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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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15/71

推しも勇者に一目惚れする世界

 レイは知っている。

 イベントは基本的に街ごとに存在している。

 ユーノのイベントはその部分を一部流用する形で現れる。

 そしてアルフレドのベクトルはユーノに向かったまま。

 だから、先にどんなムービーが待っているかを話せずにいた。


 とは言え、推し。


「ソフィア‼今助ける‼」


 今のムービーは全員が正しく見ている。

 全員が戸惑っている中で、一番に動けたのはやはりレイだった。

 悪魔の姿になった姿に躊躇なく飛び込んだ。


 そして、これも重要だ。

 単なるDLCではない。他の機種で完全版商法として世に解き放たれたこと。

 DLCではあるいはだったかもしれないが


「あの、マーサ様を」

「残酷シーンのムービーはカットされたからな。…分かってる。ソフィアもこっちに下がれ。アル、頼んだぞ‼水門の方は俺に任せろ‼」

「わ、分かってた。分かった…けど」

「アル。今は目の前のこと。あれは少女じゃなくて、アズモデの仲間よ」

「ふざけてますわ。マリアを騙そうったって、そうはいかないんだから」


 此度は騙されない。

 フィーネは少々の、アルフレドは大きな混乱を抱いてしまっているけれど。

 悪魔の姿に変えさせられたソフィアを襲う者はいない。


「全く、アズモデのヤツ。…ねぇ、あなた光の勇者でしょう? どうして戦わないの?」


 困惑している勇者に、エルザはソフィアの姿で肩を竦める。

 魔王軍の王子の到来は、彼女にとっても意外な出来事ではある。

 とは言え、ここで勇者と戦うのが彼女の仕事だ。


「勿論、戦う…」

「そう。それなら良かったわ。でも、あたいを傷つけられる?あっちじゃなくて?」


 エルザは一定時間、ソフィアの姿で戦う。

 その予定だったが、


「あっちはレイが連れ出した。ここにはアンタしかいないんだけど」

「チッ。鋭い奴もいたものね。まぁ、いいわ。全部アズモデのせいってことで」


 戸惑うことなく動いた人間がいた。

 流石にバレバレと考え、彼女はあっさりと元の姿に戻って、こう言った。


「じゃあ、前のアズモデの時みたいにならないよう、卵型じゃないモンスターを用意したの。その子と遊んでくれる?」


 緑の髪の美少女は本来の姿に戻っていく。

 そして魔法石を空中に飛ばした。


「それじゃあ、せいぜい楽しんでね」


 空で弾けて、禍々しい紫の光が大聖堂の壁を染める。

 悪臭が一気に立ち込める。その中に六つの赤い光。

 カラス型上級モンスター『ガーランド』が三体。

 5mという巨鳥の姿で出現した。


「光の!もっと強くなったらお姉さんが相手になってあげるわ」


 そしてエルザはアズモデ同様、コウモリの羽を羽ばたかせて去る。

 彼女は終始、眉を顰めていたのだが


「とにかく、戦うしかないって感じだね。あたしたちだけでも頑張れる!アル様は…」


 エミリが斧を構えて、前衛に立つ。

 そしてマリア、フィーネもそこに並ぶ。

 前にしか敵がいないのであれば、前衛後衛は関係ない。

 問題は集中力を欠くアルフレドだった。


「ユーノが二人?奥に」

「アル…。気持ちは分かるけど。今は。…いえ、なんでもない」


 フィーネが添えた手に、勇者の両肩が跳ねる。

 それが合図ではないが、戦いが始まる。

 大カラスはくちばしを開けて、そこから範囲攻撃である炎を吐いた。

 これはスキルであり魔法ではないため、詠唱は必要としない。


「|《水色の守護》ウォタガード!」


 フィーネが守り、エミリが突っ込む。

 赤毛戦士のブーメラン殺法もカラス同様範囲攻撃。


「当たった!」

「マリア!」

「おっけー!」


 飛んでいる魔物のさらに上から、マリアの声。

 跳躍したお嬢様自身も驚く身体能力で、一体を床に叩きつけた。

 そして皆、叫ぶ


「私達なら行ける!」


 見たこともない敵相手に、自分たちの技が通る。

 当たり前だが、ちゃんと倒せるゲームバランスになっている。

 勿論、ちゃんとレベルを上げていたからの話だ。


 フィーネ、エミリ、マリアの三人だけでも十分強い。

 バランスもとれているし、放っておいても問題ない。


 だけど、聖堂右奥で運転手は叫ぶ。


「アル‼後で色々教えてやる。ガーランドを瞬殺させて、麓の火事場に迎え‼」

「レイ…。うん、分かった‼」


 そして漸く四人パーティ揃って動き出す。


     ◇


 ソフィアは水門の鍵を使って、貯水池に溜まった水を流していた。

 この水の量でも麓の灯を消すほどは出来ないだろう。

 ムービーはそのまま現実となり、人々も混乱が続いている。


「え…、これが私? 私、こんな顔じゃない!」


 何処かで聞いたセリフ。

 魔族のような手足をして、露出度の高い金属の鎧、更には紫のマントを羽織っている姿が硝子に映っていた。


「確か10ターンくらい…。いや、じゃなくて…。ガーランドを倒した後に戻る。ちゃんと育ってるんだ。戦闘面じゃ不安なしなんだけど…。あんな小出しにされたら、頭バグるよな。って‼」


 ソフィアの行動は同じ。

 修道女の服のまま大男を抱きしめた。


「…ひ、悪魔」

「マーサ様。悪魔に呪いを受けたソフィアだよ。何となく記憶にあるだろ。ソフィアが二人いた、とかさ」

「アナタのお陰で…。助かりました」


 修道女の前で修道女に抱きつかれるのはすごく背徳的だ。

 それに今回助けたのは勇者様たちで、自分ではない。

 その記憶はないのだけれど、会わせたが最後、ソフィアの好感度は勇者マックスとなる。

 だから、レイはそのままにした。

 これくらいのご褒美はあってよい、と思うことにした。


「ありがとう…ございます…。私、怖かった…。怖かったんです……。いきなり私が現れて、マーサ様が殺されそうになって、その後だって…」

「もう大丈夫だ。もうすぐ…ほら。戻った。…流石は俺の鍛えた勇者様。…パールホワイトスラドン様?ま、いいか。これからのソフィアは勇者様のソフィアだし」

「え、でも。私にそんな人、いませんよ。だって私は…」


 ソフィアは無意識に抱きついてしまったことに気がつき、そっとレイの元から離れた。

 そこで体が戻っていたことに気付く。

 そして悲しげな顔で俯いた。


「大丈夫だよ。なぁ、マーサ様?」

「…それは伝承の話でしょうか」

「そ。ソフィア、お前は今からたくさんの仲間が出来る。俺が知っているお前はとても幸せそうにしてた。ヒロインエンドでもそうじゃないエンドでも…、あ、一個を除いて」


 全てを生贄に捧げるエンドが幸せなわけない。

 そして勇者様はあの通り、振り回されっぱなしだ。


「大いなる問題…。ユーノとユーリ、アルフレドの関係はまだ考察段階。DLC発売前に出た『神・設定資料集』でもあまり触れられていない。アルは何を見、何を感じている?俺が勇者じゃ駄目な理由の一つは決定だな」


 プレイヤーに、魂に染み込んだ感覚が、流石にそうだと言っている。

 ムービー中のキャラには、設定された記憶が押し寄せる。


「そういえば私の名前…どうして?貴方は?」

「俺は運転手…もしくは保護者。いや、そうだな。ソフィアに嘘をついても仕方ない。俺は、——予言に従う者(プレイヤー)だよ。そしてソフィアは英雄(ヒロイン)、世界を救う者」

「予言に従う?世界を救う?それは」

「詳しくはマーサ様まで、と言いたいけど、早速だ」


 ツッコミどころはある。

 だが、今はツッコめる状況ではない。


「マーサ様に回復魔法を。出来るだけおっきなやつで」

「あ、そ、そうでした。えっと…」


 シスター帽の隙間から光が漏れ出る。

 それでも収まらず、遂には長い翡翠色の髪も一緒に溢れ出る。

 怪我をした初老の修道女は目を剥き、銀髪大男はニヤリと犬歯を見せる。


 旅そのものは本当に順調なのだ。

 あの日、勇者がマリアに素手では勝てなかったと同様に


「——全体治癒魔法(ミナケイミル)!」

「上出来だ。マーサ様、これで疑う余地もないだろ」

「そう…ですね」

「これが私の力…。予言師様。教えてください、貴方のお名前を——」


 バン‼


 そのタイミングで大修道院の扉が開かれた。

 真っ先に駆け込んでくるのは、眩い光を放つ大英雄だ。

 ソフィアのサファイア色の瞳は、あっさりとそちらに吸い寄せられる。


「レイ‼大カラスは倒したよ‼」

「流石だな。それじゃ、ソフィ」

「アナタは勇者様ですね‼先ほどは助けて頂いて…。その…私、私はミッドバレーの修道女、ソフィアと申します」


 これが今回の冒険のスタイル。

 凄まじい魔力が収まり、凪いだと思った翡翠色の長い髪が再び躍動する。


「緑の髪。この子もヒロインの一人ってこと?」

「そういうことになるわね」

「うう…。また、マリアの敵が一人…」


 銀の大男への質問を置き去りに修道女は勇者に駆け寄った。

 一目惚れという名の好感度マックスは、今回ばかりはレイの心を抉る。


「その前に山麓の人々を助けるのが先だろ。俺達の勇者様。あの話もその後」

「そ、そうだよね。みんな、行こう。魔物が村人に化けてて、それから」

「エミリとマリアの馬鹿力で、とにかく破壊消火。アルと私と…、えと」

「ソフィアです!」

「ソフィア。住民と魔物の見分けくらい出来るでしょ」

「はい!」

「それでいいわね。レイ」

「いいんじゃないか。お前達の力なら被害を最小限に出来るだろ」

「っていうか馬鹿力じゃないし」

「そうよ。マリアは魔法が使えるから、馬鹿がつくのはエミリだけだし」

「馬鹿じゃないもんねーだ。行こ、アル様」


 そうでなければ世界は消滅する。

 だが、推しのソフィアまでこんなだ。

 こんな世界滅んでしまえばいい、って気持ちも芽生えてくる。


「ビターだ。ビターすぎる。でもレイモンドはこうじゃないと。マーサ、オームギたちに伝えろ。勇者に協力し、勇者を讃えるんだ」


 滅ぼすのは簡単だ。裏切らなければよい。

 そうすれば、ユーノルートのまま。

 DSW-002はDSW-003、即ち自動運転モードにいつでも変形可能だ。


「もっと勇者を讃えろ。俺が狂ってしまうくらいにな」

「それが予言に従う者の顔。悪魔の様な顔をされるのですね」


 推しヒロインに完全回復してもらった女が通り過ぎる。

 以前までのシナリオでは死んでいた女。

 そうとは知らず、男を白眼視して去っていく。


「ほっとけ。悪い顔は生まれつきだ」

「それは失礼致しました。でも、あの子にもしものことがあれば…」

「もしも?…てめぇに何が出来る」

「私には何もできません。ですが、あの子は女神の加護を受けし者。メビウス様が許しはしないでしょう」


 一度立ち止まり、天に祈りを捧げて、マーサは建物内に消えた。

 修道女の背中を最後まで見送った後、男は深い溜め息を吐いた。


「マリアといい、マーサといい。…説教されてばかり。そのメビウス様とやらが関わってるから、笑えないな」

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