知らないムービー
——突如、ムービーが始まった。
今回ばかりは知らなくてもソレと気付く。
誰の目からも明白で、誰の口からも意志とは無関係な言葉が紡がれた。
ついでにナレーションのような言葉さえも聞こえた気がした。
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キーン!
金属同士が火花をあげる。
アルフレドの剣、そしてシルバーアークデーモンの魔剣が激しくぶつかる。
何度も互いに剣を打ち付けるも、その実力は拮抗しているように見える。
そこでアルフレドの目と耳と、脳が奇妙な感覚を覚えた。
アルフレド「その太刀筋、身のこなし。それから大袈裟な仕草。どこかで…」
違和感に戸惑った勇者の攻撃が止まり、魔物の剣が打ち放たれる。
アルフレドは盾ではなく剣で受け止めて、いわゆる鍔迫り合いの形となった。
そして両者の顔が間近に迫る。
苦しそうなのはアークデーモンか、勇者アルフレドか。
力が均衡しているが故に、互いの力が強すぎるが故に、空間そのものが振動する。
そのバランスは暫く続くと思われたが、勇者の動きが悪い。
些細なことがきっかけで、あっという間に瓦解する。
ドンッッ‼‼
集中力に欠く勇者の視線の緩みをアークデーモンが捉えたのだ。
剣ではなく、足を使って勇者を吹き飛ばした。
アークデーモン「隙あり…だぞ。戦ってる間に違うことを考えてんじゃあねぇよ」
アルフレド「え…?え?え?」
アークデーモン「それから‼変わってねぇな。その癖、まだ抜けてねぇぞ」
勇者の空色の瞳が大きく剥かれた。
彼だけではなく、空色髪の彼女の目も見開かれた。
肩パットやら、牙やら、肌の色やらいろいろ変わっているが、喋り方と雰囲気は二人の知る彼のモノだった。
他ヒロインは何が起きたのか分かっていないが、彼女であれば——
フィーネ「レイ…なの?」
言葉が無ければ、やはり分からない。だけど…
シルバーアークデーモンは肩を竦め、溜め息交じりに頷いた。
彼だって、どんな顔をすればよいか分からないのだが
魔人レイ「…あぁ」
フィーネ「本当に?でも、どうしてレイが悪魔に…」
魔人レイ「知らねぇ。気付いたら魔物だったんだよ」
一人、取り残された半魔サラを除いて、奇妙奇天烈な操り人形と化す。
加えてもう一人、今の今まで忘れていたアルフレドも操り人形の仮面の裏でハトの豆鉄砲を喰らっているだろうか。
マリア「あ‼もしかしてフェリーに乗ってなかったのって」
エミリ「入る前に居たのに、フェリーには居なかったんだよね」
キラリ「あぁ、あの背の高い…」
ソフィア「てっきりお帰りになられたのかと思っておりましたが」
そういえばもう一人、幼女は首を傾げている。
彼女への説明の前に、空色の髪がバサッと靡いた。
フィーネ「あそこで連れ去られていた…。でも、おかしいわよ。レイは両親を殺されて魔王軍を憎んでいた筈。なのにどうして、私たちの邪魔をするの?」
そう、フィーネの言う通り。
よくよく考えれば、あの時までずっと協力的で、色々とアドバイスを受けていた。
しかも、この語の展開も聞いていた気もしてきたが、口が勝手に動く。
だがその言葉は、豆鉄砲に苦戦する彼の耳に届く。
アルフレド「そう…か、レイか。レイだったらそこを退いてくれ。その女悪魔を倒さないといけないんだ。レイだってお父さんとお母さんを殺されたんだろ‼」
どんな状況だとしても、勇者にとってこれは負けられない戦いである。
構図が分かりやすく、アルフレドの考えを纏めていく。
スタト村の記憶が、彼には都合よく、ムービーだと分かっても気持ちはそのままで、
一緒に旅をしてきた仲間たちも懸命に応援している。
だから
——絶対に負けられない‼
アルフレド「どうしたんだよ、レイ。あれだけ憎んでいただろ!」
中の人の心情はさて置き、魔人レイは肩で笑う。
ただせっかくなんで中の人の考えも聞いておこう。
(それはそう‼アルの言う通り、俺は両親を殺されてる‼しかも理不尽にミンチにされて魔物にされたんだぞ‼ナーフ祭りでひょっとすると気のいい兄ちゃんかもしれないし。…って、そか。俺はこのムービーを知らない。前のレイモンドのつもりで置いて来たからだ。そうだよな。ナーフとかじゃなくて、俺は。いやレイモンド、お前は——)
魔人レイ「アルぅぅぅぅ。魔物はいいぞぉぉぉぉお?」
(…へ?)
アルフレド「なに…言ってんだよ。だってレイは」
中の人も戸惑っているが、下卑た笑みを浮かべたまま。
当時のレイモンドを彷彿とさせる顔で、銀髪青ゲーミング牙男は呆然と立ち尽くしている半魔サラの肩に手を回した。
半魔サラ「な…」
魔人レイ「サラ・ヘルガヌス・ザパン」
魔王軍魔・魔法部隊長サラという肩書きを背負っていたから険しい顔をしていた。
そんな彼女の顔が困惑に染まる。
魔人レイ「うっすら覚えてる。いんや、魔物になって思い出したのかもなぁ」
アルフレド「な、何を言ってるんだ…」
魔人レイ「俺はよぉ。こーんな小さなときに親父とお袋に連れられて、辺境スタトに向かったんだ。まぁ、二歳か三歳か?王族ってのは前に話したと思うが、そん時に見てんだよ」
フィーネ「…その頃の記憶を」
魔人レイ「最後まで言わせろ。じゃなきゃ、話が進まねぇだろ。辺境の美少女サラ。サラ様、俺はデズモア公の息子だ。会った事…あるよなぁ」
半魔サラ「デズモア公の…ご子息…?」
神・設定資料集でも触れられている。
王家の魔物化が始まった時、生まれたばかりのアルフレドは城から逃がされている。
その時、一緒にレイモンドもスタトへ向かった。
三歳差ということは、はっきりとではないがサラを見ている可能性は高い。
そして魔人は邪悪に嗤う。
魔人レイ「サラ様はあの時と変わらず美しい‼」
(…へ?ま、まさかこいつ)
フィーネ「あんた、まさか」
魔人レイ「アル、フィーネ。この体…、さいっこうだぜぇえええええ。だからよぉおおおお」
長い犬歯が禍々しく青く光る。
穢れた涎が伝い、吐き気を催す悪臭を放つ。
魔人レイ「俺は人間を辞めるぞ、アルフレドぉぉおお‼」
(絶対に言うと思った‼お前はもう辞めてんだよ、レイモンド‼でも、そうか。サラは歳をとっていない。子供の頃に見たことがあるから、レイモンドなら魔物が不老の体を手にした人間だって気付ける。超絶、安易な理由だけど、この理由ならコンプライアンスとか気にしなくていいのか)
サラを後方に追いやって、魔人レイが勇者たちの前で超絶久々の悪いポーズで悪い顔で立塞がる。
アルフレド「そんなのレイじゃない。レイ…」
フィーネ「魔物にされておかしくなってるのよ。どうする…?」
アルフレド「僕には時間がない。レイ‼魔物として僕たちの行く手を阻むなら」
魔人レイ「アルフレド。お前も魔物にならねぇか?魔物はいいぞぉ?」
(って、この勧誘‼原田Pと…誰だっけ?脚本の人‼ふざけてんじゃねぇぞ)
アルフレド「断る‼お前はレイなんかじゃない。ただのアークデーモンだ」
魔人レイ「けっ。だったら仕方ねぇ。このまま魔族を滅ぼされたら困るからなぁ」
そして二人の一騎打ちにも似た戦いが始まる。
魔人レイの手にも剣が握られ、勇者の剣と何度も交差する。
先の続き。だから魔人レイはにやり。
だが…
魔人レイ「く…、こいつ…」
勇者に先の迷いはなかった。
勇者として、ユーノを助ける一人の男として、一滴に迷いもなく剣を振るった。
ガンッ‼
そして今度は魔人レイの方が堪らずに弾き飛ばされた。
流石は光の勇者の一撃で、魔人は懸命に足で地面を掴もうとするも、10mは後方にズザザザッと飛ばされる。
魔人レイ「なん…だと?これが選ばれた奴。持ってる奴。光の勇者の力かよ」
アルフレド「違う。それさえも気づけない。だからお前は——」
ソフィア「勇者様!魔物に魂を売った者を救うには。そのまま…」
魔人レイ「俺はなぁ…、…俺はなぁ‼」
アルフレド「フェリーで助けられずにゴメン。でも今度はちゃんと助ける‼このまま…、一気に——」
子供の頃の思い出が少し蘇るが、勇者には別の心も持っていた。
だからアルフレドが止めを刺さんと切りかかる。
魔人はスピードで負けて、勇者の剣をまともに受けた。
その圧で更に後方に飛ばされたが、勇者は逃がすかと追いかける。
そして、その時だった。
秘密の塔の扉がゆっくりと開き、意識朦朧とした少女が姿を現した。
彼女は怯えながらも、ロックが外れていた扉の外に顔をひょこっと出す。
彼女の目に最初に飛び込んだのはサラの背中。
その先にアークデーモンで、更に奥。夥しい殺気を放つ勇者が見えた。
少女「駄目‼サラを殺さないで‼」
アルフレド「え?」
金色の髪、オッドアイの瞳。
ドレスじゃなくとも、高貴な生まれと分かる少女はそのまま走り出した。
勇者が追った先にいるのは魔人レイだから、少女は容易にサラの前に立ちふさがることが出来た。
リディア「サラは悪い魔物じゃないんです‼私のお母さん…なんです‼」
サラ「リディ…ア…」
あのムービーを見ていない勇者たちは何が起きたか分からず戸惑った。
勇者の瞳は変わらず、魔人レイを捉える。
——その直後。
魔人の背中から大きな翼が生えた。
その揚力で飛んでいるというよりは、魔力によって浮いていた。
だが、そんなことはどうでも良かった。
魔人レイ「ちぃ…。そういう関係だったのかよ。まぁ、いい」
レイの中の人が目を剥くことをムービー内の魔人レイはさらりと言った。
アルフレド達もその言葉には同意だし、その場は流される。
そして
後ろで他のヒロインたちの声が聞こえる。
フィーネ「リディア姫ですね。今のはどういうことですか?その悪魔は」
リディア「サラは…。サラは幼い頃から私の世話をしてくれた…母のようなものです。決して悪い悪魔ではありません。それに半魔…と聞いています。彼女は傷つけさせません。相手が例え勇者でも‼」
姫様の表情は真剣そのもの。
そしてサラの顔もリディアが現れた途端に穏やかなモノへと変わっていた。
これは愚問だが、ヒロインたちの興味はそちらに移った。
卑怯者!生き汚い奴! 飛んでないでさっさと降りなさいよ!
なんてセリフは出ない。
ゆっくり逃げていく魔人は、どうしても倒さなければならない敵ではない。
そもそも、何かをされた訳でもない。
だって、センシティブナーフを受けた、ただの兄貴的存在。
それでも中の人は目を剥くのだ。
魔人レイ「ま。アルフレドは勇者らしく魔王城で魔王と戦うんだな」
アルフレド「レイ‼お前はどうするんだ。悪魔として生きる以上、僕とお前は」
魔人レイ「まぁ、そうなるわな。…でも、今日はこれで終いだ。…ちと気になることがあるからな」
立ちはだかるなら戦うが、そこまで恨む対称でもない。
だから勇者もヒロインも誰も追わない。
ただ微かに、アルフレドの耳は独り言を捉えていた。
魔人レイ「魔族のことは大体分かったし、そろそろ問い詰めるべきだな。ユーリ王子の行動を調べてたが…。アイツは人間の癖に何を考えてやがる」
蝙蝠の翼で空を飛ぶ、アズモデやエルザと同じ。
あの魔人はアレらと同じように、空高く飛び去った。
あの魔人の後を追うものは誰一人いない。
——とは言え、
アルフレドは魔人と化したレイと再びまみえる気がしてならなかった。
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