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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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記憶が無くてもスタートダッシュできます

 アルフレドパーティは東に進む。

 前はこうだった。

 レイの前でアルフレドとフィーネが仲良く地図を見ながら歩いていた。

 でも今は——


「この先。少し高いところにギリー農場。その手前に休憩する場所があって…」

「え?ネクタまでってそんなに遠いの?」


 アルフレドの後ろで、レイとフィーネが肩を並べて歩いている。

 仲の良さそうな幼馴染二人に嫉妬どころか、微笑ましい表情で勇んで歩いている。


「実際に村を出るとやっぱり怖いわね。普通に森だもん」

「まだ村を出たばっかだぞ。若い衆が時々魔物駆除を行ってるエリアだ」

「知ってるけど!私も当然参加してたし」


 ここまで来ると確信に変わる。

 データが消し飛んだとしても、プレイヤーはプレイヤーなのだ。

 外側が存在しているから、内側が消し飛んでも存在は消えない。


「…っていうか、何やってんの。フィーネはアルに振り向いて欲しいんだろ?」

「しっ‼聞こえちゃうでしょ」

「ってか近い‼お前、そんな距離感だったっけ?」

「仕方ないでしょ。図体だけが取り柄なんだから、私の盾に丁度いいの」

「俺を盾がわりにって…、あれ…。そんなことも確かにあるかもしれない」


 DLC以前もゲーム世界にいたならあったかもしれない

 っていうか忘れているだけで、実際にこの世界であった話だ。


「でしょ。だからアナタはただの壁。いつものしつこいレイじゃないんだから」

「しつこくて悪かったな。じゃあアルと同じだ。俺はお前の背中の壁担当になるから、前はアルに守って貰え」


 とは言え、アルフレドの歩みも遅くなっている。

 フィーネの怯えから、普段の若者衆での治安活動と全然違うらしいことも伺える。

 一般人が置き去りにされたら、雑魚敵に撲殺か絞殺か斬殺されるだろう。

 ゲーム世界なのにHP表記が見えないし、当たりどころが悪ければ即死してしまうほどに現実だ。

 勿論、ただ見えないだけで魔法の体力、HPは存在しているかもしれない。

 だけど、存在しないと確信している己が居る。


 ま、普通に考えればそうだよな。


「アル、フィーネ。先に言っておくけど、ここから先はチュートリアルだ。大清掃と変わらない魔物しか出ない」


 メタ発言を、自慢の一張羅の右手で翳す。

 こんな服着てたっけと思い出すが、体にピッタリサイズでチェインメイル程度には防御力が高い。

 そして、このレイモンドの一張羅は何故かステータス値に反映されない。

 実はチートなアイテムで、それに気付く自分が何故かいる。


「チュートリアル…って何?」

「それからアル。アルは俺より小柄だが力が強い。その短剣より俺の剣を使った方がいい」

「え?」


 二人ともが呆然とするのは当然だ。

 レイはここで一段、シフトを上げたのだから。


「アンタ、それでいいの? だってそれはアーモンドさんの形見じゃ…」

「アル。装飾要素もあるが、それはちゃんと武器だ。使えそうか?」

「うん、練習の時に使ってる模擬刀よりちょっと重いけど」

「流石だな。そりゃ、俺の頭に一撃を食らわせられるわけだ」

「でも」

「お前は勇者だ。俺の役目は道案内…だろ?そしてお前は」

「…ユーノを助ける。分かった」


 アルフレドは眼光を鋭くし、自分の武器を差し出した。

 その後何度か剣を振ったり、刃を眺めたりしている。

 

「ま。道具屋見つけて直ぐに売り飛ばすんだけど…」

「え?」

「ってところで始まる。二人とも、後ろを気にせず戦っていいぞ」


 ある意味で驚き、戸惑う二人の前に魔物が現れる。

 これが戦闘チュートリアルである。

 魔物はスラドンとコウモりんで、アルフレドもフィーネも知っている。


「スラドンとコウモりん。どうする?」


 スラドンが三匹転がり、コウモりんが五匹飛んでいる。

 

「うう、数が多いかも…」

「気にしないで良い。スラドンは目を。コウモりんは羽を狙う、だろ?」

「えと、そうだっけ…」


 アルフレドとフィーネは躍動し、レイは後方で腕組みをする。

 チュートリアルに時間を割く意味はないが、流石にこの件は必要だった。

 ただ見ているだけ、指示を出しているだけで、獲得されるとある力の存在だ。


「ちゃんと経験値がある…。やっぱりゲームの世界でレベルの概念が存在している」

「ちょっと!レイは全然戦ってないじゃない」

「だけど、レイの指示通り戦ったら、ビックリするくらい倒せるかも」

「それはそうだけど」

 

 ここからチュートリアルのステージが進み、フィーネの魔法も大活躍。

 あっという間に休憩所に到着する。

 休憩所で最初にやることは勿論、


「な、なんで胸を触るの…」

「アル。お前も触ってみてくれ」

「えと…。うん」

「って!アルに変な事をさせないで」


 女神メビウス様の胸触りだ。

 フィーネはドン引きするが、これは仕方のないこと。

 ハーレムゲームだけあって、女神像は美形だしお胸の形もとても良い。

 DLC前の話だが、ゲーム内のアルフレドは絶対に女神の胸を触っていた。


「フィーネも触っとけって。女神様がいるからここらは魔物が出ない。触る方がMPの回復も早いぞ」

「え?え?そうなの?」

「あ、そうかも。体力も満ちていくような…」

「ひ、光の勇者は女神メビウス様がお導きになる…のだし。本当…。魔法がまた使えそうな…」

「ま、嘘だけど。胸以外でも問題ない」

「ちょっと‼」


 そんなセクハラはさて置き、休憩エリアは在り得ないくらい良い雰囲気だった。

 アルフレドは終始、ニヤニヤ、ヘラヘラと笑っていた。

 フィーネも落ちモノが失せたように明るく喋っていた。

 勿論、レイもゲーム世界を楽しんでいた。


 だから通常ルートに戻れるように思えた。けれど


「みんな仲良し。ユーノにも見せたいな」


 実は一言で崩れる、砂の城だ。

 そして二言目にはこれが来る。


「レイ。次はどこに向かえばいい?」


 ユーノは連れ去られた。

 とは言え、勇者だと偽って攫われたのだから、常識的に考えると殺されている。


「アル…。その…、ユーノはもう」


 だけど、彼女を忘れろと言う訳にもいかず、フィーネの笑顔が凍り付く。

 凍った視線は、彼に助けを求める。 

 ヘラとした瞳も、同じく収束する。


「さっきも話した通り、魔物たちは東へ向かった。そして、ここから先にギリー農場がある。エミールさんたちなら何か見ているかもしれないな」

「だったら、直ぐに行こう!」

「アル!ちょっと待って」

「休憩はできたよ。急がないとユーノが危ないんだ」


 同じ世界の住民であるアルフレドが常識を知らない訳じゃない。

 彼も常識を持っているから、自責の念で動いている。


 それにしても——


「そうだな。その坂を駆け上がると麦畑が見え…、って行ってしまった。本当にDLCのアルフレドはよく喋る…。プレイヤー目線だとどれだけ時間を潰しても…は、言わない方が賢明だな」


 アルフレドが考えていることがよく分かる。

 ユーノルートのアルフレドだからそうなのだ。


 それが彼になってはいけない理由、レイにはそう思えて仕方が無かった。


     ◇

 

 レイモンドは本当に悪い奴である。

 設定でそうなっているのだから、間違いない。

 だから、こんなことも出来てしまう。


「エミリを仲間にすれば多少は変わるかも…」


 フィーネとの同盟を平気で破る所業である。

 とは言え、パピバを防ぐためなんだから仕方がない。


「っていうか、この辺りでムービーシーンに入る筈なんだけど…」


 二人の背中はもう見えない。

 指示を出す男より、体を動かす二人の方が取り分が多かった。

 レイモンドなりの全力だが、上り坂を全力で駆け上がる気力も体力もない。


「東へ向かう度、ヒロインキャラが仲間に入る。だけどユーノルートはキャンセル可能。マジでどうすればいい…。どうすればDLC以前のルートに戻れる…」


 これは途中離脱どころの話ではない。

 余りの苦悶にムービーキャンセルの仕組みを無意識に受け入れるほどだった。


「上の様子も気になるか」


 エミリの登場シーンを考えるとこの上がそう。

 なんて、考える余地もなく上に居る。

 だって、DLCが出たことでキャラクターの情報が更新されている。

 轍の続く道の向こうには小麦畑が広がっている。その名もギリー農場。

 設定上はいけなかったが、DLCで見えない壁がなくなった。

 そんな今となってはどうでも良いことを考えながら、レイは二人を追いかけていく。


 すると前方からギャァと悲鳴が聞こえる。

 エミリは魔物から逃げてムービーに突入するからそうなるが、後方腕組み男は慌てない。

 即座に、異形のモノの悲鳴も響く。


「流石はやる気に満ちた勇者様だ」


 舞台は小麦畑の中央にある一軒家だ。

 ゾンビゲームなら間違いなくメインステージになりそうな大きな家。

 やはり赤毛とロリ巨乳が特徴のエミリがいて、怪我をした父エミールがいて、頭を下げる母キリがいる。 

 そして、惨殺されたゴブリンだったカケラがそこら中に転がっている。


治癒魔法(ケイミル)


 水色髪の見習い賢者の艶やかな声。

 なんと今回のエミールは、プレイヤーの介入も無しに軽傷で済んでいる。

 いや回復できたのだから、無傷とも言える。

 アルフレドとフィーネだけで見事にやってのけた。


「そして流石は将来の賢者様」

「ううん。レイが戦い方を教えてくれたからだよ」

「賢者って、茶化さないでよ」

「勇者…様?」

「賢者様‼‼ありがとうございます‼‼‼」


 エミリが首を傾げ、超絶怪力の持ち主の母キリの声で家が揺れる。

 因みに、アルフレドとフィーネは余りの声量に目を剥いた。

 勿論、それで終わりではない。


「…いえ、私は賢者では。スタト村も襲われたので。もしかして魔王軍の襲来ですか?」

「そうなんです。アイツら、こっちに行ったって聞いて。僕たちそいつらを追ってるんです‼そいつらに幼馴染を攫われて…」


 エミリ一家の礼には質問で応える。

 二人にとっては当然の流れだが、レイは肩を竦めた。

 東に向かったのは地理的に間違いないが、ここはスタトからやや北東。

 そもそも、イツマゾクで移動している可能性の方が高い。


「二人とも落ち着け。先ずは自己紹介からだろ。金髪の勇者はアルフレド。で、水色の万能女騎士がフィーネ。俺は…」


 酷い男レイはノーマルルートに戻す為に、二人をここに誘導したに過ぎない。


 だからエミリたちも困惑している。

 そう思って割って入ったところで、 赤毛の少女は言った。


「人間を連れた悪魔…。あたし、見たかも…」

「え、マジ…で?」


 ゲームを知っている筈のレイが目を剥くことがエミリの口から零れ出た。

 そして、この現象はレイ自身の体にとある変化を引き起こさせるもの。


「マジって。レイ自身が言ったんでしょ」

「うん。多分、この辺を通過した筈だって…。…レイ?大丈夫?」


 これは身体に悪影響が出るものではない。

 そして既に一度、体験したことである。


「だ…、大丈夫。びっくりしただけ…。そっかここにも影響が…」


 アルフレドとフィーネがおっかなびっくりで戦っていたのとは対称的に、戦闘でのレイは熟練者の如く平静だった。

 それは何万回も周回して出来上がったモノが彼の中に構築されているから。


 即ち、外形に当てはまらないものに、レイの体は異常な反応を引き起こす。


 これは大したことではない。

 だって簡単な言葉に直すことができる。


 ——人はそれを恐怖と呼ぶのだから 

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