勇者にならないではなく、なれないのなら
「僕…、僕…って。キラリとめっちゃ被るし」
眩暈の理由は攻撃によるものではなかった。
普段のデジャヴとも違う、心から来る気持ち悪さのせいだった。
結果として導かれる考察のせいだった。
前述の通り、DLCでアルフレドの一人称が「俺」から「僕」に変更された。
それはアルフレド役の梶田祐樹さんの提案だと言われているのだが——
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田中「アルフレド役の梶田祐樹さんともシナリオについて話されたと聞きました」
原田「いやぁ、そこでもひと悶着あったんですよ。宮西みげるさんの脚本を読まれた梶田さんがね。ユーノを守りたいアルフレドは、俺じゃなくて僕じゃないですか?って」
田中「そこで揉めたりしたんですか?」
原田「そうなんです。言われて気付いたって感じでしたよ。流石は梶田さんですよね」
田中「あ、僕、分かったかもしれません。僕から俺に変えるタイミングって難しいんですよね」
原田「そうなんです。一人称を変えるタイミングって難しいですよね。宮西さんに相談すると頭を抱えちゃって。」
田中「幼くなる…とはいいませんが、キャラが変わってきますよね?」
原田「はい。アルフレドだけじゃなくて、ヒロインたちとの会話も。だから全部見直しました。僕と梶田さんと宮西さんで、また例のサウナで(笑)」
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「こんな感じだったっけ。アルフレド周りは再収録が大変だったって」
新島礼として読んだときは「あるある」と思った程度だった。
プレイヤーとしての軽い感想だった。
「で、あの前提が崩れる。アルフレド周りは設定でガチガチになって…、自分のことを僕と言う…」
詰め込まれた設定なのに、新島礼が入って行けるのか。
僕っこアルフレドをぶち壊して、『俺デビュー』させられるかって話。
「前提が崩れちゃ駄目…だろ。俺はアルフレドが駄目だったから、アルフレドを選ばなかった。そう思ってた。ただ選べなかっただけ…?一人称が俺の男キャラで薄っぺらいキャラになったレイモンドを選んだ。そうだとしたら」
このゲーム世界、最初はアルフレドでやって、それが失敗したからレイモンドを選んだ。
アルフレドでは無理だったから、レイモンド側に突破口がある、と考えていた。
それが怪しくなる。
「ムービーで強制的に思考がジャックされるとか‼思い出が流れ込むとか‼色々とアルフレドでは駄目だった理由を、レイモンドじゃないとダメだって理由を考えてたけども‼やっぱそうだよね⁈俺がこうしてレイモンドの道から外れてる以上、記憶とかユーノとか、そんなん知らんって出来たってこと…」
我が身に起きたことを並べると、アルフレドになったから駄目だってことにはならない。
シナリオに引き摺られることはない。
そもそも、DLCの世界ではアルフレドを選択できない。
「あの既視感は?ただゲームをやったからの既視感だったってこと?」
「いつまで、そうしているつもりですか?…ただのアークデーモン」
頭を抱え、治りかけの腕がまたちぎれそうになる彼の背後に立っているのは、DLC以前では最後の最後まで対立していた悪魔だ。
「色々混乱中なんだよ。…ってか、時間が早すぎ。もう少しで俺を思い出しそうだったろ?」
「そうですか?ボクの目には、あのままユーリ様の話まで吐き出されるように見えましたが」
「出たよ、ボク…。字幕が出ないとアイデンティティを保てないヤツ」
「そんなのあたしらに言われてもねぇ。それより、こんなに上手く行くなんて」
金髪道化師の隣で、褐色の肌の顔を顰めるのは女悪魔のエルザだ。
顰め面にアズモデも顰め返す。
「上手く?全然上手くいっていない。ボクの計画は全部ダメダメだよ」
「全部、レイの言ってた通りになったじゃない。あたしの命を経験値にしろって煩く言ってたクセに」
そう、今回はムービーをどうこうしたトリックなんてやっていない。
どうしてエルザを殺さねばならないのか、とバグが発生した件も存在しない。
エルザもワットバーンもアイザも呆けてしまうくらい、あっさりと…
「そいつの言う通り。ボクはボクのアイデンティティを失いかけてる。これはメビウスによる尊厳破壊に等しい」
アズモデは、レイに説き伏せられた。
DLC以前のアズモデの役割を考えれば、それはそう。
ユーノイベントは、あのデズモア・ルキフェは登場せずに終わる。
「ラスボスの座が危ういどころか、金髪悪魔オジサンは戦う場面も与えられず、ただの意味深金髪悪魔オジサンで終わり。この後、出番あったっけ?」
ユーノ・ルートであっても、イベントは存在する。
作戦会議での右側の棒線が空白だったのは、スケジュールが空白ではなく書きたくなかったから。
「まだだよ。まだ、確定はしていない。勇者のレベルは十分、アイザ姫も仲間になった。ボクの計画はちゃんと成立してる」
「ふーん。あのアズモデもコモノになったものね」
「うるさい。そもそも君は用済みだよね!」
「はいはい。あたしの叶った筈の望みも、このままだと無意味に終わるしね。だったら…、そろそろ行きましょう。レイの体を調べて貰ったほうが良さそうだし」
ルキフェだってこんな扱いをされる世界線だ。
だからエルザとアズモデの確執は何のその。
四天王の二人を伴って、レイはあの場所へと戻ることになった。
◇
医療研究施設。
レイが魔族となった場所であり、魔族の中心施設でもある。
中心施設だから魔王軍にとって重要、という訳で来たのではない。
「あら。珍しい組み合わせね。確か勇者は…、あれ?」
「カロン。その話はまた今度。あたしの部下のアークデーモンの体を診てやって」
「後って…。確かにそのアークデーモンはあちこち傷だらけだけど…。この施設にはまだ」
「そんなことを言わずに彼を診てやってよ。ボクからもお願いだからさ」
「アズモデまで気味が悪いわね。修理のほうが時間かかるのに」
レイの体は人間ベースで作られた魔物という設定で、人形の魔物は全て同様の仕組みになっている。
その辺の人間を攫ってきて、マロン、カロン、ボロンの三人がスイッチオンすれば、新たな人型魔物が誕生する。
因みにその仕組みを覚えていないため、修理依頼が来たら新品を返すようにしている。
だからカロンは本当に嫌々、レイと名付けられたデーモンの体を触る。
「腕とか取れかけてるし。全身傷だらけ。使い方を間違ってるんじゃないの?」
「ボクのせいって言いたいのかい?」
「腕はお前のせいだろ。それ以外は俺自身だけど」
オレンジ色の長い髪のワンレン女医、それがカロン。
麗しい髪がふわっと浮く。
そして三白眼で、下位の魔物を睨みつける。
「アンタ、生意気過ぎない?」
カロンの売りは直情的な大人の魅力。
マロンはどうかというと、淑女を漂わせる大人の魅力だ。
そしてボロンはあざとい大人の魅力。
何にしても全員、大人の魅力を売りにしている。
「カロン。それはあたしの部下。近すぎよ」
「近すぎって、近づかないと何も分からないでしょ?エルザもどうかしちゃったの?——脱鎧魔法」
「カロン‼急いで‼」
「へ…?」
強制的に未装備状態にするマロンカロンボロン専用魔法。
アークデーモンのマント、それから一張羅のスラックスが剥がされる。
因みに‼
「全裸…だと⁈この魔法は画面で反映されないんだぞ。当たり前だけど‼…ってか、魔物のこれも装備扱い」
「あら、アナタ。まともに喋れたのね?」
「一応喋りますけど。あれ?喋れてなかった?もしかして」
アークデーモンの肌から温い汗が滲み出る。
エルザはアイザを送り出す存在。ハーレムルートでも、ユーノルートでも、役割を終えている。
だからこそのカロンの対応だとしたら
「時間がないの。早く体の構造を調べてってば」
「え?構造を調べる?構造を調べたかったんなら先に言ってよね。ええっと」
ちょこんと突き出たツノを触ると、オレンジの髪が僅かに輝く。
少しあって、レイは腹部に発生した猛烈な痛みで大きくのけ反る。
「うぐ…」
「「痛いからって、そんなに魔力を篭めないの! 私の魔力が弾かれちゃうでしょ?」
カロンたちは、四天王とは別の枠組みで存在する。
そして彼女が登場するのは魔王城で、四天王エルザよりも圧倒的な魔力を持つ。
何より、彼女達の役割はまだ終わっていない。
役割が終わったエルザがしつこく急ぐように言っていたのは、彼女自身が力の薄れを感じていたから。
このままではレイはただのデーモンに戻ってしまう。
ただの意味深悪魔と役割を終えた悪魔。
ここから盛り返す為に必要だったのは
「え…。どういうこと?」
もがき苦しむデーモンの横で、カロンは震える。
どうやって作ったか、思い出せない装置の前で黄金の瞳を丸くさせた。
——そして、ここに連れてきた意味を知る。
「カロン。どうだった?」
「さて、聞かせて貰おうじゃないか。知り過ぎているデーモンの正体は」
この後のカロンの言葉が、今度のレイの行動を大きく変える。
「妙…ってどころじゃないわね」
「妙な事?……それって?」
橙色の髪の小悪魔は立ち上がり、蠱惑的な笑みを浮かべた。
艶やかな犬歯がなまめかしい。
「アズモデとエルザ。アンタたちヤッた?」
「やるわけないでしょ、なんでこんなヤツと」
「君にそんなことを言われるのは癪だね。ボクだって同じ」
「…よねぇ。でもアズモデとエルザを足して2で割ったような数値なの」
二人は目を剥いた。
そして二人して安堵の笑みを浮かべた。
「やっぱヤッた?」
「やってない!」
「そもそも魔族は子を残さない!それは君も知ってるだろう!!」
これに意味があるかは分からない。
それでもレイはこっちでもカミングアウトの時間を用意した。
「俺の父親は人間だった頃のアズモデの父親で、母親はザパン人。ザパンは血の混じりを嫌うから、エルザと近しい値になる」
「どうやら本当らしいね」
「ほら、あたしの言った通りじゃない。レイはこの世界のことを知ってるの」
「ボクだって疑っていたわけじゃないけど、確証が欲しかったんだよ。本当に血縁者だったってね」
研究所はゲームに登場しない裏設定。
裏ではあるが、図解もされている公式設定だ。
「カロンさん。つまり俺はドラゴニアの血筋。それで間違いないよな?」
「う…。ただのデーモンかと思ったら、由緒正しいデーモンだったってことね」
勇者が思い出してくれない限り、裏設定でしかない。
「これで一応、時間稼ぎは出来たってことね」
「ま。ボクだけで事足りたとは思うんだけど」
「ん?どういうことよ。そもそもアンタたちって仲悪くなかった?」
エルザは二つのルートの役を終えた。
アズモデはと言うと、実は——
「エクレアと秘密の塔を飛ばされたら、アズモデは二度と出現しないんだよ」
「うぐっ!」
「ちょっと待ってよ。理解が追いつかない。由緒正しいアークデーモン君。私にも分かるように話をしなさい」
「勇者は殆どのイベントをパスできる。実はカロンさんもそうなんだ」
「へ…?」
そう、
「私も駄目?お姉様とボロンがいないから?」
由緒正しいアークデーモンは肩を竦める。
これも通常シナリオを追っていると分かることだ。
「歌姫三姉妹マロカロボロに至っては、どのルートを通ってもカットが可能」
カロンの白衣がずれ落ちて、艶めかしい鎖骨が露出する。
普段は狙ってそういうことをする彼女だが、これは本気の脱力だった。
余りにもメタメタしいが、三姉妹は最初から最後まで、居なくても良い存在である。
因って、レイに必要だったのはたった一つに絞られる。
「でも、カギッコホネッコはカット不可。カギッコホネッコに、俺がドラゴニアの血族だって再認識して貰うことが必要だったんだ」
「えぇ?なんで私の存在が検査装置に劣ってるのよ!!」
カギッコホネッコに怒りをぶつけそうになったカロンは、エルザとアズモデが拘束して別部屋で説明をする。
これでも時間稼ぎ。カギッコホネッコはデータをべらべら喋るキャラじゃない。
ただのデーモンにしかならなかったのは、カギッコホネッコのせいでもあるのだし。
結局、勇者頼み。
でも勇者にはなれないのだから、裏工作に励むしかない。
「ユーノルートだと、キラリに直してもらう未来もないんだぞ。俺の知ってる未来を教えてやる」
「カギ?」
「…って感じだ。だから俺のことをちゃんと認識してくれ」
「カ、カギィィィ…」




