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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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16/66

お兄ちゃんとか呼ばれたら

 修道院長はいけすかない男だ。

 彼のことを良い目で見ているのは、村長や裕福な人間のみ。

 それ以外の者は彼を見ようともしない。


「光の勇者様、そして御一行様。我が村を救って頂き、誠に感謝しております」


 皆、首を傾げる。

 消火活動と救出活動で活躍したのは確かだが、麓の家々の半分以上が燃え落ちた。

 死者は確かに少なかったが、出ていないわけではない。


「やはり女神メビウスのお示しは正しかったということですな。今後とも私たちメビウス教徒は貴方たちの味方です。どうぞ、本日は楽しまれてください。村総出で歓迎を致します。村長からも何か、言って差し上げなさい。」

「ミッドバレーの歴史は古く、大火事の記録も残っております。当時の我らは無力であり、多くのともがらを失ったとか。院長先生と同じになりますが、やはり女神メビウスのお示しは正しかったということです。どうぞ、勇者様方。村総出で歓迎を致します」


 レイの心の声が、「面倒くさい」と言っている。

 ボタン連打してもいい?と魂が訴える。


「あのー。質問いいですかー? メビウス様のお示しって何ですか?」


 勇者たちからの質問はないと思っていたのだろう。

 元気なエミリの声に、オオムギーの顔色が変わる。

 彼女の父親エミールは、アーマグ大陸のエクレア、エステリア大陸のデスモンド、そしてネクタを活動拠点にしていた。


「魔王が誕生する時、スタト村に光の勇者現る。彼は金色に輝く髪を持って生まれてくるという碑文がございます。皆様、どうやら西からやって来られたご様子。間違いないでしょうな」

「何が間違いないの?なんで西なの?」


 エミールの活動の中でミッドバレーが飛ばされている。

 絶対に嫌っていて、娘に色々と吹き込んでいる。


「昔の碑文ゆえ、分からないこともあります。火事で焼失したこともありますので。…で、ですが、間違いなく世界を救う使命を持って生まれたということです」

「火事で焼失したのに?間違いないの?」

「そ、その部分はちゃんと残っておりまして」

「他の部分はぁ」

「エミリ。あんまツッコまなくていいぞ。結構長いし。時間の無駄だ」

「レイは知ってるんだぁ。案外、信心深い?」


 碑文や経典は存在する。

 神・設定資料集に詳しく書かれている。

 人間の誕生から、スタト族とドラゴニア族の繁栄もマップ付きで解説されている。

 大火事の記録まで、神・設定資料集の年表で読み取れる。


「信心深くない。コアなファンなら知ってて当然だ」

「コアなファンって信心深いと違うの?」

「あの…、その光の勇者と認定された僕からの質問です。大聖堂の奥に何があるんですか?」


 そしてオオムギーの顔色が変わる。

 とは言え、今のアルフレドにとっては一番気になること。


「お…。奥はその…」


 真剣な眼差しだったからか、それとも女神メビウスの使徒と知っているからか、オオムギーの背中がじんわりと濡れる。

 魔物から金を取り出す秘密の牢獄、黄金で出来た部屋。

 魔王軍とやり取りをする為の会議室。

 ツッコミどころしかない裏側をコアなファンは知っている。

 でも、レイはツッコまない。


「古くて使われなくなった地下道があったと思います」


 するとソフィアは正直に答えた。

 それが院長の助け船になるとも知らず。


「そ、そうだった。あそこは危険だからな。勇者様、今は使われていない通路が御座いまして。でも、使っていないので内部の構造は」

「通路…。そこに僕たちくらいの女の子が入っていきませんでした?」

「い、いえ。ですから使っておりませんので…」


 だけど、関係ない。

 そもそもアルフレドはミッドバレーの闇なんて興味がない。


 そして——


「ユーノが。ユーノと…」

「ユーリだっけ」

「うん。ユーノがユーリって人と一緒に入っていったんです」

「いえ。私どもは見ておりません。そもそも」


 コアなファンならこう思うだろう。

 アルフレドがユーノに拘ってるのは分かるけど、なんかイメージが湧かない。

 八番目って出てるから、最後に出るのは分かるんだけど、あんまり感情移入が出来ないな、とか

 

「アル。ユーノは」

「レイも気になるでしょ⁈だって中に入っていったんだ。今度こそ近くに」


 そのメタ読みを——


「あぁ、近くにいる」

「だよね。ねぇ、そこに僕を」


 逆手に取る。


「そうじゃない。たぶんもうすぐ」

「え…?!」

「アル…?」


 勇者は耳を疑った。

 そして、振り返る。


「アル…。ユーノ…だよ?えと、ゴメン…なさい」

「ユーノ‼」


 桃色に澄んだ瞳、透き通る長い白すぎる髪。

 分厚いのコートを纏った彼女は、ここで現れる。


「フィーネも…ゴメンなさい」

「ううん。良かった…。あのまま魔王軍に攫われたままだとばっかり」

「レイ…。わたしが間に合わなかったせいで、守れなかった…。ゴメン…なさい」


 あの日見た少女がフィーネにも頭を下げる。

 レイには、特に深々と頭を下げる。

 既視感を伴わないソレはレイの魂を揺さぶる。

 全身が痺れたような、電流でも走ったかのような感覚。


「…違う。ユーノを先に行かせた俺達のミスだ。そのせいでユーノは攫われて」

「でも、そうしないと。皆が…、でもレイのお父さんとお母さんは守れなくて」


 ここで現れることは勿論、知っていた。

 でも、ゲームと現実は全然違くて、魂が震える。


「ユーノ‼ユーノが戻ってきた‼」

「アル。暑苦しい…。息苦しい」

「ゴメン」

「うう…。苦し…」

「アル!嬉しいのは分かるけど、今の力で抱きしめたらユーノが死んじゃうわよ」

「あ…」


 輝く金の髪が跳ねる。

 顔を真っ赤にして、ユーノから離れる。

 そして銀髪男は、…自身を恥じる。

 ユーノは世界を壊したりしない。

 ユーノは勇者の身代わりに攫われただけ。

 いち早く村の異変に気付いて、勇者のフリをして皆を守ったのだ。

 その後だって——


「いやいや、勇者様は皆、仲が宜しいようで。歓迎式をさせてください。火事で何もかも失った者もいます。家族を、家を、財産を失った者がおります。せめて、彼らに希望を見せたいのです…」

「えっと…」

「いいんじゃない?そういう区切りって必要だし」

「だね。ユーノちゃん…も戻って来たんだし」


 というわけで、真昼間から宴が始まった。


     ◇


 アルフレド達の机には、目を見張るほどご馳走が並んでいた。

 とある出し物を見ながら歓談するというスタイルだった。


『女神メビウスと光の勇者の物語の舞台劇』


 勇者を讃える為に用意された劇のタイトルだ。


『魔王が降臨し、世が乱れし時、西より金の勇者が現れる。その勇者の名はアルフレド。山のように大きなドラゴンを一刀両断する鬼神の如き強さを持ち、聖母のような優しさを持つ男。彼が駆るのは神龍の翼『ステーションワゴン』。文武両道才色兼備、多彩な魔法と多くの武技を使いこなす水色の才女フィーネ。細くしなやかな美しい腕でも、なんのその。岩をも砕く天才剣士にして赤色の美少女エミリ、倒れた民に慈愛の奇跡をもたらし、美麗な体術も使いこなす桃色の美少女マリア。人々に愛されし、優しきエメラルドの髪の美少女ソフィア。彼らは女神メビウスの導きにて、東へ向かう。神の翼を羽ばたかせ、次に向かうはデスモンド。黒の科学娘に導かれ。そして銀に気をつけよ。そこから海を乗り越えアーマグへ。藤色の娘が導くこととなる。後は平和の象徴、我らが金色姫リディア様を奪還し、魔王ヘルガヌスを葬り去り、世界を正しき姿へ。これがメビウス様の使徒アルフレドの物語──』 


 取ってつけたような勇者パーティの名前と特徴が入った歌と踊り。

 これは通常ルートと変わらないし、DLCでもっと詳しい内容になっている。

 ユーノルートとは次元が異なる話だし、コレを聞いた後にファストトラベルで戻って再加入しても良い。


「名前は後付けでしょ。マリアが聞いたのって桃色の美少女だし」

「自分で美少女って言ってるし」

「仕方ないじゃん。ネクタ一、ううん。世界一の美少女なんだから」

 

 さっきの感動の再会もあって、皆は演舞を心から楽しむ。

 勿論、誰だってあの部分には首を傾げるが


「銀に気をつけろ…って」

「そういえば追加されたんだっけ。元々、文字だけだし」

「アンタの悪名がここまで来てたんじゃない?」

「でも、伝承だよ?レイって三つ上だっけ」

「勇者様。フィーネ様とエミリ様、マリア様と私が勇者様をお支えする、ということですね」

「その後、黒い髪の女の子と藤色髪の女の子って。女ばっかだし」

「ついでにリディア姫ね。メビウス様は男嫌いなのかしら」


 オオムギーやマーサが知らぬ理由もなく、勇者とただいま四名のヒロイン達と、悪役かもしれない銀色は別の席。

 そして話に出てこない奇妙な少女も別席。

 アルフレドは不満顔をしたが、レイの隣だったらということで、どうにか我慢できたらしい。

 つまりユーノはレイの隣に座っている。


「気にするな。わたしはレイが強いこと、知ってる」

「え…と?俺はアルに負けっぱなしのレイだぞ」

「そういうことじゃない。わたしが止めてもアルは追いかけた」

「それはそうだろ。アルはお前のことが」

「無理して追いかけて、死んでもおかしくなかった。だけど、生きてる。たぶん…レイのおかげ。…ありがと」


 そして大きな手に小さな手が置かれる。

 心があるのはここだぞと、心臓が多段ノック、連続コンボを決める。


「そ、そんなわけ」

「うん。褒めすぎた…かも」

「そ、そうだぞ。俺は」

「でも、頼りにしてるのはホント。わたしのお兄ちゃん…だし。血は…繋がってないけど」


 血流に感情が乗って、全身を駆け巡る。

 そうなのだ。レイもユーノの記憶を持っているのだ。

 呼ばれなくなって久しいが、幼少期の三歳差はそれだけ大きい。

 元々、体の弱いユーノ。それでもみんなと一緒に遊びたいユーノ。

 野の中、林の中、何度もおぶって帰った記憶が蘇る。


「む…、昔のことだ。直ぐにアルの方が強くなって」

「それと、レイがフィーネを好きになっちゃって。お兄ちゃんを取られた」

「ユーノだって。アルと仲良しになったじゃないか」

「…うん。アルとも仲良しだよ。だから…、ありがと」


 傍から見て、皆を安全に導いたのは、間違いなくレイ。

 エリアごとに変わる魔物を見極めて、安全かつ効率的にここまで導いた。

 とは言え、ヒロインたちの好感度は勇者マックスに固定で、レイの描写がマイルドになったことも相まって、嫌いではなく興味薄になっている。

 そこに現れた、今までとは違うヒロインは、シンプルにレイの胸を射抜く。


「誉め過ぎだろ…」


 そんな擽ったい気持ちを押さえて、銀髪の大男は言う。


「ユーノ。頼みがある」

「…ゴメン…なさい、お兄…ちゃん」

「まだ何も言って」

「やらないといけないことが…あって」

「ユーリに吹き込まれたんだろ?そんなことはない!ユーノがやらなくても」

「わたしだって…みんなを守りたい。それに——」


 演舞は終盤に差し掛かり、鳴り物もボルテージを上げていく。

 足も長ければ、手も長い。胴も長い。

 一方のユーノはエミリの次に小柄だ。

 透明な髪が皮膚を撫で、大男の体が固まる。

 椅子を上ったのか、僅かによろめいて柔らかな体が肩に触れる。

 やっぱり大男は固まる。

 そして耳元で囁かれたのは


「…それは」

「お兄ちゃん…。分かって…くれた?」


 知っているからこそ、余りにも当たり前な理由だった。

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