最終バトル前は寄り道しがち
赤い髪の毛が生えていた場所。
魔人レイが座る場所はそこに決まった。
ついに魔人は四天王の上に立つ男になった。
「なんで肩車?」
「ふ。知れた事。俺様より1cmだけ背が高いからな」
「君が見ても、何も気付けないからだけど」
「身長5mと2mから勇者の監視って。はぁ…、っていうかアタシたちも落ちたものね」
「君は元々、四天王の中でも最弱役だけど」
「ちょっと!アタシにまで噛みつかないでよ」
無論、物理的に。
こうなったのには理由がある。
四天王全員、既に役目を終えているからが一つだが、もっと大きな理由がある。
人数が多すぎたからではなく、三姉妹が殆ど同じ喋り方だったからでもなく、カギッコホネッコの修理が必要だった。
「君たちが流されたからだ」
「アズモデが一番流されてたでしょ」
「我は王より護衛を頼まれたのだが…」
「アレは駄目だ。ユーノという女に傅いてもおかしくない。女に傅く役は俺だったというのに」
「どんな役目よ。でも、あの王が戦うとは思えないわね」
「元々、王でもないしね」
「イチイチ、噛みつかないで」
因みに、レイとユーリの会話は誰も聞いていない。
神との交流は常に一方的で、会話が成立したことさえ信じていない。
とは言え、迷う理由もない。
「せっかくの力を失う。それは耐えられないねぇ」
「その前に世界が崩壊したら意味ないでしょう」
「我も子孫の繁栄を見守りたいぞ」
「その子孫をぶっ殺しておいて、よく言う」
「否。邪神様が遠くで見ておられることに、我は気付いていた」
ジェッピー君によると、ハーレムルートそのものは存在している。
ユーリが何をしたいかは、全員が知っている。
トロッコ問題と比べるのも烏滸がましい。
とは言え、四天王側に問題はあった。
「クソ…。ユーリにはあぁ言ったし、力は惜しいけど、世界と天秤にかけられない。ユーリとユーノだけの望みを叶える。その後に残るのがハーレムルートだ」
「ヒロインは全て死んでいて、邪神の化身であるユーノによって生かされているだけ。…いや、だが。蘇生されたのなら」
「アイザが巻き込まれているのは癪だけど、アタシと変わらないのよね」
「エルザとゼノスがそんななら、人間を辞めて記憶を失ったボクに意味は見いだせないねぇ」
「同じく。レイよ。それがどうしたのだ」
魔物として、アンデッドとしてしか生きられない、を魔物は理解することが出来ない。
皆が見ていないムービーを説明しても、ビックリするほど共感が得られない。
更には、プレイヤーにも問題がある。
「…それが…さ。。俺ってユーノルートを狙ってないから、あんま感情移入できなかったんだよ」
「はぁ?アンタがしっかりしないでどうするのよ。こないだまで人間で記憶も残ってるんでしょ」
「ほら…。主人公が喋るタイプのRPGって映画見てる気分になるじゃん?」
「ボクの弟は何を言ってるんだい?1mmも理解出来ないんだけど」
「失笑なり。RPGとはロケットランチャーのこと。キラリ殿が使っていた」
「あぁ、あれのこと」
「あれのこと…じゃねぇよ‼そっちのが意味分かんねぇだろ。ロールプレイングゲーム、役割を演じるゲームってこと‼アルフレド役の考えてることが分からなかったんだ」
レイが抱える問題、それはプレイヤーと主人公の気持ちの乖離だった。
色んなストーリーを遊べば、偶にはそんなこともある。
サラ専用ルートも用意されていると思っていた。
前情報が固まらないうちにプレイをしたから、DLC前気分でいた。
「幼馴染なんでしょう?昔から見ていたんでしょう?」
「それこそ、幼児性健忘だよ。ヒロイン一人一人との思い出もあるし」
「エルザ、聞いてやるな。俺様も一度、加入したがあそこは地獄だ」
「確かに…。あのアイザが懐いているし…。ちょっと待って。アイザを捨てようとしているの?」
「我の子孫もかぁ!」
「アイザとエルザだけじゃないよ。八人と世界だね」
「まだ世界を捧げる話は出てない。出てないと言うか、映らないだけなんだけど。そうか…、それを伝えれば」
こんなだから、勇者アルフレドを観察しよう作戦が行われるのだが、新たな問題が発生する。
秘密の塔での戦いを思い出して欲しい。
サラは魔物たちから憧れの眼差しで見られていた。
事情を知らないモブ魔物は良く機能して、——そもそも四天王は目立ちすぎるのもあるが、近づけば遠のくの繰り返しになる。
「ねぇ、レイの話本当なの?ユーノはユーリのところに向かおうとしているんでしょう?」
「寧ろ遠ざかっている」
「臆病風に吹かれたでござるな」
「それはゲームの仕様で…。デスキャッスルに行かないと話が進まない。ここはサラのイベント回収してたから確認済みだ」
「って、またゲーム?その例え方は止めてくれない?」
例えられない。これでもかみ砕いている。
かみ砕く前の言葉は、イベントアイコンが出てるからだった。
秘密の塔前の戦いで、魔人はちゃんとデビルアイズでキラリの行動を見ていた、デビルイヤーで聞いていた。
設定によると、カギッコホネッコとキラリの技術は共通。
彼女が持つ科学機械を使えば、色々分かるに違いない。
ならば、もう一つ。研究施設の技術を使った機械がある。
これもまた、DLCでの追加要素。カーナビ機能。
どのキャラのイベントがあるか表示してくれる。
運転手レイの時は一切機能していなかったけれど、あのキラリが改造した。
「…でも、あのアルフレドだ。イベントの回収はしたくない筈だから、簡単に捕まると思ってたんだけど」
「献身的なヒロインたち。世界の滅亡は知らなくても、八人と一人は変わらないんだよね。性別は違うけれど、ボクがユーノなら、ヒロインたちと結託するねぇ」
「確かに今の状態はウィンウィンか」
「ウィンウィン以上ね。アンデッドが嫌なら尚更じゃない。ゲームって要するにシミュレーターでしょ?超越者さん、ちゃんと見てたんでしょうね」
「シミュレーターはそうだけど。ドラステでヒロインのみの交流はないし…、あれ?」
「貴様、既にあの地獄を忘れたというのか」
その名はピロー会議。
ゼノスには参加権利がなかった、夜のハーレム。
寝ずの番という見張りはしたことはあるけれど、その後はレイも同じ。
そも、ドラゴンステーションワゴンとはレイモンドの精神を歪めるカタチをしている。
ビターが足りなかったとしても…
「秘密の塔の前でのお前の啖呵、人間を辞めたくなる気持ち。俺にはちゃんと響いていたぞ‼」
運転手レイの時、彼は歪むには足りないと考えた。
でも、本当にそう言い切れるのか。
もっと酷い扱いを受けた忘れてしまった深層心理が、苦すぎた経験が薄味に感じさせていただけと、体験入学しただけで逃げ出した竜人が答えだ。
「あり得る…のか。だけど大原則として、勇者が動かないとイベントは…」
「君の話を信じれば、世界中にアルフレドとヒロインそれぞれのイベントが散りばめられている。ボクならそれを利用するかな」
「…簡単に言うけど、イベントはアルフレドが行動を起こさないと」
「勇者はこれほどに幹部の監視をしているのだぞ」
「その前に、お主。あの建物の内部に居るのは誠でござるか」
「間違いないって。ドラステが見えてる限り、勇者はあそこにいる。あぁ、これもシミュレーターの」
「あの機械車のことを言ってるのかい?あっちにはデスモンドのキラリがいるんだよ?」
魔人は目を剥く。
確かにDSW-002は世界に一台しかない。
だが、研究過程で生まれたと神・設定資料集で決定した。
エクレアがスチームパンク、ファンタジーパンクな一面も併せ持つのは、その名残りだ。
「偽物かっ‼」
「呆れるでござるな。張りぼては戦の常套手段」
「おい、サラは転移魔法が使えるぞ」
「その理屈で言うと、リディア姫も使えるねぇ」
「ユーノという少女が我の背後をとったのは——」
感情移入できないから、結局出し抜かれる結果となった。
◇
賢者達の計画は進んでいた。
先ず、七番目と八番目にヒロインが軸となる。
移動先の情報収集の中心にいるのはファストトラベルが使えるリディア。
それぞれの拠点の中心にいるのは魔王軍にパイプを持つサラ。
サラは好きな場所に移動できるイツマゾクが使える。
「このサブイベントってマークを追う感じかな。アーマグ内で考えたいけど、あんまりないみたい」
マップはやはりキラリは気付いていたし、映し出されるマークの意味も理解していた。
「わらわも何かしたいのら!役に立ちたいのら!」
「アイザちゃんは居てくれるだけでいいんだよ」
「そうなのら?」
ユーノとアイザを除く七人の賢者たちはよく見ていた。
アイザの性質を理解していた。
「今までのイベントで現れた魔物を列挙してみたの。この倒せていない四天王の二人はアイザちゃんの知り合いでしょ」
「う…ん。お姉たまと竜のおじさん…?」
「アイザさんが動くと、魔王軍の目を操れるかもね」
レベル80超えの化け物だが、幼女の見た目の少女に与えられたのは囮役。
そしてこの囮作戦には別の狙いもある。
「思った通りです。アイザさんの動きにあわせて魔王軍は動きを変えています。これで暫く時間が稼げそうです」
「う…、ん」
アルフレドは、サラからの態とらしい報告にぎこちなく頷く。
ユーノから離れない勇者は、頭が空っぽなのでは無い。
魔物とは違う。人間は命という命題を簡単に割り切れない。
考える時間が必要だし、ユーノを説得する機会も欲しかった。
だからアイザが囮になる、という囮は分かっていても食いついてしまう。
『ユーノの気が変わるかもしれない』
と
『アルフレドの気持ちが変わるかもしれない』
利害の一致か、奇妙なバランスか。
勇者アルフレドは直ぐに最終局面に向かうことはなかった。
奇しくもレイのプレイに似た行動。
ゲームプレイヤーの性、終盤になるとプレイしたくなくなる現象。
ソレとは違うのだろうけれど、
ピロー枢機卿団は勇者とヒロインのイベント回収をする予定である。
「アル。今、何を考えてるか知らないけど、イベントの中に情報があるかもしれない。敢えて踏む勇気を持つべきよ」
「イベントを…?だけど」
DLCで天井を突き破ったレベルのステータスと、七人以上集まって文殊の知恵まで練り上げた枢機卿団は、メタ的存在、プレイヤー、超越者の領域に一歩踏み込んでいた。
「今までのイベントを振り返ってみたんだけど、イベントはタイミングと場所、そして該当する存在がいるか、否かで出現するかが決まってた」
「…えっと。そんな感じはしてたけど」
「ユーノを三度攫われるわけにはいかないわ。だったら、ユーノを奪いに来る存在が近づかせなければ、悪いイベントだけ排除できる。そう思わない?」




