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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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クライマックス前、考察

 ひと先ずの脅威は去った。

 シナリオはそのまま続行する。


「その半魔ってやつ…?アイツを仲間にするって正気なの?」

「半魔がどうしたと言うんですの‼サラはわたくしの乳母…。いえ、わたくしをここまで育ててくださった大切なお母様です‼」


 制作会社の都合で一気に二人もヒロインが加入する。

 追加されたヒロイン二人の一人がやっと参加する。


 そして魔王軍所属の彼女だが、これは可哀そうと言うしかない。


「勇者…?魔王様の敵…。お前のせいで…、いえ。貴方のお陰で…?あぁ、頭の中がごちゃごちゃ…。胸が苦し…い」

「サラ‼もう大丈夫だからね、サラ‼…あなた達。メビウス様の加護を受けたのはわたくしも同じ。そのような目は不敬です」

「不敬も何も…。ドラゴニア王国は影も形も残っていないし」

「その匂い。あなたも半魔ですわね。でしたら変わらない筈です。魔王軍に所属していようが、いまいが」

「いやいや。僕とは全然違うよ。さっきだってどこからかアークデーモンを呼んでたし」

「結構強かったもん。あんなのに背中から襲われたら太刀打ちできないよ」


 彼女の伯父が魔王だが、両親を殺したのも同じく魔王。

 いや、アレはどう考えてもアズモデの仕業——


 いやいや。

 サラの生い立ちに関係なく、自分の気持ちにも関係ない。


 今まで感じたことのない、——異性が胸を打つ。


「勇者…様。伯父を、魔王を止めてください。魔王はデスキャッスルの中に居ます‼」


 リディアを入れて、既に七人のヒロインが揃い踏みしている。

 その中で最も異端、最も接点がない半魔は


「え、えと…。これってまさか」

「はい!私は勇者様に一目惚れをいたしました‼魔王軍なんて知りません。滅んでくれて結構です‼」


 堂々と魔王軍を裏切った。

 信じるか信じないかで言えば、傾向と対策から信じるしかないが、気持ち悪さはある。

 だが、勇者は次の言葉に目を剥いた。


「証拠に案内をします。というより気持ちに嘘は吐けません。魔王ヘルガヌスへの道をこの私、魔王軍幹部のサラが切り開きます」


 そう。ここであっさりとネタがバレる。

 好感度マックス、一瞬で埋め込まれた恋心はもう止まらない。


 リディアに情が移っていたとか、そんな事実が掻き消えるほどに、新ヒロインは恋する乙女なのだ。


「えっと…。伝承ではオーブを集めなければならないと」


 全員がマックス過ぎて、少々後れを取りがちな修道女は言う。

 DLC以前と同じく、リディア姫との好感度イベントが大量発生するエステリア大陸の話。


 でも、そんなの関係ない。そもそも、DLC後は封印されていないという事実を抜きにしても——


「封印なんてイツマゾクで簡単に突破できます!勇者様、特攻隊長はサラにお任せを」


     ◇


 俺は…


 俺は何をしていた?


 今まで、ここで何を調べていた?


 魔物になったことでステータスが上昇した。


 ヒロインたちのように、賢さだって上がっていたに違いない。


「だから物心がつく以前の、それこそ記憶が芽吹く前の情報を引っ張り出して、サラのことを思い出していた。アズモデ、エルザ。魔物化した時期の記憶は持ってないのか」


 沈みゆく夕日に逆らうように、牙が青く輝く。

 その方向にはまだ勇者たちがいるのだが、魔人はその場で頭を抱えていた。


「そう言われてもねぇ。魔物化すると記憶が失われるんだよ」

「私は覚えてるけど、雑用係みたいなものだしね。っていうか、その辺はアズモデとマロン様たちの仕事でしょう?」

「勿論努力はしたさ。あらゆる記録を読み解いてね。だけど——」

「っていうか、レイ。何故、俺に聞かない。ロータスの民は昔のこともよく覚えている。そもそも俺は」


 神・設定資料集にも描かれる記憶の有無の話。

 全てが分かったわけではないが、ザパン、別名ロータスの血族は記憶が残っている確率が高いらしい。

 レイモンドの半分はロータスの血で、父親のアーモンドはとある秘薬の開発の関係者だった。

 だからレイモンドは魔物化しても記憶が残っているのではないか…、と書かれていた。


「金髪の綺麗な女の人についていった…」

「あぁ、その通りだ。俺の目に狂いはなかった。彼女こそ、歌姫の長女マロン様だったのだからなぁ。そしてまだあるぞ。かつてロータスの地があった場所で愛らしい姫を見つけて、彼女の行動を観察して…」

「考えられる可能性は一つだよ。ユーリ王子が重要な書物を隠した…」

「そうでしょうね。本を読みまくっていたアズモデが知らないとなると」

「って、待て‼俺様の話を聞け‼あぁ、アイザ様。あれだけ毎日のように観察していた俺を無視して…、あんなヒョロガリのところに…」

「というわけだから、さ」


 四天王最後の一人ドラグノフとまだ会っていない。

 場所がギリギリ過ぎたのと、きっちり勇者に二人のヒロインを連れて行かせるのとで、合流できていない。

 そんな中でのムービー中の魔人レイの発言だった。


「思い出せ。俺が知っていることを思い出せ…」

「レイ!それ以上は駄目よ」


 必死に自分の脇腹に剣を刺し、その刺激でレイモード。

 だから何度も青く犬歯が煌めいている。


 少しでも、あのムービーで現れた魔人を引き出す為


「あぁ、そういえば。姫様がお転びになった時に手を差し伸べたこともあった。あの時の小さな手…。あの手で握られたらどんな…」

「ゼノスは何を言ってるの‼それ以上はグーが出るわよ。だいたい、アイザは幼かったから、完璧忘れてるわよ」

「な…、エルザは知らんのだ。俺様は」


 灰色髪の竜人は目を剥いた。

 その近くでもう一人、同時に目を見開いた。


「…忘れて…る。いや、そうかな」

「ほら見ろ。レイもあぁ言ってる。幼き日のアイザ姫は今と変わらず愛らしく」

「そうだ。アイザは可愛いから…って‼いやいや、そっちじゃないから。アイザは人間だし、見た目と喋り方はさておき、年齢はアルフレドと同じで生まれたばかりか生まれる前かだし。…んで、三歳当時人間だった俺の、俺は現時点で魔物になった。記憶はそのまま、それ以上の筈」

「何を言いたいんだい?確かにボクは忘れているけれど、君がいなくなったのだって、似たようなものだろう?」


 ゼノスの思い出話が雑音だが、会話のテンポは記憶の引き出し(メモリドロワー)に欠かせない。

 似た境遇の銀髪男たちは、異口同音にアズモデとの違いを訴えた。


「お前とは全然違う。俺たちは記憶を失っていないんだ」

「あぁ。子供の頃からずっと見てたんだからな」

「二人して何なのよ。子供の頃の記憶ならアタシも持ってるんだけど」

「魔人になって賢さが増したとて、賢くなったボクのその後の研究が負けるとは思えないけど」

「研究…だと?研究なら」

「どうして話に混ざってるのか分からないけど、ゼノスは黙ってて」


 いつの間にか日は沈んでいた。

 勇者たちはネクタに戻って、明日の早朝からデスキャッスルに向かうのだろうか。

 魔王討伐と幼馴染の救出がかかった戦いだから、しっかりと眠っていることだろう。

 だが、夜目が利く魔物たちは語らいを続ける。

 歌姫たちは準備をしているから、ここにはいない。

 三天王と、出世魚なみの昇格を果たした魔人の四人で話し合う。


「なぜ黙る必要がある。俺はガキの頃からアイザ姫を見続けてきたんだ。そういうことだろう、レイよ」

「あぁ、そういうことだ。エルザの指摘も尤もだが、今回ばかりはゼノスが正しい」

「えぇぇ⁈そう…なの?レイもアイザのことを昔から…」


 神・設定資料集に書かれていたらこんなことにはならなかったが、満を持して発売されたナラティブ系DLCに書かれている訳がないのだ。


 故に、ゼノスのボケもボケのようで、実は本質をついている。


「レイ…もか。流石だな、レイ」

「だから、そうじゃなくて‼」


 勿論、アイザが焦点になりはしないが、


 レイの言っていることが、その真逆のことを指しているのだとしたら。


「アズモデはさっきこう言った。考えられる可能性は一つ。ユーリ王子が重要な書物を隠した…って」

「そう。流石に魔王の子で、彼は人間で記憶を持っているんだからね。何が重要かを知っていたんだろうねぇ」

「それ、だよ」


 魔人として、膨大な魔力を秘めた指が振られる。

 そしてアズモデとエルザは目を剥いた。

 ゼノスも二人に併せて、ちょっと目を剥くふりをした。


「真逆だったんだ。ゼノスは子供の頃からずっとアイザを見ていたんだろ?」

「あ、あぁ。その通りだ。そしてお前も…」

「そこなんだ。俺が見ていた時期と、ゼノスが見ていた時期は異なる。だってアイザとアルフレドは同い年。しかも…、ユーノも同じ。もっと言えば、対の存在であるユーリも同じ年齢という設定だ」


 そして相応しい言葉が当てはまる。


「確かに時期が異なる…か。俺の方が後からアイザ様を見ていたということになるな」

「そうじゃないでしょ。ユーリ王子とそのユーノって子?同じ年齢だとしたら、レイは生まれたばかりか、生まれる前の二人を見たってことになるの」

「確かに…ね。確かに百聞は一見に如かず。…で、どんな二人だったんだい?サラのことは覚えていたんだろう?」


 尤も、プラスになるかはさて置き。


「いや。だから思い出せないって言ってる」


 二人の興醒め顔が目に浮かぶが、魔人は続けた。


「ユーリ王子が重要な書物を隠すことは不可能。っていうより、存在していないんじゃないかな」

「存在していない…?でも」

「あぁ、だから俺が思い出したいのは、幼少期の記憶なんだけど…。その中にユーリとユーノが居ないって記憶なんだ」

「居ない?覚えていないんじゃなくて?」

「見てもいないんじゃなくて、…かい?」


 ここまで設定だのなんだとの言っておいて、急な方向転換が起きる。

 タイムリミットは迫っているのに、まだ辿り着けない。


 それも仕方がない、かもしれないくらいか。


「あぁ、そうだよ。だっておかしいだろ。ヘルガヌス卿は俺の親父とそれなりに交流があった筈だ。サラを覚えてるのはそれ関係だし。…見ていない訳がない」

「待って。その中にユーリは居なかったの?」

「サラはボクが魔物を増やす為に生まれた産物だったわけだけど。その時の記憶は曖昧だったからねぇ」

「俺が示したいのは、思い出したいのは、ユーリという人間がいなかったという証明だ。でも、これってやっぱり」


 相応しいという言葉というのは即ち、


「成程、いないことを証明する。…悪魔の証明かい?」

「あぁ。ユーノの出自、ユーリの出自。どちらもハッキリ言って分からないんだ。だのに、片や勇者の幼馴染で、片や魔王の子。でも、俺が思うに——」


 東の空が朱色に染まる。


 結局、証明できない話だったのだけれど、ある意味で有意義な話し合いだった。


 そして彼らも向かう。


 最終決戦の場、デスキャッスルに。

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