塔の前の激突説得タイム
秘密の塔の前での決戦は、魔王軍魔・魔法部隊長サラ、そしてその部下と戦う新イベントだ。
シルバーがつく個体はアークデーモンの色違いで、通常のアークデーモンの倍くらい強い。
そもそもアークデーモン種は長い犬歯で描かれている。
モブの癖にひょっとしたら中ボスよりも強いのでは、なんてのは良くある話だ
そんなシルバーなアークデーモンがサラの左右に三体、合計六体が召喚されていた。
その中に誰かがいる。
やはり光を失ったままの犬歯のシルバー・アークデーモンは顔を引き攣らせていた。
青く光らなければ、それはただのシルバー・アークデーモンと変わらない。
「また吸い込まれたのかよ‼魔王軍って人手不足なのかよ⁈」
「やっておしまい。ここを突破されたら、魔王様の喉元に刃がかかる」
ある意味でそう。
ハーレムルート若しくはリディア、サラルートを目指すならの話。
そのサラが半魔として、魔王城の鍵であるリディアを幽閉している。
それにしても、まさかあのサラがここまでの格を持っていたとは。
しかもある意味で、あのドラグノフよりも強い。
というのも
「…弱鎧魔法」
「ひゃっはー‼行くぜ行くぜ‼」
「俺だ。俺様が勇者を召し取ってやる‼」
サラはデバフ魔法を多用してくる厄介な半魔だ。
その上で、ひょっとしたら四天王くらい強いシルバーアークたちが一斉に襲い掛かる戦法だ。
対してドラグノフは、複数攻撃はするが単体で戦う。
敢えて言うと、サラ達との戦いは非常に面倒くさい。
半端な装備やアイテム不足が、実はぶっ刺さる。
「メビウスの加護!フィーネもお願いします」
「分かってる。スピードアップ!それからマリア」
「うん。メビウスシールド‼これで」
「ひゃは‼」
そうしている間にも、悪魔たちが準備中の一団に襲い掛かる。
前衛に構えるエミリとアルフレドに強靭な爪付きの殺傷性の高い攻撃が見事に突き刺さる。
「く…」
「マリア、やっぱり」
「え?あ、回復…ね。全体治癒魔法!」
「ちょ、マリア。それは使い過ぎよ」
「そんなこと言われたって‼」
今回のレイは基本アドバイスはしても、手取り足取りと教授したわけではない。
故にDLCでの戦い方がそのまま反映されている。
だからこそ、DLC以降の戦闘システムに触れておかなければならない。
前列、後列という根幹は、バランス調整の為か変わっていない。
「アルフレド君。マリアの代わりに僕を使って‼」
「はぁ?せっかくのアタシの出番なのに」
「分かった。キラリ、頼む」
だがなんと、この部分が変わっている。
実は後衛と控えは、何時でも交代が可能となった。
これは現実に置き換えると、非常に分かりやすい。
戦っていない仲間たちは背後のステーションワゴンで待機してる。
後ろでひょいと入れ代わればいいし、彼らもそうしている。
因みにゲームでは前衛と後衛の交代は、例外を除いて1ターンを消費する。
システムか現実かはさておき、戦っている途中で移動すれば、それだけ時間がかかる。
そしてこの1ターンが勝敗のカギになる…、てのは基本的に存在しない。
そもヒロインたちに前衛タイプが少ないからだ。
「キラリ、早くしてよ。あたしとアル様だけじゃ持ちきれない」
序盤なら色々試す機会もあるが、レベルが上がると個々人のタイプの違いがはっきりする。
即ち、タンク役はエミリ。ヘイト役はアルフレド。
ソフィアとマリアはヒーラーでアイザとキラリとフィーネはアタッカー。
それはゲームに押し付けられた役割だが、視覚情報も加わると直感的に辿り着く。
持っている特技は決まっていて、売っている装備も決まっている。
これはとても単純で明白なことで、大きな盾を装備できるかで前衛を決めている。
前衛、後衛は魔王軍側も同じで
「鈍足群衆魔法、弱鎧魔法」
モブデーモン戦士の背後に、つんと尖った耳の魔女がいる。
しかも魔物側の前衛は五人で、たった二人のシールド使いを翻弄する。
この状況の打破に使われるのは、
「僕のミサイル、とんでいけ魔物焼却弾‼」
黒髪白衣科学女子キラリは0ターンでマリアと入れ替わり、その圧倒的な科学技術を使った範囲攻撃を放つ。
直径10㎝の破壊砲から魔法弾が飛び出て、空気中の酸素を取り込んでいく。
赤い閃光が敵陣に飛び、そこで10mサイズの火球に変わり、銀色の魔物を燃やしていく。
流石は突飛な能力を持つキラリ、だが——
「キラリ‼魔物破壊爆弾じゃないの⁈」
「僕だってそっちを撃ちたかったよ。でも多分、…効かない」
スコープから目を離した彼女は、険しい顔で言った。
魔物の特徴を見通す異能は、彼女の生い立ちがそうさせている。
「どうして!」
「あれは魔物を破壊するのではなくて…、金の素子と銀の素子の配列を搔き乱す力で…」
神・設定資料集の影響で、イベント戦では無効の一言では済まされない。
加えて、彼女やら彼やらにとって残念なお知らせがあった。
お知らせの内容は
「アル様、あたしも行きます‼」
「エミリ。ちょっと待って…」
──後程。
その時だった。
勇者の真横から何かが迫る。
「…勇者アル。仲間に恵まれてるな」
「な⁈」
悪魔の息吹を感じた勇者は、咄嗟に片手剣を横に振った。
狙いすましていない一撃は、僅かに焦げたシルバーアークデーモンにさえ当たらない。
であればカウンターか、反撃か、とアルフレドは横に避けながら盾を構えた。
だが、盾の向こうから攻撃は来なかった。その代わりに
「まぁ、いい。今から大事な事を言う…」
デーモンは勇者に語り掛けた。
◇
ド‼ドン‼
再び熱球が放たれる。
その攻撃はシルバーたちの毛を燃やして、嫌な臭いとざらついた煙を周囲に撒き散らした。
一発目は何とか避けたが、二発目は近すぎて被弾したデーモン。
彼は顔を歪ませ、肩を竦める。
「キラリは新ヒロインじゃない。DLC後で助かったって言うべきか?」
先の説明の内容がこちらだ。
新ヒロインじゃないから、世界はキラリとマリアをナーフした。
必要レベルも上がっているから、勇者を含めた全員が弱体化をしたのと同じ。
DLCストーリー開始の条件は、RPGではよくあるもの。
即ち、通常ストーリークリア後だから、今までよりも歯ごたえのあるモノに仕上がっている。
アルフレドたちが十分にレベルを上げたと思っても、丁度よいバランスか、若しくは苦戦を強いられる。
因みに、それと引き換えという訳ではないが、ユーザーフレンドリーな変更も行われている。
先のスコープ越しのキラリの発言が該当するし、もっと言えば他のメンバーもこの魔物にはあの魔法は効きにくいかも、なんてのを無意識に感じ取っている。
それはさて置き
「サラ様を狙うんじゃない。先ずは前衛の俺達と戦え‼」
「あんた程度、この一撃で。アル、私の魔法に併せて‼」
「うん‼」
火炎攻撃と物理による攻撃だ。
いつかのレイが教えた併せ技のようで、実はそうでもない。
「アル。こんなにも好感度が高いんだぞ」
「空色黄金光風…」
「魔法連撃‼」
「ぐ…。だが、これしき。こっちだって、併せ技は知ってんだよ!!」
前であれば死んでいたかもしれない。
ゲームには存在しない併せ技でも、それは当時の話。
だから、サラの部下であればギリギリ耐えられる。
それでもレイは、念の為に自信が吹き飛んでダメージを減らした。
ハーレムルートを辿るなら、オーブ探しに行くだろうが、今回は行かなくても城に入ることが出来る。
「勇者‼お前の仲間たちは、お前に好意を抱いてお前の為に戦ってる‼」
「そんなの知ってる!だから僕はユーノを助けて」
「ユーノを助けるために、お前を愛している仲間たちが犠牲になってもか?」
そして背後にはサラとリディアがいる。
即ち、物語は佳境だ。もしかすると最後の説得機会かもしれない。
「犠牲になんてしない!僕はユーノを助けて、皆も助ける!世界全部を助けるんだ」
「ユーノを助けたい気持ちは分かる。だけど」
「アンタなんかに分かるわけない!アルは全部を任された伝説の勇者なのよ!」
伝説の勇者の称号を鼻にかけているわけではない。
色々気負っているのか険しい顔で、勇者は剣を振り下ろす。
全員を助けるのがハーレムルートなら、その中にユーノが含まれるべき。
それがアルフレドの仲間たちが辿り着いた道だった。
六体のどれかでしかないアークデーモンに言われる筋合いはない。
「勇者。本当に全員を守れるのか?ユーノと世界、どっちが大事だ」
「どっちも大事に決まってる。ユーノのことを知ってるんなら」
「あぁ、知ってる。ユーノは魔王城に居る」
「魔王城、そんなことは知ってる‼」
「まぁ、聞け。魔王城の地下、魔王子ユーリの部屋にいる。だが、お前が選ぶ道の片方にしかいない」
「ど…、どういう…こと?片方にしかいないって」
「アル。そんな奴の話を聞いちゃ駄目」
今は説得するためのイベントではない。
だが、シルバーアークデーモンの中の人であるレイにとっては最後かもしれないチャンスだ。
何せ、もうすぐハーレムが完成する。
「ユーノの道は世界が崩壊する。ユーノを助ける為に世界が犠牲になってもいいのか?」
「そうさせないと言ってる!」
即ち、ここでプレイヤーは漸く
「もう手遅れなんだ。ユーノを助ける為にはお前たち全員が死ぬ必要がある。そしてこの世界も滅びる…」
——勇者たちにネタを解禁する。
ストーリー系のゲームを何度かプレイした人間なら、今まで話せなかった理由に気付くだろう。
「それ、どういうこと?」
「ユーノは天女の器だ。ユーリは彼女を神の生贄にする為に連れて行った」
「神の生贄?あのユーリって王子がやっぱり黒幕なのね」
「ユーリがユーノを…。急がなきゃ」
アルフレドの反応は至極当然だ。
ユーノの命が危ないから、急がないといけない。
とは言え、どんなに勇者が急いでも、足を踏み入れたならイベントは必ず起きる。
逆もまた然り、どんなにのんびり冒険をしても、足を踏み入れなければイベントは起きない。
「急いでも無意味だ…」
だから、勇者たちに暈して伝えていた。
ゲームと知らない勇者は、もしかすると誰一人仲間にしないまま、アーマグに渡ったかもしれない。
「ユーノを助ける方法はただ一つ。ユーノの代わりに世界を差し出すことのみ。——アルフレド。お前はお前を支えてくれた仲間を、世界を犠牲にするのか?」
「世界を…?仲間を…?」
「ちょっと待ってよ。どうしてそんなことになるのよ」
ヒロインたちが揃わなければ、ユーノルートで決定する。
でも、この戦いさえ乗り切れば、全てのヒロインが勇者パーティに加わる。
——だが、レイは少々焦っていたらしい。
「死ね、勇者ども。巨大火炎地獄‼」
「何…?」
もう一度言うが、今は説得タイムじゃない。
大事な大事なイベントバトルの途中。
「きゃぁあああああ」
「二人とも何やってんのよ‼ソフィアはキラリと交代。エミリに回復魔法を‼」
「承知しました‼」
車からマリアの怒声が飛び、ソフィアは青い顔で飛び出した。
「ケイミルテ‼…勇者様、悪魔に耳を傾けてはいけません‼」
「アル。今のは奴の作戦…」
血相を変えて戦う仲間、燃えている仲間。
とあるシルバーアークデーモンの行動は、彼と彼女にこう映る。
「そ…そか。そう…だよね」
人語を操って、勇者たちを惑わした。
その隙に半魔サラはエミリたちを襲った。
とても卑怯な、魔物らしい手口かもしれない、と
「四人で、なんて言ってられない。アタシたちも戦うからね」
故に全員の頭が沸騰し、いつもより気合の入った戦い方に変わる。
彼らはある意味で正しく、ある意味で間違った行動で——
銀髪のアークデーモンは直後、顔を蒼褪めさせた。
「くそっ。俺の話が流された。…って、あれ?この戦いってどうやって終わらせるんだっけ…」




