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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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24/71

人の言葉を手に入れたアークデーモン

 気がつくとレイは草原にいた。

 ここがどこなのか知っている。


「ザパン村…の光景」

「…ん?」

「お姉たま! おかえりなのら! わらわ、今日もがんばったぞー!ひゃ‼」


 アイザはザパン村の民族衣装・絢爛五十衣を纏う。

 姉の隣の知らないデーモンを見て隠れてしまった。

 気弱な性格の幼女は


「人間か。実験で成長が遅れているけど、十七歳。原田はアレだけコンプラ、コンプラ言ってたんだ。当然、変更された」

「お前、アイザのことをどこまで…」


 ──囚われの姫。エルザの妹。魔物化すると年齢が若返る。

 元々、エルザもアイザも人類神化計画の実験対象だった

 半端な実験で終わったことで、アイザの成長が鈍化した…という設定に変わった。

 心の成長も鈍化したから、幼子同様に怯えている。


「…いや、それはいい。デーモン。お前、名乗りたい名はあるか?」

「名乗りたいって。個体名でもレイじゃなかったか?あ…、レイだと伺っており…。え、そういえば名前決定の件がそもそも無かった…。あそこから気付けたのかよ…」


 設定資料的な話。

 レイは脳内でペラペラと捲る。

 その時、鼻腔をほのかで甘い匂いが刺激した。


「って、え?!」


 同時に首筋に軽い痛み。余りにも軽すぎたからか、心地良ささえあった。

 そして現実に戻って、激しく狼狽をした。


「名付けと契約。正式には額に口付けをするのだが…、レイは背が高いから…」

「えと、お姉たまの彼氏?」


 これが今回の魔人レイ誕生の瞬間だ。

 まだデーモンからアークデーモンに変わった程度だが。


「ってか、俺!エルザ様に!噛まれたっ!!」

「う、うるさい。慣れていないから歯が当たっただけで」


 褐色肌でも分かるほど紅潮させたエルザ。

 そして、やっぱエルザもヒロインで良かったじゃん!と、記憶を無くしたレイは心から叫ぶのだった。


     ◇


 因みに今はテーブルに三人で座っている。

 正面にはアイザ、そしてアイザの隣にはエルザ。


「あの…。ワットバーンは」

「砦で番をさせている」

「そうじゃなくて。ネームドにするって、大変なことなんじゃ」

「力を与えるのが、一人でも二人でも余りに変わらない」


 そして目の前には十歳下駄を履いた人間の少女。


「お姉たまを連れていく悪いやつじゃないのらね!」

「悪いも何も、…レイはあたしを助けてくれた。レイが居なかったらこうして、アイザと話すことも出来なかったの」


 因みにレイは理由をここで知った。

 肩を跳ね上げて驚いた。

 勿論、助けたことは分かっていたが。


「えと、なんで俺…だと?」

「魔物は簡単には死なない。特に四天王クラスになると。アレだけ断片化されても、コアが無事ならね。どうにか意識を保っていた」

「マジ…か。あの状態でも意識があったのか。だったら分かるだろ。助けたのは俺というよりあのイベントだ」

「確かに、そうかもね。でも、レイは確信を持ってあたしを運んでいたわ。あの場に投げ込めば、あたしが助かると分かっていたんでしょう?」


 鈍い痛み。

 それは魔物が死ににくいと知っていたから。

 ムービーってそんなものだから。

 決められた未来だから。


 いつものデジャヴだが、いつもより目眩を感じていた。


「かもしれないくらいだ。運が良かっただけだよ。それより…。名前をくれてありがとう。これで漸く…。…うぐっ、」


 今度は強い痛みが走った。

 しかも横から。さっきのも横からだったと、レイというアークデーモンは思い直した。


「わらわも話したいー。二人で難しい話、しすぎなのら!」

「アイザ。いつの間に…」


 二対の黄金の瞳。姉妹ではなく、実験の影響だ。

 血の繋がりを強いて言うなら、髪の色が紫系統であること。

 それはさて置き、


「あれ?青く光らない。俺はレイモンドじゃない…」

「ん?レイではなく、レイモンドが良かったの?」

「違くて…。レイはレイなんだけど」

「レイはなんなのら?」

「ワットバーンと同じよ」

「アークデーモンのつおいのってこと?」


 即ち、魔人レイモンドではない。 

 レイモンドは本当に死んでいるのかもしれない。

 ここから先、人間が魔物に変わった事例が多く登場する。

 当時のレイモンドは、唯一無二に等しい存在だったのに、人間から魔物に変わるパターンまでもが希釈されている。


「勿論、強いわよ。噂の勇者に対抗できるくらいには。だからレイ」


 そして今回も、またやって来る。

 姉が妹を勇者に差し出すシナリオだ。

 ただ確かに、今回の設定なら少しは自然な流れになる。


「アイザのことを頼みたいの。アイザは人間なの。いつまでもここには居させられない」

「なら、お姉たまも」

「アイザ。分かっているでしょう?あの怖い男は——」


 ここであーだこーだ、と説得。

 若しくは主役級であるレイモンドの格をちらつかせて世界を騙す。

 以前は苦労して、バグも利用して、やっとのことで打開した。

 その時のノウハウは記憶と共に消し去った。


 でも…


「それなんだが。俺もアイザに賛成。エルザも勇者と戦わずに逃げるべきだ」

「え…、だ、駄目よ。それが出来たら一番なのはあたしも分かってて」

「分かってるならそうすべき。その怖い男ってアズモデのことだよな」

「そうよ。魔王軍の四天王、参謀のあの男は」


 今回の件は違う。

 レイは最初から、死を選び、裏でゲームを進行させようと考えていた。

 勿論、前回も考える時間はあっただろう。

 でも違う。考える為の材料の数が全然違う。


「二つ目のプラン。アレはやっぱりおかしい」

「二つ目のプラン?突然何?今考えることじゃ…。確かにアズモデが送ってきたと言ったけど」

「なら分かるだろう。あんなのアズモデらしくない。なんで未定のプランをわざわざ入れた?」

「何が起きるか分からないからでしょう?実際、あたしも予定外の動きに殺されかけた」


 魔人レイではなく、アークデーモン・レイは肩を竦めた。

 エルザの魔物レベルは38。人間よりもステータスは高い。

 即ち、知力も。それでも分からないらしい。アイザのことで頭がいっぱいだった。

 そうかもしれないし、それさえも同じ意味かもしれない。


「アズモデらしくない。アレにはアイツの私情が含まれていた」

「レイ?一体、何を言って。アズモデは元々、自分勝手なヤツで」

「だけど、ペース管理だけはやけに厳しい。厳しいって言うかアレだな。自分の手の中で動いてるコマを見るのが好きなんだ」


 エルザは口を開けたまま、首を傾げた。

 レイの話が分からないではなく、レイが話すのが分からない。

 部下が自分より優れていた、とか考えない訳では無いが、異様。


「大体、想像はついてるんだ。左は勇者のスケジュールで、右の奇妙なスケジュールは王子。ユーリのだろ?」

「アナタ…。王子のことまで知っているの?マロンの話によると、ただの人間の魔物化よね。人間がどうして」

「俺がどうとかって、この際どうでもいい。予言師とか神託がどうのと言われても意味なかったし。ってことで、アズモデと話したい」

「ってことでって。あたしの方が立場は下だし、レイはあたしの部下だし」


 因みに話している間、アイザはずっとレイの脇腹を殴っている。

 頭を撫でたい気持ちをぐっと堪えるが、


「お姉たまとさよならしなくていいの?」

「…しなくていいように、最大限の努力をする…、って弱いか。ちょっとだけ離れちゃうかもだけど、その後はずっと一緒に居られるようにする」


 結局、柔らかな髪を撫でて、やはりデジャヴを感じた。

 その間、一度もレイモードは発動しなかったし、アイザのその後のことを考えると、とっても寂しいとも感じた。


「アイザが戻りたいと思ったら…、の話だけど」

「わらわはお姉たまとずっと一緒がいいの!」

「アイザ。だから、ね。アイザはこれからは人間として」


 勇者好感度マックスになってしまう。

 まるで娘を嫁に出す気分だが、そこでエルザの本当の目的を漸く理解した。


「俺って今、人間の言葉を話せてるってことか」

「その為にアークデーモンにしたんだから、当然でしょ。アイザを勇者たちに引き渡す役目をしてもらうつもりで」


 その場合、ワットバーンもエルザもいない。

 レイというアークデーモンも必要ない流れだが、エルザは必要だと感じたのだ。

 彼女がそう思った感性こそ、これから必要かもしれないことだ。


「役の運命はちゃんと見えている…のか」

「役というより役目よ。あたしは」

「とにかくエルザ。これから先のことは分からない。だから…、ワットバーンを呼んで欲しい」

「ワットバーンを?でも、アレには見張りをしてもらってて」

「なら、こっちから行くかな。言葉も話せるらしいし」


 DLC以前では導けなかったことも、今ならば可能だ。

 理由は勿論、二つのシナリオが決まらないまま進むようになったから。


 レイがアイザに手を差し出すと、驚くべきことに直ぐに飛びついた。

 エルザは頭を抱え、そのままの体勢で連絡をすると、彼も直ぐに現れる。


「エルザ様。お呼びですか」

「彼があたしが言ってた男…」


 すると即座にアークデーモンは頭を下げた。

 ワットバーンが登場する以前に起きた、最初のエルザ隊の壊滅。

 エルザは肉体を取り戻して、こちらへ戻って説明をしていた。

 彼にとって上司エルザは命を捧げても良い存在だ。


「ちょ、ワットバーン」

「この度はエルザ様をお助け頂き…、誠に感謝しております。この恩は決して」

「だったら、その恩をさっそく。勇者は今、どこにいる?」

「恩…?勇者?」

「勘違いするな。恩が勇者の居場所を教えること。それ以上でもそれ以下でもない」

「承知しました。…砦の者に調べさせたところ、レベル上げがもうじき終わるかも、と。二日後にはここに」


 その言葉にエルザは険しい顔をし、アイザは悲しそうな顔をした。

 胸を撫でおろしているのなんて、たった一人しかいない。


「良かった。エルザ、アイザ。こっちから迎え討つ。今からもう一度、チョリソーに向かうぞ」

「レイ!勇者はつおい。お姉たまが…」

「心配するな。勇者と戦うのは俺だ。その時、アイザをうまく引き渡す。エルザは」

「アズモデの相手…ね」

「それでは私は。私もエルザ様と共にアズモデ殿に」


 魔人レイではない。レイモンドではない。

 だが人語を手に入れた。

 レイはもしかしたら今回、初めて楽しいと感じた。


「アズモデも俺だよ。エルザは遠目に待機。ワットバーンは…、エルザの近くでいいか」

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