新要素で旅立つ理由がそもそも違う
レイ…レイ…
誰かが呼ぶ声がする。アルフレドとフィーネの声がする。
今回は気絶したからとかじゃなく、単に遠くから呼んでいた。
そして、それはそう。
「そういえば、急いで追いつけって言われてた…」
先に言った二人にしてみれば、どんだけちんたら歩いていたんだと映るかもしれない。
「レイ‼早く‼」
「ユーノが‼ユーノが‼」
原作レイプという単語は強すぎる言葉だから使いたくなかったが、今回は正にソレにあたる。
そもそもがドット絵時代の作品をグラフィック向上と新ヒロイン二人を追加、ストーリーをそのままにリメイクしたのが、ドラゴンステーションワゴン七人の花嫁だった。
そして、完全版商法は新たなストーリーが追加された。
このストーリー追加という表現はある意味で正しい。
「魔物がいるかもって言った手前、周囲を警戒していたんだ」
この言葉で二人の表情が僅かに変わる。
そして二人の背後に燃やされた村の家々が映る。
多くの住民が動いている姿さえ見える。
それって、全然違う話になってるじゃん、前提が違うじゃん。
批判はその通りだが、あくまで追加ストーリーだ。
久しぶりだし、世界創造編なんかもあったし、レイモンド側の視点もあったから、なかなかに長い、メタい話をすると八十万文字以上もあったから忘れがちだが、リメイク後でさえサブクエを含めて半日も掛からないゲームだ。
「天女の透水晶であるユーノ。それなりのストーリー性を持った追加エピソードは、何十回もやった周回プレイの一周分。マジでゲーム一周分…。でも、一番大きいのは」
「それよりレイ、ゴメン…なさい。私…」
「…フィーネ。…それは仕方がない。俺の途中で魔物を見たが、アレは俺達がどうできるやつらじゃなかった。それで村の被害は…」
頭を下げる水色の髪の美少女フィーネが辛そうな顔、それも泣き腫らした目を上げた。
そもそもの原作は村の壊滅。前はバグを利用しての半分生存だった。
「レイ、ユーノが!ユーノが」
「アル。それは後。先に…、家は燃やされちゃったけど、多分大丈夫。でも…アーモンド夫妻と長老が魔物に殺されたの…」
「そう…か」
ただ残念なことにレイモンドの両親と勇者を守る為の隠れ村の基礎を作った長老は殺されていた。
全ての周回で絶対に殺される。そして今回は狙ったように三人だけ死んだ。
ゲームがあの時点で始まるから、絶対に逃れようのない死。
死の場面は描かれてもいない。
「ごめんなさい。私ばっかり救われて…」
「いいや。親父もおふくろもそれからチョウロ様も、村を守るという使命を持っていた。それはフィーネ、お前も知ってるだろ。パピルスさんとマーマレイドさんは無事だったんだ。なら、それで」
「良くない‼守るって使命はウチも同じで」
フィーネは首を横に振り、泣き崩れる。
こんな少女に、ネタバレ対策で三人はシナリオに殺された、なんて言うのは何か違う。
それを知っているレイは淡々と…、いや
「親父は使命を果たしたんだ。おふくろも…。俺よりずっと強かった。チョウロ様だって、みんなを守って…」
ゲームシナリオとして知っているだけなのに、目頭が熱くなる。
ただでさえ長身のレイは涙を見せないように天を仰いだ。
ゲームプレイしている時はポチポチボタンを押すだけだったのに、やっぱり違う。
中の人になったからか、と彼自身は考えるのだが、事実は異なる。
ただ、彼が全ての記憶を失ったわけではないと気付くのはもう少し先。
だって今はシナリオの核心の一端に触れている会話の途中だ。
「ユーノ…。ユーノが。レイ、どうしよ。ユーノが…」
「やっぱりユーノ…」
「アル、落ち着いて。…レイ、聞いて。ユーノが攫われたかもしれない。住民の話だと魔物は勇者は何処かって言ってて、ユーノは自分が勇者って名乗ったらしいの。勇者の自分が従うから村の人は殺さないで…って。皆止めたんだけど、どうにか逃げるから大丈夫…って」
「魔王軍は勇者を探していた…。それでユーノは勇者のフリを…?」
「レイ、勇者って何?早くユーノを助けないと‼」
「だから落ち着いて。…レイの気持ちも考えて」
「ゴメン…。そうだった。レイ、家に…。僕、準備をしないといけないから」
勇者の存在を真の意味で知っていたのはレイの両親とチョウロの三人だけだった。
ユーノは自らを勇者と騙り、村を守った。
そして、エルザは彼女が勇者ではないと知っていた。
流石に察せる。ユーノの出生も他とは違う。
その他に色々と違和感を抱くところはあるが、レイの足は自分の家へと向いた。
「感情移入、没入感、そしてナラティブに…か」
何故、自分の家が分かるのかとか考えずに、レイは半壊した我が家の前の瓦礫に手をかけた。
押し除け、家屋へ入っていくが、頭の中はダブル、トリプルのタスクを強制させられている。
「ユーノの追加はナラティブなゲーム体験の追加。主人公の目になれるお話。村を焼かれた程度では足りないって?」
流石は村長の家。土台は石で頑丈に作られていて、それ故に半壊で留まっている。
因みに、トリプルのタスクで容量目いっぱいのレイの表情が、外に居たフィーネたちには自然に見えていたのは言うまでもない。
そしてレイは再び、あの殺人現場へと到達してしまう。
「う…、これは…」
体の何処かで覚えている。でも、流石に惨たらしい殺人現場は心に来る。
何より
「こっちが親父…。なんで抵抗しようとしたんだよ…。おふくろも…」
感情が激しく揺さぶられる。
膝をついて拳を床に突き立てる。
「こんな俺をずっと叱ってくれて…。おふくろは優しく見守ってくれていて…。二人とも生きててくれなきゃ、見守れないだろ…。…あれ?本当の親じゃない…のに」
レイモンドになった以上、レイモンドとして生きた記憶を持っている。
当然のことかもしれないと理性は言い、それにしては本当に生きたみたいになってないかと肉体が言う。
そんな感情を全て篭めて、両の手を合わせる。
「…アズモデの指示だろ。アズモデが親父とお袋を殺した。ネタバレ防止とかいうどうでもいい理由で…。リメイクとかDLCとか抜きにして、そりゃレイモンドも復讐の旅に出るよな」
そういえば本編ではレイモンドの悪行の描写ばかりだった。
だけどやっぱり、彼には彼の正義があったことは間違いなかった。
例え、DLCがやってこなかったとしてもレイモンドは魔王軍と戦っていただろう。
そこで正確な身長202㎝と明かされた大男の両肩が浮く。
「レイ、あの…、ちょっといい?」
「フィ…、フィーネ。ちょ、ちょっと待ってくれ」
「え…?わ、分かった…。ゴメン」
背中側に現れたのは水色髪の美女一人で、彼女は大男の涙を見て目を剥いた。
「アンタにもそんな一面…」
両親の遺体を前に泣き崩れるのに大男も小女もない。
だが、そもそもレイモンドのキャラ設定の無茶苦茶さは残っている。
「アルフレドのことだろ?」
「よ、よく分かったわね。やっぱりいつものアンタらしくない」
「流石にアルフレドを見てたら気付くって。今すぐにでも村を出たいとか言ってるんだろう?」
「それはそう…よね。そうなの。確かにユーノは心配だけど、村だって大変な時で、家を壊したり、仮の家を作ったり。男手が必要って私でも分かることだし」
村が襲われるレトロゲームあるあるの鬱展開スタート。
襲われたから、襲った原因である魔物の王を倒す旅に出る。
両親を殺されたフィーネとレイモンドはアルフレドと同道する。
進行ルートがほぼ一本道とはいえ、勇者たちは大したヒントもなく東へ進む。
旅の途中で知り合うヒロインたちと恋愛イベントを楽しんだりする。
漠然としていたからこそ、魔物退治を放りだしてキャッキャウフフしていたのだろう。
——そこに注入されたのが、ユーノだった。
「ユーノはアルフレドと同じで、この村の出身じゃないからな。あぁなるのも理解出来るだろ?」
「それはそうだけど…、 村のみんなだってアルフレドの家族同然だし」
似た境遇で育った幼馴染が攫われた。
ボーイミーツガールのスタイルは変わらない。
使い尽くされた話かもしれない、古臭いかもしれない。だが王道。
DLCによって主人公の旅立つ目的が、『一人の少女を助ける為に』に変更された。
「フィーネはどうしたいんだ?」
「私は…。その。パパもママもいるし」
「嘘を吐くな。アルフレドを追いかけたいんだろ」
「ち、違うから。アルフレドはユーノを探しに行ったんだし」
その投与は、元祖ヒロインがとんでもなく浮いてしまうという副反応が現れる。
ただ目立たなくなったでは済まない。
「全く…。世話が焼けるな。だったらこうしよう」
微細だが大きな変化があった。
しかも最初から起きていた。
アルフレドの一人称が「俺」から「僕」に変更されていた。
何の影響かはさて置き、あの時点でユーノルートが始まっていたと考えるべきだ。
「…俺は両親を殺された」
「あ…、うん。そうだよ…ね。やっぱり私」
「最後まで聞け。俺は魔王軍に復讐したい」
レイはレイモンドお得意の小悪党顔や悪巧み顔を見せた。
銀色の髪をツーブロックにして、黒のメッシュまで入れている。
瞳の色は鈍色で、死んだ魚の目。
三白眼に構え、下卑た笑みを浮かべれば、子供に近づかせてはいけない顔の出来上がりだ。
「…でも、俺はちと厄介な性格をしている。各地でスタトの悪名を振りまくかもしれない。これは大変だな。誰かが見てないと不味いことをする自信しかないなぁ」
水色の髪が跳ね、翠の瞳がくるんと輝いた。
ユーノルートは新たに書き下ろされたストーリー。
「え…?それって」
「アルフレドが見てないとやっちまうかもなぁ。でも、アイツは力の加減を知らない。回復してくれる奴が隣に居てくれる方がいいかもなぁ」
フィーネの両肩が浮く。
ぴょんと飛び跳ねる。
「私、行ってくる!」
「行ってこい。それからみんなにこうも言っておけ」
「えぇ⁈それって…」
何度も頷いた後、フィーネは動き出す。
ステータス値で勝るから瓦礫を飛び越えて、あっという間に姿を消す。
五秒ほど待って、レイはしっかりと項垂れた。
「親父、おふくろ。約束通り、ドラゴニア族の一員として世界を守る。だから見守っててくれ」
こんなことが起こりうるのも追加システムだ。
お気づきの通り、本編では補完していない名前が登場している。
そして何より、DLCを適用させるとフィーネ無しで旅立つことだって出来る。
他のヒロインも同様で、仲間と別れるという項目まで追加された。
縛りプレイの意味ではなく、狙ったヒロインのエンディングに到達しやすくするための配慮である。
「暫くはフィーネが頼り、か。レイモンドがそんな風に思ったかは知らないけど」
因みに、ヒロインイベントのお邪魔役のレイモンドさえおいていける。
でも、ちょっと待って欲しい。
レイモンドとフィーネと言えば、『胸糞イベント』だ。
発生しないのは彼にとっては良いことの筈だ。
それでもレイは、殆ど負けヒロインが確定しているフィーネのアシストをする。
「アルフレド、あの様子だと一人で勝手に旅立っちまうな。スタトの入り口に集合だったか」
その理由は敢えて語らずにおこう。
だって、簡単に想像できることだから
◇
元王家直属の兵士団だけあって、スタド村民はキビキビと仕事を熟していた。
ただ、兵士だった者で最も若いのがフィーネの父パピルスで、勇者の保護という義務は隠されたまま、主力が二世に引き継がれている。
そして、レイモンドの素行の悪さはコレだけ改変されても変わらない。
そのパピルスが嘆く。
「親の部屋を物色していたらしいな。それはこんな時の為の村のお金だぞ」
「チッ。それはフィーネに止められたっての。でもよぉ。俺は復讐したいんだ。それは止めねぇよなぁ」
レイはわざとらしくフィーネを睨みつけると彼女は目を逸らした。
一人だけ頭三つ分くらい背が高いから気付かれないだろうが、顔を顰める。
「フィーネだってそうだろ。自分の両親が殺されてたら」
「あ…、そか。そ、そうだよ!今度ばかりはレイの言ってることは正しい…んじゃない?」
「それはまぁ…。アーモンド様とカカオ様にはお世話になりっぱなしだった。だが、お前はお二人の顔に泥を塗りかねん」
「パピルスさんよぉ。この俺の瞳を見てもそう思うってのかぁ?」
レイはお得意の死んだ魚の目で睨みつける。そこに下卑た笑みも添えて。
フィーネが告げ口をしたことになっているから、パピルスも負けじと三白眼で睨み返す。
他の村人の目も同じくレイを非難するもので、効果はてきめんだった。
「先ずは村の復興だ。復讐はその後でも構わないだろう」
「はぁ?俺なんかがいても邪魔するだけだぞ」
「だから行かせられないと言っている‼」
レイは心の中で「やはり」と息を呑んでいた。
ゲームがレイモンドを置いて行っても良いと訴えている。
ここですすっと村を飛び出せば、アルフレドの一人旅が達成できる。
そして、それをさせない為の行動だが、彼女の動きがとても悪かった。
「…フィーネ。お前からも」
「え…っと。その、そうじゃなくて。復讐はしたいって気持ちは」
「フィーネ。お前がこの男が村の金に手をつけようとしていたと聞いたんだが」
「そ、それもそう…だけど」
歯切れも悪い。さっきの話し合いが全然活かされていない。
即ち、フィーネはアルフレドを諦めようとしている。
フィーネの両親が生きている以上、自分はここに留まるのは必然。
アルフレドとユーノは仲良しだから、アルフレドが追いかけるのは必然。
攻略難度が高いという設定が、こんなところで体現されている。
他のヒロインルートに入れば、フィーネルートに戻るのは非常に難しい。
「だったらアルフレドだ‼」
「え…?」
早速長身が役に立つ。
さっきからずーっと心ここにあらずの少年。
あんなのを見せられたら、フィーネの好感度が上がる筈もない。
「お前、何一人で行こうとしてるんだよ‼お前こそ村の復興を手伝え」
「い、嫌だ。僕はユーノを取り戻さないと」
あの日であれば、喜んで送りだしただろう。
でも、ストーリーが変わればエンディングも変わる。
そもそも、レイモンドが話の中心に居ない時点で、何故かレイはご立腹なのだ。
「ユーノ、ユーノ言うけどよ。お前、何処に行けばいいのか分かってるのか?」
「それは…分からない。でも、行かなきゃ」
「まぁ聞けよ。アルフレドとフィーネは獣道で帰ったろ?俺は登山道で普通に帰ったんだが、その途中で魔王幹部らしき奴らを見ている」
「あ…、そっか」
「なら、俺が居た方がいいんじゃねぇか?んで…、パピルスさん、んでマーマレードさん。アルフレドが俺のお目付け役ならちったぁ安心できるだろ?なぁ、フィーネ」
主人公はアルフレドかもしれないが、話の中心は自分でなければならない。
だからあの惨劇が繰り返されようとも、レイは行かなければならない。
「そ、それいいかも。それなら私も…。私も目を光らせておけば…」
「フィーネ。お前は一体何を」
「アルフレドは止めないんでしょ」
「う…、それは」
「私、知ってる。アルフレドは特別な子だって。黄金の鳥に導かれた存在だって」
そして、そこにフィーネは絶対に必要なのだ。
「え?何の話?僕は…」
「つーわけだ。俺は両親の復讐を。アルフレドとフィーネは俺のお目付け役を。これなら文句ねぇだろ。そして俺はアルフレドに道を教える。これでどうだ、アルフレド」
その理由もまた後程。




