秘密の塔の前、戦闘開始
リディア・エステリア・ドラゴニア。
ゲーム世界の中では、王族と明言されている唯一のキャラ。
とは言え、フィーネは全てを知っている訳ではないが、両親に曖昧な形で聞いている。
「リディア姫って、アルとどういう関係なの?」
「僕も知らない。僕が一番知らないんじゃないかな」
「マリアは自慢のお父様とお母様から聞いてないのぉ?」
「寧ろ逆よ。大事なことは一切話さないし、情報が漏れないようにエイタ達を雇ってたくらいだし。家を継ぐ気がないなら教えられないって感じかもねぇ」
秘密の塔に向かう途中で、魔物を倒しながら進む。
戦うと魔物の強さを知れるから、どれだけレベルを上げたら良いかも分かる。
DLCで必要レベルも上がっているから、想像以上に苦戦をしながら進んでいた。
「ソフィアはぁ?ディア様ってエステリアの、じゃなくてミッドバレーのお貴族様なんでしょ」
「修道院には怪しいこともありますので。それにエステリア家がミッドバレーにあったのは遥か昔ですので」
「あーね。んでキラリは…」
「僕が知ってると思います?」
「…う、ゴメン。アイザちゃんは何も知らないよね」
エクレアで買うことのできる武器と防具は更新していない。
何度も往復して、経験値を獲得していく。
「わらわは…。お姉たまに守って貰ってたから」
「四天王の一人、爆炎のエルザ。私の村を襲った…女悪魔」
「ソフィア。それ以上は駄目」
「す…、すみません。アイザ様も予言の子だというのに」
ヒロインのピロー文殊会議は相変わらず行われている。
「お姉たまはわらわに近づく者、人間と魔物問わず全員を倒すように言われてたのら」
好感度マックス、愛しの勇者様の為の会議に、アイザは姉の情報さえ提供していた。
であれば、エミリがこんな疑問を持ってもおかしくなかった。
「本当はエルザと戦う筈だった…のか。あのアークデーモンが連れ出しちゃった。お蔭で戦わなくて済んだけど、それって大丈夫…なのかな。魔王軍っていうくらいだから規律とかありそうだし」
「魔王軍の裏事情なんて知らないわよ。でも、そういうのは厳しそうかも」
そして、フィーネの話に桃色のお団子頭が割って入る。
それから——
「んーー‼エクレアに入る前に紫の髪の女悪魔っていなかったっけ。アイザちゃんなら気付いてたんじゃない?」
「わ、わらわは…。その…、ちゃんと覚えてなくて。勇者たまのお役に立てるように頑張ってて…。お姉たまは…、えっと。まだあの砦に…」
「そんなことないよ!居たって、絶対に!」
「マリア。アイザちゃんは色々混乱してるの。それに…、私もそうかもしれないくらいしか覚えていないし」
「みんな、そろそろ向かおうか。敵は強いけど、勝たないといけないんだから」
好感度マックスの強要は、間違いなく思考を鈍らせていた。
今回の冒険では、あまりはっきりとは現れないあの効果——
「そうだよ。魔王軍は僕のお母さんを奪ったんだから」
「…うん。アイザちゃんのお姉さんも助かってた。それで十分だよね」
「お金も集まりましたし、装備も揃いましたし。予言通りにドラゴニアの姫を助けに行きましょう」
引っ張る必要もない、かつての常識だ。
ムービーの関与で、記憶がダブってしまう。
今で言えば、主人公目線のユーリ王子の物語。
エミリという実体験がありながらも、ユーノルートと関係ないから、多くは思い出せない。
キラリも何か言われた程度の記憶しか残っていない。
「ただ…、勇者様。一つ気になることが」
「何?」
「魔王の子。アレの言葉は本当でしょうか」
「どういう意味?ソフィアも秘密の塔に行くの、賛成だったよね」
「それはそうなのですが、あの者。一度去って、態々ソレを伝える為に戻ってきたようにも見えたので」
二重になっているのは記憶だけでなく、進行ルートも同じ。
全員に妙な違和感を残していた。
「つまり、罠かもしれないってこと?」
「在り得なくはないわね。…そもそもスタトを襲った残忍な魔王軍。本当にリディア姫が囚われたままか、その保証はないのよね」
因みに、このゲームのベースは恋愛要素満載だ。
好感度マックスとはいえ、いやいや好感度マックスだからこそだ。
進行ルートを無視して世界中を周ったら、多くのイベントを見ることが出来る。
「ねぇねぇ。ソフィアがそんなんじゃ分からないよぉ」
「す…、済みません。ちょっと気になってしまって」
ただ、勇者は主人公はプレイヤーではない。
プレイヤーではないから、そこに行かなければ物語は進まないとか、行く前に他のイベントを回収して、とか考えはしない。
そもそも、一人称「僕」の勇者アルフレドは、考えないキャラとして設定されている。
彼は一度北を、そして東を睨み、そのまま真っ直ぐ歩き出した。
「…このまま東に向かうよ。ユーノそっくりなアイツの罠だとしても、全部叩き潰して、ユーノを助けるためのヒントに、ヒントが無かったら経験値に変えるだけ」
終盤でピースは埋まっていく。
けれど今回ばかりは、賢者たちも頭を抱えたくもなる。
「僕も賛成。偉いヤツを倒せばいいんだと思う」
「キラリも。ちょっと落ち着いて」
「だったらこうしよ。行ってから考える!」
「単純。エミリらしいわね。でも、アタシもそれがいいと思う」
この世界には、二つの全く違うパズルのピースが散らばっている。
その一つがどっちの絵画か分からない以上、取り敢えず集めるしかない。
だから、勇者たちはユーノルートとは関係のない、ハーレムルートをユーノルートかもしれないと思いながら進む。
勿論、車で——
▲
四天王の二番手、アズモデが取り仕切る秘密の塔。
ステーションワゴンは勇者の言葉を認識して、塔の少し手前の駐車場で自動停止した。
アルフレド「あれが秘密の塔…。リディア姫が幽閉されている…」
フィーネ「あれってお姫様を閉じ込める為に作ったの?」
まるで御伽噺に出てくるような断崖絶壁。
その上に塔が建てられている。
最上階から一つ下の階が、異様に突き出た円柱、外から見るとドーナツが引っかかっているように見える。
軟禁されているのはあそこだろうと、すぐに理解できる。
ソフィア「元々は違う使い方だったらしいのですが、おそらく」
エミリ「今、見えたかも。金色の髪…」
マリア「マリアも見えた。勇者様と同じ髪の色?」
キラリ「…みんな、ちょっとストップ。嫌な気配がする」
アルフレドは塔全体を見回しながら、罠がないか、敵はいないかと窺う。
冒険も終盤であり、彼の顔もあの村を旅立つ頃に比べるとずいぶん凛としている。
全身に纏う鎧からは淡い光が漏れ出しており、相当の防具だと分かる。
フィーネ「伝承によると、ドラゴニアのお姫様が囚われているのよね」
ソフィア「はい。光の女神メビウス様の加護を受けているそうです。破邪の力を持つという話です。その力がなければデスキャッスルに入ることも出来ないとか」
フィーネも魔法のローブを身に付けているが、元々のスタイルの良さもあり、少々セクシーに見える。
ソフィアは変わらない修道女服だが、素材が違う。加護に満たされたそれも淡く輝いている。
アルフレド「そか。だったら守りも硬いよね」
アイザ「ずっと幽閉なんて可哀想…。わらわも気持ち分かる。すぐにでも助け出すべき」
アイザは数枚の衣を羽織っているが、どれもこれも強度の高い繊維で編み込まれており、見た目に反して防御力が高い。
『高貴なる五衣』と呼ばれるこのエリアでは最強の防具である。
魔力の扇を持ち、最大火力にプラス20%されるというレア武器も装備している。
キラリ「うん。…アルフレド君」
キラリは両肩にミサイルランチャーを装備し、足にもミサイルポッド。
体の中央には何かのエネルギーを発射させる何かが装着されている。
エミリは重装歩兵の装いではなく、軽量でも防御の高いミスリル製の鎧を纏っている。全宇宙の神『C-E-R-O』によって、水着のような鎧は免れているが、それでも彼女の実った果実はよく分かるほどだ。
マリア「マリアも感じる。…でも、塔の方から?」
マリアの着ている武道着は赤い下地に金色の竜が刺繍されている。
この刺繍にこそ魔力が宿り、彼女の急所を守っている。
そしてついに両足にスリットが入り、そこから覗くのは黒のストッキングだ。
ちゃんと見えても良い下着を選んでいるので、画面に映り込んでも問題ない。
全員が呼応して、周囲ではなく塔に向かって身構えた。
そして
アルフレド「扉が…開く。皆、気をつけて」
全員が臨戦体制に入る。
すると、どこかから風を切る音が聞こえた。
フィーネ「アル。塔の後ろからも‼」
バサッ、バサッとリズミカルに奏でられる風切り音。
やはり守りは厳重で、多くの羽根持ち悪魔が姿を表す。
勿論、塔の一階部分の扉からも
サラ「お前達が光の女神メビウスの使徒…か」
アルフレド「姫…。違うな。魔物の臭い…」
サラ「あぁ…。そうだ。私は魔物だ。ここに来る者を殺す為に存在する…魔物…だ」
クリームイエローの髪、整った顔立ち。
不釣り合いの鬼のような形相の女と、アークデーモンの群れ。
フィーネ「姫を解放しなさい。そうしなければ」
サラ「解放?何を馬鹿な事を。私は魔王軍の秘密部隊長よ。ここに来る者は全員殺す。だからアンタたちも殺さなければならないの」
▲
秘密の塔の前はここで戦ってくださいと言わんばかりの広場となっている。
城に向かわなければならない三姉妹はそのままにして、三天王とレイは秘密の塔に向かっていた。
イツマゾクで飛ばずに素直にマガマガトレインを利用していた。
アレが手っ取り早くて確実だが、アズモデが気になることを話していた。
勿論、ユーリ王子に関することだ。
「イツマゾクを利用されていた?」
「そうかもしれない。って、ボクは考えたんだけど。ユーリ王子は人間だから、使えたとしてもファストトラベルだからね」
「エステリア大陸の端々に出現していたしね。あたしのイベントにも顔を出していたけれど、どうやって来たのかは不明ね」
「イツマゾクって部隊単位で丸ごと移動だっけ。その中に紛れて移動していたのか。そう言えば、エクレア前でゼノスが使ってたけど」
「俺が…。そうだった。俺はあの時、殿下の命令を聞いたんだ。今の言葉だけなら当たり前だが…。そういうのではない。アレは一体」
ゼノスの行動は、本人さえも目を剥き、訝しむものだった。
魔人レイもユーノを前にした人間レイと同じく、体がぎょっとして動けなくなった。
そしてそれだけでは終わらない。
エルザもアズモデも似たような現象が起きていたのだから頭が痛い。
「今までは単に、ユーノルートに詳しくないからって思ってたけど…。違うのか」
ユーノルートへの強制力か。
はたまた、別の理由によるものか。
「何にしても、だよ。ボクは危険だと思うよ」
「魔王の息子だしね」
「魔王軍のトップだから全部隊のトップか。便利移動が逆に厄介な存在になっていたとはな」
神・設定資料集は各地の人間のゲーム以外の一面を詳細に描いていた。
故に、 ゲーム世界と呼べるほど単純な造りではない。
人間・ユーリがイツマゾクを使えない以上、そこには裏がある。
だからこその物理移動。
研究施設で対策済みだ。
「マロンさんたちに一応、勇者が北に向かったなら連絡してって言っといたけど。勇者は東に向かった。心配するようなことはなかったな」
「それはそうでしょう?ユーリ王子がそう言ったし」
「リディア姫の力が無ければ、オーブの力が無ければ、魔王城の扉は開かないのだからねぇ」
「うーん、それは…」
光をうしなった犬歯を確認して、レイは仲魔全員を見据えた。
確かにアズモデラスボスルートは残っているが、現時点ではモブと大差ない仲間たち。
そも、オーブが無くとも扉は開く。
アズモデが真にラスボスになれるかは、魔王ヘルガヌス戦以降となる。
そんな中で魔人は硬直した。
「レイ。今のってもしかすると」
「あぁ…、ムービーが来た。思ったよりも勇者たちが早かった。早速、大ピンチか。急いで秘密の塔に向か——」
◇
クリームイエローの長い髪。
灰色のマントが意味するのは、彼女が半魔であるということ。
その外套の中身は魔法使いのローブに似ている。
「アンタもエルザと同じでしょ。戦う意味なんてないわ」
「エルザ?アレと私を同じにするな。高貴なる魔族は人間には従わない‼」
魔王ヘルガヌスは魔法タイプのボスだから、親戚である彼女も同じ系統で描かれる。
そしてムービーのままに勇者たちは魔王軍魔・魔法部隊長サラと対峙していた。
「僕はむやみに殺したくない。だから退け。リディアを返せ。魔王城に行かなきゃ。時間がないんだよ‼」
「時間がない?それは好都合だな。たっぷりと時間を使わせてやる」
「勇者様、いけません‼」
「もう遅い。——鈍足群衆魔法‼」
ソフィアが叫ぶが確かにもう遅い。
ムービーの終わりから戦いが始まっていた。
鈍足範囲魔法の罠を踏み、勇者たちは簡単にデバフを受けてしまった。
その隙に、ひょっとすると四天王よりも強いサラは両腕を掲げる。
「魔王軍の精鋭たち。お前たちの出番よ。勇者なんて関係ない。ただ殺すだけ…」
「おうよ‼サラ様の為なら玉砕覚悟で…」
「秘密の塔に向かって、…って、あれ?」
即ち、定番のスタイル。
モブアークデーモンたちが大量に召喚された。
因みにだが
今回もムービー、イベントバトル、ムービーの順が予定されている。




