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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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4/58

冒険の始まりと記憶がない理由

 スタト村の人々は、特にフィーネの両親は渋々顔だが首を縦に振った。

 元々、彼らに与えられた使命は来たるべき時の為にアルフレドを育て上げることだ。

 魔王軍が強襲した今がその来たるべき日なのは間違いない。

 それにそもそも選択権はアルフレドにある。

 レイモンドを置いていくか、フィーネを置いていくか。


「親父の教育の賜物だ。道案内は任せとけ」

「レイ…」

「補助魔法と回復魔法ばかり覚えさせられたのって、絶対にこの為よね」

「フィーネ…」


 主人公はプレイヤー目線では「はい」か「いいえ」に準ずる言葉くらいしか言わない人形だ。

 アルフレドも似たようなもので、どの子をヒロインにするかと悩むプレイヤーの分身でしかなかった。


「ユーノを助けないといけないんでしょ」

「うん!」


 もしかすると、これから先もそうかもしれない。

 だけど、今は違う。彼には明確な目的がある。

 自分と似た境遇の幼馴染が、自分の代わりに攫われた。


「だから教えて。魔物はどっちに向かったの?」

「東だ。ま、北も南も西も海だから、歩いて向かえる」

「そか。東…」

「流石に海は渡れないから良かったんじゃない?」


 ものは言いようである。

 ゲーム的に東以外はありえないが、人間はそもそも魔物の力をあまり知らない。

 そして知っての通り、レイはエルザに会いはしたものの、ユーノの姿は見ていない。

 エルザは間違いなく、アイザの元に直帰したし、エルザ部隊はアーマグに戻った筈だ。

 だが、レイの目撃情報に意味はない。


「それよりアンタ。本当に復讐しに行くつもり?」

「そうだよ。ま、俺の復讐相手がユーノを攫ったんだから、暫くは同行することになるが」

「なんか…、変な感じだね。レイが頼りになるって」

「だから言ったろ。それも親父とお袋への罪滅ぼしだって」

「それじゃ…、やっぱり僕は」


 ユーノは自らを勇者と名乗って、村を守った。

 ただ殺されたのではなく、連れ去られた。

 そうなる以上、人類の希望である勇者がアルフレドである事実は公にされる。

 故にこうもなる。


「勇者である僕が助けなくちゃ。レイ、フィーネ。無理はしないで。僕は一人でも頑張れるから」


 つまり、使い廻しではない専用セリフが用意される。

 この追加ストーリーの為だけに、豪華声優陣を再び集めたから、かなり遅れての発表だったと言われている。

 因みにアルフレドの一人称が「俺」から「僕」に変更されたのは、アルフレド役の梶田祐樹さんの提案だと言われている。


「また…、そう言って。一人は危険よ。レイはともかく、私のことは信用してくれてもいいんじゃない?」


 そしてその通り、やっぱりレイモンドは弱い。

 スキルが全然使えないから、パーティに入れてもとにかく使えない。

 本編ではそれだけでなくトラブルを連れてくる。

 挙げ句の果てに死んでしまうのだから、レベルを上げるだけ無駄。

 旅につれていくメリットは全くない。

 そして今回はその選択が出来た。


「いやいや。フィーネはスタトを出たことがないだろ」

「はぁ?アンタだって出た事ないでしょ。私の知る限り、ずっとスタトで威張ってたわよ」

「だーかーらー、これは通信教育って言ってなぁ」


 DLCさえなければ両手を挙げて喜ぶべきだが、アピールをしなければならない。

 さっきもだし、これからもだ。


 くす…


 張り詰めていたモノの一部がほろり。

 すると、空気が柔らかくなった。


「ちょっと、アル。どうして笑うのよ」

「いや、だって。二人ってそんなに仲良かったかなって。ユーノも言ってた。あの二人って実は相性いいって」


 今回の二人は同じ目的で動いている。

 だから、アルフレドがそう思ってもおかしくはない。


「ちょ、そんなわけないでしょ‼」

「なわけないだろ‼」

「…って、なんでアンタまで否定するのよ。逆にショックなんだけど」

「そ、そういう意味じゃないって。ユーノは俺達の喧嘩をあんまり見てなかっただけだ。俺から見れば、アルとフィーネのずっと相性の方が良く見えるぞ。なんたって、フィーネは姉御肌だからな」

「えー。僕ってそんなに頼りない?」

「そこは認めるわね。言われないと平気で食事しないし、剣の修行と畑の仕事しかしてないし」

「だよな。アルはもっとフィーネに感謝すべきだぞ」

「その感謝は勿論するけど…。…やっぱり二人も相性いいと思うよ」


 そしてやっぱり、勇者は柔和に微笑む。

 するとレイは笑顔のまま、心の何処かを引き攣らせるのだ。


 勇者と共に行動すれば、いわゆるイベントに巻き込まれる。

 フィーネと一緒にいると、万が一ということがある。


「とーにーかーく‼私とアルの冒険の始まりね。レイとは違う目的で途中でお別れだけど。それまで妙なトラブルは起こさないでよ。アル、行きましょう!早くユーノを取り戻さなくっちゃ」

「うん。待ってて、ユーノ」

「って、俺は途中でお別れしねぇし」


 レイは曰く付きの家宝の剣を抱えて二人の後を追う。

 ここはやっぱりステータスの差で、二人との足並みがそろわない。

 因みに今回、フィーネのレイに対する好感度は関係ない。

 なんだったら、同朋としてかなり高感度が高い。

 やはり諸手を挙げて喜ぶ場面だが、そんなことよりも重要なことがある。


 というよりDLCの章、188話で引っ張っても仕方がない。


「ユーノを攫ったやつらが俺の仇って言っただろ。アル、なんなら俺がそのついでに助けてもいいんだぜ」

「それは駄目だよ。ユーノは僕の身代わりになった。だったら僕が助け出さないと」 


 ——今回のレイの目的はそこだ。


「でも、レイの話だと魔王とかもいるんでしょ。そいつを倒すことが勇者の目的なんじゃない?」

「そうだけど…。それじゃあユーノを助けて、魔王も倒すし」

「攫ったのが魔王じゃない可能性もあるぞ。その時は」

「むぅ。ユーノは僕が助けだすの!それは絶対に譲れないし」


 こんなアルフレドをユーノルートから引き剥がすこと。

 そしてDLCルートから通常ルートに戻すことだ。


 その為にも、これから出現するユーノとのイベントを無理やり捻じ曲げる必要がある。

 出来れば、アルフレドには他のヒロインと結ばれて欲しい。


「…魔王を倒さないと世界が滅びるかもしれないぞ」


 だからレイは、小さな声でアルフレドを脅す。

 すると少年はまだ灰だらけの髪に指をかけて、こう言うのだ。

 勿論、半分は冗談っぽくだけれど


「例え世界が滅んでも、…僕はユーノを助けたい。勿論、世界も滅ぼさせないけど」


 そう…


 ユーノエンドは所謂、ハッピーバッドエンドだ。

 好きな人は大好きな、愛する人の為に世界を犠牲にするハピバだ。


 であれば、レイがずっと感じている違和感にも繋がる。


「…ユーノを助ける為にプレイヤーが捧げるのは、全データの消去」


 勿論それはゲームの話。

 好きな人は好きで、嫌いな人は嫌う。


 それがゲーム内転生で起きてしまったとしたら。

 既に一度、実行されていたとしたら。


「え?今、何って」

「レイ。もっと早く歩きなさいよ。遠くて全然聞こえないわよ」


 とは言え、その事実は消えているから全ての記憶が失われている。

 今のレイには、ゲームオーバーになった後の世界がどうなるかさえ分かっていない。


「いや、まさかそんなこと。俺の考え過ぎだよな…。とにかく世界滅亡は勘弁だし。勇者様には頑張って貰って」


 物語は不都合なく軽快に進む。

 ゲーム内転生という突飛で在り得ない現象に巻き込まれても、体は違和を訴えない。

 とは言え、ステータスの違いは面倒くさいが。


「レイ、遅いわよ。流石にこれ以上はゆっくりできないからね。」


 考え事をしているレイにフィーネが声を掛ける。


「これでも頑張ってるよ」


 そして彼女の後を追いながらも、レイは今後の展開を考え続けた。


「ネクタの街でイベントが起きる筈。そこで上手くユーノを確保できれば、ハピバは回避できるんじゃないか…。んで、アルをどうにか説得して、ユーノだけを帰らせる…」


 既にユーノルートだとしても、ユーノエンドになるとは限らない。

 あくまでドラステワゴンのシナリオに乗っかった形で進行する。

 他のヒロインとの好感度が高ければ、そちらのハッピーエンドで普通に終わる。

 今はここもゲーム通りであることを信じるしかない。

 奥歯を軽く噛み、レイは二人を追いかけた。


「先ずはフィーネだ。幼馴染というアドバンテージを持ってかれてるけど、バランス調整が入ってるっぽいし!」

「ちょっと何?」

「くすくす。そっか。僕たち幼馴染だもんね。一緒に旅が出来て嬉しいかも」


 なんて、主人公は言う。

 だが本当に補正は入っている。

 だってフィーネは最初から彼をアルと呼んでいる。


「ま。俺も流れで呼んでしまってるけどな。アル、この辺りから魔物が出るぞ」

「うん。この三人なら出来そう。…レイとフィーネは少し下がっててね」

「アル、私も戦えるんだけど」

「いいから後ろ。先ずは僕の力を試したいんだ」


 確かに、その前にやるべきは生き残ることだ。

 件のハッピーバッドに辿り着く前に死んでしまったら、何がしたかったのか分からない。そして死んだらどうなるかも分からない。

 人生と同じでオートセーブで、そのセーブ画面どころかステータス画面も見当たらない。

 そんな中でのゲーム主人公の背中は勇ましい。


 どうしてレイモンドなんだ?

 何故、初期ではないのか。

 どうしてリメイク版だけではないのか。

 なんでハッピーバッドが含まれる完全版なのか。

 そもそも、この世界は何なのか分からない状況で、レイはレイモンド役として同じ道を歩む。


 幾度も触れたようにユーノルートはナラティブに進行する。

 レイモンドではなくアルフレドで始めた方が確実に避けられただろう。


 そう考えると奥歯をはんでしまう気持ちが湧き上がる。

 同時にこんな事も考えられる。


「いや、俺はアルフレドでの回避を試したのかも…。そしてアルフレドでハピバを踏んだ。もしくは踏まざるを得なかったのか。そこで全てのセーブデータを、そしてこの世界の全ての記憶を失った。記憶を失ったなら、何をやっちゃダメなのか分からないだろ。何をやってんだ、俺」


 アルフレドでは駄目だったとすると、今までの違和感の正体が分かる。

 色んな意味で辻褄があってしまう。

 残された悔しさか何かが、レイモンドを選ばせた。


 でもやっぱり失ったものは大きい。


「とにかく常識的に考えて、死んだらお終いだろう…。だからアル‼無理はするなよ‼」

「分かってるよ。でも、二人になら安心して背中を任せられる」


 そして遂に冒険は始まる。


 当然ながら世界を救出するための冒険。

 加えて、ユーノの救出に燃える勇者に、ユーノと結ばれてはならないと説得する為の冒険だ。


 レイは天を仰ぎ、このゲームのタイトルをサブタイトルも含めて呟いた。


「もう村は出たか。結局タイトルは出なかったな。——ドラゴンステーションワゴン〜光の勇者と七人の花嫁+2(プラスツー)〜」

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