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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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チクチク作戦

 新島礼は『魔王軍魔・魔法部隊長サラ戦』とかいうネーミングセンスを疑うイベントを一度だけ、画面越しに経験している。

 これもまた察しがつくと思うが、今回のは今までにない特別なイベントだ。

 何せサラは八番目のヒロインで、そのヒロインとの戦闘なのだ。


「アイザちゃん、いける?」

「わらわに任せるのら。…追尾連獄(ホーミングヘル)!」


 巨大な火炎球が襲うのは、六体のシルバーズではない。

 間をすり抜けて、とある美女に襲い掛かる。


「行かせねぇよ‼」


 だがアイザの超大エネルギーは、サラの目の前で火炎球は灰色の粉塵を伴って消失した。

 シルバーズの一人のHPをこそぎ取ったからだが。


「何をしている。私などに構わず、勇者を仕留めよ」

「分かってるけど…。でも俺はサラ様をお守りするし」


 説得タイムが無意味だったかはさて置き、ほんの少しだけ早まったのは間違いない。

 他に説得機会があったかは、後の行動に委ねられるが、

 少なくとも、先に忠告したアレが消し飛んでしまっているらしい。

 これは流石に失敗したと言っていい。シルバーアークデーモンは最初に何を言ったか。

 何とセットで話してしまったか。


「アルのヤツ。ユーノの話で大事な事を忘れてるって。いや、俺のこのサラを守ると言う行動も、悪魔の戯言の証明になってるのか。どっちにしろ、サラを殺させるわけにはいかないし」


 サラを仲間にする方法に、新島礼は二つ見当をつけている。

 一つは、サラ以外のデーモンを倒すこと。

 もう一つは、一定の時間、戦いを終わらせないこと。

 何故、この二つに絞られたかというと、サラを殺さずに戦うとなると、前にも話したように、かなりの長期戦となるからだ。

 何ターンかかったか覚えていないくらい、回復アイテムが枯渇するくらい戦ったものだった。


 とても面倒臭い戦い。でも、勇者は早く魔王城に向かいたいと考える。


天国と地獄の大旋風ヘルホーリースリリング‼」

「ちぃぃぃ‼」


 ソフィアの神聖旋風斬(ホーリースリリング)とフィーネの巨大火炎地獄(ヘルファイア)の併せ技。

 勿論、今回はこれも公式の技だ。

 最近のゲームはアニメのカットインが入っていて、とてもワクワクさせる。

 胸を熱くさせるし、体温も上昇する。いわんや、物理的にも

 だが、鈍色の瞳が惑うことはない。

 彼が見ているのは、身を焦がす業火ではなく、黄金の瞳。


雷神撃突破(ソールブレイド)‼」

「頭、単純かよ‼」


 四人パーティ縛りをキャラクターが意志を以って捨て、戦いを一気に終わらせにかかる。

 その為には範囲魔法攻撃が有効だが、先のフィーネとソフィアの攻撃はただの見せ球。

 戦いの基本はヒーラーから。次は鬱陶しい魔法使い。

 ここで放たれる勇者の強力な攻撃スキルこそが、アルフレドの狙い。

 スキル単体だが、貫通力を持つ攻撃で後衛にもぶっ刺さる能力を持つ。


「ぐぅぅぅ…」

「くっそぉぉおおお‼」


 勇者は悔しがるが、会心の一撃に相応しい攻撃だった。

 モブが最初の四天王より強いなんて当たり前。

 エルザよりも強いモブ、シルバーアークデーモンは両腕をクロスさせ、巨大な胴体を貫かせるほどの威力だった。

 勿論、勇者が狙ったのはその背後のサラだったが。


「お前…。何故、私を助ける」

「サラ様は傷つけさせない。サラ様を狙うなって、俺は言ったよなぁあ」

「悪魔の言う事は信じない。僕はユーノを助けないといけない。その為にリディア姫を助けるんだ…」

「ミ…、ミナケイミル‼私のことはいい…。だから戦いなさい‼」


 再び交わされる言葉を遮ったのは、サラの全体回復魔法だった。

 急激に塞がる胸の穴が、ドン‼と衝撃波を放って勇者を吹き飛ばす。


「ぐ…、まだだ」

「アル‼下がりなさい」


 ネームドボスが思わずモブに大回復魔法を唱える。

 それほどに衝撃的かつ致死的な場面、瞬間だった。

 レイ自身も後で気付き、血と共に冷たい汗を流す。


「た…、助かりました、サラ様」


 すると半魔は軽く目を剥いて、魔法の杖を握りしめた。

 

「気にするなと言っている。私たちに任されているのは塔の防衛だぞ…。さ…、弱鎧魔法(サラサラチェック)


 そして彼女は再び、勇者たちの防御力を削ぐ。

 今度はモブデーモンが目を剥いた。

 雷撃刺突の痛みはもうない。

 だけど、汗の方は止まらなかった。


「みんな。あの魔女を狙うんだ」

「そうね。イチイチ、デバフかけてくる嫌なヤツ」

「しかもヒーラーです。あの魔女を倒さないと戦いがきつくなります」


 そう、勇者たちの言葉が正しい。

 今回の戦いの趣旨は前衛は硬く、後衛は柔らかいが厄介な魔法を使い続ける。

 レベルが高くとも、弱点を突けば容易く突破できる。


 だけど、


「…分かってない。やっぱりムービーを見ていないんだ。——アルフレド‼魔女のサラは悪いヤツじゃない‼」


 それは現在モブの新島礼(プレイヤー)にしか分からない。

 技名で言うと『勇み足』、それは敗北と同義かもしれない。

 勇者はサラ隊と戦わなくても、ゲーム的エンディングは迎えられる。

 この戦いは、真の意味での敵に塩を送られたことで成立している。

 ハーレムルートにとって歓迎するべき状況だが、レイのこのやり方は曖昧過ぎた。


「騙されない。そうやって僕たちの足止めをするつもりだな!」

「さっきのでビビったんじゃない?」

「とは言え、あの魔女は厄介」

「キラリ!彼女はお前と同じ半魔だ。敵じゃない」

「帰れってこと?」

「違う。戦わなきゃ駄目だ」

「だったらなんで戦ってるんだよ。魔物の癖にアルフレド君の邪魔をしないで」


 曖昧なのは当然のこと。

 当初のレイは、外から傍観を決め込むつもりだった。

 そもそも、さっきまでマガマガトレインの中で揺られていたのだ。

 マガマガトレイン、秘密の塔行きの電車は秘密の塔の目の前で確かに停まる。

 だけど、エルザもアズモデもゼノスもまだ列車の中。


 ——ネームドを差し置いて、なんで俺が瞬間移動してんだよ‼


 根底では、その疑問がずっと渦巻いていた。


「こっちも対抗するわよ。スピードアップ!マリア」

「うん。メビウスシールド‼それからアイザちゃん‼」

「…全部、吹き飛ばすのら。巨大火炎地獄爆(ヘルファイアボム)‼」

「僕も続くよ。破砕式多段ロケットミサイル‼」


 着々と勇者たちはバフを積んでいく。

 三天王がいたら、もっと別の方法が取れただろう。

 まだ役割が残っているアズモデの遠距離フォローは特にそう。

 絶対に必要レベルで、作戦を練っていた。 


「てめぇ。さっきから何を喋ってる‼戦いたくねぇなら帰りやがれ」

「違う、そうじゃない。戦うこと自体は間違っていない。俺は戦うし、お前らも戦え。俺たちシルバーアークデーモンだけで戦うぞ」

「はぁ?何を当たり前な事をよぉ」


 遂には他のモブデーモンまで口を挟む。

 そして中の人がいるモブの言葉の通り、今回は前衛のみを戦わせる作戦だった。



 ——四天王の一人エルザは首を傾げて、こう言っていた。


「そんな上手くいくかしら」と


 同じく四天王の一人アズモデは顎に手を当てて、こう言った。


「確かにボクは超遠距離攻撃が得意だけど、殺さずってのは苦手だね」と


 更に同じく四天王の一人ゼノスは鼻を鳴らして、こう言った。


「俺様に興味のない連中など——」と


 そこで言葉を遮って、モブでもあるレイは立ち上がって、こう言った。


 そう、そこが重要なんだ————


 

 ——モブ・シルバーアークデーモンのレイはその時と同様に仁王立ちして、自身の作戦を再確認した。

 そこで再び、空気の一部が電気を帯びる。


「いい加減、早く終わらせないと——」


 勇者がもう一度、同じスキルで突撃を図ろうとする。

 アルフレドも彼なりに努力して、レベルを上げている。

 だが今は、早期決着を目指しているから、早計な手段に走っていた。


 RPGで言うスキルの連続使用を察し、レイは動く。


「シルバーズ、魚鱗の陣‼俺の後ろに並べ‼」

「は⁈」

「なんだ、てめぇ」


 モブがモブに命令をする。

 同列の存在ゆえに、命令通りに動くのか。そんなのを聞くような連中…


「サラ様をお守りするためだ。やるに決まってるだろ‼」

「寧ろ俺様が先頭だ。サラ様に忠義を示すときぃぃぃいいいい‼」

「き…、気持ちは嬉しい。だけど先頭は俺だから」


 だったりする。

 四天王が一角、エルザ。

 彼女より強いモブモンスター。

 それはドラゴニア王国の血族か、ザパンもしくはロータスの血が濃い生まれ。

 人語を理解する時点で、戦いの意味を理解できる。

 その一人の号令で生まれた、前から1、2、3、1とならんだ『コンパクト魚鱗』に、勇者が稲妻の如く剣を突き立てる。


雷神撃突破(ソールブレイド)‼」


 確かに、バフを目いっぱい含んだソレが、現段階で一番強い勇者の剣劇だ。

 

 それに、


「させるか‼」

「弱い‼お前らの陣形なんて、僕たちの敵じゃない‼」

「ぐ…」


 コマンドバトルじゃあるまいし、ましてや重装歩兵という訳でもない。

 縦に並んだだけなら、安易と思って勇者はそのまま突き通す。

 先だって、一体死にかけたのだし。


 ——ただ、残念ながらアルフレドは相手を知らない。


 同様に貫くが、今度は手応えが違っていた。


「俺は魔人レイだ‼この程度でやられはしない‼」

「そんなの…」


 一人目の魔人をどうにか貫通し、二人目の胴も貫いた。

 雷属性の剣劇だ。綺麗な穴にはならない。

 ただ、何故か殺せた気がしない。


「ミ…、ミナケイミル‼」


 そして繰り返される、魔女サラの回復魔法。

 今度はレイではなく、他のモブ魔物が勇者を弾き飛ばす。

 至近距離にいるから、流石の勇者もタダでは済まない。


「アル‼下がって」

「一人で突っ込みすぎですよ」

「えっと…、エミリは‼」


 勇者の言葉にフィーネは訝しんだ。

 前衛にはもう一人居て、アルフレドと同時に戦いを仕掛ける手筈だった。

 今までだってそうしていたのに、彼女は


「とにかく一旦、下がって。エミリ、どうしちゃったの?」


 視界には赤毛の戦士の背中が見える。

 そして彼女は動いていない。

 ぼうっとしているのではなく、戦闘モードのまま立っている。


「もしかして、魔女の攻撃を…」

「ううん。エミリは生きてるよ。ほら、スコープ」


 スコープは彼女達に許された唯一のメタアイテムである。

 見えない筈のステータスが見え、エミリのHPが八割以上も残っていると知れる。

 状態異常も見つからず、ちゃんと戦っている。

 だけど、今回のソレは流石に戸惑う。

 敵、味方関係なく訝しむ。


 勿論、ただ一人を除いて


「間に合った…か」


 同時に。

 異変に気付いたエミリはモブデーモンの言葉を掻き消すほどの音量で叫んでいた。


「敵からの攻撃だよ‼」

「敵?敵はこっちだよ」

「違う‼ずっとずっと向こう‼どこからか分からないけど‼」


 一定の間隔で、エミリの盾が動く。

 身を捩れば、エミリ自身が隠れられるほどの大盾は、微かだが衝突音という悲鳴も上げていた。

 誰からかも分からない攻撃に、ただ一人晒されていた。

 故に、女戦士は動けなかった。


 一体何が起きているのか、知らないとは言わせない。


 誰かに言っているのではなく、勇者たちは知っている。


「…エミリ、一旦下がれない?」

「無理ぃぃいい‼盾を構えてないと、やられちゃう。これって」

「もしかして、エリア外攻撃?」


 少なくとも一度、チョリソーで勇者たちはソレを実践した。 


「なんて卑怯な」

「卑怯?お前達だって何度もやってる。教えたのは俺だけど」


 すると金髪の勇者は三白眼で睨みつけた。

 胸に空いた傷が塞がりつつあるデーモンは肩を竦める。


「四天王の二番手でも、正確無比さは圧巻だな。流石はアズモデ」


 この世界線では起きていないが、いつかエルザ戦で実践された。

 戦闘中は戦闘時のキャラしか画面に映らないから、秘密の塔のエリア外からの攻撃相手はスコープを使ったとしても見ることが出来ない。


 故に脅威。但し、余りにも不自然な攻撃でもある。


「遠くから僕たちを…。やっぱり魔王軍は卑劣だね」

「卑劣と言われてもな。言ったろ、アル。お前は俺たちシルバーズと戦うしかないんだ」

「つーか、さっさと来いよ、勇者ぁぁああ」

鈍足群衆魔法(ノソーリノロー)弱鎧魔法(サラサラチェック)‼」


 そこの通常通りのサラのデバフ魔法。

 その魔法はエミリを含めた勇者たち全員に向けられる。


「た、戦ってやる。エミリ、ちょっと待ってて」

「…うん」


 アズモデに伝えたのは、エミリの盾に攻撃をし続けろというもの。

 これが勇者たちが抱える穴。前衛不足、もしくはゼノス不足。

 作戦通り事は運んでいる。


「四人態勢を捨てるのは想定済み。…だけど、ここからどうやって」


 そして、それを台無しにするほどのエラーを孕んでもいた。

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