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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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負けイベントはメンバー加入の予兆

          ▲


 ズッッッッドン!


 金属よりも硬そうな床材が割れ、弾かれた勇者はズザザと靴底を摩耗させた。


アルフレド「何なんだ、こいつ‼全然、歯が立たない。刃も…」


 ユーノを助ける為に魔王城に乗り込んだ勇者を待っていたのは、四天王一番手である武神ドラグノフだった。

 5mを越える巨人ながら、動きも目で追うのがやっと。

 四本の腕から打ち下ろされる、様々な効果を持つ怪刀。


フィーネ「魔法も弾かれる…。どうなってるの?」


 光の女神メビウスに導かれ、勇者と共に魔王の城に潜った。

 敵の本拠地であり、本丸であり、最後の戦いの場所でもある。


マリア「こいつ、回り込めない!後ろにも目があるみたい」


エミリ「みたいじゃなくて、後頭部に目があるんだよ。あたしと目が合った。マジものの化け物って感じ」


 ドンッッ‼‼


アルフレド「キラリ‼」


 手応えなんてレベルではない強度、俊敏さなんて言葉で表せない瞬歩。

 疲労困憊の勇者の脇を巨人が通り過ぎた。


ドラグノフ「そのようなガラクタで我を測るな」


 スコープを構えた少女が吹き飛ばされた。

 打ちどころが悪かったのだろう、壁にめり込んだ彼女はビクンと痙攣した後、とめどない量の血を吹き出した。


アルフレド「キラリ…?え?え?」


ドラグノフ「貴様もだ。裏切り者め」


 巨体が故に手を伸ばせば、長い刀が届く。

 他の仲間、彼にとっても勇者にとっても仲間——


サラ「待って、私はただ」


アルフレド「サラ‼」


 余りにも一方的すぎて、呆気ない悲劇だった。

 これくらいのピンチを乗り越えられる。

 そう思っていたのに一人、また一人と仲間達が倒れていく。

 

ドラグノフ「伝説の勇者とはこの程度か。女を侍られせ、英雄にでもなったつもりか?」


 勇者の空色の瞳が大きく剥かれる。

 女を侍らせる英雄という言葉が、何故か臓腑を滾らせた。

 癪に障った?それとも——


アルフレド「違う…」


ドラグノフ「ほう?違うというのか」


ソフィア「勇者様‼どうかお逃げ下さい‼ぐ…は…」


アルフレド「ソフィアぁ‼き、貴様…」


ドラグノフ「この子らがここに来たのはお前を慕っての自らの意志、違ったか?」


 怪人はそう言いながら修道女を斬りつける。

 次の標的を探すように後頭部の瞳がぎょろりと動く。


アイザ「勇者…たま…。ひゃ…」


ドラグノフ「幼女とて、それは同じ。半魔だけでなく子供、そして姫。正にハーレムだなぁ」


アルフレド「違う違う違う!僕はユーノを助けに来た!ハーレムなんかじゃない!!」


リディア「く…、ち、近寄るでない。この…」


 血みどろの金髪の女がそこで倒された。

 残るはフィーネ、エミリとマリア


(…そうだった。俺がゲームで見たムービーもこんな感じで、今にして思えばハーレムルートがあるってメタファーになってたのか。今考えるとだけどヒロインを連れてかなかったらどうなるんだ?それぞれに専用ムービーがあったってことか?何にしても、全員揃ってないとハーレム示唆は生じない…って感じだろうな。この後、セーブデータが全消去されるとか、狂ってんだろ)


 奇しくも初期に集まるヒロイン達

 巨人は剣を留めて嘲笑う。


ドラグノフ「何と惨い。何と可哀想に。英雄は色を好むとは貴様ら人間の言葉ではなかったのか?」


アルフレド「僕は英雄なんかじゃない!それに…、そういうんじゃない。皆は僕の大切な仲間だ!!」


 空色髪の彼女の目も見開かれる。

 彼女だけでなく、倒れた仲間たちの眉も僅かに動いた。


アルフレド「皆でユーノを助ける。皆で助かるって決めたんだ」


ドラグノフ「仲良く死ぬ…か。惚れた男の為に英雄たちが」

 

 エミリ、そしてマリアも凶刃の餌食にされる。

 思わず振り返った。勇者は隙を見せたが、巨人はニヤニヤと笑っただけ。


 巨体の下で尻餅をつく、水色髪の賢者。


 賢者はドラステワゴンを背に、幼馴染に助けを求める。


 先ずは視線、そして僅かに唇が動く。


アルフレド「……駄目だ。駄目だよ。逃げちゃ…駄目」


 すると勇者はフィーネの方を見て、茫然と何かを呟いた。

 眉間に皺を深く刻んで、ドラグノフの中心、心臓を真っ直ぐに捉える。


アルフレド「僕は…」


 そして如何にも彼らしく、真っすぐに飛び出した。

 バフは既に切れている。

 それでも全ての力を、全ての命を燃やして、それをエネルギーに変えて


ドラグノフ「哀れだな。貴様では誰も救えぬ。斬る価値もないが——」


 真っ赤なオーラを纏った勇者は、刃を持つ弾丸の様だった。

 とは言え、完全バフでアイテムどっさり、九人がかりで勝てなかった相手だ。


 気持ちとか、闘志とかの前にリーチが違い過ぎた。


 武神ドラグノフは、まるで飛んでくるハエを掴まえるように二本の刃で勇者を摘まみとる…


???「止めるのです」


 その時、凛とした声が響いた。


ドラグノフ「な…に…?」


 ただの声ではない。

 それは巨人にして武神の動きを止める力を持っていた。


アルフレド「喰らえ、雷神撃突破(ソールブレイド)‼」


 でも勇者は止まらないから、彼が得意とする刺突スキルがドラグノフの左胸を穿った。

 全エネルギーを使って、殆ど閉じそうな瞼の勇者。

 だが、 崩れ落ちる巨人、その背後に現れた少女に、重い瞼が持ち上がる。


アルフレド「ユー……ノ?」


 巨人が屈んだ程度で見えたのは、彼女が車に上に立っていたから。

 膝下まで伸びた長い髪、全身を覆い隠すロングコート。


 だが、幼馴染は声を詰まらせた。


ユーノ「…うん。久しぶり、アル」


アルフレド「やっぱりユーリじゃない。その声はユーノ‼でも、どうして」


 そう、声も仕草も長い髪も服装も、シルエットはユーノのソレ。

 だが、完全に異なる部位が存在する。形ではなく、色。

 透明に近い白だった髪は銀色に染まり、白兎の様だった瞳の虹彩は鈍色に輝く。


ユーノ「説明は後…。戦いは終わってない。皆を回復する」


アルフレド「分かった。ユーノは車の裏に隠れてて。僕がみんなを…」


 回復する力が残っているかは怪しい。

 なんて心で考えた時、勇者は再び目を剥いた。


アルフレド「ユーノ?どう…して」


 白銀の髪が強風にあおられた様に靡く。

 その風は唖然とするほど力を帯び、息をするのも憚られるほど輝いていた。

 ユーノはレベル0…だった筈なのに、


フィーネ「ん…」


エミリ「あれ…、あたし」


 神々しすぎる癒しの風で、仲間たちが蘇る。

 眩しすぎて、もしくは意味が分からなくて、アルフレドは呆然と立ち尽くす。


 その時——


ドラグノフ「イツマゾク…」


 ステーションワゴンで膝を折っていた大男の姿が消えた。

 しまったと思う前に、勇者はドラグノフの血の臭いに気が付いた。

 魔物たちが使う瞬間移動魔法が、今回はたった10数m移動したに過ぎなかったらしい。


アルフレド「まだ動けたのか」


ユーノ「ドラグノフにはもう一つ心臓がある。でも、一つを潰せたのは大きい」


 四本の内、二本の腕がだらりと垂れ、ここからでは見えないが後頭部の瞳も閉じている。

 だがその形相は鬼以上、鬼神の如く、三白眼で銀髪の少女を睨みつけていた。


ドラグノフ「殿下が連れた客人。…貴様、どうやって我の背後に回り込んだ」


ユーノ「それ…は…」


          ▲


 神・設定資料集には描かれていない。

 ヒロインの定義は決められていない。

 だとしても、ドラステワゴンというゲームのヒロインは救いを求めるだけの少女ではない。


「九番目のヒロインと呼ばれる限り、必ず仲間になる。共に戦う仲間として登場する。それにしても、カギッコホネッコ端末のお陰で全員が見れたのか…」


 茫然と一人、無表情で止まってではない。

 そもそも、カギッコホネッコは巨大エントランスホールをずっと映していた。


 この状況を理解していたのは、ムービーを知っていたレイだけ。


「負け…イベントだって?」

「アイザも回復してる…。…良かった…と言っていいのか分からないけど」

「信じられん…。が、あの銀髪の女…、凄まじい魔女だったのか」


 そしてこれは賭けでも何でもない。


「回復魔法ならそれくらい治るだろ。それにこれがムービーの力なんだよ。秘密の塔の戦いで俺が、魔人レイがそうだっただろ?」


 自ら経験済みだから、絶対に蘇るという確信があった。

 何なら実はもう一人、心当たりがあったらしい。


「アタシも…?アンタはソレを使ってアタシを蘇えらせた…」

「あ…。そんなこともあったっけ。まぁ、これが所謂、世界の意志って奴だ」

「世界の…意志?そうは言っても」


 アイザの体は千切れ、真っ赤に染まり、どこがどこかも分からなかったのだ。

 女悪魔の膝はまだ震えていた。

 それくらい常軌を逸した光景だった。


「世界の意志だからこうなる。その前にユーリを確保したかったんだ。だからアルにはもう少し粘って欲しかった。終わったものは仕方ないけど」


 さもありなん、と冷静に眺める人間、いや魔人に恐怖さえ覚える。

 とは言え、最も驚嘆したのは傀儡だった彼だった。


「ど、ど、ど、どういうことじゃ。どうして蘇る…。ユーリ、あの女はお前が連れた重要な客人ではなかったのか?」

「ん?儀式で忙しかったぼくに言われても。ねぇ、魔人レイ?」


 すると魔人の長い犬歯が禍々しく青く光った。

 口を閉じられないから、穢れた涎がやっぱり伝い、吐き気を催す悪臭を放つ。


「気安く呼ぶな。そうなるように仕向けたのはお前だ。…そうか。お前が魔王の間、玉座に突然現れたのは、玉座の前がセーブポイントだと知っていたからか」


 その言葉を待っていたのだろうか、若しくは偶然か

 眩い光が魔王の間に射しこんだ。


「さぁ…。そんなの教えない。だって世界の意志の方もネタバレ避けてたし」

「ユーリとユーノは対の存在。ユーノがそうだったようにレベル0で生まれた…」


 吟遊詩人がいれば、この場にいた事を歓喜しただろう。

 現実主義の冷めた人間が見れば、埃が乱反射しただけだ、と肩を竦めるかもしれない。

 太陽の光が魔王の間の天井、即ち女神を描いたステンドグラスにぶつかると、その光の線がキラキラと導線を描いた。


 因みに、ここはファンタジー要素が勝つ世界。

 埃なんて言う奴は一人もいない。


 そして一人の演者にスポットライトが当たる。


「成程ね。ユーノが先に終わった理由が分かったよ。ぼくが外に出ないと完成しなかったみたい」

「知っていたくせに。お前さえ抑えれば世界は守られるんだ…、くそ!魔王の魔力が思いの外強い。ヘルガヌス、コイツを今直ぐ解いてくれ!!」


 今更だが、ユーリがいなくなればユーノルートのエンディングを避けられる。

 だが、ヘルガヌスもドラゴニアの血を継ぐ者だった。

 振り注ぐ黄金に目を奪われる。


「ソイツはお前の息子じゃない。全部、ユーリの筋書き通りなんだよ!勇者たちは蘇り、魔王を倒しに来る…。そしてお前は…」


 膝下まで伸びた髪の先まで金に染まる。

 長くて多い黄金の睫毛がアンバーを思わせる瞳を半分隠す。


 そして薄桃色の口角が柔らかく弓のカタチに歪んだ。


 魔人の一つしかない心臓に、見えない何かが突き刺さる。

 自分で何度も答えを言っている。

 魔王は傀儡で、誰の言うことを聞いていたのか。

 ただ運が悪くて、タイミングが悪くて動けないのではない。

 

「そんな目で見ないでよ。これでも目一杯の譲歩なんだから」

「何処がだよ!さっきの見ただろ。ハーレムを作っても、アルはユーノの事しか考えていない。それに」


 ドゥン!!


 魔人の視界いっぱいに琥珀が広がった。

 同時に全身が燃えるように熱くなる。

 いや、本当に突き刺さった茨、草花が燃えた。

 ユウリが近づいただけで、圧倒的な力の存在に触れそうになっただけで、それらはらを燃やして消えた。


「う…」


 ユーノと対の存在は伊達じゃない。

 あのドラグノフを魔力のみで抑える存在。

 ただのドラグノフではない。

 イベント前で、絶対に倒されない巨人を銀髪のユーノは触れることなく、言霊のみで止めた。

 魔人レイが、そのドラグノフより強いわけもなく、

 レイはこの世界線で、初めて死を意識した。


 けれど何秒待っても死が訪れることはなかった。

 琥珀色の瞳が薄くなり、その代わりに黄金の睫毛がカーテンのように視界を埋めた。


 そこで


 本当に本当に、


 小さく囁かれた…


「ねぇ、(きみ)くん。君は本当にこの世界(ドラステ)を愛しているの?」

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