他人の恋路を監視する趣旨の悪魔
エクレアに潜んでいたハーレムパーティ。
最初はアイザがちょこちょこ顔を出すことで二天王の足止めをした。
その隙にリディアと数名で、キラリが指定した場所に移動。
安全を確認して、勇者とそのイベントの該当者が移動する。
その作戦は魔人レイとその仲間たちを翻弄するものだ。
…なんてのは嘘。
こんなの策でも何でもない。
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ステーションワゴンから黒髪の少女が最初に飛び降りた。
彼女は光の勇者の腕をしっかりと掴み、「はやく、はやく」と急かしている。
アルフレド「キラリ、何をそんなに急いでいるんだ?」
キラリ「僕、忘れ物したかもしれないんだ。ね、勇者様、僕と一緒に探してくれる?」
(中略)
アルフレド「そんなことない。戦いが終わったら聞きたいこと、話したいことが一杯あるんだ。」
キラリ「本当?また、話してくれるの?僕…、ずっと孤独で、人と話す、ほとんどなかったから。だから…約束…だよ?戦争が終わっても…」
アルフレド「うん。一緒に魔王を倒そう。僕たちなら絶対にできる」
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「俺は何を見させられてんだ。移動するぞ」
「移動ってアイザがいるのよ」
「勇者は今、デスモンドにいる」
「何を言っている。姫は」
「成程ね。レイはムービーを見たようだね」
「アズモデ。イツマゾク、よろしく」
「使えるのはボクだけじゃないんだけど」
マップ座標はアズモデが詳しい。
到着早々、エルザとゼノスがくんくんと鼻を鳴らす。
「姫の匂いが遅れてきた」
「アイザを囮に使うなんて、許せないんだけど」
ピロー枢機卿団の作戦はある意味で失敗。
だけど、レイの勝ちではない。
この調査は勇者たちの好感度を調べることじゃない。
バグ探し。空間のひずみ、フレームレートのかたつき、音のずれ。
バグは勇者の周囲で起きるだろうから、勇者の近くにいなくてはならない。
そういう意味では、レイの負けである。
「アルフレドはイベントを回収するつもりなのか。次はどのイベントだ」
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リディア「わーー!すごい!素敵な場所ですね、ここ。 ずっと監禁されていたから、こんな場所に来れるなんて夢見たいです。」
(中略)
アルフレド「リディア様。このアルフレドが必ずお守りします。」
騎士の儀のような美しい金髪の男女。
ちょうど陽が落ちてきたのか、長く伸びた二人の影が少し歪ではあるがハートを象る。
そしてその影の形にリディアが気が付き、少しだけ頬を赤く染めた。
リディア「ふふふ、絶対ですよ。大切な勇者様!あとは魔王だけですね」
アルフレド「うん。僕たちならできるよ。一緒に魔王を倒そう」
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デスモンドとミッドバレイの間の草原。
アルフレドはいつの間にか車の中に戻っていた。
そして、どこか顔を赤くしたリディアもいる。
ぎこちなくて周りを見回すと、フィーネもエミリもマリアもキラリもスンとした顔で座っている。
イベントを回収する、それは必要な事だ。
リディアは自分を思ってくれていると再確認できた。
でも…
「魔王軍は?」
「来て…ない」
「綺麗なお花畑でしたよ」
「羨ましいです。魔王軍でなければ、私もそのようなイベントを」
そういう趣旨の作戦だから、サラのイベントは回収できない。
でも、この反応だけでサラの気持ちも伝わる。
ユーノが目的を果たせば、サラは人間に戻れるのだし。
そして、これも立派な世界の意志なのだ。
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アイザ「お、おとなのお店、わらわは…、入れない…」
薄紫の髪が揺れているのは、彼女が震えているからだ。
十七年間ずっと監禁されていたのだから、無理はない。
アルフレド「大人…って、普通のお店なんだけど。それに可愛いアイザにお似合いの場所だよ」
アイザ「でも!わらわは、わらわは!」
アルフレド「僕はね——」
彼は幼女を抱きかかえた。
(中略)
そして二人は——♡
アイザ「わらわ…、頑張る。魔王と…戦う」
アルフレド「うん。僕たちならできるよ。一緒に魔王を倒そう」
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レイはチッと舌を打った。
「また移動された。デスモンド周りにはイベントがあるのに」
「で、今回はどんな内容だったの?」
「あぁ。俺達も気になって仕方ない」
「今回は、アルフレドとアイザが抱きあ…」
何度も見たイベント故、スラスラと話せる。
一カット目から想像がつく。
「はぁぁあああ‼あんのヒョロガリッ‼」
「なんですってぇぇええ‼」
そして、今回も失敗だった。
しかもこの後、落ち着くまで二時間も使った。
「でも、これは良い傾向だよねぇ。勇者も馬鹿げたトロッコ問題に気付くきっかけになるかもしれない」
「そう…なんだよなぁ…」
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ソフィア「懐かしい場所……、でも私にとっては辛い場所でもありました……」
アルフレド「あぁ。分かっている。でも、今は僕がいるよ」
(中略)
ソフィア「——♡」
アルフレド「——♡」
そして——♡
ソフィア「この戦いが…終わったら…、もっと先まで」
アルフレド「うん。そうだね。女神様に叱られちゃう。ソフィア、一緒に魔王を倒そう」
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レイは、コウモリの羽は七色に脈を打っていた。
ギリギリと犬歯を軋ませて、青く光らせる。
「何があった‼聞かせろ‼また、姫のことかぁぁぁあ」
「アイザなの?またアイザが大人の階段を無理やり登らされて」
「ドラステに大人の階段とかないから‼…ソフィアだ。俺の推しのはキツイってだけ。場所はミッドバレイだ」
「あの緑の髪の。あと一歩で俺様に落ちていた女…」
「アンタは直ぐに逃げ出したでしょ」
ヒロイン一人ずつ、イベントを回収していく。
この状況はハーレムルートと言える。
そしてここでドラグノフが鼻を鳴らした。
「ふむ。少しずつ西に移動しているな」
「確かに。勇者の気持ちか、ヒロインたちの考えか、終わりの場所から離れてるのかな」
「だったら回り込めるんじゃない?」
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マリア「勇者様!」
アルフレド「ん?どうしたの、マリア」
(中略)
マリア「うん。いいよ。こっち、来て——♡」
そして——♡
マリア「アタシ、頑張る」
アルフレド「うん。何があってもマリアを守る。そして魔王を倒す」
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車内のムードはかなり良い。
ヒロインたちの目に希望の輝きが戻っていく。
あのことがなかったことにされていく、そんな気がしていた。
最高クラスの好感度で発動されるイベントだから、まるで恋人同士だ。
ただ、これはゲームである。
中略などで省略しているが、これはエンディング用のラブラブイベントではない。
これから魔王を倒すことが前提で描かれている。
「これは良いこと…、なのかな」
「魔王を倒すのは当然でしょ。さ、次はエミリよ。楽しんできてね」
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エミリ「ねぇ、肩車して。——♡」
アルフレド「——♡」
(中略)
エミリ「いっぱいの子供たちと一緒に畑を耕したい。その為にも」
アルフレド「こう言う事言うと死亡フラグっぽいけど、魔王を倒したら、結婚していっぱい、その…、愛し…合おう」
エミリ「うん‼」
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ここに来て初めて知る事実があった。
「今、ムービーが入った?」
「もしかして、バグが見つかったのか」
「あぁ、これはバグだろう。その牙が受信機なのだ」
「受信機って、どういうことだ?」
「君が世界の意志を知る時、その犬歯が光るらしいね。今まで気付かなかったってことは、距離と関係しているのかな?」
仲間たちが発見したのは、レイが知っても意味のない真実だった。
呆れ顔で半眼し、今回のムービーの内容を伝える。
するとゼノスの顔が険しくなる。
「ヒョロガリぃぃ‼何故だ。何故、あいつばかりがモテる‼貴様もそう思うだろぅ」
「そりゃちょっとは思うけど、そういうゲームだし」
レイモンドが空気みたいな存在の世界だからと、やはり呆れ顔、諦め顔の魔人に、珍しく義兄が眉を顰め
もしかしたら母と親戚かもしれない女は、さっきの魔人と同じ呆れ顔で
二人は物申す。
「最初の方は分かるけどねぇ。君はデスモンドまであの中に居たんだろう?」
「もっと悔しがりなさいよ。ゼノスなんて数分しかいない勇者に嫉妬してるのよ」
久しぶりに言う。ドラステは恋愛メインのRPGだ。
「アルフレドがハーレムを作る、それが目的なんだから仕方ないだろう」
「それはそうだけど…」
「ふ、貴様はそこで指を咥えているがいい。そのハーレムとやら、人間の姿になった俺様が破壊してやろう」
「破壊。成程…。弱くなって尚、強さを求めるでござるか」
「ドラグノフはさて置き、アズモデなら出来そうね」
「ボクがかい?さて、興味をもてるだろうか」
「ちょっと待て。アズモデもヒョロガリではないか」
経験値より、ステータスより、好感度ゲージが気になるゲームだ。
そしてレイモンドはお邪魔役、牙を抜かれたお邪魔役。
それもメタい話なので、魔人は人間に予定の四天王たちの会話に苦笑いするしかなかった。
「順番的に次はフィーネ…か。いやいや、ムービーを見ても仕方がない。バグを…見つけないと…」
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魔王討伐を前にして、二人は久しぶりに故郷に戻っていた。
火は消えているが、痛々しい区画はそのままだった。
仕方のないことで、家主が存在していない。
家の一部が壊れた一家もあったので、そこまで手が回らなかった。
まだ魔物も時々現れるから大人たちはピリピリしている。
フィーネ「お父さんとお母さん、元気そうだった」
アルフレド「そか。まだ、安心してって言うのは早いけど。子どもたちは…」
世界各地をまわって、魔王軍の被害は他の地方にも及んでいたことを知った。
王城なんて完全に乗っ取られていた。
最低限の被害で済んだからか、子供たちは元気に遊んでいた。
その中で一番大きな体の男の子が、突然勇者を襲った。
子供「魔王アルフレド!フィーネお姉ちゃんを離せぇぇぇ!…痛っ!」
だが、魔王アルフレドは伝説の木の棒を躱し、茶色い髪の子供の足を刈り取った。
アルフレド「ふはははは。勇者とはその程度かぁぁ」
フィーネ「アル、容赦なさすぎ。ゲングも!勇者様に魔王は言い過ぎでしょ」
ゲングはクソガキっぽいアカンべをして、子供たちの輪に戻っていった。
アルフレド「タロとハナもエリアも元気そうですだね、ゲングは…、元気すぎ…かな?」
フィーネ「元気でいいじゃない。私だって似たようなものだし。いつもレイが勇者役で、アルが魔王役で。あ、その時も魔王が勝っちゃって」
アルフレド「フィーネはあの時も、いつも囚われのお姫様役だったね」
スタトは避難した人たちが大きくした村だ。
今でこそ子供は沢山いるけれど、あの時は四人。
フィーネ「いつもじゃないでしょ。私とユーノとでかわりばんこだし。あ、思い出した。ユーノがお姫様の時、アルも自分が勇者したいーって。あれ、根に持ってるんだからね」
アルフレド「思い出した…って言ったばかりじゃん。…で、そういえばユーノは?」
フィーネ「チョウロ様の家を片付けに行ってる。あの子はチョウロ様の家で育てられたから。一緒に行こうかって言おうとしたんだけど」
好感度マックスイベント。
だけどフィーネは寂しそうに俯いた。
同じく勇者も
アルフレド「…うん。フィーネの家で育った僕と違うもんね…。チョウロ様はユーノを本当の孫のようにかわいがってたし…」
◇
魔人レイは、ニイジマは息を呑んで、脳内で流れるムービーを見守っていた。
ムービー中はやることがないわけで、スマホを弄る時間と揶揄されることもある。
でもこの世界のムービーは世界の意志だから、何も触れない。
「あれ…、知らないムービーだ」
とは言え、心の目は大きく見開かれていた。
そして心の中のプレイヤーレイはつい喋り始めていた。
「子供たちの名前も確かに設定資料集通り。だけど、フィーネとアルフレドのイベントって…。…あ、違う。スタトはDLCで設定が変わったんだった。前のは全滅ルートだから、このムービーは新規で追加されたんだ。俺としたことが…」
サブイベントの拾い忘れに気付き、歯を食いしばる。
でもちゃんと理由がある。ハーレムルートは噂程度にしか調べておらず、先にサラのエンディングを見ようとしていた。
サラのイベントを中心に拾って、他のヒロインのイベントは拾わない。
DLC前の攻略は、基本的にそんな感じだった。
そしてDLCで追加されたのであれば、気になる点がある。
「レイモンドを置いて来た場合はどうなってたんだろ。今回は連れていった設定だからいないのは当然だけど。もしかして差分が用意されてたのか?うぅわ。めっちゃ気になる。だけどユーノルート進んじゃったし。エンディングも見ちゃったし。…いや、そもそも俺は死んだし」
ヒロインムービーは勇者と一人のヒロインしか出てこない。
今までのヒロインムービーはほぼ使い廻しだったが、一人しか出ないんだから問題ない。
でも本当にそうだろうか。もしかしたらセリフの差分があったかもしれない。
聞き流してしまったのが悔やまれる。
「…そりゃ、ネットで酷評される。差分ありかもしれないのに、ゲームデータ消されるって、横暴すぎる‼」
こんな感じにプレイヤーが覗き見ている中、ムービーは思わぬ方向へ進んでいく。




