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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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54/71

ドラステのゲームバランスはとても難しい

 レイは魔人ではなく、大魔人。

 四天王も復活四天王で、勇者たちに立ち向かう。


「こんなの聞いてないよぉ」

「でも、戦える。さっきの魔物ラッシュのお陰だね」

「お姉たま…、強いのら」


 レベル30でもクリア可能だったエルザが、レベル90越えの勇者たちと渡り合える。

 流石に初見殺しが過ぎるが、これはDLCの世界線だ。


「アタシがこんなに魔力を」

「もう最弱四天王で煽れないねぇ」

「一言多いわよ」


 レベルもステータスもインフレした頂上バトルに、一番肝を冷やしているのは戦わねばならない勇者ではなく

 

 ヘルガヌス魔王だった。


「ひっく…。なんじゃ、あれは…。儂の部下はあんなに強いのか。我が軍は最強ではないか…。でも、儂の方が弱いような…」


 濃いドラステファンの皆様を楽しませる為に、ゼノスをあんな扱いにした。

 ならば、名前だけ魔王のヘルガヌスも、流石は前座と思わせる扱いになる。

 ハッキリ言って、この五人は魔王よりも圧倒的に強い。


「魔法じゃ、駄目だ。エミリ、戦少女の斧(ヴァルキリーアックス)だ」

「うん、分かってる‼アイザも分かってよ‼」

「で、でも。お姉たまなのら。アイザは勝てないのら」

「…大丈夫だよ。だったら戦わなくていい」

「へ…?勇者…たま?」


 だがその理屈なら、化け物はやはり勇者たちの方だろう。

 アプデを繰り返した世界線だから、バランス調整も終えている。

 後衛をターン消費無しで入れ替えられる仕様とは言え、基本は四人で大魔人レイと復活ボスたちを相手に勝てる力を持つ。


 レベル上げが完了しているなら、ガンガン攻めて一向に構わない。

 そして勇者は命令を下し、前衛のエミリが仕掛ける。


「いっくぞー‼——戦少女の斧(ヴァルキリーアックス)‼」


 キラキラと輝く巨大な斧が、全員を襲うために投げられ、大きく弧を描く。

 もう、見えない壁は存在しないのだ。

 魔物は死ににくいといえ、急所に決まれば本当の死が訪れる。


「絶対に避けろよ」

「俺達が大喧嘩しての死ななかったのは、ここで戦う運命だったから…か」

「当然でしょう。正義はアタシたちにあるんだし」

「アズモデ。貴様は知っていたのか」

「いやいや。弟が知らないことを知っている筈ないよ。ただボクの全力攻撃でも死なないレイを見て、もしかしたらとは思ってたよ。だって、ボクは戦ってさえいないからね」

「それで乱暴だったの?やっぱり魔王軍はダメ。でも、アイザは傷付けられない」

「俺もだ。盾にされたらと思っていたら、運良く下がってくれたな」


 心が二つある。それは敵も味方も同じだった。

 つまりこの斧はヤバい。


 ——魔物なんて全員死ねばいい


 通常戦闘のエミリとは一味違う恐怖の香り。

 失ってもいない両親を殺されたという思いで投げられている。

 それを嗅ぎ取る嗅覚も復活四天王は持っているが、たった一人が迎え討つ。


「拙者は武士でござる。武士は死ぬことと見つけたり‼」

「言いたいだけでしょ‼レイの言う通り…」

「否っ!!」


 敗戦の将、武神ドラグノフは基本的に動いていない。

 そういう意味では心のギャップが殆どなかった。

 敗れた相手されど、戦った記憶は近い。


「ドラグノフ!いいぞ!やってしまえ!!」


 その声は遥か遠く後ろから。

 怪獣バトルのヒーローを応援する少年を思わせる声、…にしては嗄れているが…

 御意と頷き、聖斧に向き合い、自らの顔面と相対させる。


「ヘルガヌスのやつ。余計なことを」


 こっちは命懸けで戦っているのに、安全な場所から無責任に応援するやつ。

 大魔人は一瞥して、ドラグノフを止めようとした。

 一撃必殺が存在する世界で、大切な前衛を失ったら、この後はジリ貧。

 そも、回復タイプがパーティにいない。

 こんなことならマロカロボロを避難させずに置いておけば良かった。


「武士と書いて、骨を切らせて肉を絶つと読む!」


 応援され、心配もされている当人は、リーダーの考えを無視して、理由の分からないことを言う。

 

 まるで関係ない話…?


 いや、ドラグノフは戦いに関してだけは頭が切れる。

 二本の腕で斧を受けて、バキッとその骨を切らせた。

 残る二本で断たれた腕と斧を挟み、グルっと回転して左足軸の回し蹴り。

 人外の目を以てしても、全てが同時に見える。


「凄い…」

「んで、上手い!!」

「ボクには不可能だね。四本も腕がないし。でもこれで…」

「エミリの武器スキルの軌道を変えた…って、マジかよ…」


 そして戦少女の斧が歪んだ軌道で、勇者たちがいる所に向かう。

 その勢いは留まらず、高速回転した斧はエミリに戻らず、勇者を襲う。


「そこまで考えてたの?」

「相手の武器で攻撃する!流石だぞ」

「え…?あれ」


 ドラグノフは見事にエミリの攻撃を弾き返した。

 リーダーとしてホッと胸を撫で下ろす…


 …良かった、と。


 腕は失ってしまったが、彼の存在は、前衛の右翼は守られた。

 ここから仕切り直せば、何の問題もない。


 だが、違和感がレイを襲う。


「アル様!」

「うん、問題ない。ソフィア、相手の動きがまた止まった」

「はい。神聖大旋風斬ホーリースリリングアクトの準備をします」

「キラリも、お願い」

「うん。ちゃんと狙ってるよ」


 アルフレドは冷静に指揮を執っている。

 四天王たちの三人と魔王ヘルガヌスが期待している展開にはならない。


 だから勇者の指揮は間違っていないけれど…

 えっと、エミリのブーメランスキルは仲間には当たらないんだっけ…

 神・設定資料集にそう書いてあったし?

 俺が人間だった時にちゃんと確認したし


「ん?俺はエミリの攻撃を受けたっけ…?いや、今はそうじゃなくて‼」


 そして違和感が爆発し、焦燥が生まれる。

 何処かに、おかしな点がある。


 いや、おかしな点はそこら中に転がっていた。


 先ず、おかしいのは──


「笑止。拙者の狙いはそこに在らず‼」


 二本の腕を失ったドラグノフが叫ぶ。

 そう、彼の動きは、どこかおかしかった。

 ほぼ同時に四本の腕と一本の足で、複雑怪奇な動きをした。

 目を奪われるような美技だったが、結果はただ…


 相手の武技を弾いただけと言える。


 あれだけ動けるのなら、最初の腕の犠牲は必要無かったかも…


「散っ!!」


 ドラグノフは直接、彼らと戦っている。

 しかもつい最近に、だ。

 だから戻っていく戦斧が三又に分かれる。

 どうしてこんな簡単な事に気付けなかったのかと、頭を抱える。


 眺めている暇があったら…


「——|魔王軍幹部専用転移魔法イツマゾク‼」


 レイがそう思った瞬間には、転移魔法が出ていた。


 ガキッッッッンンンン‼‼


 そして金属同士の衝撃音のような甲高い音が同時に響く。


「え…?」


 修道女ソフィアは目を剥いて声を漏らす。

 大魔人も吃驚して、折れた自分の角をもう一方に投げつけた。

 この動きだって、周囲の者には同時に見えた筈だ。

 投げた本人さえも同時にやった?と思ったくらいだ。


 ガキッッッッンンンン‼‼


「ひ…」


 キラリの目の前で火花と共に二度目に金属音が鳴った。


 武神の狙いは正に、骨を切って肉を絶つ。

 武神ともなれば、切断された腕も動かせるらしい。

 戦斧自体は勇者を傷つけずに貫通するが、鋭利に切られた骨付き腕は別方向に飛んだ。


「間一髪…。間に合った」


 すると事態を理解したキラリが、スコープを落として膝から崩れ落ちた。

 エミリもアルフレドも、突然後ろに現れた大魔人に驚くが、


「ちょっと‼」

「てめぇ、なにやってんだよっ‼」

「武士が裏切るとは、なんと愚かなことを」


 四天王たちからの批判と罵声の方が大きい。


「うっせぇ。ムービーに流されんな。ヒロインを殺してどうする‼…趣旨が変わってんだろ」


 勿論、四天王の行動もおかしな点の一つだ。

 これは簡単に説明できることで、ただムービーの思考が影響しただけだ。


 だって、四人全員にハーレムルート以外は世界崩壊と伝えている。


「こうして戦っているのだって、何度も繰り返されるムービーの影響…。でも」


 だけど現時点で一番おかしい事。


 それは


「…愚かなことを、おかしなことをしてるのは、——アルフレド。お前だ」


 片方の角が折れた魔人は立ち上がり、ソフィアとキラリをそのままにして、持ち場に戻っていく。

 後衛を守ったのだから、その向きには前衛に居座るエミリと、勇者がいた。

 動揺するキラリをそのままにして、勇者は剣を構え直した。


「おかしなこと?愚かなこと?悪魔に魂を売ったお前に言われたくない。僕は」

「お前もムービーを見たから?あぁ、そうだな。見たから戦ってる。だけどな」


 勇者は斬りかかり、魔人は頭を突き出した。


 ガキッッッッンンンン‼‼


 と三度目の衝突音がして、残ったもう一本の角が叩き折れる。

 そこから血は噴き出すが、同じ勢いで魔人は勇者を突き飛ばした。


「く…そ、パワーアップしたからってなんだよ。僕は負けちゃいけない。僕は偽勇者なんかじゃない‼」

「あぁ。そこは認めてやる。お前は勇者だ。頭にクソがつくけどな」


 因みに、コウモリの羽根が象徴するのは浮遊力だ。

 勇者の上空を飛び越えて、四天王の中に戻る。

 そこで「何言ってんだよ、てめぇ」「正義はアタシたちにあるんでしょ」「敵を守っただけじゃなく、勇者と呼ぶとか」など言われながら叩かれる。

 そっちの方が角を叩き折られるよりも痛い。


「ソフィア、キラリ。立って」


 敵味方が綺麗に分かれる。ドラステ方式の戦闘スタイル。

 ここから仕切り直し。


「…ったく」


 だが、そうはならない。


「お前が勇者で、俺達が悪魔。そこは認めてやる。だけどお前の戦い方だけは認められない」

「エミリもだ。魔王軍に立ち向かって、勇敢に戦うんだ」

「だからっ…、違うって言ってんだろっ‼」


 見ていないムービーはあっても、

 知らない戦闘イベントがあっても、

 新島礼はユーノルートをクリアしている。

 主人公アルフレドとしてプレイしている。

 プレイした肌感がおかしいと言っている。


「お前だって気付いてるだろ、ドラグノフ。しれっとしてやったりみたいな顔してんな」

「ぐぬ…。それは」

「お前たちだって、なんでアイザがいなくて安心した。うっかり殺しそうと思ったからじゃないのか?」

「それは」

「そうかも…だけど」

 

 二人とも心を突かれて、顔を引き攣らせた。

 ムービー中ならまだしも、今は自分の感覚で動ける。

 であれば魔物は嗅覚に優れるから、相手の強さが分かった。

 そりゃ、アイザには引っ込んで欲しかっただろう。


 そしてその三人を見て、自らの感覚のズレも感じ取ったアズモデはクンと鼻を鳴らした。


「なる…ほど。それは——」


 この時、五人の動きはピタリと止まっていて、

 アズモデの周囲に範囲攻撃が落とされる。


「私たちを舐めないでください、…神聖大旋風斬ホーリースリリングアクト‼」

「僕だって役に立てるんだ。魔物完全破壊マルチミサイル、発射‼」


 だが、金色道化師はそのまま受けて、それどころか会話を続けた。


「弟の言う通り。幼い子が考えても分かることだったとは、ね。違和感どころじゃなくおかしい。彼はどうして」

「今度は外さない‼戦少女の斧(ヴァルキリーアックス)‼」


 巨大な斧が舞う。

 さっきはあれだけ危険に思えたが、アズモデは違う意味で顔を顰めて、寸前で避ける。 


「エミリ、それからソフィアにキラリ。お前達死ぬぞ」

「そんなわけないじゃん‼あたしたちは勝ってるんだから‼」

超大火炎魔法(ウルトラパイロ)‼エミリ、アルフレドも‼なんか、おかしいわよ」

「わたくしも光女神大雷風神斬(ブレイバーレイピア)!」


 ほぼ全員が何事かと車外に出るが、

 復活四天王たちの目は白けていた。


「スキル、断頭大蛇(ギロオロチ)


 急所剥き出しの部分に殺傷性の高い蹴りをお見舞いするも、不意打ちなのに躱される。


「これは妙だねぇ。彼女が出てこない」

「そういうことだ。変なのはあっちの戦い方だ。アルフレド、何故ユーノを出さない」


 ハイレベル帯だが、バランスの取れたゲームバランス。

 だのに、勇者たちの、ヒロインたちの攻撃が柔らかい理由は一つしかない。


 ユーノ救出以降のゲームバランスは、ユーノの戦闘能力を加味してのバランスなのだ。


「ユーノを出さないと、お前を慕うヒロインたちが死ぬぞ」

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