エクレア前で勇者を迎え討つ
三人の悪魔は竜王ゼノスを捕獲した。
ゼノスを合わせれば、三天王と一人の悪魔と機械端末は、エクレアの南の森の影に隠れていた。
そこでゼノスの口から飛び出したのは、あの存在だった。
「そういえばデスモンドで王子を見たぞ。あの王子は何をしてるんだ?」
「あ…、そうか。そういや、俺もすれ違った。お前に殺されなきゃ、俺が追えたのにな」
「知るか。その端末の子機の為に吸い込みやすく細切れにしただけ。魔物になったんなら、殺してないだろ」
ちょくちょく登場している魔王軍の王子ユーリ。
王子の存在はエルザもアズモデも知っている。
「ユーリ王子…。ヘルガヌスの息子という噂は聞いたことあるけど」
「えぇ。一体、どこで誰と作ったのか。ボクも知りませんし、認めたくもありませんから」
魔王ヘルガヌス。だったら王子は彼の息子という事になる。
ヘルガヌス周りの話はサラくらいしか言及がない。
ガバガバ設定故にぶち込まれた存在。
とは言え、そこに踏み込めない。
「ユーノルートを辿らなければ、回収されない。勇者にはハーレムルートを進ませる。そうすれば未解決でエンディングに進める。それがドラステ世界の仕組みだ」
勇者の前では絶対に口に出来ない話だ。
だから今まで伏せていたが、あの勇者なら絶対に辿り着く。
「でも、あたしたち何度も王子って勇者の前で言ったわよ」
「これが光のメビウスの力って言うなら、ボクに対する嫌がらせだよ。本当に止めて欲しいよね」
「因みにゼノスはどっちでもいい存在。強いて言うなら、無しよりの無しだな」
「何を馬鹿な。俺とアイザ姫は」
「今回のゼノスには同情しかないな。勇者への好感度マックスが維持される。しかもヒロイン全員がな。多分、地獄だぞ」
「何を馬鹿な事を。俺の登場はこの後なんだろ?確かに魔王城は近いが、大事なのはインパクトだ。竜人族のエリートである俺の追い上げは」
ゼノスはパーティメンバーに加入可能。
DLC以前では、ムービーイベントから強制加入。
ヒロイン掻っ攫いNTRバッドエンドを引き起こす、プレイヤーの敵だ。
彼の自信はそこから来ているが、DLC後はヒロインが抜けてもクリア可能だ。
そもそも好感度マックスだから、連れ去りイベントも発生しない。
何の為にいるのか分からなくなったキャラの一人で、当然ながら連れて行かない選択肢もある。
新島礼は勿論、ゼノスを置いて来た。
「気になるなら、もうすぐ来るから加入してみろよ。…え?そんなことまで出来るのか…」
「え…、何?」
「それはカギッコのようですが」
「こうなると完全にゲームの世界だな…」
「そいつは研究所のマシンモンスターだろう。何だと言うのだ」
カギッコホネッコはドラステワゴンで唯一登場する、そのマシンモンスター。
魔王軍は、科学集団だった過去を持ちながら作り出せたマシンモンスターは『カギッコホネッコ』のみ。
科学者全員の記憶が消えたから、という解説はあった。
とは言え、主人であるMKBが魔物になっても従っていた。
やはり異質な存在だ。
「カギッコによると、スクリーンショットだけじゃなく、30秒までのプレイムービーを保存できるらしい」
「すくりーんしょ…何、それ」
「プレイムービー。そんな破廉恥な」
「ゼノス。そういうのはカットされるから。早速だがこれを見てくれ」
スマホそっくり、かつ浮遊機能を持つ便利なソレがゼノスとレイの間に移動した。
そこで流れるのは
『勇者たま♡勇者たま♡』
アイザがアークデーモンを突き飛ばして、勇者の元に走るシーン。
『アルフレド君。ぼ、僕も一緒に…♡』
ドラステワゴン改造後のキラリのシーン。
その後も
『勇者様♡』
『勇者様♡』
『アル様♡」
『アル♡』
エミリやマリアのような特殊な出会い方もあったが、その後は直ぐにアルフレドに心酔していった。
アイザとキラリとソフィアの言動は意味不明だった。
特にアイザとソフィアは先にレイと出会いながらも、彼を放り投げて、瞳を♡の形にして勇者の元へ走っていた。
「なんだよ、これ。妙な魔法でも使ってんじゃねぇのか、あのヒョロガリ。…お前、こんな状況で今まで勇者と共に行動していたのか。恋愛とか、好感度とかの意味は分からないが…」
もしもユーノルートだからと知らなかったら、絶対に逃げ出しただろうか。
でも、振り返っても仕方ない。
「これが勇者好感度マックス現象。世界の意志だ」
「世界の意志…。それで高貴な生まれのデーモン。俺に何をさせるつもりだ」
「狙いは…」
狙いはイツマゾクで先回りしたことからも分かる。
魔人レイモンドのムービーを結果として諦めたことでも分かる。
「勇者をエクレアに入れずに東に向かわせること」
「ちょっと待ってよ。ボクの予定だとエクレアでリディア姫へ向かわせるんだよ」
「左側のスケジュールだとな。でも、右側のスケジュールは?」
「王子のスケジュールはあやふやで、見ようによっては魔王城直通とも取れるんだよ」
「そうなのか。ほぼオープンワールド的な流れ…っていうか。そこを考慮してなかったな…」
「だよね。だったら」
「いや、多分。そっちじゃない。ここにいる全員が必要ないし、見えない壁もない。…って、時間もないから、ここでやるべきことを言うぞ」
エクレアはアーマグの北西の街で、デスキャッスルは大陸の真北にある。。
ということは、ちょっと東側を通らせたら、エクレアには辿り着かない。
もっと東に行かせたら、リディアが待つ秘密の塔がある。
「東に誘導するよう芝居をしろ…だと?竜王の俺が、そんな恥ずかしい真似を出来るか‼」
「竜王って自分で言ってるだけでしょ」
「み、身内の王という意味で…」
「レイ。それはムービーのフリをするということだよねぇ。あの状態は決まったセリフを勝手に話す。ボクはいつも王子に気を使ってばかりだし」
あのアズモデと協力関係を築いている。
彼ほどイベントっほい動きをする悪魔はいない。
勿論、ムービーに於いてはエルザもゼノスも引けを取らない。
そういう意味では魔人レイモンドも相応しいが、残念ながら今は置き忘れたレイモンドになっている。
でも新島礼には知識がある。
DLC一回とそれ以前を百時間以上プレイした記憶がある。
「ある程度話は合わせられる。それにエミリは矛盾を抱えたままだし、秘密の塔への導き方は…。これはアズモデに言ってもらった方がいいか」
◇
エクレアの街は定期的に竜王軍が巡回している。
竜人族は魔物と分類されるが、魔王軍に恭順していない。
だから人間に対しての治安も安定している。
「街が見えてきたけど」
「大きな街。修道院の資料にもあります。エクレアで間違いないです」
ドラステワゴンのルールとしての定番は車に乗って移動するだ。
敵がポップして、それらが道を塞ぐ。車が動けなくなるから勇者たちは降りて戦う。
因みに車を聖水でコーティングすると遭遇しにくくなる。
魔物が気付きにくくなるという仕組みの隣に、とある伝説の戦いが描かれていたが、今は触れずにおこう。
「ん-。途中でレベルも上げたし、ゴールドも入ったし。ちょっと休憩してもいいかも?」
「休憩なら休憩ポイントで出来てるよ」
アルフレドは遠目に、人間の文化と魔族の文化が融合した街を眺めた。
元々は人間の街で、奇妙奇天烈な石やら鉄やら硝子やらで出来た建物がくっついている。
古今折衷型の街だが、魔族の知識のない勇者一行には何が何なのか分からない。
「アルフレド君。魔物は科学技術を発展させてるんだよ。デスモンドもそうだしね。一応、寄ってみた方が」
「アイザの話ではここに協力してくれそうな魔族がいるってことだったけど」
「別にいいのら。勇者たまが行かないなら、行かなくていいのら」
「え?いいの?っていうか確かに、このステーションワゴンってどう見ても人間の技術じゃないもんね。どうしてお父様が持ってたのやら」
「マリアんちが魔王軍と通じてたんじゃないのぉ?」
「あんまり考えられないかなぁ。構造は分からないし、運転も出来ないって言ってたから。だって自動で運転してるのよぉ」
「確かに。今はアルの考えている通りに進んでいるのよね。だから蛇行なんだけど」
勇者はユーノの居場所は魔王城だと決めていた。
そして、それは大正解なのだが、どういう状況かは分かっていない。
連れ去ったのが魔王だとすると、酷い目に遭わされているかもしれない。
魔王と戦うためには装備を見直すべきだが、そのまま向かいたい自分もいた。
故に街が見えてもまだ迷っていた。
そんな時だった。
「あれって竜王軍の警ら部隊…かな。 アル様、どうする?」
キィィィィィィイイイイ
勇者一行は常人では耐えられないほどの慣性を耐え抜き、そして目を剥いた。
世界に一台しかない車のブレーキとタイヤが劈く悲鳴を上げた。
神・設定資料集によると、ドラステワゴンは魔物になる前の人間が生み出した超技術で生まれている。
科学者が作ったのであれば、真に耐破壊性能を持っている筈がない。
壁にぶつかっても平気なのは、自動ブレーキシステムが搭載されているからだった。
「アズモデ…。それにエルザと」
「あれ、誰だっけ?」
「あの妙な布のデーモンでしょ」
立ち塞がられたら車から降りる。
これがドラステのしきたり。であれば勇者たちは魔王軍幹部たちを睨みながら大地に降り立ち、砂埃やらが舞い上がらせる。
「あぁ?誰の許可でこんなとこ走ってんだ?ここは俺たち魔族のテリトリーだぜ」
そこに厚手のマントをはためかせる悪魔が行く手を阻む。
勇者は彼の名を知らない。強いて言うなら『レイ』という名のモブモンスター。
「許可って何よ」
「ここはドラゴニア王国の街道です。それに私たちは」
「エルザ様、アズモデ様。少々お待ちを。王国だとぉ?こまけぇこたぁどうでもいいんだよ。装備と金を全部置いてきな。エクレアにもカジノがあんだよ。そこで一発当てて…」
小悪党然とする悪魔の後ろには、禍々しいオーラを放つ男女の悪魔が黙して立っていた。
見た目も魔力も、アークデーモンの比ではなく、勇者たちは目の前の悪魔を無視し続ける。
そこに
「お前たち。何をしている。ここから先はお前たちのテリトリーじゃあない。エクレアは俺たち竜人のテリトリーだ。そういうのはエステリア大陸でやってくれ。この下衆野郎どもが」
「アル、あいつ」
「お前はフェリー乗り場に居た…」
薄灰色の剣士が唐突に空から舞い降りた。
すると勇者たちは何やらを言い始めるが、
「なんだなんだ、こいつぅぅうう‼そんなほっそい腕で俺に勝てると思ってんのかぁぁあ? こっちにゃあ魔王軍四天王として名高い…」
「やはりゲス、そしてコモノだな。俺を知らんのか。姫、お気を付けを」
会話に被せるように大声を出すコモノ。
「……」
「あの竜人、アイザを知ってるの?」
「アイザちゃん。お姫様なの?」
やたらとアイザを意識する竜王。
直後、チッと舌が打たれて、アークデーモンが竜人を襲う。
すると薄灰色の剣士はアイザに軽く片目を閉じて、腰に手を当てた。
そして強靭な尾が大地を打った瞬間には、竜王の姿はアークデーモンの近くにあった。
「死と薔薇をあなたに!」
「ぐ…ぉ…」
「ふ、またつまらぬものを切ってしまったな」
魔物レベルでなかなか上位のゼノスの剣速はアルフレドでも追える。
彼は見事にアークデーモンは大地に伏せさせた。
とは言え、勇者は何が起きているのかしっかと見極める。
勿論、あるものかどうかを見極めている。
そして、その時だった。
「勇者たま‼怖いのら‼あの竜人怖いのら‼」
「な‼なななななななんと⁈姫。私です。ゼノスです‼」
一人の幼女が怖がり、勇者に飛びついた。
そして薄灰色の剣士はソレを見て、尻もちをついてしまった。
「姫‼姫‼そんなヒョロガリなんて…、ぐ…は…」
そんな竜人を蹴り飛ばすは金色の貴公子悪魔だ。
同時に赤毛の女悪魔がコモノアークデーモンに駆け寄る。
その様子さえも、勇者たちは睨みを利かせて観察し続ける。
「やれやれ。レイ。どうするんだい、コレ。エルザ」
「ぐぬぬ。あれだけ…。あんなに通ったのに…」
「分かっているわよ。…上治癒魔法。ゼノス、アンタねぇ。これじゃ」
エルザは顔を顰めるが、そこで喋るのを止めた。
代わりにモブ・デーモンが立ち上がる。
アルフレドたちに向かって、もう一度強そうに威嚇をする。
「大丈夫だよ。つーか、てめぇら勇者かよ。勇者の情報は知ってるぜ。レイってのがリーダーで」
「何、あいつ。レイはデスモンドに置いて来たわよ」
「勇者様はアル様です。強そうな魔物に囲まれてるからってさっきから偉そうに」
やはりモブなど知らん、と漸くヒロインたちが動き出す。
その一人、ソフィアが鞭を取り出すのを見て、コモノは顔を引きつらせた。
ゼノスが湧き喚くが、ここから三人は早口で話し続けた。
「ととと、とにかく。秘密の塔‼こっから東にある塔に!リディアっつー人間のお姫様と従者のサラが囚われてんだったか?そこを守らなくちゃならないんだよ‼てめぇらの相手なんかしてられねぇ。で、ですよね、エルザ様、アズモデ様」
「ちょっと、アンタ。簡単に教えて貰っちゃ困るわよ」
「そうだね。王子に怒られる。今は捕らえたもう一人の人間。天女のクリスタルと呼ばれたあの子もそこにいるっていうのに」
「アズモデも‼ヒントを出しちゃダメでしょ」
勇者の顔色が変わる。
険しいが、瞳が泳いだ。
「ユーノが」
「アル。これって」
「うん。ヒントのムービーだ。今すぐに」
その表情にコモノデーモン、レイは安堵の息を噛み殺した。
勿論、ムービー…ではない。
ゼノスが途中で暴走したが、全て演技。
アズモデは四天王二位。しかもラスボスの力も持つ。
——鈍足群衆魔法
所謂、置き魔法を道に設置。
そこに勇者たちを降り立つように誘導。
あとは芝居をするだけ。
ムービーはムービーを知らなければ、ムービーと分からない。
だったら、ムービーじゃなくてもムービーと誤認してしまう。
心の中でだけガッツポーズ。
後は秘密の塔に移動する素振りを見せて、イツマゾクで消えれば終わり。
100ではないが百点に近い——、と思われた。
「…何?面白そうな事をやってるね」
その声が聞こえるまでは——




