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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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続・八人目のヒロイン

 ユーリは消え、魔物たちはイツマゾクで同じく消えた。

 エクレアに取り残された勇者たちは、その後しばらく呆然と立ち尽くしていた。

 ただ、やるべきことは決まっている。


「魔王城に行くにはリディア姫の力が必要なんでしょう」

「藤色の娘が導くこととなる。後は平和の象徴、我らが金色姫リディア様を奪還し、魔王ヘルガヌスを葬り去り、世界を正しき姿へ、と伝承でもありますし」

「アル様。気持ちは分かるけど、魔王城に入る為には」

「…うん。分かってる」


 ユーリの気まぐれか、レイに対する煽りか。

 知る訳もなく、送られた塩をレイが丁寧に否定する訳もなく、勇者はその通りに行動するしかなかった。


 だからエクレアで装備を整えて、東へ向かう。


          ▲


 頑強な扉から小さくノックの音がした。

 右が翠眼、左が碧眼のオッドアイの金髪の少女は溜め息を吐いて、椅子から立ち上がった。

 その音の主の正体は知っている。

 その者が危険ではないことも知っている。


リディア「サラ。気を使わなくていいと言った筈ですよ」


 リディアの母の名前は『ディア』という。

 彼女は死と引き換えに黄金に輝く双子を産んだ。

 双子のもう一人とはアルフレドのことだ。

 父親はアーノルド・ドラゴニアで、弟の名はガスモンド・デズモア。ガスモンドは後にデズモア家を捨て、名を変えてアーモンドを名乗る。

 即ち、スタト村のアーモンドは元ではあるが王の弟である。


サラ「そうは参りません。私の伯父のせいで幽閉されてしまったのですから」


 クリームイエローというパステルで長い髪の女は、会釈してそう言った。

 サラの伯父はヘルガヌス。

 東の火山帯、ザパンを領地としていた伯爵…、だった魔王の姪だ。

 同じドラゴニア家だが、血統が大きく異なる。


リディア「アナタも半分魔物にされた被害者でしょうに。(わたくし)と同じ…。ちゃんと覚えておりますし」


サラ「…そう、ですよ。リディア殿下は昔から」


 魔王となったヘルガヌスは、アーノルドとディアの娘を敢えて生かした。

 その指示を出したのは魔族となったアズモデで、リディアを人質に取ることで諸侯たちを解体させたと言われている。

 その一方で、リディアが持つ破魔の力を恐れてもいた。


リディア「でも、少し羨ましく思います。魔物とは歳を取らないのですね。出会った頃のサラは既に魔物の力を宿していたのでしょう?」


 抜擢されたのは、ヘルガヌスの姪。

 半端な魔物化の影響で、非力な魔物へと変わった少女。

 半魔は切ない表情で、首を振った。


サラ「姫はまだ十七です。老いを気にする年齢ではありません」


リディア「でも…」 


 幼い頃は母と娘。

 今は友のように、同じ空間で過ごす二人。


サラ「でもではありません。魔物は子を宿せないと聞いています。私はもう、貴族の娘として生きられません。姫様も…」


リディア「私は生まれてずっとここにいて、何もしないまま十七になって。このまま」


 堤防が決壊し、ボロボロと涙が零れ落ちる。

 膝から崩れ落ちたところで、肌着に近い薄いワンピースごと、半魔は姫を抱きしめた。


サラ「大…丈夫です」


リディア「何が大丈夫なの…。私はここでお祖母ちゃんになって死んでいくのよ!!」


 リディアは幼い頃に、目の前で父親を殺された。

 その日からずっと閉じ込められたままの囚われの姫。

 同じくらい背丈が伸びてしまい、ジタバタ暴れるのを押さえつけるのも難しい。

 体のあちこちに痛みを感じつつも、リディアを支え続ける。


サラ「もう…少しです」


 サラ自身も両親を殺され、心を病んでいた。

 だから、最初はどうして自分が、と思ったものだ。

 でも、日を追うごとに強くなる。


 ——リディアを守りたい


 外に出してやりたい 

 例え、反対の命令が下されていようとも、この身が崩れ落ちても


リディア「何が…?どうして外に」


サラ「あと少し…だから。お願い…、リディア」


 もう少しで、この関係も終わる。

 もう少しで、役目がやってくる。

 この子だけは、とサラは光と闇、両方のメビウスに祈りを捧げた。


          ▲


「…あれ、喋っていいの?解説しろって?…ああ、そうだよ。レイモンドはこのムービーに存在しない。だってレイモンドは悪役から外されたし」


 アークデーモンは大きく溜め息を吐いた。

 場所は未だに研究施設である。

 目の前には四天王の三人と、歌姫三人と、一台のキャリーカートがいる。もしくはある。


「そう言えば初めてか。このムービーは勇者が秘密の塔に向かう途中に差し込まれる」


 今から歌姫三姉妹とカギッコホネッコが王城に向かう、その直前だった。

 アークデーモンから奇妙な気配を感じたから、皆動きを止めていた。


「大丈夫?」


 怪訝というより、本当に心配そうな顔でカロンが覗き込む。

 アズモデとエルザはピンときて、興味深そうに尋ねる。


「今のって」

「もしかして、それが啓示ってヤツかい?」

「啓示じゃなくてムービーだよ」


 ヒロイン達に話したように、こっちでもネタバレは完了している。

 とは言え、今までのムービーと異なる点がある。

 ムービーに居た二人以外、誰も秘密の塔にいない。

 そしてムービーの二人以外、誰も同じ景色を見ていない。


「秘密の塔の部屋のムービー。誰も見えなかった?」

「アズモデ、最低ね。もしかして盗撮してたの?」

「失礼な。ボクにそんな趣味はないよ。そもそも、あそこは同性のサラに任せてるからね。そして彼女は優秀な部下だよ。勇者が行くまで面倒を看させてる」

「どうして勇者が行くまで…。いえ、それが計画なのよね。あたしの頭の中はもうごちゃごちゃ」


 エルザとゼノスは既に役目を失ったが、アズモデはサラとリディアとの接点のお陰でギリギリ首の皮が繋がった。


「内容はサラとリディアの現在を描いたムービーだ。序でにアズモデを示唆するナレーションもあったけど…」

「ボクのかい?確かにそうだった。ボクがサラに命じたし、リディア姫もボクがあそこに閉じ込めたんだ。で、どんな内容だったんだい?」


 だが、そのアズモデもムービーを見ていない。

 そも、アズモデは登場していないのだし


「参加していないと駄目…か。この様子だとアルフレドも見てないな…」


 今まで何度もそうとしか考えられない場面はあったが、これは決定的だった。

 だってこのムービーは、他のキャラクターの為ではなく、プレイヤーの為に存在している。


「どういうことだ。俺の方が後に登場しただろ。なぜ、アズモデの役が戻っている‼」

「サラはDLCで追加されたヒロインだ。でも彼女については神・設定資料集でも触れられていた。そういう設定があったんだよ。そしてハーレムルートはアズモデルートとも言える。ゼノスはなんていうか、ゴメン」


 エステリア大陸とアーマグ大陸とで等間隔に配置されたヒロインたち。

 エクレアのムービーはユーリ王子の話が入ってるし、この後は魔王城でドラグノフやら歌姫三姉妹やらカギッコホネッコやらが詰まっている。


「ゴメンって、お前なぁ」

「いや、やっぱ止めた。謝ったの無し。俺だって、レイモンドだってナーフさせたんだ。八番目のヒロイン、サラに出番を奪われたんだし‼」

「八番目のヒロイン…だと?…どっちだ。い、色っぽいのか。それともアイザ…、べふっ‼」

「やっぱりアイザをそんな目で見ていたのね、変態。…っていうか、あたしも知らないんだけど?」

「おやぁ?二人とも知らなかったんだねぇ」

「ちょっと前まで焦ってたアンタに言われるとムカつくけど、確かに知らないわ。マロンたちは?」

「私たちは…」

「知っていると言えば、知ってる?」

「でも、アズモデの指示だしぃ」


 魔王軍幹部クラスは人間時代から繋がっている。この状況もそう。

 関係値が視覚化されて、やはりレイのオタク心が擽られる。

 ドラステ世界は、これほどまでにも『神・設定資料集』のままだ。

 だからこそ、


 ——レイは訴えたかった。


「推し変してもいいかな…」


 三天王が目を剥いた。

 キャリーがガタッと止まって、三姉妹も立ち止まる。


「オシヘンって、何?」

「そんな魔法は聞いたこともないわね」

「魔物の名前かしら?」

「オシヘンとか知らないぃ」


 勿論、伝わらない。

 でも、銀髪悪魔は止まらない。


「このまま百合展開になってしまうんじゃないかとハラハラさせる。それもまた良し‼無論、そんなのは関係ない‼だってそうだろ!サラは家族を目の前で殺されたんだ」


 ドS化によって、旧キャラのソフィア人気が高止まってしまった。

 新キャラたちに埋もれることなく、旧キャラが不動のキャラとなった。

 ある意味で新島礼の感性は普通だった。

 だがこれは、厄介オタクの逆張り思想が発揮する展開である。


「新ヒロインだ?ミーハーだ?それは違う!DLCの中央に描かれているのはユーノだ‼だから、先に設定が決まっていたサラには関しては全くと言っていいほど、注目がされなかったんだ」

「コイツ、突然どうした?」

「っていうか、アズモデに両親を殺されたのはあたしも同じなんだけど」

「そう‼エルザも俺の推しだ。だから今回()エルザを助けた‼」

「推しって…。だから助けたって言われても」

「おやおや。これは妙な展開だねぇ。ボクとしては悪役に返り咲ける展開だから構わないけれど」


 そもそも全部、アズモデが悪い。

 そんなことはどうでも良い。物語なんて大抵そういうモノ。

 両方の正義を描いてしまうと、半端なシナリオになりかねない。

 故にプレイヤー目線で、アズモデに思うことはない。


「——俺は勇者時代、サラを攻略しようとしたんだ」

「だからコイツ、どうした」

「なんだか分からないけど、モブと魔人を行ったり来たりしてるわね」


 とは言え、影に隠れる薄幸の半魔。

 その程度の理由で、最初に攻略しようと思うだろうか。


 ——答えは否。


「アズモデはサラにこう命令している。秘密の塔に来る者を全員殺せ。人間、魔物問わず殺せ、と」

「人間、魔物を問わず…だと?」

「それ、本当なの?」

「正解。流石はレイ。良く知ってるね。勇者が来る前に、姫が殺されたりしたら台無しだよねぇ」

「勇者を育てて、最後の最後で自分が戦う。アズモデらしい作戦だけれど、あたしさえ知らない話をレイが」

「神・設定資料集に書いてあることは知ってるってば」

「そういえばおかしいね。半魔のサラ。彼女はボクの部下なのに。死んでも戦えと伝えているんだよ?」

「そう、アズモデの命令のせいで苦労した…、…って‼」


 そしてレイの早口に急ブレーキがかかった。


「レイ?」

「ボクの命令の恐ろしさに気付いたかい?」


 魔王軍幹部たちは首を傾げる。

 確かにアズモデの害悪さが伝わったシーンではあって、魔人もしくはモブ・レイの顔が青く染まった。

 そう映ったかもしれないが物語は佳境。


「アズモデ。その命令はお前自身の首を絞めてるぞ」

「何を今更。ボクはこれほどに恐ろしい。だってボクはラスボス…」

「じゃなくて‼ハーレムルート以外はユーノルートに吸い込まれるんだって‼」


 八人目のヒロインの後は、遂に九人目のヒロインが登場する。

 アズモデの顔も真っ青に染まる。


「サラが死んだ時点で、お前は意味深オジサン確定。…世界滅亡も同時に確定する」


 やはり今回も秘密の塔が戦いの舞台となる。

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