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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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20/71

モブ魔物ですが、何か?

 勇者は船内を走り回る。


「いない。ユーノがいない。なんで?こっちに向かったと思ったのに」


 アルフレド達は皆、勿論フェリーに乗っている。

 そして船は、そのまま港から離れていった。


「って、あれ? あたし達……」


 エミリが不思議そうな顔をしている。


「それより…、えっと…。レイは…その…残念だったけど…」

「やっぱりレイは何もしていない。…ただ、殺されただけ」


 マリアが複雑な顔でフィーネに話しかけた。


「…裏切ることもなく。ただ魔物に殺された。う…」


 エミリもどういう顔をすれば良いか分からなかった。

 レイは本当に嫌がっていた、その言葉は今でも耳に残っている。

 ソフィアも黙ったまま。

 全員が何を言えば良いのか、分からなかった。


「本当に魔族になって蘇るのかな…。殺されたようにしか」


 ただ、一人。

 冷静に見ていた女がいる。


「魔物は分からないことだらけだよ。アンデッドともいるし。問題はどうして彼があの道を選んだかじゃない?」


 彼女が話し出す。


「キラリ?」


 皆が目を剥き、息を呑んだ。


「あの人のことそんなに知らないけど、死にに行く顔じゃなかったよ。それに」


 そう。彼女は


「僕、なんていうか。知ってる気がするんだ」

「レイのことを?」

「ううん。人間は悪魔に変わりうる…」


 記憶を失った半魔だ。

 因みに、神・設定資料の記載は半魔かもで留まっている。


「体がぐちゃぐちゃになるかは知らないけど。大事なのはそこじゃない筈だよ」

「そ、そうだね。ユーノちゃんが攫われた。あたし達は魔王を倒すまでに、アル様のハーレムを作るんだっけ」

「レイのやつ。簡単に言ってくれるわね」

「そもそも勇者様に神託下されば。いえ、メビウス様が間違えることなど」


 アルフレドが懸命に探す中、五人のヒロインたちは歪な結束を固めていく。


     ◇


 「辛い…、辛い…」という声もそこから漏れ出ている。

 「怖いよー、怖いよー」という声もそこから漏れ出ている。


「ムービーが痛いは駄目だろ‼俺の意志とは関係ないんだし‼ってか、直ぐに殺せよ、ゼノス‼憂さ晴らしで殺しやがって!!…って、あれ?」


 恨めしいと叫ぶべきか、心に傷を負ったというべきか、体育座りをしていた元人間の青年は銀髪を右手でふわふわと触っていた。

 牙から涎が溢れるが、そんなの気にしない。


「ゼノスも不満がってた…?勇者に二つの道があるってことは、魔王軍にも二つの道があって…。もしかしてハト派とタカ派。具体的には魔王子と魔王で対立している?」


 人間が魔族に生まれ変わる。

 それは珍しくも何ともない。

 神・設定資料集にちゃんと書いてある。


「新島礼は現実世界でだが、レイモンドを置いていった。ソイツがアルフレドで始めた。ソイツは俺だから絶対にレイモンドを連れていく。ハーレムエンドはノーマルルート上に存在するんだから、俺なら前と同じ道を目指す。でも、駄目だった」


 魔族になることは知っていた。

 デジャヴに気付かないくらい考え続ける。


「もしかして、アルフレドルートは進行不能だった…とか?若しくはハーレムルートがかなり難しい?」


 健康診断を受けていても考える。


「このゲームが恋愛に重きを置いている。何も知らないオジサン、魔人レイモンドにしか出来ないことってなんだ?」


 飛び込みたい胸の谷間を見つめながら、オジサンは思案した。


「魔族は何でもありじゃないわよー。あんまり見ちゃダーメ」

「えっと、マロン様。MKBに入るにはどうしたらいいですか?」


 すると女悪魔は目を剥いた。


「ふーん、適当に拾ってきた割にはやる気満々ね。大した魔力もないのに最前線を希望する。そういうの、嫌いじゃないわよ。お姉さん、推薦書いちゃおっかしら。MKB(魔王軍強化部隊)配属希望っと」

「はい。話が早くて助かります」


 魔物に必要なのは臆さないこと。

 幹部クラスの魔族はそう考えた。


「エルザ部隊に入って、そこで戦果をあげる」

「その前に面接があるわ。私に出来るのは推薦まで」

「…とアークデーモン三体倒すんだっけ」

「ん?アナタ、一体…」


 そして即座に面接会場へ。

 カーテンを捲った先には大きな部屋がある。

 白い大理石の床は豪華に見えるが、それ以外は実に簡素な作りの大部屋。

 魔王軍とは科学者集団から生まれている。

 スチームパンクというより、サイエンスフィクションという言葉が相応しい。

 その中で、メガネをかけたアークデーモンが三体立っている。


「見学席にも十数体。エルザ様にアピールしないと」

「ただのデーモンごときがアピールだとぅぅ?」

「こんなとこでモタモタしてられないんだよ。雑魚は…」


 頭から星がキラキラと瞬いた。

 近くに居たのは、ちょっと大きなねずみ。

 おおねずみ十三世とかいう魔物とぶつかり、レイの方が吹き飛ばされた。


「雑魚はてめぇだ。大人しくエステリア大陸部隊に申し込んでろ」

「…はい?」

「邪魔だ。どけ」

「え…、はいぃぃ。って!思ってたんと違うんだけど‼」


 予想外の出来事に、漸くレイの思考が止まる。

 止まった瞬間、違和感を抱く。


「俺。なんでいけるって思ってたんだろ…。魔族になるのは知ってたけど、レイモンドが何してたかなんて知らないぞ」


 DLCで魔人レイモンドのイベントは、基本的にカットされている。

 リディア姫周りが主な活躍場所だったが、不適切を理由に全滅。

 全滅しても、問題ない。

 だってアルフレドにはユーノを助けるという分かりやすい導線がある。


「レイモンドが雑魚扱い…。いや、知らないオジサン扱いか。それはただのモブなんよ」


 アーマグ大陸の魔物はレベル30もあれば余裕で倒せる。

 だが、レイは戦いに殆ど参加してなかった。

 勇者たちのレベルが著しく上がったのはミッドバレーからデスモンド。

 ユーノと一緒に留守番をしていた時だ。

 勿論、種ドーピングは全て勇者とヒロインに捧げた。


「つまり今の俺。ただの雑魚モンスター?」


     ◇


 雑魚魔物はヴァイス砦にいた。

 アルミラーZという獰猛な一角うさぎ、サーベルタイガマンという獣人、巨体が売りのキングベッドスラドン、そしておおねずみ子爵十三世。

 アーマグ・勇者お出迎え隊が、アークデーモンの前に勢揃いしている。


「まぁ結局、面接は面接。やる気の話で、どうにか合格したけど」


 今の状況は不味い。

 その意気や良し、となったが最後尾で参加となった。

 名称はきっと、デーモンAとか、そんなとこ。


「こうなったら」

「邪魔だな、てめぇ。もっと隅っこに行きやがれ」

「ぬゎ…」


 その瞬間、レイの脇腹に軽い刺激が走った。

 そして両手を鷹揚に掲げ、片方だけ眉毛を上げる。


「はぁ?てめぇこそ、図体バッカじゃねぇか。さっきから聞いてりゃ、エルザ様、エルザ様ってよぉ。あれか?魔物の言葉にゃ、エルザ様って単語しかねぇのか?」

「んだと、雑魚が‼MKBと言ったらエルザ様だろうがよ‼」

「ちっちぇえ、ちっちぇえ。雑魚って言った方が雑魚なんだよ」

「殺すぞ、てめぇ」


 そう、これはレイモード——


 くそ。やっぱり発動しない。アルフレドのヤツ。俺のことを絶対忘れてる‼


 ではなく、ただの演技だ。

 レイモンドならきっとこう言うだろうと捲し立てる、即ちロールプレイ。

 納得出来ないタイミングでのユーノの消失。

 ユーノルートは勇者が選ぶ道。

 レイのことが頭になければ、置いていったのと変わらない。


「殺すだと?こちとら一回殺されてんだよ!てめぇらが憧れる四天王の一人になぁ」

「なん…だと…?」

「お、お前みたいな雑魚を四天王様が直接手を下すわけねぇ!」


 このままだとマジで埋もれる。俺はもっと目立たないと。

 アルに意識されないと魔人レイモンドになれずに終わる。


「あ?俺は勇者に会ったこともあるんだぜ?テメェみたいなモブとは違うんだよぉ」

「モブだと?モブって言ったやつの方がモブなんだよ‼」

「はい、モブって言った。お前の理論なら、お前もモブだな」


 DLC前とは扱いが全然違った。

 近くに居たサーベルタイガマンと揉め事を起こしても結局、モブ。

 以前を忘れていても、ここままじゃ駄目なことくらいは分かる。


「ワットバーン。俺の顔、覚えてるだろ?始まった日のスタト村で会っただろ‼」

「う…うぅむ。お前は最近、魔物になったデーモン。確かにスタトに行ったが」

「ワットバーン様。こんな奴に構うことはないです。それに」


 とにかく目立ちたいモブ。

 そしてここで空気が変わる。

 単に物理的に空気が歪んだだけだが


「やけに騒がしいじゃないか」


 空間が割れ、押しのけるように別空間が広がる。

 いつの間にか現れるからイツマゾク。

 羊の角と紫の髪、褐色の肌の美悪魔。四天王エルザが遂に現れる。

 

 因みに勇者の魔法、ファストトラベルは女神像に自らの体を飛ばす。

 そして魔王軍幹部の魔法、イツマゾクは空間をそのまま転移する。

 イツマゾクは、一部隊まるまる移動も可能という優れものだ。


「エルザ様だ」「今日も美しい」「お前らシャキッとしろ」などなど、各々口にしながらMKB部隊が整列する。

 ネームド、およびシナリオを持つキャラが放つ見えない壁がある限り、彼女に手を出すことは出来ない。

 だからモブデーモン・レイも一先ず、それに倣った。


「ワットバーン。直に勇者がチョリソーに到着する。今からスケジュールの最終調整に入る」



 チョリソーはヴァイスから西へ100km進んだところに、寂れた港町だ。

 そこに勇者御一行を乗せたフェリー・ドラステ号が辿り着く。

 エルザの説明により、レイは彼らがまだこの大陸に上陸していないことを知った。


「いいかい?これからメビウスの使徒がチョリソーに到着する。そこからがあたし達の出番だよ」


 プロジェクターがスクリーンを照らす。

 一応の作戦会議らしい。

 チョリソー付近のマップだ。 

 その隣——、モブデーモンは目を剥いた。


「え…」


 二本の太い棒グラフがカラフルに縞模様で彩られている。

 その縦軸はどう考えても時刻表だ。

 更によく見ると、これは勇者様御一行のタイムスケジュールだ。

 ご丁寧に着港から宿へのチェックイン時間まで記載されている。


「なんだ、銀髪デーモン。これが何か分からないのか?」


 エルザは漏らした声を耳聡く拾った。

 勿論、それが何かは分かる。

 でも何故、魔王軍がプレゼンテーションしているのかが、分からない。


「予定表ってのは分かる。んで、右の棒線はなんだ。…じゃなくてですか?」


 レイのその言葉にエルザは声を失った。

 いや、作戦会議室全員が声を失ったと言ってよい。

 女はため息を一つ、そしてレイを指差した。


「お前が分からなくて、どうする。考えてみろ。一週間以上船に揺られている…」

「優しいかよ‼…じゃなくて、そっちは見れば分かります。だったら隣のスケジュールは一体…」


 エルザ、アズモデ、ゼノスは、勇者がこの地を目指すように導いている。

 進行上、魔王軍が管理していると考えるのが自然だ。

 逆に言えば、勇者が特定の行動を取らなければ、魔族は動かない。

 それはゲームという理屈を考えれば理解できる。

 だったら——


「全てがスケジュール通りに進むとは限らんだろう」

「…右側。なんて書いてるか分からないんですけど」


 魔王軍側から操れるかもしれない。

 それなら、レイモンドになった理由に繋がる。

 

「そんなこと言われてもね。データを送って来たのはアズモデだし」


 やっぱり、アズモデが管理していた。

 という訳で、雑魚にしてモブデーモンのやるべき道が定まった。


「…エルザ隊長。自分、どこまでもついていくっす」

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