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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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21/71

勇者到来。エルザ部隊は壊滅。

「遠くに見えてきた。あれがアーマグ大陸…」


 アルフレドはフェリードラステ号の甲板に立ち、アーマグ大陸を眺めていた。

 フェリー内にユーノは居なかった。

 魔法のように消えてしまった。ではなく、イツマゾクという魔法で連れ去られたことを意味する。


「これから憎き魔王を倒しに行くんだよね?」

「…その前にユーノを助ける」

「勇者様。予言によると」

「分かってる。その後、ちゃんと魔王と戦うから」


 彼の心の中で、ずっと靄が掛かっている。

 二度も連れ去られたのだから、こうなっても無理もない。

 ヒロイン五人議会も頭を抱える状況だった。


「アル様」

「本当に大丈夫。ちゃんと分かってる」

「アル。この戦いは」

「だから‼分かってるってば‼」


 勇者は海上でずっと塞ぎこんでいた。

 アルフレドらしくなく、誰とも話をしなかった。

 若しくは


「ユーノがいないと駄目なんだ。攫われると分かってて、みんなは」


 拭えない不信感。

 彼女たちの言い分を、アルフレドは理解しようともしなかった。

 運命だったと言われても意味が分からない。

 高速スクロールバッドエンドとか言われても、何の話か分からない。

 ヒロインたちは裏で、あれこれと話し合っていた。

 その結果がこれなんだから、信用なんてできない。


「偉そうな奴を見つけて、ソイツを…」

「あの…。その…」

「次は大丈夫だから。ユーノ…」


 このストーリーは主人公アルフレドが描いていく。

 ならば、ヒロイン達にも変化が起きる。

 

「そもそも、こうなったのってどうしてだっけ」


 エミリが先ず首を傾げる。

 すると初期値で設定されたままのキラリが答える。


「魔物が悪いんだよ。僕のお母さんを奪ったのも魔王軍だし」

「そうです。ミッドバレーを焼いたのは紛れもなく魔王軍」


 東から順番にドミノが倒れていく。


「マリアも襲われたし」

「お父さんが殺されそうになったし」

「スタト村だって…。ユーノが攫われたのだって、魔王軍の幹部のせい。…そうよ。私たちは魔王を倒す為にここに来た」


 アルフレドへの好感度マックスが、この状況を補完する。

 あるべき心へとヒロインを導く。

 その結果、幼馴染フィーネの心からも知らないオジサンが消えていく。


「だからユーノを取り戻さないと。魔王はそれから」

「きっと、メビウス様の試練ですね」


 オジサンは戦っていない。ずっと後ろで見ていたオジサン。

 オジサン(どこかの誰か)が居ても、居なくても過去も今も未来も変わらない。


「アル。私たち、間違っていたかもしれない」

「だから今度は一緒に」

「ユーノちゃんを助けようね」


     ◇


 フェリーはアーマグ大陸の町の桟橋に停まった。

 大きなランプウェイの上を勇者とヒロイン入りのステーションワゴンが徐行する。

 キラリの案内で、車はスムーズに上陸出来した。


「チョリソーの港町で情報を集めよう。ここから東にある魔王軍の砦にユーノがいるかもしれない」


 アルフレドは窓際に座っている。

 彼の隣にキラリ、ソフィア、マリア、エミリ、フィーネ。

 コの字型のソファーの中央はマリアとエミリが陣取るという、ハーレムらしからぬ光景になっている。

 勇者は少しでも情報をと周りを見回している。 

 そんなアルフレドの顔にも、疲れの色は浮かんでいる。


「勇者様。少し休みましょう」

「僕にそんな時間は」

「アル、落ち着いて。ユーノを利用するつもりなら、一度自由にしない筈。何か条件があると考えられるわ」

「それはそうかもしれないけど」

「あんな船に閉じ込められたら、頭も鈍っちゃうよ」


 ヒロインの変化に半分戸惑うも、ユーノを先に救出する方針を彼女らも固めた。

 故に勇者も僅かに態度を軟化させる。


「…うん」

「ひとまずはここに拠点を構えて、情報収集しませんか?魔王軍の拠点があるのなら、尚更です」

「そうだね。東に行くほど強い武器と防具が手に入る。武器屋と道具屋のチェックもしたいかな」

「アル様。もう一つ忘れてません?どんな魔物が生息しているかも調べないと」

「あ、そか。レベル上げ」

「とかなんとか言って、エミリは体を動かしたいだけでしょ」

「それ、分かる‼マリアも動かしたーい! ずっと船に揺られて、なんか体がムズムズするぅ!」

「僕はマシンのメンテしたいかな。海水ってあんまり良くないんですよね」


 勇者一行は、エルザが示した左側のスケジュール通りに行動を始める。

 資金はエクナベル財団のお陰で豊富にある。

 『宿屋の確保』がRPGの基本だと知っている。

 情報集めが大切なことも学んでいる。


「六人、それぞれ個室をお願いしたいんですけど」

「個室では六倍ですが。…お金はお持ちなのですね。最近はお客さんがいないから助かります。それでは直ぐにお休みになられますか?」

「えっと…、どうしよう」

「アル、ちょっと待って」

「え?」

「先程は休みましょうと申しましたが、勇者様。少し、気になります」


 勇者は戸惑うが、五人のヒロインは全員が違和感を覚えていた。

 心は収束しても、知力は裏切らない。


「今までって、そこに訪れるとイベントが発生してたよね」

「マリアたちはおっきなフェリーでの移動だし、普通に考えて絶対にバレてるし」

「部屋は予約して、武器と防具を先に揃えましょう」

「あ…、そういえば。キラリ様」

「様はちょっと」

「こちらに買い物リストがあります」

「買い物リスト…?凄い。僕が欲しかったものがリスト化されてる。これも大修道院で?」


 ここが一つのポイントだった。

 勇者が紡ぐストーリーだとしても、オジサンを忘れても、物体は残っている。

 ただ、補完された記憶が作用したソフィアは、首を傾げつつ、何となく頷いた。


「…そうなんだね。見てきていいかな」

「アル様。一緒にいこ!」

「アル!私も行くわ」

「では、私は町の人に話を聞いてまいります。明日以降は拠点ヴァイス攻略ですもの」

「うーん、マリアの装備できるものって、次の街までないんだよねー。色々装備できる筋肉エミリが羨ましいなー」

「ちょとー、あたしを脳筋ゴリラみたいに言わないでよ!」


 キラリは渡されたメモを見て、感慨深く頷いている。

 勇者達はレイの伝言通り行動しているが、その存在は消えている。

 それらを伝承と置き換えて、この時点で必要十分な行動を取る。


「それじゃ。宿に集合で」

「一応、制限時間も決めておきましょう」


 そして、彼らはイベントが起きる匂いを嗅ぎ取って、戦闘の準備を始めていく。

 戦闘が一回とは限らない。それもちゃんと知っている。

 考えて、今できるベストな状況を作り上げていく。

 きっと明日、何かが起きる。


「明日の朝かもだし、夜からかもだし。早めがいいよね」

「うん。みんな、…あり…がとう」


     ◇


 アルミラーZという獰猛な一角うさぎ、サーベルタイガマンという獣人、巨体が売りのキングベッドスラドン、そしてアークデーモンが勢揃いしている。

 その中に、雑魚デーモン・レイが混じっていた。

 モブ・レイを除く、それぞれは同じような見た目の部下を、百体単位で引き連れている。

 これだけ見ると魔王軍が負ける道理はない。


「てめぇ。また列を」

「悪い‼どうしても前に行きたいんだ」


 陣頭にはエルザが立ち、脇に赤いスーツを着たワットバーンが控える。

 ワットバーンの部下もちゃんといる。

 ワットバーンはアークデーモンだが、脇の二人のアークデーモンより強い。

 名前がついているのと、色が違うのとで強い。

 だから彼クラスになると、中ボスという認識で良い。


「手抜き…、じゃなくて超越液の配合比率。じゃなくて‼俺は前線がいいの‼」


 デーモンはアークデーモンよりも薄いマントを靡かせ、前に出ようとする。

 その薄いマントはアルミラーZの角に引っかかって、盛大にコケる。


 痛いし、不味い‼何をやっても上手くいかない‼


 やることは分かっているのに、体が上手く動かない。

 そして、いつの間にか魔物の群衆に呑み込まれる。


「アルのやつ。絶対に俺のことが頭から消えてる。でもっ‼この後、俺が映る予定だし…。2ドットで有名なレイモンド…。ってか、俺。DLCで確認できてない…」 


 目立たなかったら、本当になかったことにされそう。

 戦いには巻き込まれないようにではなく、目立たなければならない。


「おしゃあ。俺様が一番槍だ」

「いーや、おいらだね」


 だが知っての通り、RPGのモブ魔物の大半は強い、弱い関係なく勇者に戦いを挑む。

 

 ——光らせてー! 前みたいに牙を青く光らせてー!


 デジャヴ…。あれ…。既視感じゃないけど


 レイは呆然と立ち尽くす。


「俺のめちゃでかい犬歯。脇腹スイッチ押しても、やっぱり光らない」


 あの『しょうもな』設定も、封じられたただのモブ。

 しょうもなくても公式設定だ。

 強い、弱いは目に見えない。でも、これは直接心に響く。


「青く光らせるのは流行らないって…?ゲーミングPCとか虹色に光ってんだろ」


 落ち込む。

 レイ自身、落ち込むし何もできないと思った。

 だけど…


「はーらーだーぴーがよぉぉぉおおお。俺は…、今、猛烈に怒っている…。てめぇはこのゲームを潰す気か」


 口から溢れるのは、今作の神への言葉。

 心からにじみ出るのは、シナリオ改変への憎悪。

 理由なんて分からなくてもいい。


 レイがただレイモンドを愛しているだけだ。


「おい、そこのデーモン!まだ、 襲撃前だぞ!」

「うっせぇ‼てめぇも2ドットにしてやろうかっ‼」

「なんだと?…2ドットってなんだ?」

「さぁ…」 

 

 ——その時


 真正面からある意味邪悪な殺気を感じた。


「お前ら、避けろぉ!!」


 すると口から漏れ出た。

 ある意味で正しく、ある意味で間違っている言葉。

 でも今のレイは以前に魔族になった記憶がない。

 だから、絶対に間違っている言葉だと思った。


「何言ってやがる。さっきから」

「つーか、2ドットってどういう意──。…ぬぅぶぅばぁ‼‼‼」


 その気の迷いのせいか、直後に可哀想なキングベッドスラドンが爆散した。

 同じ射線に入っていた複数のおおねずみ子爵十三世が、一子相伝で爵位を受け継ぐ十三世達、三十匹も肉汁をまき散らした。


「魔物破壊兵器2号だ。モブが食らっちゃ絶対にダメなヤツ…。退かなきゃ‼勇者に見つかった…」


 一度、細胞レベルまで分解された。

 だからか、どうやらモブらしい自分のことばかり考えていた。

 迫りくる恐怖に蘇る記憶が地獄絵図を映し出し、ただ戦慄する。

 人間だった時の記憶はあるのだ。レイは勇者達には戦い方を教えている。

 基本的な戦い方。先手必勝なんてのは最初に教えた。

 ユーノを奪われた勇者の心情は如何ほどか、考えるまでもなく、本気で魔王軍を殲滅するつもりだ。


「勇者だと?だったら逃げるわけにゃいかねぇ」

「おぅよ。ただの雑魚は引っ込んでな!!」

「俺たちゃ勇敢なるエルザ様の特殊部隊よぉおおお‼」

「それでもツッコむ…。そりゃ、そうか」


 先制されたのだとしたら、次からが正々堂々の戦いのターン。

 集まった前衛部隊で逃げる性質があるのは、確率は低いがアルミラーZ。

 でも、彼らのモチベーションは高いから、やはり逃げない。


「どうする?チャンスと言えばそうだけど。俺に避けきれるか?神聖旋風斬(ホーリースリリング)巨大火炎地獄(ヘルファイア)の組み合わせ、つまりソフィアとフィーネの合わせ技だ。ゲームにはない合体技なんて、モブに避けられるわけ。先ずは俺の安全。接近はその後で。だけど、範囲攻撃の連発。しかも一つずつが致命傷だし」


 ここで人知れず、魔物知れず、殺されて終わり?

 原田Pに鈴木Pの教えを叩きつける前に?


 いやいや、プロデューサーなんて


 戸惑いながら、天に祈り、地にも祈った時。

 モブにも天啓が下る。 

 碌でもない考えだっけど、安全の為。

 レイモンドを守る為、彼はとある物陰、人影、魔物影に隠れた。


「退くな‼真っ向から立ち向かえ‼相手はたかだか六人だ」


 麗しの悪魔。魔物たちの憧れの彼女の逞しい声。

 その声に抗って、後ろに下がる。即ち、魔物の影とはエルザの影。

 上官の背後に回るという、督戦隊がいないからこその影。


「おい! 逃げるな!あたしの軍隊は勇者の力を試す為に」


 とは言えエルザは勿論、白い眼で睨む。

 いーや、何を言う。これは最強の壁、これが見えない壁。


「やり過ごしたら行きます!遠距離は流石に…」

「ふん。やる気だけはあるってのはどうしたんだい」

「次から!三分だけ待って下さい。そうしたら」


 今撃てる最大魔法をぶん回している。

 現在のレベルから逆算すると、多分それくらいで終わる。

 その後で、寧ろその後の方が安全に近づける。


 なんて、考えていた。


「でも併せ技か。なら二分でもいいかも?エルザ様…」

「……」


 ホーリースリリングは神聖魔法の風。

 でもソフィアが使うソレは、聖水などが入ったガラス瓶を投げ入れる、ゲームにはない攻撃。

 ヘルファイアはフィーネが放つ強力な炎魔法だ。

 二つがあわさると、鋭利な刃物と灼熱のガラスとが熱風と強風で、一定範囲を地獄に変える。


「えと…、エルザさ…、エルザ…さま…」


 レイは、目を剥いた。

 バラバラと目の前の四天王の体が崩れていく。


「嘘…だろ?」


 叱咤する声も消えた。

 もっと向こうには、彼女よりもグロい魔物たちのカケラが転がる。


「あれ?俺はこれを知ってる…。壁抜けバグ…みたいな裏技。ってそれは後だ。このままじゃ不味い。エルザが死んだら、ハーレムルートが終わる」


 計算した二分が経過し、攻撃は一度止まっていた。

 止まる前から、無意識に体が動いていた。

 エルザだった肉片を必死に集めていた。


 ——あの時と似たような、ってのとは違う。


「魔物は人間と違って簡単には死なない。なら…」


 エルザはまだ死んでいない。

 HPが人間と桁が違う。


「レイモンド。お前の体を、お前の真の力を信じる。彼女の大事な部分を間違えることなく拾うんだ。そして——」


 在り得ない見えない壁の抜け攻撃。

 レイの深層心理が訴える。


 ——勇者パーティはまだ町の中にいる、と。


 目から入る情報では、エルザ部隊は大将を含めて壊滅。

 一縷の望みがあるとすれば、


「俺はモブ。モブだから気付かれない…」


 ぐるっと回って、影を踏んで、必死に走る。

 もしかしたら、雑魚が逃げているように見えて、見逃してくれるかもしれない。


 ユーノルートはヒロインを連れていくか、置いていくか選べる。

 エルザが死んで、アイザがいなくても話は進む。

 デジャヴの正体はハッキリしない。

 でも、一度はアルフレドでユーノルートを進んだ筈。

 レイモンドを選べと心が覚えているのだから、最後まで足掻くべきだ。

 せめてギリギリ。三周目に賭けられるよう、少しでも俺にデジャヴを残す‼


「どの肉片ならエルザと認識してくれる?こっち…。いや、これと…これ…」


 チョリソー周辺は明け方だがまだ暗い。

 そんな中での大魔法だから、殆ど何も見えない。

 魔物の目だからギリギリ分かる。


 勿論、キラリのスコープを使われたら…


 流石はレイ。思考がそこまで巡った後、モブデーモンらしからぬ加速を見せた。


「それはありえないんだよなぁ。アイツらは村の中から肉眼で見ただけ。スコープはゲームのルールに従うから、…この勝負。俺の勝ちだ‼」

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