魔王軍はユーリとユーノについて調べる
天女の透水晶
この言葉そのものは、実はまだ作中で登場していない。
天女のクリスタルという言葉がギリギリ出たかもくらいだ。
漢字とフリガナは、ユーノルートのラストでやっと登場する。
さて、ここは魔王の間だ。
「ゲームはまだ終わっていない。それってどういう意味だ」
「喋ってないで、ドラグノフの回復を急がせろ‼儂の命がかかっておるのだぞ」
「どの世界線でも情けない姿だけど、今回は余計にそう見えるな」
「今回はとはどういう意味じゃ。儂は生まれた時から魔王じゃろうが」
元気な魔王の姿はDLC前の一回目にしか見れないから、途方もなく昔の話。
ただ、新島礼の記憶では数年前くらいだ。
因みにゲーム世界というのは、アズモデたちにはすんなり受け入れられていた。
基本的に厨二病性格なキャラ達のせいか、それともファンタジーだからか
案外行ける。
「神のゲーム。終われば初めから。その繰り返し、途中の歯車がボクたち。繰り返されるボクはボクと呼んでいいのか」
「喋ってないで回復魔法を使いなさいよ。アタシは攻撃魔法しかないし、ゼノスはスキルばっかだし。あ、そうだ。ゼノス。ドラグノフの赤の剣で斬られなさいよ」
「なんでだよ‼つーかよ。ユーリ王子はどこ行ったんだよ、魔王」
「…神の祭壇じゃ。普段はそこにおる」
「神の祭壇ってどこだよ。アズモデは知らねぇのか?」
金の悪魔貴公子は肩を竦めて、王を睨む。
それに応える余裕もなく、王はしきりに魔王軍通信で誰かに語り掛けている。
きっと反応がない。ないからあんなにも狼狽えている。
魔王軍で一番偉い人がそんな調子だから、皆のベクトルはグルグルと回って、
「レイ。君はユーリ王子について知ってる風だったけれど?」
「…その話の前に。MKBをここに呼ぼう。ゲームが終わってるなら彼女達は役目を終わってるし、終わってないにしてたら、何かを知っているはずだし」
「意味が分からないけど、ドラグノフの回復は最適ね。三人を呼びましょう。勇者はエクレアに向かったみたいだし」
そして研究施設の三人が集まって、ドラグノフの復活が成立した。
未だ何処かに話し続ける誰かを余所に、少しの落ち着きを取り戻した魔王軍幹部たちも、遂にその単語を口にする。
「レイ。ユーリ王子はヘルガヌス陛下の子ではないと言ってたけど、そろそろ教えてくれるかい?君の知っていることを」
「…分かった。言えば現実になるから詳しく話すのは怖かった。けど、ジリ貧だし、もういいか」
「アズモデから一応聞いたけど、まるで意味不明ね」
「私たちってあの部屋にいなくていいってほんと?」
「それよりこの不気味さを何とかしてよぉ。ユーリ王子って結局、誰?」
勇者たちがロの字で賑やかだった。
こっちはマシかと言えば、そうでもない。
マロカロボロにはまだ戦う可能性は残っているが、その条件なら魔王ヘルガヌスも当てはまる。
最強ドラグノフがやられたのだから、作戦会議を開くのが自然だ。
「途中の世界の意志で、アタシが言った天女のクリスタル…、でもあれは銀色の、いえ透明だった人間の女。だけど見た目は瓜二つだから…」
「その前にユーリ王子よ。ヘルガヌスの子でないなら、誰の子だというのよ」
人間に魔物の区別がつかないように、魔物には人間の区別がつかない。
他種族は同じに見える現象だが、それでも二人の外見は同じだと分かる。
それほどに、二人は全く同じ見た目だった。
でも、忘れてはならない。
マロカロボロを連れてきた本当の理由は、彼女達の記憶ではない。
同じく、まだ戦うかもしれない魔王軍の戦士がもう一人、いやもう一台。
「さっきから言ってるけど、俺のはただの考察だよ。んで、…アレは完成しているんだろう?」
「当然でしょう?」
「この日の為に仕上げたんだから」
「でも、なんでカギッコホネッコ?」
「反則ななんて言わせないぞ、カギッコホネッコ!お前はありとあらゆるデータを記録していた。それこそ魔物が現れる前からな。配合を間違えるとスラドンになってしまう。つまり、3歳かそこらの俺のデータは残っていたんだろ?そうじゃないにしても」
ここから離れたのとアルフレドが離れたのは同じ日。
だったら、当時の主要キャラのデータは記録されている。
勿論、デスモンドでぐしゃぐしゃにされた後に再計算された可能性もあったが、
「ヘルガヌスの子、ユーリのデータがないってのは変だよな?あるんだったら教えてくれ」
レイの質問自体は全員の興味を引くものだった。
父親であるヘルガヌス自身も多い気になる。
ガガ…ゴトゴト…
「データベース…ナイニ…ユーリフォルダ確認…」
機械音の正体はさて置き、内容に期待が高まる。
ユーリはやはり存在している。
分かりきったことだが、ユーリはデータに入っていて
「ステータスとか、遺伝子情報とかは?」
「フォルダナイニ…ログヲ発見…」
「ログ?そこにステータスが書いてあるでしょ?確か、その数値に合わせて配合を」
ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…
カギッコホネッコは城の設備と融合したことで、研究施設よりも大きくなっている。
開発当時はアルフレドとリディアの両親も、開発の当事者だったのだ。
より多くのデータがそこには残っている。
だが、
「フォルダナイニ…エラーログ…多数…。エラー番号ハ10101…。測定フノウ…解析フノウ…配合フノウ…。因って魔物化ニハ適サズ」
カギッコホネッコの独特の人工音声が、一斉に溜め息が漏れさせた。
しかもご丁寧に魔物ではない理由まで分かってしまう。
これにはヘルガヌスも大喜び
「何も分かぬということは、儂の息子かもしれぬということ。そうかそうか。魔物化は無理じゃったか」
「実験開始当初ならそれでも魔物にさせたでしょうけど」
「その後はカギッコホネッコの言う通りにしかしてないしね」
マロカロボロも、アズモデも肩を竦めた。
だが魔人は諦めない。いや、そのデータに満足していた。
「なら、次。そのデータベースで別の…、えっと一年前までに限定して検索できるか?」
「容易イコトデス」
「おい。次は何の粗探しだ。儂のユーリは」
「ユーリのことじゃないからいいだろ。その条件で、——ユーノという人物を探してくれ」
「ユーノってあの銀髪の。ドラグノフの動きを封じる力は確かに脅威だけど、一年前までだと」
ガガ…
カギッコホネッコは殆どドライブにアクセスすることがない。
そもそも、この冒険は一年もかかっていない。
だとすれば
「データベースニハアリマセン」
「当然だよねぇ。エルザの強襲の時に勇者の代わりに連れ去ったんだよね?」
「アタシの指示じゃないし。アレは陛下と殿下が勝手に」
「勝手とは無礼な。ユーリの崇高な考えに決まっている!」
やはり突飛な情報、未知の朗報は検出できない。
だが、魔人は真剣な表情で続ける。
「んで、カギッコホネッコ。お前の目から見て、ユーノとユーリはどう見える?」
「レイ。君ねぇ」
「いいから。ホネッコ、頼む!」
ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…ガガ…ゴトゴト…
「ちょっと、なんか変なんだけどー」
「頼む。教えてくれ」
ガガガガゴゴガガガ
ブォォォォォォォォ
「不味いわよ。今の私たちには作り直せないんだから」
「遺伝子とか内部データとか、魔力とかステータスとか、そういうんじゃなくて」
バボボボボボ…
ヒュィィィィィィ
「確かに似てるけど!カギッコホネッコ、無理しちゃ駄目」
「頼む!お前の主観でいいんだ!」
カギッコホネッコにそんな機能があったのか、機械の体が輝く。
ファンに中枢回路、ケース表面が波を打つように虹色に光りだした。
確かに爆発一歩手前に見えなくもないが…
その高速演算が思わぬ結果…、かはさて置き。
皆が息を呑む結果を導き出した。
「ユーリ…ユーノ。二人ハ同一人物デス」
「え…?」
「いやいやいや。何言ってんの?ユーノって子は私たちにも見えてたし」
「ユーリ王子のことだって、アズモデとエルザから聞いたから」
「俺からも聞いただろ‼」
「っていうか、一年前までのユーリ王子のデータはあるんでしょうね」
「いや、俺からも聞いただろに答えろ‼」
「一年前マデ…。データベース…ニ存在…シマス。ゼノスサマカラノゴシツモン…、『俺からも聞いただろ』デスガ…、マロンサマカロンサマボロンサマ…ハ…ゼノスサマヘ…キイテオリマセン」
「ほら。生まれも育ちも違うし」
「ほう、俺の質問にもちゃんと答えてくれる優秀なマシンだな。…て‼俺は聞かれてなかったのかよっ‼」
その後も暫くゼノスを中心に騒がしかったが、落ち着いた頃にはカギッコホネッコの機械音も収まっていた。
すると今度は別の部位が熱を持つ。
熱と共に色を持つ光が出て、ドラグノフとの死闘を映し出していた壁に、二人のシルエットが浮かび上がった。
「前提条件ガアリマス。ワタシニハ二人ノ解析ガデキマセン。アクマデワタシの主観。外見デノ一致率ノ話…デス」
そして漸く本編が進む。
と言っても、今まで繰り返してきた内容に過ぎない。
「ふぅん。そういうことか。つまり似てるって比じゃないと」
「双子…ってことかしら。ユーリとユーノは同じ日に同じ両親から生まれた…」
「引き剥がされたのだな。きっと環境が悪かったのだろう。貴様らが魔物を量産していたからだ」
「ちょっと待てって。話を最後まで聞くぞ。双生児ってことでいいのか?」
ユーノとユーリ。
その二人は対の存在。
クリアしたプレイヤーなら知っている。
だが、誕生秘話までは語られない。
そこにヒントがあるかもしれないから、二人のことをもっと知りたかった。
「身長、体重、額長、瞳孔間距離、歯列、顎長、鎖骨長、胸囲諸々。性別、指紋、足ノサイズ。コレラ全テ一致。二卵性デモ、一卵性双生児デモ不可能ナ一致率。——即チ、同一人物以外ニ考エラレマセン」
「え…?」
「今、性別も入ってなかった?」
「王子じゃなかった…のか。なんと惜しいことを」
「ゼノスは黙れ。大体、そんなとこまで確認できないだろ」
とは言え、王子が女であるというのは考察の通りだ。
初登場からずっと言われている二人の違い。
着ている服が女物だから、というよりユーリは一貫して薄着なのだ。
一時期流行った多様性を捨てたのは、DLC前の八人目が無かったことになったことから分かる。
ということで、流石に十七歳ともなれば、体付きが変わってくる。
勿論、別の意見もあるだろう。ゲームだからどうとでもなる、と言えなくもない。
だけど、ここはリアル。みんな、生きている。
そこでこんな一致率を引き出すとしたら——
「やっぱり二人は…、ただの人間じゃないんだよ。噂通り、神の器として世界に光臨したんだ」
「それが天女の透水晶と呼ばれる存在…」
「確かにボクたちとは全然違うしね。測定不能も意味が分からないし。…で、それが何になるんだい?」
遂に辿り着いた二人の秘密
「え?いや…、二人は普通じゃなくて」
「普通じゃねぇのは最初からお前がずっと言ってんだろ」
だが、レイは両肩を跳ね上げた。
「だ、だから。二人は神に等しい力を持ってて」
「我が敗れたのでござる。我らよりもずっと神に近い力を持っているのは自明。次、どうやって戦えばよいのか」
「ユーリ王子もだね。正直、男とか女とかどうでもいいし。ヘルガヌスの子供か否かも関係ない。…金色に染まったアレには勝てる気がしなかったよ。で、妙案はあるのかい?」
そう、単に噂の確認をしたに過ぎない。
ユーノルートを進む限り、蚊帳の外でしかないのだし。
解明してスッキリ!とは程遠い。
「ねぇ、カギッコホネッコ。アイツらの弱点とかないわけ?」
そして蒼褪める魔人をさて置いて、MKBの誰かが機会に問うた。
「データハアリマセン…。コノフタリハ…コピーアンドペースト…ノヨウデス…。ソレ以外ハ…」
「え?コピーアンドペーストって…」
答えではなかったが、魔人は軽く目を剥いた。
ここはリアル。みんな、生きている。
だけど、ゲームだからどうとでもなる。
そもそもこの世界ってさ——
「カギッコホネッコ、もう一つ質問だ」
ユーノとユーリの特徴を
ユーリとユーノとの戦い方を聞くのではない。
プレイヤーって、もっともっと
メタくっていいよな
「ドラステ、最新、DLC、ハーレムルート、攻略方法で質問、——いや、検索してくれ」




