の呪鞭」
「範囲攻撃!そんなスキルまで!このまま…。いや…」
勇者は突然床を蹴って、大きく後方に飛びずさった。
大魔人はその名の通り巨大で、クルリとマントを翻すとザラザラと前方範囲を抉り取る。
「よくぞ見抜いたな、…偽勇者」
「選ばれなかったのはレイの方だよ。武器を絡めとろうなんて、卑怯者のすることだ」
「アル…、レイ…?」
「フィーネ、どうしたの。ぼーっとしてちゃ危ないでしょ」
「でも、アル様も凄い。アル様ってただ真っ直ぐに戦うわけじゃないんだ…」
「うーん。強いとは思うけど、アレって即興で出来るかな」
——魔族のことは大体分かったし、そろそろ問い詰めるべきだな。
——ユーリ王子の行動を調べてたが…
——アイツは人間の癖に何を考えてやがる
新島礼は記憶を失ったが、自分の口から出た言葉くらいは覚えている。
自分をドラゴニア王の末裔だと信じていたレイ。
だが残念ながら、レイはデスモンドで魔王軍の歯牙にかかる。
魔物として蘇ったレイは、魔王軍の中で『ユーリ王子』という言葉を知った。
彼がユーリを調べていたのは、ユーリが王子だからだ。
「あ?言われたくなかったのか?そうだなぁ、てめぇの可愛い可愛い花嫁たちはてめぇが正統な勇者と信じて。あぁ、違うな。勇者だからモテてんだもんなぁ、昔っから」
感情を押さえようにも、クソでか感情が次々に湧いてくる。
そうだった。俺はアルフレドに嫉妬してたんだ。…いやいや、これは知ってたけど。
でも、人間だから当たり前か。レイモンドの行動力をナーフされたからって、レイモンドという人間が変わる訳じゃない。
「どうやら俺は車にさえ欲情する男だし…、これでも喰らえ‼」
「魔法二段掛け‼隕石の速度を上げたんだな。でも、その程度。勇者の僕のスキル・光女神の盾で‼」
大魔人レイは、試されるの大地と隕石落下を複合して、勇者を推し潰そうとした。
だが、アルフレドは見事に落下する隕石を弾き返した。
「盾スキルか。昔っから盾だけはうまいよなぁ。でも、ネーミング間違ってんぞ。光女神の盾はねぇわ。その眩しくもないオーラで光女神は…、あ、そうか」
秘密の塔の時は魔人レイ。
彼はユーリ王子の動きが気になって、とある場所に赴いた。
相手が王子で神出鬼没なら、王を問い詰めるしかない。
そして魔王ヘルガヌスに問い質すも返り討ちにあってしまった。
あと一歩で殺されるまで嬲られたが、彼は魔人は死ななかった。
死ななかったと言うより、ユーリ王子が現れたことで、魔王ヘルガヌスは魔人レイを許した。
その時だ。
空から金の粉雪が舞い降りたのは
魔王さえも目を剥く、この世にはない美しさ。
光り輝く黄金のユーリの姿は、天井のステンドグラスに描かれたまま。
そして確信した。
世の中の全てが間違っていた、と。
自分は間違っていた伝承のせいで、こんな姿になってしまった、と
そんな魔人にユーリは、女神は優しく微笑みかけて、こう仰られた。
——君はこの世界を愛しているのか、と
「てめぇは光女神メビウスさまの光臨を見てねぇもんなぁぁあああ……ぁぁぁぁ、あれ、それって」
「勇者様は伝承に伝えられる勇者です。貴方の方こそ、見たまま悪魔じゃないですかっ、——神聖大旋風斬‼」」
神聖だろう風と清められているのだろうガラス片の嵐
その中で体のあちこちを切られ、抉られた。
痛みはある。だけど、体よりも心の方が張り裂けそうだった。
強制的に蘇るムービー中の記憶は、自分自身の行動と一致していた。
考えていることは違うけれど、外面上は同じ。
いや、今の自分を照らし合わせると分かる。
あの時、魔人レイがやろうとしたことを、魔人レイの中の人は自分の意志だと勝手に考えて、行動に移していた。
「もう…、止められない…?」
「動きが止まってる‼フィーネ‼」
「分かってる。…超大火炎魔法‼」
「レイ。流石に不味いよ、|魔法障壁(火・水・土・風・金)《オールマジックバリア》」
勇者たちの攻撃は止まらない。
大魔人レイの部下が慌てて、防御魔法で彼を守る。
それを見て反応よく、勇者は剣を構えて飛び込んだ。
「これ以上、僕を困らせないでくれ」
前衛を突っ切る刺突技は、今までに何度も勇者が見せたモノ。
即ち、
「雷神撃突破‼」
雷撃と共に聖なる大剣が大魔人を襲う。
動きが止まっていたレイは辛くも身を捩るが、
「ぐ…。これは不味い…。そりゃそうか。ここで俺の役目は終わり…」
「そうだよ。もう、レイは関係ないんだ…」
死を、破滅を連想させる痛みが走る。
今まで生きていたのは、こんな大役を背負っていたからだ。
ここで勇者に殺されるという大役を背負っている。
殺されると分かる。
ただ、雷撃は寧ろ有り難かったかもしれない。
角のてっぺんまで、電流が流れて角と角の間でバチンと火花が散った。
それはまるで電球のよう。
「秘密の塔ぶりだな」
「あぁ。あの時は僕にも迷いがあった。でも、もう迷わない」
「そうじゃねぇよ!」
至近距離の勇者を払いのける。
巧みに受け身を取るアルフレドにダメージは入らない。
でも、希望の光は頭上に輝いたまま。
「秘密の塔はユーノルートじゃない。まだ、もう一つの道は残ってる。アル、聞いてくれ。俺たちは」
あんな苦労をして、勇者を秘密の塔に導いた。
そのイベントの魔人レイと繋がっているなら、ハーレムルートと言える。
だから、もう一度
ゲーム内の男レイではなく、ニイジマレイとして語り掛け…
▲
仲間たちが背中を押す。
勇者アルフレドは猛攻を仕掛けていた。
だが、大魔人レイは易々と弾き返した。
しかもその部下たちも只者ではなかった。
だから悪魔は嗤う。
レイ「おぉっと残念。俺様はちょーっと強くなり過ぎたみてぇだなぁ」
(あれ…。違う。そんなことを言おうとは)
???「何を言ってんだい。今のはボクのがなかったらヤバかったろう?」
???「っていうか、アタシらの紹介がまだだし…ねぇ。アイザ」
後は魔王を倒すだけの筈だった。
だけど、卑劣な魔王はまだ切り札を隠し持っていた。
レイ「俺一人で十分だったのに、余計な事を」
キラリ「ほらっ‼やっぱり僕の嫌な予感はアレだったんだ」
マリア「言葉にしなきゃ分からないでしょ。っていうかアイツ、マリアの街の変質者‼そういえば忘れてた‼」
アズモデ「忘れてたって酷いねぇ。でも、あの時よりももっと強いよ。今のボクの名前は金道化師アズモデ。あぁ、ボクとは戦ったことなかったもんねぇ。勝手に強くなってごめんね」
(まだムービーがあったのかよ‼戦闘中にムービーを差し込むな‼…ま、あるっちゃあるんだけど…)
フィーネ「姿を見せずに裏で何をやってるのかと思ったら、そういうこと…」
アイザ「おねえたま‼生きてたのら‼」
エルザ「あら、アイザじゃない。まだそんな偽勇者に従ってるの?偽物なんだから捨てなさい。それから、アタシは紫美魔女のエルザ。あの時とは違うわよ」
(エルザと戦っている…。アイザとセットのカットだから、何とも言えないな。っていうか…まさか…)
エミリ「あいつ…、生きてたの」
アルフレド「あの化け物が…。ううん、一度は勝ってるんだ」
ドラグノフ「確かに。我が名は武神ドラグノフ…だった者。いや拙者は敗戦の将。王の命により、地獄より戻って参った。不本意ながら、汚名返上をさせて頂く」
ドラグノフが再び現れて、勇者たちは戦慄する。
魔王軍はまだ力をこれほどに持っている。
ゼノス「っと、待て待て。ここにもう一つの脅威が存在するぜぇ」
サラ曰く、魔王軍最強と呼ばれる男だ。
もう一度倒さなければ、再び世界を脅かす。
アイザは姉の敵対に顔を蒼褪め、フィーネはアズモデの登場に眉を顰める。
そして勇者はやはりかつての幼馴染を睨みつける。
全員が名乗ったところで、魔人は
ゼノス「だから、俺‼この名をちゃんと覚えておけ。ゼノスゼノスゼノス…」
エルザ「アンタ、絶対に忘れられてるわね」
大魔人は肩を竦めた。
レイ「ここに勇者被害者の会だな。貴様らがその偽勇者を崇め奉った結果、魔王軍に出戻りした男だ」
そしてざわめく。
「え?どこだっけ」「あれじゃない。デスモンドでいなくなった」「それは運転手さんでしょ」「わたくしは見たこともありませんわ」「私もです」「私も」「あたしもー」「じゃ、マリアもしーらない」
恐るべき魔王軍の魔界技術に皆が目を背けたくなる。
だが、勇者は光を宿す瞳で真っ直ぐ睨み返した。
レイ「即ち、四天王との再戦。即ち、ボスラッシュだ。なぁ、アルフレド。お前には少し豪華すぎたかも…しれねぇなぁ」
▲
竜人は膝から崩れ落ちた。
女悪魔は目を剥いた。
武神は瞑目し、金色道化師は目を一人の男に投げかけた。
「君の傷が治っているし。今のは世界の意志のようだね。でも、これは流石に都合良すぎないかい?」
「都合良すぎか。そんなのゲームじゃなくてもド定番過ぎて、——今更すぎる話だ。ゼノスも立ち上がれ。世界はお前にオチ担当という大事な責務を与えた」
これもある意味で都合が良すぎる。
だが、新島礼はレイを仲間にしなかっただけでなく、ゼノスも仲間にしなかった。
今更確かめようがないゲームだが、大魔人レイと復活四天王たちは戦う。
勇者もヒロインたちも戦う。
世界の意志に記憶を押し込められた、本気の戦闘が仕切り直された。




