やっと認定された悪魔
「くっ‼このイベントはキャンセル出来ない‼ってか、どうやって終われってんだよ」
前衛のエミリを縛り、シルバーアークデーモンの硬さと物量でサラを守る布陣。
俯瞰してんだと、レイの大作戦完成だが、レイはやっぱり気付いている。
「全体回復魔法‼みんな、頑張って下さい‼」
勇者の女たちの魔法やスキルによる絨毯爆撃の中でも、艶やかな声が通る。
口調だとソフィアのようだが、彼女ではない。
薄らと瞳を金色に輝かせた半魔の女。
彼女にとっても、戦いは想像したものとは違い、本来のサラが出てしまっている。
「あざす‼まだまだいけるっすよぉ。おい、勇者。俺が相手だ。てめぇの力を迎え討ってやる」
「アル。騙されちゃ駄目よ。こいつら、何かを狙ってる」
「分かってる。分かってるけど、早くしないと。リディア姫がいないとユーノを助けられない。こんなことをしている間にも」
戦闘は予想通り長引き、進行も順調。
だけど、大問題を抱えている。
頭も抱えている。
「超大火炎魔法‼みんなも続いて‼」
そんな秘密の塔の前で、烈火の如き勇者達の攻撃が始まる。
「逃げられませんよ!私も本気で行きます‼…『神聖大旋風斬』」
修道女がガラス片入りの清らかな風を送り込む。
これはソフィアの固有スキル。神・設定資料集でも解説されている。
「マリアのこの一撃でぇぇええ‼…スキル・『断頭大蛇』」
会心率50%の強烈なあびせ蹴り。
「まもの爆発兵器‼」
以前であれば、シルバーアークデーモンが消滅していたかもしれない。
だけど、今回はダメージのみ。
黒髪少女の魔物には危険なミサイルはナーフされた。
たった一人のヒーラーが回復するも、流石のデーモンたちの陣形が乱れていく。
「ぐは…。俺はここまで…だ。サラ様をた、頼んだぞ」
狙い通りの持久戦だ。
ただ残念ながら、ドラステDLCも死にゲーではない。
ちゃんとレベルを上げたなら、ちゃんとクリアできる。
サラ部隊に出来るのは時間稼ぎとアイテムの消費くらい。
と、言う所で彼は頭を抱える。
「まだかよ。今、何ターンだよ。…ってか、やっぱ違うのか?」
縋っていた一つの条件が揺らいでいく。
半分以上、それに賭けていたのに一向に訪れない。
最初にも話したが、この戦いでサラを殺してはならない。
一定のターンを持ちこたえるか、もしくは——
「このままじゃ…、もう一個の条件が確定?でも、それってさ」
「うぐ…。レイ…だったか。後は任せた。必ず…」
「おい。待てって。一人ずつくたばるな。お前らにだって矜持はあるんだろ?」
ってかさ。やっぱそっち…だよ…な
サラだけを殺さないって、定番だし?
プレイヤー新島礼がサラを仲間にした時、サラ以外の魔物は倒されていた。
そのやり方は今までの話の通り、とても時間が掛かった。
だから、もしかしたらなんて希望を抱いていたのだけれど。
「悪い。…お前ほど俺達は強く…ない…。もう…意識…が」
レイモンドは三歳くらいでここを離れたから、もしかしたら顔くらいみたことあったかもしれない元人間たちが倒れていく。
順調にシルバーアークデーモンの数が減っていく。
でも、あと1ターンくらい粘りたかった。
だってだってサラ以外を倒すの中にレイも含まれる。
つまり、俺が死ななきゃサラは仲間にならないって…こと
突然飛ばされたし、なんでゲーム世界かも分からないし、死ぬ覚悟なんて出来ていない。
だが、所詮は勇者が勝つイベント。
押され始めた戦況は、今までが燃え尽きる蝋燭だったかのように瓦解していく。
「勇者たまの為…なのら!はぁぁぁああ、紫水晶大破裂魔法‼」
幼女アイザ。前は魔物で今は人間。
それでも魔法系最強キャラに変わりない。
現時点では十分すぎるほどの全体魔法が、人数が減ったサラ隊の中央に投げ込まれる。
そして最大火力の爆発が起きた。
レイの視界が真っ白にそまっていく——
◇
エクレアの街からやや北、ほとんど東にある秘密の塔。
同じ種族の五体の魔物は地に伏して、二人の為だけに宝石交じりの雨が降る。
「サラ、伏せろ‼」
「え⁈」
一番重要なのはサラを殺さないことだ。
アークデーモンは全身を使って肉の壁となった。
モブだから当たり前?
プレイヤーが死ねばゲームの進行は止まるかもしれない。
そう判断する前には、体が動いていた。
クリームイエローの髪が見えなくなるほど、アークデーモンは羽根とマントと大きな背中を使って、部隊長の体を包み込んでいた。
彼女のソレ、半魔特有の金の素子と銀の素子の香りが鼻腔をくすぐる。
この地域特有の土の臭いだったかもしれない。
——あのー、俺っちはなんでついていくんでしたっけ?
俺っち?えっと誰だっけ…
そう言や、俺が感じてるデジャヴの正体って、何なんだろ。
そもそも、俺は何がしたいんだ?
ゲーム内転生で、主人公には転生できなくて……
——ウチは何があってもご主人についていきますよ‼
あと可愛いマスコットが居て…、って何の話だ?
俺の体はもうすぐ尽きるってのに、オリジナルマスコットを俺AIが作成したんだが…
ってか、燃え尽きるからこその走馬灯。いや、走馬灯って——
でも、二人にはちゃんと俺が来た理由を話さないと——
「俺、秘密の塔で勇者に殺される。でも生き返るから…」
いやいや、俺は何を言ってるんだよ。レイモンドが殺されるのはDLC前の設定だ。
これもいつもの既視感、デジャヴってやつで、もはやデジャヴかも分からない。
ただの妄想、ただの夢。だった逃げるか。何にしてもこれで終わり。
俺は何も出来ずに、ここで死ぬ。サラを見捨てて逃げたって、ユーノエンドからは逃げられない。
世界そのものが壊れるんだし。今回は諦めるしか——
ご主人‼ウチは
大丈夫だって。死んでもまたやり直せば
旦那っ‼俺っちは
二人とも落ち着け。本当の主人公はアルフレドだ。
このままクリアしてくれるかもしれないし、俺ら雑魚はやられないと話が進まないし
俺は詰んでるんだって。ここで死ななきゃ…
あれ?俺は誰と話を——
「く…そ…」
考えても分からないし、分かったところで、現在進行形で終わっている。
ずっと前から終わっている。モブとして召喚された瞬間に、死ななければ、滅びなければシナリオが進まない場面が展開されていた。
だって塔の管理者は魔人レイでも、四天王アズモデでもない。
多重にかけられた魔法攻撃が体の裏面の全てを焦がす。
その内側から、デジャヴではない声が、か細く伝わって来る。
「ケイミルテ…ケイミルテ…ケイミルテ…」
秘密の塔の主からの優しさ、かもしれない。
だが今は、ちょっと鬱陶しい。
「もう…、いい。回復してちゃ話が進まない」
「でも‼」
「でもじゃなくて。今回だって結構話した。でも、アルは俺への認識を改めないし、そうできない理由もあるのかもしれないしで、とにかくサラは生きろ。それから——」
翼も服も背中の肌も肉も背骨さえも、ドロドロになった。
中までは辛うじて火が通っていない。
そこでレイはサラに、彼女と彼女が気にする姫のこれからを話した。
「え…?そんなことが」
「だから、回復をやめてくれ。後はお前たちに任せるし。最初から色々腑に落ちなかったけど、もう終わり…」
するとパキッと何かが弾けた。
熱風と爆風のせいで、シルバーアークデーモンの体の中に何かが破裂したらしい。
ここからバトルは終わりに向かう。
「みんな‼このまま押し切ろう。もう魔物たちは」
「そうね。大将ごとやっちゃいましょう」
その破裂音は、勇者たちの気持ちの後押しには十分だった。
残るはたったの二体、しかも一か所にまとまっている。
後は物理か、魔法か、両方か。
「僕が行く。——英雄雷鳴剣‼」
突きではなく、振りかぶって叩きつけるオーソドックスな魔法剣スキル。
レイに出来ることは、その破壊衝撃をサラに伝えないこと。
残った体力、魔力を背に篭めて、自分のみが殺されるように身構えた。
その時——
「待って‼」
「え⁈」
ヒロインの声が勇者の行動を止めた。
その人物が余りにも意外過ぎたから、アルフレドも振りかぶったまま止まった。
そしてこの物語の一つのピースがカチッと嵌ったように、乱気流が収まっていく。
「アルフレド君。倒す前に…、これを見て。フィーネも…。それから皆も」
「そこを覗けってこと?そんなの倒した後でもいいんじゃなーい?」
「マリアさんとエミリさんも!…です。二人も似たようなモヤモヤを抱えてたし」
そう、止めたのは魔物を嫌悪するヒロイン、キラリだった。
ついでに言うと、勇者たちの中で唯一、メタなスキルを持つ女でもある。
偶々、一番近くにいたフィーネが覗く。
覗いた瞬間だった。
シルバーアークデーモンは肩に違和感を抱いた。
「キラリ…。その…数値は。数値が示しているのは」
「分析データ…です。僕に道を示してくれるデータで」
「データって。さっきまでは何も言ってなかったじゃない」
「…多分、足りなかったんですよ。さっき飛び散ったことで分析が出来たのかも」
瀕死の悪魔と、これからヒロインになる半魔を前に、女たちが代わる代わるスコープを覗く。
遂に、勇者様も
「え…?レ…イ…?」
「ほら!やっぱり、あの悪魔ってレイだよ」
「あんな服、他の魔物は着てなかったしね」
そして、レイは目を剥いた。
自身の身に起きた変化に気付いた。
全部で六体いるうちの一体、しかもあれだけ焼け焦げていたにもかかわらず…
——あの有名な一張羅にとげとげ肩パッド、紫マントが体に纏わりついた。
即ち、銀髪悪魔シルバーアークデーモンは、いやレイは遂に一歩踏み出した。
「…魔人レイ。スコープにそう、表示されてる…けど」
勇者アルフレドは、その少女が持つ筒を覗いた。
その瞬間から、彼自身と彼の周りの空気が変わった。
「うん、魔人レイ。人間だった頃の名前はレイ。アーモンドとカカオの子。デスモンドで囚われて魔物として生まれ変わった元・人間」
「それって…、もしかしてレイ⁈」
何を今更。そうかもしれないが、レイが魔物に変わってからずっと、彼、彼女らにはモブデーモンにしか見えなかった。
そんなモブデーモンは、裏で四天王たちと通じて、力を分けてもらっていた。
結果、シルバーアークデーモンというDLC前にはいなかった種族にまで上り詰めた。
これが大きな意味を持つ。
「ほらー。やっぱ、あの布切れってアイツのだったじゃん」
「…でも、この分析。おかしいよ。これだとまるで、レイって人は人だけど、僕に近い。半魔よりの人間ってことになる?」
「キラリのソレ。そんなことまで分かるの?」
「それは…うん。一応、レベルが上がると細かく見れるようになるんだけど」
シルバーアークデーモンの外見的特徴が手伝ったのは言うまでもない。
彼らはドラゴニアの血族若しくはロータスの血族。
ゼノスを含めたロータスの民は一般的に高身長。その血を半分受け継ぐレイも同じ。
故に大柄で、勇者たちが知るレイととても似ていた。
そして…、遂に
「魔人レイ?それがお前の名前…なのか」
「…やっと認められたのか。ってそういえば」
少し眩しそうにしている女半魔の顔。
薄めだが、その瞳にハッキリと青い二つの棒線が浮かんでいた。
それは突然始まった──




