ユーノは再び攫われる
デスモンドでの依頼は難なく終わる。
現在LV35。これ以上はアーマグのプラチナパールホワイトスラドンが必要だった。
どうして裏切るのか考えながら、これだけは言わなければと男は重い口を開ける。
「アル。それから皆。あとユーノ。この先で、ユーノは連れ去られる」
「え…」
「嘘…」
「ちょっと待って、レイ。ピロー会議で何度も出たけど、ユーノは神話にも語られていないの。何故、魔王軍はユーノを狙っているの?」
神・設定資料集でも暈された存在。
真・神・設定資料集が出ていれば、いや出ていてもゲーム世界に反映されるかは怪しい。
ゲーム内で語られることしか言えない。
「ユーノに闇のメビウスを降臨させ、魔王軍が世界を恒久的に支配する。それが目的だ」
「そんなことをしようとしてる?」
「ユーノはここが一番安全って」
「何処に居ても攫われるからな。未来を変えるにはそれしかない。強くなるしかないんだ」
「それ、ユーノじゃないと駄目なの?なんでユーノなの?」
アルフレドの不味い発言も飛び出す。
でも、好感度マックス固定のヒロインたちはただ聞いた。
「ユーノ。言っていいか?お前の話を」
「…うん。他の道があるなら」
彼女は頷いて、漸くユーノについての話が始まる。
「ユーノは天女の透水晶。俺もそれについてはよく分からない。一般的な考察はユーノはレベル0、空だから器になれた、だ」
「透明な水晶。…それはそうかも」
「今は信じるしかないわね。で、私たちはどうしたらいい?」
「…それが分からない。分かってたらもっと早くに打ち明けてるよ」
「分からないって」
「でも、道は間違いなくある。フィーネ、こっちへ」
「私に?」
「その道の名が、ハーレム・ルート。アルがユーノ以外のヒロインと結ばれるルートだ。ただ残念ながら俺は辿り着いていない」
フィーネは軽く目を剥くが、ピロー会議のヒロインたちに伝えて回る。
彼女は実に落ち着いていた。
分かりやすいルートというのもあるが
「それ、もしかして」
「エミリ。余計な事を言わない」
「あ、そか」
一応、勇者に聞かれない為の配慮だ。
意味があるかは分からないが、ヒロインたちの考察は既にレイを越えている。
であれば、後の判断は任せるしかない。
勿論、この理由が一番なのだが。
「もしも俺が原因でユーノが攫われたなら、…その時は遠慮なく俺を殺せ」
場が一瞬固まった。
勇者もユーリも呼んで、全員の前で話したから。
言った本人も驚くほどに、スムーズに言葉が生まれた。
これさえもユーノの力かもしれない、なんてレイは考えているのだが。
「だったら、ここで殺しておけば?そのレイって人が裏切るのは確定なんだよね」
ちょっとだけも仲良くなっていないキラリ。
彼女はまだピロー会議に参加できていない。
とは言え、レイはぎょっとした。
勇者100に染まったばかりの女の言葉だ。
レイモンドは生きていても、死んでいても、どっちでもいいくらい価値がないらしい。
とは言え、ピローのメンバーはバッサリと否定をする。
「それは私たちも考えたわ」
「いや、考えてたんかい‼」
「当然。レイの命一つでアル様が助かるなら」
「ちょっと皆、何を言ってるの。レイは僕とフィーネの幼馴染で仲間なんだよ?」
「勇者様。今は黙っていてください。それにレイを殺す意味はない、とちゃんと結論を出しましたし」
推しの過激すぎる発言、
「フィーネの発言を聞く限り、レイの行動は敵とは思えませんし」
「その私の発言前提になっちゃうけど、レイがいてもいなくても、ユーノは再び攫われる。でしょ?」
「まぁ…、そうなる。俺の存在意義…って」
ヒロインたちの冷たい発言に気が遠のくが、
「そうね。裏切るとしたら存在意義を否定されたことくらいね」
「裏切るには十分な気もするけど」
「メサイヤコンプレックスってのが芽生えたりして」
そんなレイの想像を優に超える。
「知らないオジサンに神託が降りた以上、オジサンがここにいる意味があるのです」
「オジ…サン…」
オジサンはさて置き、これはメタ発言と言っていい。
神託と言い換えているが、アルフレドで無理だからレイモンドだった。
「オジサンがそこまで言うとしたら、ムービーは神託が利かないのかも」
そこまで辿り着いていたことに、やはり舌を巻く。
「でも、その時はアタシたちも内なる声に抗えないんでしょ」
「まだ一回しか検証していないから分からないけどね」
「え…、待ってよ」
アルフレドが割って入っても無理はない。
知ってる人間は皆、世界の外の話をしているし、
「ユーノが危険って決まってるのに、先には進めないよ!」
彼の目的の八割以上は達成している。
ユーノを守れるくらい強くなればいい。
攫われると知って、踏み込む意味はない。
グラァ…
だが視界が歪む。
「何…これ」
地面に映る影がとんでもない速さで回り始める。
上では太陽が高速で移動して、周りの人々も高速で動き始める。
「最初からを選んだはずが、二周目以降に登場するバッドエンドか。本編クリアした前提だ。解放されていておかしくないか。アルを連れてフェリー乗り場に飛び込め‼」
「主が前に進めと仰っている…。勇者様」
「バッドエンド?…アル。ちょっと強引だけど」
「え?…え?」
やはり存在した諦めエンド。
勇者の気持ちを無視して、勇者マックスのヒロインたちが、強引に勇者を押し込む。
▲
アルフレド「ここが、フェリー乗り場、だったっけ」
レイ「あぁ、そうだ。噂のフェリー乗り場だ。どうだ? 俺の情報網はすげぇだろ。あぁっとぉ。どうやらこのチケットは一人ずつしか入れねぇらしい。」
アルフレド、レイ、フィーネ、エミリ、マリア、ソフィア、キラリ、ユーノは不気味な通路の先に改札口のようなものを見つけた。
どうやらそこにチケットを差し込む仕組みらしい。
レイが偉そうにベラベラとその使い方を説明している。
そして一人ずつ間隔をあけながら、その装置の間を通過して行く。
そこでユーノは自分の順番の時、芳しい匂いを嗅いだ気がした。
ユーノ「あ、わたしは」
だが、皆は先を行っている。
ここは一本道だ、だから振り返る必要もない。
一本道だと思っているから、振り返らない。
アルフレド「みんな、揃ってる?船に乗ってアーマグ大陸に行く。暫く戻れないかもしれないから、忘れ物がないかチェックして」
フィーネ「向こうにも人が住んでるんでしょ?私は大丈夫」
ソフィア「もう、勇者様。先ほど門番の方に同じことを三回も聞かれました!ちゃんと準備できてます。」
マリア「マリアはー、このキャリーケースに多分…。えー、もしかして何か忘れたかも…。でもぉ、何を忘れたのか覚えてないしぃ。また買えばいっかな!」
エミリ「あたしは元々何も持たない主義だから大丈夫だよー」
キラリ「僕は…。あ、車…じゃなくてドラちゃん……」
アルフレド「それならレイがどうにかするって。車と人は別々に乗り込むらしい。あれ?ユーノは?」
マリア「っていうか、勇者様ぁ。なんか、このドア開かないよ?…ってあれ? なんか閉じ込められてない?」
ソフィア「あ、あの!勇者様!あれ、なんですか?」
アルフレド「あの後ろ姿…、ユーノ‼」
エミリ「…え?ちょっと…待って。ユーノの服が違う。ウチで見た時と同じ…」
フィーネ「人間にして魔族の王子…。ユーリ…。どうしてここに」
勇者一行が扉を開けようとも、ビクともしない。
まるで扉ではなく一体した壁。
硝子の向こうに、ユーリの姿が見えた。
ユーリ「待ってたよ、ユーノ。そろそろいこっか」
設置されたモニター内でも動きがあった。
そこに映っているのは、車を移動させる男。
レイ「はーははははー。バーカーめー。遂に俺様のところへ来たな。天才の俺の罠にまんまとハマりやがった。そして…げへげへ…げほげほ…。ドラステちゃんはぁぁぁ。俺様と一緒にいたいだろ?」
自分がいなくても動いてしまう車を手で押していた。
レイ「やっと俺様の良さに気が付いたかぁ?今まではツンばかりだったけどよぉ。でも、そういうデレなところも可愛いじゃねぇか。これからも俺様がたっぷり可愛がってやるから、楽しみにしてな」
少しずつ動くが、力のないレイは苦戦する。
その隣に何かが映る。
レイ「ちょっと?人が困ってるのに、素通りかよ!」
そこに映っていたのはキャリーを引くワンピースの少女。
完全無視を決め込まれて、レイは眉間に皺を寄せた。
そして、そのムカつきを車にぶつける。
レイ「後ろからがいいかぁ?それとも下から?ていうか、これだからイーブイってのはよぉ、車体が重くて仕方ねぇ。脱炭素かがなんだって?と、その前にもういっぺん乗ってみっか。あぁ、これも…邪魔だな。へへへ、殆ど半クラ。たまんねぇなぁ。」
画面にユーリが映った。
そこへの通路を見つけ出せないアルフレド達。
画面端へと移動するユーノと同じ影を追う。
でも、そこへは行けない。
フィーネ「なに?どうして…、ユーリが」
キラリ「レイ。無理にクラッチを踏まないでください。そんな乱暴に」
レイ「へへへ、俺様が楽しみたいからに決まってるだろぉ?」
アルフレド「聞こえてる!?レイ!そこに」
レイ「いいねぇ。いいねぇ!でも俺のシフト捌きで分からせてやれば、いいってことよぉ。すぐに俺様の魅力に気付くぜぇ?」
カチャカチャ(金属音)
フィーネ「あいつ、全然聞いてない。なんで、ユーリに気付かないの!」
レイ「妙な男はいるけどなぁ。今はそれどころじゃ」
ガン‼ガン‼
アルフレド「レイ!そっちに」
エミリ「クソ!このドア。壁と一体化してる!」
ガン‼ガン‼
フィーネ「ちょっと見て。レイの後ろに。きゃぁぁああああああ」
レイ「なーんだ、やっぱいーぶいじゃなくて、ハイブリッドじゃねぇか。そりゃそうか。だって——」
ここで、その瞬間がやって来る。
???「ハイブリッドがどうした?こういうのがハイブリッドということか?」
レイ「ぶ、ぶぶぶぁぁぁぁぁぁぁ!な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
レイは腹部を押さえながら膝から崩れ落ちた。
腹部からはドラゴンのような尾が突き出ていた。
余りにも鋭利だったのだろう。
後からやって来る痛みは激痛に変わる。
彼は自身の体に起きた事を、最初は意味が分からずに目を剥いて見つめている。
(って、マジで痛ェ!強制イベントって痛みがあんのかよ。ってか、俺‼ただの厄介車オタク…)
レイ「な、なんだ…?てめぇ…。どうして…魔族…俺は…何も…」
魔族の男「つまらん。やはり人間もクズしかいないのか。」
そこで部屋の明かりが消える。
レイ「痛ぇ!な、俺の腕に何を……、いだあぁぁぁい。まままま、魔族のあんちゃん。俺だ、俺はレイだ。俺のこと、聞いてるだろう?痛ぁぁぁぁ、だのぶ、話を……。いだあぁぁ……だのぶー!だずげで……」
(いだい…、マジでいだい…、俺、何もしてないのに…。もう、どうでもいいから、殺してくれ…。ゼノス、早く俺を殺してくれ‼)
ゼノス「竜王ゼノスだ。たまたまこちらに来ていたが、どうやら我が同胞が良からぬ人間と手を組んだと聞いて査察に来ていたが…。反吐が出るな。」
ゼノスはそう言って、自らの尻尾を引き抜いた。
そしてその引き抜いた尻尾でレイの体を嬲るように痛めつける。
なかなか死なないように、色んな場所を切り刻む。
そして彼が連れてきた魔物が、その手足、それ以外にも耳や鼻、あらゆる末端を食べ始める。
因みに画面は暗く殆ど見えない。
レイ「やべろぉ!そでば俺のだぁ!食うなぁ‼俺を食うなぁぁぁぁぁぁぁ」
グチャグチャと捻髪音とゴリゴリと破壊音が部屋中に鳴り響く。
ゼノス「くだらん。まだ死なないのか。いい加減に死ね」
レイ「ぐぁぁぁぁ………、おで……死………」
(ま……じ……か……。末端から徐々に……なくなる……食われてる……、そこ、もう内臓だぞ……。内臓って痛みないんじゃなかったのかよ……。こいつ、俺の腸を引き摺り出して……意識が……これが……死……。いや……遅すぎる……もっと早く……死に……た……。ただの…オジサン…だぞ…)
ゼノス「チッ。こんなやつ殺しても憂さ晴らしにもならない。ゲヘモス、この建物のロックを全て外せ」
ゲヘモス「で、ですが…。せっかく勇者を捕らえたというのに……。あれ……おでのからだがみえ……びぎゅー」
同じく憂さ晴らしで魔物が消し飛び、全ての扉が開く音がした。
ゼノス「バカか。光の勇者を鍛え上げ、その上で我らが勝利することでメビウスを失墜させる。と、もう聞こえていないか」
その部屋にアルフレド達は漸く到達した。
アルフレド「ユーノ!ユーノを返せ‼魔族か!お前達がユーノを‼‼」
ゼノス「ふっ、今の状況も分からん愚か者か」
エミリ「大丈夫……じゃないよね。っていうかグロ。オジサン、何もしてないのに」
マリア「あーね。マジ、キモイ」
ソフィア「そうですね。知らない方ですが、気分の良いものではありませんね」
ゼノス「ぴぃぴぃ煩い女どもだ。まぁ、いい。今だけは見逃してやる。とっととアーマグ大陸へ行け。俺はそこで待っている。今よりも強い勇者になっていることを期待しているぞ」
フィーネ「何がどうなってるのよ」
ゼノス「フン、今は言わん。今度会う時は俺が名乗っても良いと思えるくらい強くなって来い」
ゼノスは体から激しいオーラを纏い、勇者に今のお前達には絶対に勝てないとその光だけで言わしめた。
アルフレド「あぁ、なってやる。みんな!ユーノが心配だ。フェリーに急ぐ!」
アルフレド、エミリ、マリア、ソフィア、キラリそしてフィーネは急いでフェリーを目指した。
そして冷たくなったレイを見て、ゼノスは言った。
ゼノス「勇者の仲間で一人、銀色の男はこいつのことだろう。さて、お前達……」
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