気付かない勇者に気付く悪魔
レイのデッドライン。
今回は超簡単だ。レイモンドになれない彼は、死即ちモブ再生。
ただのデーモンとして、いつか再生されるかもしれない。
勇者がのんびりと全員分のヒロインイベント回収をしたら、記憶が復活しないでもない。
「しっかりとレベルを上げて、きっちりと仕留める。経験値お化けを教え過ぎたかも」
主人公がまるで意志を持っているかの如く振舞う。
しかも勝手に動く。意思を持つこと自体はよくあるストーリーだが、勝手に動くのは在り得ない
「やるべきことが分かってて、やれる能力を持つ。当然と言えば当然だけど、…本当にそうだっけ?それって結構難しいような…」
勇者を待ちながら、レイは一人で首を傾げていた。
今の勇者と自分を置き換えても意味はないのかもしれないけれど。
未だにレイモンドを選ばないといけなかった理由は確定していない。
◇
アルフレドは仲間を集めて、ヴァイス砦攻略に向けての準備をしていた。
「あれはムービー?」
「最初の襲来は間違いなくムービーでしょうね」
ヒロインたちも分析は欠かさない。
ゲームの世界とは思えなくとも、女神メビウスへの信仰と置き換えることが出来る。
神が町の人々に啓示をし、道しるべとして情報を残していたとしたら。
「皆、東の魔物の砦を怖がってたね」
「うん…」
「それとあたしの話と同じことも言ってた」
「情報は二つに分類できそうなのですが…」
「勿論、アルフレド君は東の砦を叩くよね!」
「え?えっと…」
この世界の人間には理解不可能な場所さえも、女神の信者は迷わずに探した。
何もない部屋。何もない壁。
あるいは獣道。あるいは道がない木々の隙間。
あるいは本棚の後ろ。あるいは横から押せる本棚の後ろ。
時には探偵のように、時には盗人のように、女神が残した啓示を探し求める。
「ユーノちゃんと思われる人影。それから魔物の気配」
「東ではなくて、北を向いていた」
「北にはエクレアという人間の街があるってチョリソーの人も話してたし。その更に北に、魔王がいるって話だし」
「うん。だったら北を目指すべきかも」
「アル、東の砦で人間の女の子を見たって人もいたわよ」
「フィーネが聞いた女の子って予言の子かなぁ」
「予言…か」
フィーネとアルフレドが中心のパーティだ。
勿論、フィーネの周りには四人の賢者がいる。
そのヒロイン全員が頭を抱えていた。
「目撃者の話だと、薄い紫の長い髪だったとか?」
「ユーノの髪は薄いけど紫じゃないよ」
「薄い色ではあったんじゃない?見る角度によっては紫に見えたのかも。あの女悪魔も知ってたし」
「僕も賛成だよ。魔物は絶対敵だし」
「だけど、あの女悪魔。これで逃げたの何回目?次も逃げられるかもよ」
今までは兎に角東に行くだった。
でも知らない大陸で、東と北という選択肢が生まれた。
アルフレドの目線は高く、ひたすら北を向いている。
ただ100%の確信はなく、本気で迷っていた。
「あ。そういえば。エミリ、アレ持ってる?」
「マリアも持ってたじゃん」
「アタシは動き回るから、どっかに置いてきたの」
「何それ。あたしが動いてないみたい。ちゃんと動いてるからね!はい、これ。フィーネにも聞こうと思って。化け物が着てたんだけど」
そこで登場するのが、布の切れ端だ。
余りにも特徴的過ぎる、ギラギラした布地。
フィーネは勿論、思い出す。
「コレって、スタトの幼馴染が着てたかも!アルも見て」
「確かに同じだね。でも、デスモンドで別れたから。でもそうか。レイは自分たちは王家の血筋とか言ってた。もしかして、エクレアの服なのかな」
「それ、本当?」
「本当かは分からないわ。彼のご両親は殺されたの。それから長老様も。アル、どう思う?」
「レイの?うーん。今はそんな」
「そっちじゃなくて。どうして長老様まで殺されたのかしら」
勇者だって思い出す。
アルフレドはデスモンドでレイと別れた。その認識で止まっていた。
今回の勇者たちの目線では、レイの後ろに魔物の影が現れたところで、そのモニターは消えた。
扉は開くが、ゼノスが気味の悪い化け物と何かの肉塊の上にいただけ。
モニターとその場が同じ場所かも分からない。
そしてユーノを探してフェリーに乗った。
だからレイが居なくなったのはデスモンド、ということになる。
少し無理はあるが
「長老様とアーモンドさんは…。ユーノが誰かを知っている風だったから…かも」
「そう…よね。私も同じことを考えていたの」
彼の中での優先順位が違うから、レイの行方は後回しになっている。
そこに現れたのが、奇しくも
「その通りだぜ。いいところに気付いたじゃあねぇか、勇者御一行様よぉ‼」
やたらと犬歯の長い魔物だった。
しかもソレは木の枝に立ち、人語を話す。
勇者たちは即座に臨戦態勢で構えるが、顔を引き攣らせた。
「盗み聞きとは卑怯なアークデーモンね」
「フィーネさん。悪魔とはそういうものです。人質を取るとこも」
「おいおい。集団で倒すことしか考えてねぇテメェらに言われたくねぇよ。ここは取引と行こうぜ」
アークデーモンは絢爛五十衣を纏う少女を小脇に抱え、自身の姑息な行為を正当化する。
その隙を突いて、黒髪白衣の少女がグレランをぶちかます。
「魔物破壊兵器2号‼」
勇者たちは一瞬、目を剥くが彼女の行動は正しかった。
人間には通らない武器の使用。間抜けな魔物ならば。
でも、そうはならない。
「避けられた?てっきり、盾に使うと思ったのに」
武器の性能を知るアークデーモンは騙されない。
そして悪魔の思い通りになるかと言うと、やはりそうはならない。
「ったく。その武器はイチイチ危ない。口上くらい言わせてくれよ。俺の名はレ…。な‼」
「勇者たま‼勇者たま‼」
魔法弾を放ったキラリを含めた勇者たちには、避けた拍子にうっかり手を離したように見えた。
「こっち!走れる?」
「うん!」
「マジかよ。知ってたけども‼」
勇者の仲間になるヒロインは、勇者と同じレベルで登場する。
アークデーモン・レイは知っていた筈なのに、幼女のような手でバチっと弾かれた。
想像以上にレベルを上げていたという意味するが、もう一つ理由がある。
DLC以前とレベルの設定が異なる。追加エピソードだから、必要なレベルが上がったから、体の記憶が戸惑った。
何万回もクリアをしたレイ自身も気付けないことだった。
「凄い速さをこの子って、噂の六人目?」
「へぇ。これは渡りに船ってやつ?」
「馬鹿な悪魔が、ただ馬鹿をしただけだよ」
一人の魔物に対して、複数でボコるようなゲームだ。
その逆もあるので、一概に卑怯とも言えないが、アークデーモンにとって絶体絶命のピンチには違いない。
「じゃ、その馬鹿なアークデーモンを倒して、さっさと北に向かいましょう」
「ちょっと待て!俺は取引しようっつってんだ。ってか、言葉が通じても俺がレイって気付かないってどういうことだよ!!」
「取引って。人質はもういないのよ」
「やっぱり馬鹿は馬鹿なんだよ。僕の魔物激痛砲で痛い目に遭わせましょう」
「キラリはさっきから物騒すぎる。お前にとってもマジで有用な取引かもしれないぞ?」
それでも魔物は引かない。
勇者が目をあわせても、彼がレイだと気付かない。
気付かれないと知っても、悪魔は嗤う。
キラリのようにそれが愚かだと思うか、エミリのように——
「エミる斬り‼‼‼…え⁈また、あたしの攻撃が躱された?」
「偶然でしょ。アル‼」
「分かってる。こんなところで立ち止まれない。雷斬撃突破‼」
幼馴染も容赦はしない。
アルフレドは現時点の最大火力スキルを投入した。
「あの時と同じ。だけど…。アル、ユーノの話を聞きたくないか?」
「え…」
転生した日と同じ。でも、打ち抜かれたら即死の一撃。
ただ数日前とは違う。あの時と変わらず、今度は言葉は届く。
そして勇者の剣が止まる。
「アルフレド君。悪魔の話を聞いちゃ駄目」
「ちょっと待って!その悪魔は何か知ってる」
「…全体爆発弾‼」
「キラリ、ダメ‼」
だが、放たれた砲弾は止まらない。
その技は物理ダメージで、人間にも通る。
通るが、勇者のHPを削り切る程ではない。
──本当に?
「伏せろ、アル!」
紫の分厚いマントが翻り、この場の全員が驚き戸惑った。
声に出して、態度で示した張本人、レイさえも我が身を疑う。
「どう…して…?」
「どんな攻撃でも死ぬ時は死ぬ…。俺たち魔族と違…って?ったく、俺が聞きたい」
体が勝手に動いた、それだけじゃない。
エルザ部隊の象徴の紫のマントを使って、勇者の体を包み隠した。
格が上がって分厚くなったから、アルフレドも自分も軽傷で済んだ。
まぁ、少し前まで一緒に戦っていたし?
向こうは覚えてなくても、こっちは覚えてるし?
無意識に動いたって、何も不思議じゃないし?
──いや、それっておかしくない?
一度、アルフレドでこの世界を経験している。
でも、ドラステの装備にマントはない。
「違う。僕はそういうつもりじゃなくて」
そのマントの外側から声。
「俺もそういうつもりじゃないよ、アル。何か間違っただけで」
「え?僕は何も言ってない…けど」
そのマントの内側からも声。
「は…い?」
「はい、じゃない。さっき言ってたユーノの話ってなんだよ」
「そうよ。今ので機嫌とったつもり?キラリ、気にしなくていいわ。アルならあれくらいどうってことないし」
立ち眩みを覚えそうな感覚がレイを襲う。
さっきのキラリの攻撃によるダメージは、アークデーモンの上位体相手だと、大きなダメージだった。
フィーネの言った通り、今の勇者なら守る必要はなかったかも。
「その取引、乗るよ。有用な情報だったら、…殺さない」
「アルフレド君。悪魔と取引は」
「キラリ、ゴメン。今回だけだから。僕の我が儘…」
「僕だって」
「ちょ…。ちょっと待ってくれ。キラリ、俺はお前の母親のことも知ってる」
「え?えぇ?」
フラつきながら、レイはキラリが好きそうなワードを唱えた。
そのワード選びは会心の一撃で、眼鏡をズラして少女は狼狽えた。
「その前にユーノのことだったな。ユーノはアル、お前と一緒にスタトに来た。知っていたのは俺の両…、じゃなくて村長夫妻と長老の三人」
「あのアークデーモン、何を言ってるのよ。ユーノちゃんの居場所を聞いてるんじゃないの?」
「やはり、無駄でしたね。勇者様。私がその邪を払います」
「マリアもソフィアも待って。…その三人って。フィーネ!」
「えぇ。そういえばアークデーモンはエルザ部隊。私たちの村を襲ったのもエルザ部隊。やっぱりユーノを狙ってた…」
どうにも拭えないユーノルート。
ヒロイン達も完全に追従している。
「どうしてユーノを…。ユーノは大人しいけど、普通の女の子で」
「魔王が必要としていた…って、聞いたような」
「魔王が?だったらユーノを連れ去った魔物って。隣にいた魔物の正体って」
「待って下さい!伝承にはそんなこと」
「伝承が間違っていた…のかも」
不味い。不味い…不味い…不味い不味い!
なんでこう!ユーノの話ならスムーズに進むんだよ!
このまま魔王城に突っ走っちゃう勢いなんだけど‼それダメなんだけど‼
ってか、その前に俺を思い出せよ!
ユーノの話をフィーネに教えたのは俺だぞ!
思い出話の中にも俺はいる筈だし、この会話の中に俺がいる方が自然だろ!!
他のシナリオなんて、存在していない。そんな気さえさせる。
そのせいか、ダメージのせいか、レイの頭の中に靄がかかっていく。
「それでユーノは魔王城に…」
アルフレドが遂に一歩前に踏み出した。
それに呼応するように、若しくは靄を掻き消すかのように、身長202cmの長い腕が勇者の体を大きく薙ぎ払った。
勇者への攻撃とも取れる行動で、辛くもアルフレドは盾で防ぐ。
ズゥゥン‼
同時に天から白銀の光。
雷鳴のような轟音を伴い、何かが落下した。
「な…に?今の音」
「アル、大丈夫?やっぱりアイツ」
「フィーネ‼勇者様‼上を‼」
目の前のアークデーモンから視線を剥がすほどの存在。
その白銀の槍が、レイの長い腕を削ぎ落したことにも気付かない。
圧倒的な存在。金色の瞳、金色の髪、道化師のような装いの男。
「アズモデ…。なんでアイツが」
「勇者たま‼わらわを追ってきたのかも‼」
レイは自らの右腕を失い、大きく舌打ちをしたが誰も見もしない。
結局、アークデーモンでは相手にされない。
それはそう。ネームドと言っても、エルザが勝手につけただけ。
魔人レイには遠く及ばない。ましてや四天王の一人及び、ラスボス様相手。
「六人目のヒロインをお迎えになられたようで。東に進む理由はないので北へ。そうです、エクレアの街へ」
「ゆうしゃたま‼北へ‼アズモデは怖いのら…」
「く…。分かった…。どっちみち北に行かないとなんだし」
アイザの必死の叫び
アズモデの圧倒的な魔力に軽く目を剥いて、勇者たちはゆっくりと離れていった。
レイを一度も見ることなく、北へ向かった。
因みにその間——
ずっとプレイヤー目線の悪魔は、一つの可能性に気付いて震えていた。
「一人称の変更…。それってつまり」




