ユーノイベント、続き
※前回からの続き
月の光が三時の方角を照らした。
その時は何故か、全員が眠っていた。
人数も多いし、順番で起きている。だけど、この瞬間だけ全員が眠っていた。
それは偶々だったのかもしれない。
アルフレド「ん…」
勇者の重い瞼は、微かな眩しさを感じ取っていた。
ゆっくりと目を開けると、息を呑むほど美しい光が飛び込む。
月明かりが銀色の髪を焦がすように照らし、コクのあるプラチナ色に染め上げていた。
アルフレド「ユーノ?」
人の髪とはこれほどまでに美しく光るのか、若しくは月の光を跳ね返すのか。
そんなことを考えつつ、目をこすりつつ
ユーノ「しぃ…」
すると少女は人差し指を自分の唇に当てた。
そして厚着のまま横たわっていた少女は立ち上がる。
アルフレド「え?」
多くが髪で、同じく多くが分厚いコートで覆い隠される。
それでもユーノの魔力は凄まじく、今にも突風が起きそうだった。
そしてここで——
アルフレド「待ってよ」
ユーノはヒロインたちの間を縫って歩いていく。
アルフレドも立ち上がり、周りを見回すが皆寝ている。
まるで、この瞬間だけ時が止まったようだった。
少女は制止を聞かず、部屋を出て行く。
だから少年も彼女の後を追った。
止める仕草もなかったし、宿の外に出るわけでもなかったので、そのまま従った。
ユーノ「上…」
アルフレド「上?」
モルタル製の豪華な宿で、歴史も古いらしい。
何度も寝泊まりした宿だから、階段の上り下りも同じ回数している。
ただ、今日は不思議な事にいつもの軋む音がしない。
少し気になった勇者だが、ユーノから目を離すわけにはいかない。
アルフレド「え?外…?」
気付くとそこは外だった。
と言っても、宿屋の屋上で人気も魔物気もない。
ただ、やけに月が目についた。
月は夜を照らす存在だけど、それは夜空の王ということ。
勇者は嫌な予感がして叫んだ。
アルフレド「ユーノ‼」
するとユーノは肩を竦め、もう一度自身の唇に指を立てた。
ゆっくりと指を下ろして最初に言ったのは、あの言葉だった。
ユーノ「天女の透水晶…」
アルフレド「天女の…?それって」
ユーノ「わたしのこと。ユーリがわたしに教えてくれた」
いつか黒い霧に包まれた。
周囲を気にするが、今回は何もない。
だからゆっくり、彼女の側に近づく。
でもやっぱり悪夢の中にいるみたいに、足が重くなっていく。
ユーノ「アル…。どうしてわたしを放っておかなかったの?わたしのことは…もう忘れて…って言ったのに」
アルフレド「そんなの嫌だよ‼だってユーノは僕の代わりになったんだ…」
重い足取りでどうにか目の前に辿り着く。
あの時、レベル80もあれば近づけたのかもしれない。
なんて勇者が考えた時、ユーノは徐に分厚いコートを広げた。
そして勇者は目を剥いた。
ユーノ「こうなっちゃったの…。でも、わたしはこうなる運命だった」
アルフレドは実は、ユーノのコートの中を見たことがある。
そんな目で見ていない時期のことだった。
だからって、意味が分かっていないわけじゃない。
透き通った肌のきれいな体、女の子の体だった。
そして、それは今も変わらない。普段のアルフレドなら照れて目を逸らしただろう。
アルフレド「だ、だ、大丈夫…だよ。ほら、僕たちは今から魔王を倒すわけだし」
月明かりに照らされたユーノの体は、勿論女の体。
胸の周りが丸く光っていた。丸が二つ。中央で繋がる。
数字の8が横になったとも見えるが、この場合…
ユーノ「…ドラグノフ。彼の質問の意味、アルなら分かるよね」
ミッドバレイでもどこでも、休憩エリアでも良く見るシンボル。
それは神聖なマークなのだけれど
ユーノ「わたしは彼の背に回り込んだわけじゃない。わたしが使ったのは」
アルフレド「関係ないよ‼あの王子に何をされたのか知らない…。でも、メビウス様は女神様、ボク達のお母さんだよ」
もう一つの意味がある。
無限に繰り返すメビウスは単なる∞ではなく、幅を持った帯のねじれ。
表を指で伝っても、いつの間にか裏を伝っている。
ユーノ「アルは知らないんだ。光と闇は表裏一体。魔物が信仰している神様もメビウス様なんだよ?」
闇の女神メビウス。
その存在が世界をメビウスの輪のように歪にさせていた。
ただ、それよりユーノの様子だった。
物静かで口数が少ない少女とは思えない。
というより、怒っている。
ユーノ「わたしが使ったのはイツマゾク。だから何処にでも飛べる。だから後ろに回り込まずに」
アルフレド「関係ないよ‼ユーノはユーノだ‼」
ユーノ「関係あるもん‼わたしなんか放っておけばよかったのに…」
アルフレド「放っておけないよ。だから」
ユーノ「だから…、皆死んだ」
伸ばした手が止まる。
俄かに月に雲がかかり、影が少女の体を隠す。
同時にユーノは両手で顔を覆ったから、コートは再び彼女を守るように纏まった。
アルフレド「みんな、しんだ?」
ユーノ「アルは…、気付いてないの?みんな、アンデッドなんだよ?光側の女神の力でアルは助かった…。でも、皆は間に合わなかった。今、生きてるのは、動いてるのは、わたしの力があるから…」
余りにもおかしな夜だった。
アレだけ約束したのに眠ってしまうなんて
こんなに叫んでいるのに、誰も起きてこないなんて
アルフレド「そんなの…信じられないよ。みんな、寝てるだけで。それに蘇生魔法だってあるし」
あの時の戦いで全員が死んでいた。
そんなの考えたくもない話だった。
でも、どうにかなると信じて、アルフレドは訴える。
だけど長い銀の髪が揺れる。
ユーノ「もう、わたしの力で生きてる。わたしのメビウス様の力で生かされている」
アルフレド「そんな…。でも…、だったら」
やはり銀色の、プラチナ色の髪が靡く。
キラキラと靡く。
それは大きな満月が再び照らしたから
そして照らされたユーノは柔らかく笑っていた。
ユーノ「でも、大丈夫」
アルフレド「え…、大丈夫…って」
柔らかいが不気味な影に勇者はたじろぐが
闇のメビウスの力を孕む少女は、慈愛さえ孕んでいた。
ユーノ「わたしとユーリが一つになれば、光も闇も、金も白金も同じになる。そしたらアンデッドとか関係なく、一つの力で生きてることになる」
アルフレドの空色の瞳が揺れる。
心の奥底から、汚くも激しい炎が昇っていく。
アルフレド「駄目だ。あの男のとこに戻っちゃ駄目だ。折角、…取り戻せたのに」
アルフレドの気持ちがどす黒く染まる。
例えば、ユーノさえ生きてくれていれば、とか。
ユーノが生きていたら、みんなアンデッドとして生きられる、とか。
でも、本人は気付かない。
だから、地雷を踏んでしまう。
もしかしたら、今までも画面を凝視していたら、散らばった地雷の数くらいは見えていたかもしれない。
だけど、今の彼には見えなかった。
ユーノ「何…言ってるの。ユーリは私と同じ。女の子だよ?」
アルフレド「え…?でも、王子って。僕の前に現れたし」
ユーノ「それはユーリが魔王軍を騙す為についた嘘。ユーリはずっと…、世界のことを。わたしのことを案じてくれてた。わたしと同じなのに…。わたしよりもずっとわたしのことを考えてくれてた」
皆目見当がつかないとはまさにこのこと。
ハトが豆鉄砲を喰らう顔とは、今のアルフレドの顔のこと。
それさえも地雷だった。
ユーノ「本当はね。戦う必要なんてなかったんだよ?わたしとユーリが一つになれば、二人で一緒に消えれば、人間も魔物も戦う必要なんてなかった」
アルフレド「そんなこと言われたって」
ユーノ「アナタは戦い続けた。そして来てしまった。だからわたしがあぁするしかなかった。でも、ちゃんとやるから。そしたら、ハーレムだっけ。全部、うまくいくから」
そう言ったユーノは消えてしまいそうな笑顔で
そんな笑顔で消えればなんて言うから
アルフレド「駄目だ。ユーノ。消えちゃ…駄目だ。行かないで」
情けない顔を晒すことになる。
アルフレドには、自分にはユーノが必要だと再確認して手を伸ばす。
でも、届かない——
ユーノ「うん。行かないよ」
なんてことにはならない。
少女は幼馴染の手を取って、そのまま歩きだした。
アルフレド「え…」
そしてさも当然と言う顔で溜め息を吐いた。
ユーノ「だってわたしがいなくなったら、みんな、動かなくなっちゃう。だから、途中までは一緒に…行く。でも、その時が来たら、アルはアルの道を歩いて。魔王は良くない人だから倒していいけど、そこから先は…、わたしの仕事。そして」
くるりと周り、笑顔で言う。
ユーノ「みんな、元通り。争いのない世界でアルたちは幸せになる。ね?」
アルフレド「魔王を倒して…、その後元元通り…」
勇者の顔は歪に笑っていた。
▲
今回ばかりは魔人レイしか見ていない。
どのタイミングであの状態になったのか、動かなくなったカギッコホネッコは答えてくれない。
勇者達はムービーに気付いただろうか。
少なくともアルフレドとユーノは見ている。
あの演出を考えれば、今までのムービー後を考えれば、死んでいたかもしれないヒロインたちは見る術も聞く術も持っていないから、気づいていない。
そして一見すると、まだ選択肢が残っている。
でも、今はハッキリ言える。
「ユーノルート、クライマックスの始まりだ。アルフレドの心は決まっている。何かをしなければ、これから先のムービーに乗っかって、ユーノを守る為にユーリと戦う。それまでにハーレムルートの隠された設定を探さないと」
レイは改めて戦う覚悟を固める。
ただ一つ、彼には気になることがあった。
世界を救うことと関係あるかは分からないのだけれど
「ジェッピー君の最後の言葉。俺、なんか忘れてない?」




