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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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13/71

この車にはビターが足りない

 以前、世界を救ったレイ。

 データが消し飛んだから、何がどうだったか覚えていない。

 ただ自分がプレイヤーだったことには気が付いている。

 体も魂も慣れている。

 だから逆に気付かないことだってある。

 ハーレムを見させられる以外は全てが整っている。

 この状態はかなり珍しいし、DLC後しか経験していない。

 だとしても慣れていなくても納得は出来る。


「ネクタで最強装備は貰えたし、…俺以外だけど。俺が貰ったのだって、実ははした金だった訳だけど。パトロンってやつ?娘が英雄なんだから、パトロンじゃないかもだけど、旅はまさに順風満帆だな」


 ドラステワゴンにエクナベル・コーポレーションのロゴがラッピングされている。

 世界にクリーンをお届けする企業が、世界を平和に導く。

 と書いている。

 言いそうー。絶対思ってなさー。とか言われそう。


「ノブレス・オブリージュってやつか。何にしても助かる」


 眠気対策のコーヒー入りの水筒はエイタ達の贈り物だ。

 一台しか走っていないから、途中で止まっても問題ないが、ちょっと気持ちが悪い。

 そんな時は休憩エイアならぬパーキングエリアに車を止める。

 水筒の蓋部分にチョロチョロと注ぎ、アイドリング音をミュージックがわりにじっくりと味わう。


「苦っ…」


 ブラックの苦すぎる味には甘いお菓子と相場が決まっている。

 ただ、ハーレム勇者の甘いおかしなひとときは、相性は最悪。


「苦い。むしろからい。(つら)い‼…でも、これもまたデジャヴ。じゃなくて、俺、接待に知ってる‼なーんで、俺。レイモンドを経験してんだ?」


     ◇


 パーキングエリアは休憩ポイント。

 勇者がファストトラベルをする以外に使い道はない。

 前はさて置き、勇者たちはネクタまでに順調にレベルを上げた。

 運転手は、彼らに釣り合う場所まで、車を一気に進めていた。

 そしていち早く車を降りて、屈伸ついでに夜空を見上げた。


「ふぁぁぁあああああ。流石に疲れたな。そういや、俺。一回分、睡眠とってないじゃん。そりゃコーヒーもブラックが出される訳だ」


 女神像の周囲はほんのりと明るい。

 その光のお陰で魔物が寄ってこない。

 例のキャンピングカーモードも、ここで発動する。


「レイ。お疲れ様」

「アルか。冒険は楽しめてるか?」

「えっと…。みんなが優しいから。その…レイもありがと」

「俺のことはいいって。みんなに感謝しろよ。お前を慕ってる。お前とだから命を賭して戦うんだ」

「えと…、うん。分かってる」

「当然、俺も命を懸けてる。そんな顔をするな。ユーノは生きていたんだ。急ぎたい気持ちは分かるが」

「えっと…。レイ、その…。聞いていい?アレはなんだったの?ユーノ、途中から」


 金色の髪が靡く。

 アルフレドは車が止まり、運転手が降りたと分かって急いで駆けつけた。

 そういえば、ムービー以来話をしていない。

 そしてムービー以前、ネクタ以前もアルフレドの道案内はずっとレイのままだ。


「…悪い。俺にもよく分かんね」

「そう…だよね。ユーノ…、昔から自分のこと話したがらないし」


 四人は幼馴染。

 アルフレドと同様、ユーノはスタトの西の森を彷徨っている時に保護された。

 因みにアルフレドの出自は、ドラゴニア王家の王子であっている。

 でも、ユーノは——


 とは言え、レイは当然ながらユーノの正体を知っている。

 ユーリの正体も知っている。冒険を進めれば、勿論そこに辿り着く。


「アル。気持ちは分かる。俺だって両親を殺されたんだぜ。今すぐにでもアーマグ行って、ぶん殴りてぇ」

「…うん、ゴメン。僕なんかより、レイの方が」


 攫われた幼馴染と殺された両親。

 二人が抱える傷。どっちが上とか下とか比べられない。

 そもそも、レイの役割はノーマルルートに戻すことだ。

 親友かはさておき、幼馴染の肩に手を置き、片眼を瞑ってみせる。


「アル。お前が、なんかとか言うな。スタトの皆が家族って、誰が言ったんだっけ?」

「う…、そう…だけど」

「世界が広いことを知るんだ。勇者の肩に乗ってる責任が重すぎるなら、一緒に背負ってやるし」

「あ…、ありがと。レイがいて…本当に良かった」

「…おっと。運転手としての仕事がまだ残ってるんだ。みんなに伝えて来てくれ。車が変形するから、一旦外に退避しろって」

「変形って⁈そもそもこれは何なの?」

「古代の魔法具。キャンピングモードを搭載してるんだと。ビイタさんに色々聞いたんだけど、中に乗ってたら変形できない。だから、さ、行ってこい」

「…うん‼皆に言ってくるね‼」


 運転手レイは勇者の背を優しく押し、ヒロインたちの元へ向かわせる。

 その隙だらけの安心しきった背が、柔らかな体が車の中に戻るのをしっかり待ってから、深い溜息を吐く。


「あの顔を見たら不満が吹き飛ぶって。お前がそんなんじゃ…、魔族になれないだろうがよ。…レイモンドじゃないと駄目な理由は多分、魔族になるからだ。俺はもっと妬まないと、もっと恨まないと…。もっと世界を嫌いにならないと…」


 相性最悪の甘いハーレムを見せられた。

 でも今回のドラステワゴンコーヒーは、どうにもビターが足りないらしい。


 まぁ…それでも。

 この後何が起きるか、知っている。


「俺じゃなくても、RPGやってたらまぁ察する。次の街、ミッドバレーでアイツが来る。アルがあんなんで大丈夫なのか?ユーリの存在自体、メタ読み前提なんだけど」


     ◇


 ミッドバレーに向かう前にRPG恒例のレベル上げを行う。


「この辺りはコウモりんの色違い、イエローコウモリんが出る。炎系魔法パイロで適当にあしらえ。狙いはブルーウルブスっていうオオカミみたいな魔物だ。エミリのスキルは出来るだけ多用するように、TPの消費はすぐに回復するからな。でも、フィーネとマリアもMP消費はケチるな。ここに戻ったら回復できるんだからな」

「だったら私がブルーウルブスを狩ればいいのね」

「フィーネ、話聞いてた?あたしが活躍するんだって」


 勇者への好感度マックスのヒロインたちで、そっちに振り切っているからトラブル一つ起きない。

 勇者は勇者で


「いっぱいいっぱい倒したら、あのアズモデって悪魔も」

「アル。ここで焦っても意味がない。レベル上げに効率を求めるのは良いが、大事なのは」

「…え、でも。僕はアイツに勝たないと」


 モチベーションは高い。

 そして目線は相変わらず遥か向こう。

 勿論、ラスボスといつかは戦うのだけれど。


「落ち着け。大事なのは命だ。お前が死んだら…。いや、フィーネもエミリもマリアも絶対に死んじゃダメだ」

「やっと分かったみたいね。勇者様、ここはゆっくり行きましょう。マリアがいつでもいたしますから」


 桃色の前髪の奥の翡翠色の瞳。

 ハイライトを消して銀髪を睨み、ハイライトをつけ直して勇者様を励ます。

 怒られたと思い出し、レイはバツの悪い顔をするが


「ねぇ、マリア。なんでドヤ顔してるか知らないけど、レイの指示は毎回こんなだよ。新入りなのに偉そうだし」

「えぇ!?だってアンタたち、グッタリしてたじゃない」

「それはそうよ。ずっと戦い続けてたんだから。冒険にイチイチ口を挟まないで欲しいわね」

「マリアのお陰でちゃんと休めたのに、何よ。その目!」


 彼に味方するヒロインたちもいる。

 そもそも


「もう…、三人とも。そういうのは後にしてよ」

「うん!あたしが前衛行く!」

「エミリはネクタまで前衛だったでしょ」

「その前はフィーネだったじゃん!」

「それなら勇者様。今回はマリアと」


 通常ルートでのヒロイン達はライバルだ。

 パーティの並びで好感度が変動するシステムが、採用されている。


「えぇ…。コイツら、こんななのか?」

「うん…。武道場でも大変だった…。レイが来なかったらと思うとゾッとするよ」

「マジ…か。なんか頭が痛い。…お前らは誰でも前衛を張れる。アル、魔物を倒すたびに交代で」

「分かった。やってみる」


 ある意味仲良くレベリングに向かった勇者一行。

 今回もレイは後方で腕組みをしたまま、見守ることになった。


 さて。


「アイツら、本当に大丈夫か?アルに選んでもらわないと、マジで世界が終わるんだぞ。無かったことにされるから、無間地獄に陥ってることにも気付けない…」


 DLC前のノーマルシナリオで、ここに来るまでにレイはアレが起きるから、言うべきか、言わざるべきかと悩んでいた。

 ニイジマレイはそんな重大な悩みを忘れている。

 触れていないのは当然、ちゃんとした理由がある。


「さっきも思ったが、レイモンドへのヘイトが低い。あくまでユーノシナリオを強調したいからか、大人の事情か知らないけど、ネクタのムービー同様、あのシーンも大幅カットされてるし」


 ネタバレだから詳しくは言えないが

 フィーネに打ち明ける必要はないくらいには無害化している。

 とは言え、流れは同じ。レイはあそこで人間として殺されて、魔族に生まれ変わる。


「…やる気があるのは嬉しいが、相変わらずユーノユーノ」


 遠くで戦っているから、流石にここまで経験値は飛んでこない。

 設定の明確化によって、親近感というか近親の親しみを覚えるからアルフレドが心配だ。

 そして世界を考えるなら、ヒロインたちがちゃんと気に入られるかも心配でならない。


 エミリとフィーネは否定したが、保護者目線なのは間違いない。


「って、いうかさ。次、ソフィアじゃん…。ソフィアまでアル様、アル様言い出したら、俺の精神が持たない。もしかして、それが理由で…?嫌だ。それが理由で闇落ち魔族になるなんて絶対に嫌なんだけど‼」


 子供たちがブルーウルブス頃、レイは新島礼として肩を落としていた。


 ここでレベルを上げて、明日はパールホワイトスラドンの出没エリアを教える。

 フィーネがブチ切れることも、レイが孤立することもない。

 宿場町で休んだ後は、ネクタの次の街、ミッドバレーに辿り着く。


 そこで再び、ユーノルートの片鱗が現れる。


 その時、パーティメンバーがどうなってしまうのか、ゲーム一周、アルフレドルート一周、アルフレド周の記憶はない。

 だから、あのレイでさえ知らない。

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