ムカつくから斬る男
エクレアの街は魔族が取り仕切り、人間が庶民側として普通の生活を送る奇妙な街だ。
その理由はちゃんとしている。
支配してる竜王ゼノスが、人間と変わらない生活をしているからだ。
もしも街頭インタビューをしたとしたら、——ではなく実際に神・設定資料集のコラムに書かれているのだが、
「え?ゼノス様って魔族だったの?」
「昨日、馴れ馴れしく声をかけられたけど、あれってゼノス様だったんですか?」
「見ましたよ、一昨日。店の前でそわそわしてるの。え?魔族?いやいや」
この通り。
そもそも、ゼノスは厳密には魔族ではない。
竜人族というザパン族の濃い末裔で、種族値的に魔王軍幹部に抜擢された。
好きな人は幼さの残る少女と大人の女で、嫌いな人は女好きの男と女に好かれる男だ。
「…そして俺を。ステーションワゴンに何故か欲情した俺を殺した不届き者だ」
「高貴な生まれのアナタが、ステーションワゴンに欲情?ステーションワゴンって何…」
「カギッコホネッコみたいなものだよ、ね!」
「ね!じゃねぇよ。アズモデもエルザもついてこなくていいって言っただろ」
「だってボクの役割はまだ来るかもしれないし、君はボクの弟だし。この方が自然だろう?」
「あたし、役目が終わってやることないから暇だし」
四天王を二人連れてるアークデーモンは余りにも目立つ。
レイがやりたいことをするには、邪魔過ぎる存在だった。
ただ、なんとなく。
居心地の良ささえ感じていたから、拒絶することはなかった。
今のレイは、イツマゾクが使えるからか、なんて勘違いをしているけれど。
「兎に角、勇者がここに来ないと始まらない」
「ボクの言葉を無視して?」
「アンタ、北としか言わなかったじゃない。北イコールエクレアじゃないんじゃない?来なかったら、役目終了よ。レイの為に頑張りなさい」
「君、ボクとレイとで態度が違わないかな。だってボクは」
「レイが言わなきゃ、そんなの無かったと同じでしょ」
在り得ない筈のデジャヴもある。
毛色は違うけれども、こんな感じを知っている気がしていた。
だけど、レイは忘れてしまっている。
「二人とも。ゼノスを探すの手伝ってくれ。なんで、四天王同士でコミュニティとか作ってないんだよ」
「さぁ…。ボクが近づくと露骨に嫌な顔するんだよねぇ」
「アイツ、ちょっと目線が気持ち悪いし」
というわけで、あの時とは違う三人組でレイはエクレアを訪れていた。
街の一画に、一応魔王軍が駐屯する兵舎もある。
エルザとアズモデは見るからに魔族。魔族が見ても、魔族の中の魔族。
そもそも黄金の瞳は上級魔族の証だ。
「ボクの最愛の弟よ。エクレアは竜人族が仕切ってる街です。態々隠れなくとも」
「何、それ。アンタが偉そうに歩くから、ここで身を潜めてるんだけど。ここにいるより、その辺の竜人族に伝えればいいんじゃない?…ちょっと、見世物じゃないんだけど?」
街に居たら人間がジロジロ見ていた。
こっちに隠れたら、魔物がジロジロ見ている。
それはそう。そしてレイはジロジロ見られていない。
「弟はそうなんだけど、妙な方向にバグってるな…。ってか、エルザは知らないのか。ゼノスは竜人族の中で浮いているから、多分上手くいかない」
「へぇ。自分は竜王で皆から尊敬されてるって、自分語りしてたけど。あれ、嘘なんだ」
「そういえばガノスという者が陳情に来ていましたね。人間が人間らしい街を営み、勇者にはエクレアは良い装備を買ってもらう。魔王軍としてはそのままにしておく方が良い…という判断したような」
「強くなってくれた方がバトルが楽しい、って謎強者理論かよ。ま、そういうわけで魔王城手前の拠点にピッタリなんだけど…」
ここで一つ訂正しておこう。
子供を作れないというのは上級魔族の思い込みだ。
とは言え、神に近い力を持った彼らは不老不死となった。
本能的に種を残す必要がないのだから、と錯覚しても不思議ではない。
故に女型の魔物はアズモデをチラチラ見ているし、男型の魔物はエルザをガン見している。
「何もしなくても来るんじゃない?アイザにもエクレアに行くようにって、あたしはちゃんと伝えたし」
「勇者はエクレアを訪れる。ボクの計画でもそうなっているしね」
「どうかな。チョリソーでもエクレアの噂話は聞いてる筈なんだ。この街が比較的平和を保っていることも。ユーノを助けたいアルが、後回しにしてもおかしくない。それから…」
アイザは好感度マックスを通り越して、勇者を支えるヒロイン隊に加わった可能性は大いにある。
何より、優先度の問題だ。アルフレドの中でレイモンドはエステリア大陸に置いて来た設定になっていた。
であれば、というよりあのムービーによって、ここに来る導線が失われている。
「今回のゼノスは知らないオジサンか何かを殺した魔物で、会ってみたい相手ではないんだよな。リディア姫救出のフラグ。拾わなくても、今のアルに不都合はない。それに俺は魔人レイじゃないし」
実はエクレアのあのムービーは諦めていた。
本当はここで勇者はレイモンドが魔人復活をしたと知る。
それくらいドラステでは大事なシーン、…だった。
だけど、それは望めない。それどころか…
「とにかくハーレムエンドを目指す為、ゼノスは確保するしかない」
「アイツを確保…ね。あ、レイ見て。兵舎の外!竜人たちが列をなして歩いてる‼」
「どうやらゼノスものこのこ現れたみたいだよ」
流石は四天王。
ステータス値が段違いだから、あっという間に見つけた。
レイはふぅと息を吐いて、アレが起きる条件は何だったかを思い出す。
そして、アークデーモンながら、四天王二人を引き連れて、ゼノス確保へと向かった。
◇
竜人族は男しかいない。
理由については本編と同じ理由で、女には外殻がなく人間と区別がつかないから、というだけ。
勿論、他にも理由はある。ザパンの女の遺伝子は基本的に劣性遺伝であり、人間と交われば、人間とほとんど変わらなくなり、一方の男は優性遺伝で、外殻がそのまま残る。
故に
「お、お、お、お…」
「お、お、お、お…」
「お、お、お、お…」
おっおっおっの団体がエルザの前を通過する。
因みに竜人『おっおっおっ』隊は内股気味に歩き方を変えたから、歩みが遅くなる。
生理現象故に仕方がないが、女は肩を竦めて白眼視する。
同時に、竜人部隊は隣にいる金髪男に睨みを利かせた。
「相変わらずだねぇ」
「相変わらずだな」
「二人とも、あたしを隠しなさいよ」
「ゼノスを釣るためだから仕方ないのだよ。ボクなんて睨まれっぱなしなんだからね」
「そして俺は眼中無し…」
だが、ここで全てを見切ったと思い込んだ男。
レイは目を剥くことになる。
「ふっ、よく見れば人間のクズだった男か。よくもおめおめと魔族になったものだ。いや、お前のような外道の方が魔族には適任だったな。いつまで俺の前に立っている。とっとと消えろ。エルザ様に近づくな」
「な…に?お前、俺のこと覚えてるのか?」
「当然だ。車にさえ欲情する変態のことなど忘れるか」
「そっちかよ‼…いや、そっちだとしてもモブの顔を認識できた?」
勇者の目には色違いデーモンくらいにしか見えていなかった。
エルザとアズモデに至っては、登場自体が大幅カットされた人間レイの顔を覚えていなかった。
とは言え、エルザも認識できていた。
魔物だから認識できた、それなら納得できないこともないが——
「貴様の臭いだ。人間の癖に竜人族の臭いがプンプンする。俺様は嫌いでな。所謂同胆拒否というやつだ」
「臭い…?同担拒否ならぬ、同胆拒否とかいう紛らわしい言葉はさておき」
「そういえば…。あたしも戦場でレイを特定できたのって臭いだったかも」
「な…。そうだったのかよ。でも、これって…」
「ふむ。面白い現象だね。確かにボクも弟にしか見えなくなっているし」
アズモデはさて置き、エルザがそれで思い出したというのは不自然に映った。
構造検査の結果で魔王軍の認識が変わったのかもしれない。
ある意味で世界の認識に影響を与えていた。
「加えて、同担拒否でもある‼エルザ様、いやお姉様‼その者から離れてください」
「アンタにお姉様呼びされる覚えはないし。アイザは今、勇者様のところよ」
「あのヒョロガリ・ハーレムのところに⁈」
もしかすると、もう一つのルートに戻れるのかも。
勇者たちの認識も変わったかもしれない。
だったら、エクレアのムービーは流す方がいいのか?
でも…、俺はレイモンドを連れていかなったからユーノルートのムービーが流れたし。
その時点でもしかして詰んでいた…?
ある。あり得る。レイモンドがいることがハーレムルートの条件の一つ…
レイはゼノスがムービーを覚えていたことで頭が一杯だった。
だから忘れていた。
アークデーモンの状態では、魔物ステータス状態のゼノスの攻撃を防ぐなど不可能に近い。
「許せぬ。ムカついた。ムカついたから」
「ゼノス。待ちなさい‼」
「レイ。意味が分からないけど、危なそうだよ」
「え…?」
「ムカついたから斬る‼…蜻蛉斬り‼」
ザンッ!
それは躊躇なく空間を二分した。
レイは大いなる間違いをしていたのだ。
ゼノスがムービー内のレイを覚えていたとしても、DLC前のレイモンドであるレイを覚えていたわけではない。
DLC後は大幅カットされたから、ゼノスはただムカついたから斬っただけ。
だから今回も同じことが行われた。
ガキンッ!
「え…?」
本当にそれに近い音がした。
油断していたレイの目前で刀身の軌道が変わる。
エルザもアズモデもムービーを知らない。
二人の力ではないとするのなら、誰か。
いや、何か。
「カギッコ!!」
「カロンが持たせたカギッコホネッコの端末?あれって、動くの?!」
「最終的に魔王城で勇者を迎え撃つんだから、動くに決まってんだけど…。ここまでとはねぇ」
両者から説得を受けたカロンは、自分のように普通は分からないと言って、血統書代わりに端末を持たせていた。
「大丈夫か?」
「カーギィィ…」
「そか、良かった」
「カギィィ」
「コーティングが剥がれただけで、その部分も自動再生される。ゼノスより強い自分が壊れるわけない…か。マジで助かったよ、カギッコ」
「な!俺の刀が欠けてる!!これはエクレアの業物…。ぅぐぁぁ」
見た目はスマートフォンに近い。
エルザはソレを手に取り、アズモデがねじ伏せた男に、そ映し出される画面を突きつけた。
「無礼者。この数値が目に入らないの?レイの母親は純血のザパン人。ザパンの国が残っていたら、間違いなく女王の血筋よ」
「ついでに言うと父親はボクの父と同じ。ドラゴニアの純血。ある意味でこの世界で最も尊いかもねぇ」
あのレイモンドが尊い?
新島礼は設定として知っていたが、他人から言われて初めて実感を覚えた。
「そう…だったのか」
ゼノスとレイの声が重なる。
勿論、意味は異なる。どっちが驚いているかというとレイの方だった。
ユーノのネタバレを防ぐ為だけに、スタトの三人は殺された。
そう思っていたが違う。
「原田は結構根に持っていた。前のP、鈴木の功績を消したかった。レイモンドの痕跡を消したかった。だとしたら──」
ユーノルートはDLCを担当した原田の執念が籠もっている。
現実世界ではただの人間でも、ここでは創造神に等しい。
「神々の代理戦争。…って、流石に大袈裟か。でも、なぁんか、忘れているような」




