ネクタ脱出と、早速の運転手
「あれ。日給減ってないっすか」
「君が勇者様のツレと知られてしまった。それから従業員が少しずつ戻ってきている」
「でも、契約書に…」
するとエイタの懐からひょっこり紙が飛び出した。
即座にペンの先が当てられる。
「うわ…。小さな字で当社の都合で変更可能って書かれてる」
「これでも多い方です。それに昼は自由にして構いません」
長引かせるつもりはないが、一週間かかった事情は必要だろう。
レイの目に触れることなく、アルフレドはマリアに挑み続けた。
アルフレドがマリアに勝てない理由なんて、最初から分かりきっているのにも拘わらず。
エミリは絶対に分かっている。となると、他の理由も考えられた。
「あの…。マハージ様もイザベラ様も伝承はご存知なんですよね」
「…勿論です」
「だったら」
「武道場での特訓は旅立つ前の、マリア様の最後の我が儘ですので」
「光の勇者が留まってるのは、エクナベル・コーポレーション的にも不味いのでは?」
「そうですね。ではお任せします」
ということで、保護者として顔を出す。
「アルぅ。そろそろネクタを出るぞ」
「レイ‼どこに居たの?」
「どこって…」
視線が痛い。
そんな目をしなくてもネタ話はしないのに。
彼女達の為にも、未来の為にも。
「DSW-002、もっと速く先に進むための機械を使えるように整備してたんだ。マリアに頼まれてな」
自動運転可能なことはレイも知っている。
でも、レイがいた場合は自動運転機能がフリーズする仕様だ。
仕様が変わるんだから、ある意味で間違っていない。
すると少女は頷く。
「時間が勇者様の無駄にならないよう、フィーネとエミリに協力して貰っていたんですよ」
「え?二人も知ってたの?」
「そ。アルがやる気だったから、水を差すのは違うと思ってね」
「あたしもあたしも!」
マリアは勇者様、勇者様だった。二度あることは三度ある。
レイがヒロインの好感度の仕組みに気付くのは必然だった。
三人が等間隔、同じ距離でアルフレドと一緒に寝ていることから、三人がある種の協力をしていたことも気付いて当然。
「アル」
「うん…」
勿論、勇者は負け続けていたんだから素直に喜べない。
例え、三人の作戦だったって言ったところで、ちゃんと理解できたかどうか。
「旅立つ前に、マリアと真剣勝負をしたらどうだ」
「それはもう」
「単に比喩じゃなく、真剣でって言ったんだけど、それももう?」
「えっと、でも」
「ちょっとアル。私のレベルも上がってるの忘れてない?何かあったら私が回復するし、アルに何かあっても私とマリアが回復できる」
「それにここはマリアんちだし、回復薬もいっぱいある」
「…仕方ありませんわね。アタシもそう思います。勇者様」
「マリア、だって危ないし」
「負け癖がつく方が良くない…。それに何かありそうだったら、あの男が割って入るわよ。そういう契約だったわよね」
これにはレイも肩を竦めるしかない。流石はマリアと息を呑むしかない。
マリアの手のひらの上で転がされる。
「あぁ。身を挺して、そこだけは防ぐぜ。久しぶりの一張羅だしな」
「そっか。…マリア、絶対に避けてね」
「アタシに勝てる気まんまんね」
一週間前のマリアがぶちまけたことは、戦いにも言えることだ。
斬ったら肉が切れる、命が絶たれるかもしれない、そんな戦いで精神が磨り減らない方がおかしい。
スタトからネクタまで、楽勝だったかもしれないが、恐怖という見えないパラメーターはMPではなく、心にダメージを負わせ続けていた。
真剣勝負ではマリアも同条件になるわけで、死ぬのが怖いと宣言した彼女の動きのキレは僅かにだが、鈍くなっていた。
そして勇者はついに彼女に膝をつかせ、参ったと言わせた。
「魔法を使った形跡はなし。素手でも強い職種のマリアと武器防具前提のアルフレドの同レベル対決。出会っていきなり同レベル。エミリは接待に最初から気付いてた。流石に無粋過ぎて言えないけど」
せっかく気持ち良く旅が始まるのだし、マハージもイザベラも覚悟を決めたのだし。
「娘を頼んだぞ」
「はい」
「勿論です」
マリア伝手にシータ、エイタとビイタと渡ったのか、マリアの両親は保護者にむけてそう言った。
それから
「レイ…、DSW-002の…」
トランクに何か入ってたっけとエイタ達と一緒に見ると、保護者であるレイ向けに目玉が飛び出る黄金が詰まれていた。
あと契約書の内容の更新も一緒に。
そして、ドラゴンステーションワゴンの始動である。
「案内役兼整備士兼運転手の俺から、仕組みを説明しておく」
どらごんすてーしょんわごんってなんだろう、という絵本のような説明。
車の仕組みが分からない子供にも分かりやすく、そして流れるように、自らを追い込むための拷問箱を、拷問にかけられる男、自らが話していく。
「それに乗って、更に東へ。魔族が言ってたアーマグに近づけるのか」
「あぁ…」
分かりやすかったから、アルフレドは迷わず後ろのラブワゴンに乗る。
三人のヒロインも続く。
レイが運転席に乗って、遂に始まる。
恒例のアレも始まる。
▲
田中「原田さん。ドラゴンステーションワゴンが遂に携帯機ですか。発売おめでとうございます。初週の売り上げもいい感じみたいですね」
原田「いやぁ、みなさまのおかげです。それと協力してくれたスタッフに感謝ですね。」
田中「さっそくですが、新ヒロイン。新ストーリーですか」
原田「そうなんですよ!正直言ってドラステはやり尽くしたと思ってたんですが、宮西さんとお会いすることがありまして」
田中「新規シナリオを担当された宮西みげるさんですね。驚きでした。ノベライズされたばかりの、失礼な言い方をすると新人作家さんですよね」
原田「色々お話する機会がありまして、宮西さんもドラステをプレイされてることが分かったんです。それで話が盛り上がってて、自分ならこうするとか、結構深い話までしまして」
田中「なるほど(笑)ネタバレはなるべくしないようとと思ったんですが、思い切りましたよね!(笑)」
原田「はい(笑)ナラティブで分かりやすく。一本のストーリーを中心にするのもありかなって。居酒屋で宮西さんと脚本を一緒に読んだりして、これは面白いと(笑)」
田中「主人公が魔王を倒す。それはそれで一本のストーリーだと思ったんですが(笑)」
原田「確かに(笑)そこからもっと分かりやすく、ナラティブに。主人公に感情移入しやすくを目指しました。二人で考えていたら、わ、これだ!ってなったんです。」
田中「あともう一つよろしいですか?今回は以前のストーリーと新規ストーリーが並行して進みますよね。敢えて二つのストーリーを分けなかった理由を聞かせて頂けますか?」
原田「よくぞ聞いてくれました。これも宮西が絡んでくるんですけど、一緒に行ったサウナで思いついたんです(笑)」
田中「サウナ…ですか」
原田「サウナで悟りを開いたんです(笑)悟りを開く段階で、言っちゃっていいのかな。〇羅(マ〇)という悪魔が色んな誘惑を見せるんです。その誘惑を乗り切った先に悟りが開かれる」
田中「成程!それであぁなったんですね!もう一つ宜しいですか?今回は彼の出番が少なすぎるという意見も出てきそうと思ったんですが」
原田「ま、いいかなって(笑)」
田中「(笑)」
原田「あ、でもこれは言っとかないと」
田中「それってもしかして…」
原田「はい。みなさまお待たせしました。ハーレムエンド、解禁しました(笑)勿論、宮西さんと考えたユーノルートは別ですが」
(取材場所が拍手に包まれる)
田中「ということでね。今回は携帯機に完全版リメイクして大ヒットとなったドラゴンステーションワゴン、七人の花嫁+2の特集でした。原田さん、ありがとうございました。」
原田「ありがとうございました。さようナラティブー」
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「だから、かっこわら‼っていうかさ‼ドラゴンステーションワゴン、車の話題が全然出てこないじゃん‼だったらもうタイトル変えろよ‼あれか?ナンバリングタイトルのつもりか?ってか伏字の意味‼魔羅様は魔羅様でいいだろ‼お釈迦様の逸話だし、超有名なんだし‼」
最近読んだインタビュー記事を思い出しながら、この世界にいない男たちに悪態をついていた。
レイモンドに情熱をつくした鈴木Pは去り、原田がプロデューサーとなってストーリーを追加し、それをストーリーの頭から尻尾まで、一本の軸にした。
エンディング部分は流石に伏せられていたが、結局ネットで炎上した。
「男二人でサウナ言って、魔羅の話で盛り上がってんじゃねぇよ。今回も完全にノリで作ってんじゃねぇか‼」
レイモンドのレの字も出ていない。
今、後ろは大変なことになっているのに出てこない。
アルフレドはこれから先を知るために地図を呼んでいる。
そして好感度マックス維持のヒロインたちが寄り添っている。
勇者の右腕と左腕をフィーネとマリアが絡めとり、小柄だが豊かな胸のエミリが体を勇者の背中に密着させて、肩ごしに地図を覗き込む。
しかもそれでいてちゃんと座っている。
そうはならんやろとツッコみたくなるシートの形は、流石魔羅様の加護。
悟りの道、ユーノの道は険しい。
そういうことにしておこう。
「いつから魔王軍はレイモンドの有無で構造が変わる超技術を手に入れたんだ?危うく、俺はアイデンティティを失う所だった。俺は最初から完全なる運転手。お客さんは見えているが話は聞こえない孤立。ドラステワゴンはレイモンド闇落ち専用機。そうじゃなきゃ、全てが壊れる」
こっちはこっちで別の悟りが開けそう。
やはりマーラ様は偉大と思いつつ、マーラ様かもしれないシフトレバーを撫でる。
「これも全部、ハーレムルートの為だ。絶対に酔って作ったシナリオなんだろうけど、それが救いか」
一速二速三速…、クリーンエネルギーをなんかこううまいことして、MT車で仕上げた車だ。
EVはバッテリーの関係上、SUVの形と相性が良いと言われるが、相変わらずのステーションワゴンが道路を疾走する。
ただ、マリアのお叱りは忘れていない。
叱られなくてもそうするつもりだったが、休憩ポイントにはちゃんと止まる。
五番目のヒロイン、キラリが登場するデスモンドイベントまで、いやレイモンド離脱イベントさえ、今回は甘んじて受け入れる。
「まだ頬がヒリヒリする。ダメージって訳じゃないけど」
マリアは達観し過ぎと叱った。
確か彼女の言う通りだろう。
世界の崩壊を心配する前に、目の前で苦しむ若者たちの心配をする。
それが未来へ繋げる正しい道かも知れない。
とはいえ、
「目の前で苦しむ人間はここにもいるだろ。ユーノルートの終わりがハピバじゃなかったら、俺は運転なんかせず、ネクタに。いや、今頃スタトに残ったままだよ」
このラブワゴンは運転手の心を悪へと染める。
だから流石過ぎる設計だと舌を巻く。
ここだってデジャヴを感じているのに、達観している筈なのに
このドライブシートはやけにイライラさせる。




