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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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29/71

ゲーム世界に王子は降り立つ

 半透明の長い髪。

 アーマグで見るそれは少し暗い透明に見えた。

 睫毛も眉毛も同じ色だけど、肌の色は真っ白。

 薄着で無地のワンピースを着ている。


 その姿は薄着に着替えたユーノを思わせる。

 ただ一つだけ違う。それは瞳の色だ。薄桃色ではなく、薄灰色。


「アズモデもエルザもゼノスも酷いよ。…ぼくを除け者にして」

「ユー…ノ?いや、ユーノじゃない。お前は」


 勇者は目を剥き、そして金の髪を左右に揺らした。

 エミリたちには分からなくとも、瞳の色の違いと立ち振る舞いから、彼女(・・)ではないと、アルフレドは見切った。


 それはそう。

 そしてこのルートは駄目。

 レイも当然分かっている。分かっていたのだが


「ユーリ殿下。こ、これには事情がありまして」

「あ、あたしはアズモデの指示通りに」

「エルザ…。ボクに擦り付けるな」

「アズモデ、エルザ。殿下の御前だ。平伏せよ」


 アークデーモンは圧倒的な違和感に襲われていた。

 違和と言う言葉は間違っているかもしれない。だって、この現象を知っている。


 ——即ち。


 ユーノの時と同じ…。

 体が拒絶、いや吃驚して動けない…


「く…。ゼノス、貴様」

「アンタは」

「意味が分からん。それでも魔王軍幹部か。先が知れる…。やはり殿下のような方がいらっしゃらなければ」


 だが、それだけではなかった。

 さっき、アレだけ困惑していたゼノスだ。

 レイの言う通りに演じていたエルザとアズモデを追い越した。

 勿論それは、単に追い越したわけじゃない。


「ユーノ、お前は」

「アークデーモン。貴様、また斬られたいのか。平伏しろ‼」

「ん?君は…。あは。君もなんだね‼名前は知らないけどっ‼」

「アンタが魔王軍の王子よね。ユーノはどこ?どうしてそんなに似ているのよ」

「はぁ…。次から次へと。ぼくではなくユーノのことばかり…」


 アルフレド達の反応はごく自然なもの。

 ゼノスも王太子を前に、幹部としての立ち回りだ。

 付け加えると、竜王ゼノスはあのゼノスではない。

 勇者がエクレアに辿り着く前のゼノスである。


 驚愕しているのはレイ。そしてエルザとアズモデ。


 ——即ち、ストーリーから外れている者だ。


 三人だけが声を失い、力も失っている。


 このままでは、ユーノルートを最短ルートで駆け抜けてしまう。

 そう思った矢先、クスっと息が漏れた。


「でも、アークデーモンくんだけが異質だね」


 ほぼ透明だが薄灰色の瞳が、硬直したレイを覗き込む。

 魔王の子息に目をかけられる。それを不満に思った竜人が


「殿下。必要とあらば——」


 割って入るが、王子は嬉し気にこう言った。


「ゼノス。その前に魔王軍幹部専用転移魔法を使ってよ。ここじゃ話しにくいし…」

「承知しました。では」

「うん。ここにいる全員でエクレアに行こう。あのデーモンも忘れちゃ駄目だよ」


 レイが冷や汗を流す中、王子は部下に命令を下した。


「全員を…。畏まりました。——|魔王軍幹部専用転移魔法イツマゾク


 全員を。


 即ち——


           ▲


 エクレアの街は定期的に竜王軍が巡回している。

 それ故に魔族と相対しても襲ってくることはない。

 アルフレドたちはきょろきょろと、人間の文化と魔族の文化が融合した街を眺めていた。

 元は人間の街があり、そこに奇妙奇天烈な機械がくっついているという、古今折衷型の街だが、魔族の知識のない勇者一行には何が何なのか分からない。


アルフレド「アイザの話だとここに協力してくれそうな魔族がいるという話だけど…」


キラリ「デスモンドも似たような場所があるかも、もっと規模は小さいけどね。僕が教えてもらった技術も大半が魔族のものって聞いてるよ」


マリア「確かに、あのステーションワゴンってどう見ても人間の技術じゃないもんね。きっとパパもどこかから密輸してきたんでしょうねー。」


ソフィア「それを運転できたのがレイ…。あの者は神話に語られませんでした。アレも魔族だったかもしれませんね」


フィーネ「…そんな筈は。でも、ルーツがここにあったのは確かだし」


アイザ「んとんと。魔族は元・人間。フィーネ、たぶんそういうこと」


フィーネ「なる…ほど。アイザのお姉さんは魔族になったのよね。だったら実はレイも」


エミリ「あー、あれって竜王軍の警ら部隊だよ。アル様、どうする? って言っても人間とも普通に会話しているし、竜人族って人間の血がちょっと入っているんだっけ。なんか扱いに困るよね」


アルフレド「うん。寧ろ、ユーノのことを聞きだせるかもしれない。一旦、戦うのはなしにしよう」


???「キャァァァァァァァァァ」


厄介な魔物「あぁ? ここは俺たち魔族のテリトリーだぜ。金は全部置いてきな。おおっと、その嬢ちゃんは金になりそうだ。西の大陸にいきゃ、人間に売れるらしいぜ。残りはゴブリンにでも…」


薄灰色の剣士「お前たち。何をしている。ここはお前のテリトリーじゃあない。俺たち竜人のテリトリーだ。そういうのは別の人間の住む村でやってくれ。このゲス野郎がっ」


厄介な魔物「なんだ、こいつ。そんなほっそい腕で俺たちに勝てると思ってんのか? こっちにゃあジャイアントも象殺しベアもいるんだぜ?それともすでに頭に食虫花でも咲いてんのか? こいつ、やっちまおうぜ。ただぁ…、見た目は上玉だ。顔は傷つけんなよ!」


薄灰色の剣士「やはり魔族もゲスだな。見た目だけで判断とは。」


 そう言って男は腰に手を当てた。

 そして。


薄灰色の剣士「死と薔薇をあなたに(ブラッディローズ)!ふ、またつまらぬものを切ってしまったな。」


 彼の剣速はアルフレドでもようやく追えるものだった。

 龍の炎なのか、魔法では感じられないほどの高熱を感じる。

 あっという間に中ボスクラスを含めて二十体のモンスターを倒してしまった。


子供「ひぃ!」


 そんな時、一人の少年が道に迷った様子で飛び出してきた。

 そして薄灰色の剣士を見て、尻もちをついてしまった。


薄灰色の剣士「子供。そこを動くな。」


子供「や、やめて!」


アルフレド「ちょっと待って!」


 勇者がその様子を見て焦るが


薄灰色の剣士「——蜻蛉切り‼またもや、つまらぬものを切ってしまったな」


 少年に迫る魔物だけが真っ二つになっていた。


薄灰色の剣士「俺は人間だからといって、あまくはしない。さっさと安全な場所に逃げろ」


 人間たちは彼に頭を下げて、そそくさと去っていった。

 そしてアルフレドたちも漸く彼の元に辿り着いた。


アルフレド「き、君が助けて…。ゴメン。僕たちじゃ間に合わなかった」


薄灰色の剣士「あ? お前らはあの時の光の勇者どもか。まったく話にならん。すまんが関わらないでくれるか? 一応、俺のところにもお前の抹殺命令が来ているのだからな。……あぁ、質問をされていたか。俺は魔王軍四天王第二席、竜王のゼノスだ」


フィーネ「あなたは…、フェリー乗り場にいたわよね」


ゼノス「はて。なんだったか。ゴキブリを始末したことはあったが、忘れてしまったな」


エミリ「あ、そっか。確かに言われてみれば顔が同じような…。あれってゴキブリ?」


 彼女たちの中で、彼がゴキブリを始末していたというという気持ちが次第に強くなっていく。

 そして、嗚咽に近い感情も覚えた。


ゼノス「済まなかったな。彼奴等は邪魔をしていた。俺は俺の道で平和を掴む。世界の平和はそこの光の勇者の仕事だろ?」


アルフレド「うん。その通りだけど。その前に——」


 勇者は彼ならばと思い、右手を差し出した。

 その手をゼノスはぶっきらぼうに手で払う。


ゼノス「勘違いするな。手を組むとは一言も言っていない。第一……」


???「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ゼノス「何事だ! ガノス! ガノスはいるか!」


 すると、遠くから旋風が巻き上がった。

 ゼノスの薄灰色とは違う、赤黒い髪、中央は禿げ上がった竜人が突然目の前に現れた。


ガノス「これはこれは、いかがされましたか? 四天王第二の……」


ゼノス「いかがではない!なんだこれは……。なぜ悲鳴が聞こえる! なぜ多くのモンスターが入り込んでいる!今、姫も来ているのだぞ?」


ガノス「姫……、どこまでもお花畑なのは貴方の方じゃあないですか?元四天王第二席ぃぃ。その女はただの魔族の子供じゃないですかぁ。そんなことより、勇者と手を組むとはなんたること…、なんたる一族の恥晒し…。失礼ながら私、先日より魔王様に直訴しておりました。本当に第二席に相応しいのはどちらか?などとねぇ……」


ゼノス「まさか、一族が? だが……。くっ、姫!早く私の元へ!それから光の!もっと広い場所に行くぞ」


フィーネ「魔王軍‼まさか、この街まで‼アル‼」


アルフレド「うん。僕たちも」


 辿り着く町を狙ったかのような魔王軍の襲撃に、勇者たちも反応した。

 竜人と人間たちが一斉に走り出して、エクレア全体を見渡せる場所へ移動をした。


 そこで目にしたのは——


ガノス「どうですか……、いやぁ、どうだぁ?この方がずっと魔王軍らし…」


ゼノス「…とは思えないが?」


フィーネ「良かった…。まだ、襲われていない。まだ間に合う」


 エクレアはとても大きな街だった。

 エステリア大陸のどの街とも似ていない奇抜な街。

 その景色は初めて見るものだけれども、平和そうな人々の顔も見える。


 逆に平和そうな顔でなくなったのは、ゼノスの叔父ガノスの方だった。


ガノス「そんな馬鹿な。魔王軍は何を…。これで竜王・四天王第二席が俺の手に…」


???「あ。そんな計画だったんだね」


 そして背後から声。

 高くも低くもない声だが、一番に反応したのは勇者だった。


アルフレド「ユーノ‼」


 半透明の長い髪。

 アーマグで見るそれは少し暗い透明に見えた。

 睫毛も眉毛も同じ色だけど、肌の色は真っ白。

 薄着で無地のワンピースを着ている。

 その姿は薄着に着替えたユーノを思わせる。

 ただ一つだけ違う。それは瞳の色で薄桃色ではなく、薄灰色。


???「…違う。ぼくはユーリ。気安くユーノの名前を呼ばないで」


アルフレド「お前がユーノを?ユーノは」


ユーリ「ねぇ、そんなことより…」


アルフレド「ユーノはどこだ。ユーノを返せ‼」


ユーリ「ほんと…、煩い。ユーノはぼくのもの。勇者は魔王を倒してればいいのに」


 飛び掛からんとする勇者。

 だがユーリが手を翳すと、アルフレドの体は吹き飛ばされる。

 とてつもない魔力の波動にヒロインたちも動けない。


 そしてユーリは人差し指を突き出して、空を示した。

 そこに偶々飛んでいた、と言わんばかりのアークデーモンが登場する。


アークデーモン「おいおいおいおい。なんだよぉ。こっち見るんじゃねぇよ。って、殿下じゃねぇか」


(いやいや‼俺じゃねぇか‼確かにこのタイミングで魔人レイは登場するけれども‼てか、字幕はアークデーモンになってるし‼)


 その言葉を聞いて、ユーリはニヤリと笑った。

 そしてデーモンに向けて鷹揚に両手を掲げて、とある質問をした。


ユーリ「で、君は何をしてるの?」


アークデーモン「秘密の塔に囚われたお姫様…。リディアっつったと思いやす。そこの半魔、サラの様子がおかしいってんで」


(あれ。このセリフ。俺、知ってる。成程。レイモンドがいないから、モブが喋ってたのか。CVはレイモンドだけれども‼)


ユーリ「成程ね。秘密の塔に囚われのお姫様だって。…ねぇ、光の勇者くん。君はそっちに行ったらいいんじゃない?ユーノにはぼくが必要なんだよ。ぼくとユーノは結ばれる運命なんだ」


アルフレド「違う‼ユーノは…」


フィーネ「アル…。でも、リディア姫を放っておくわけには」


ソフィア「勇者様。お告げでもそのように」


アルフレド「でも‼ユーノが先。だから」


 勇者たちの話し合いの間に、アークデーモンは東の空に飛び立った。


ユーリ「はぁ…。ぼくはどっちでもいいけど。どちらにしても変わらないよ。何度も言うけど、ユーノはぼくのもの。ユーノが待ってる。行かなくちゃ…」


 ドン‼と再び衝撃波が走って、勇者たちは身動きが取れなくなる。

 現実で何秒かはさておき、ユーリは悠々と北へ向かって歩いていった。


 その先に見えるのは、魔王城デスキャッスルだった。


          ▲


 そしてエクレアの街はそのまま。

 ムービーは終わり、勇者たちは取り残されて、ゼノスはガノスと対峙する。


 ここから分岐を迎えるのだが、今のアルフレドなら間違いなく——


「…って、俺。ここに残ってる?」


 あのアークデーモンはモブだから、他のアークデーモンが向かった可能性はある。

 だけど、未だにモブ・アークデーモンのレイは目をひん剥いた。


 だって半透明の長い髪が目の前で靡いた。

 薄着で無地のワンピースもそよ風に揺れた。

 王子の見た目は、美少女ユーノと同じ。

 美少女にしか吹かない綺麗な風が、ユーリの美しさを際立たせる。

 …というより


「なんで…ユーリがいる?お前は——」


 この後は魔王城で登場する予定だし、さっきのムービーに従えば城に向かった筈だ。

 だが、何故かここにいて、やっぱり薄灰色の瞳で覗き込む。


 そして…、嗤った。


「伝え忘れたんだよ。ねぇ、勇者くん。君はどのみち秘密の塔にいかないといけない」

「どういうことだ。だってユーノは」

「アズモデ、エルザ。魔王城に入るためには…、何が必要だっけ」


 ムービーに登場しなかった、アズモデたちもここにいた。

 二人は顔を見合わせた後、勿論アズモデはこう言う。


「リディア姫に従い、三つのオーブを集めなければ、門は開かない」

「そう。それを防ぐためにリディア姫は秘密の塔に…」


 アズモデの、そしてエルザの顔を満足げに見つめて、王子は言った。


「だから、頑張って。…それでもユーノは渡さないけど、ね?」


 そして、今度こそ。

 ユーノは姿を消した。


 勇者に聞こえたかはさて置き、彼はこう言ってデスキャッスルに飛んだ。


「——ファストトラベル」

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