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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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保護者が見守るネクタの夜

 更に前に遡る。


「ユーノ‼ユーノ‼」


 やみくもに走り続けるアルフレドは見知らぬ建物に入り込んでいた。

 そこにはDSW-002であるドラゴンステーションワゴンとマリアがいた。


「アナタは光の…光の勇者様‼」

「え…?勇者かどうかは…分からないけど。えっと、こっちにユーノ…、と、透明な髪の女の子が来なかった?」

「いいえ。来ませんでしたけど。勇者様!是非アタシを仲間に」

「えっと、僕はユーノを」

「ユーノ様?その方は」

「ユーノは──」


 アルフレドはユーノのことを話した。

 幼馴染であること、自分の身代わりで攫われたこと、魔王軍に連れて行かれたこと。

 何処にいるかも分からないことも。

 そこでマリアは勇者に提案した。


「マリアの力を使えば、きっと助けになると思います。世界的大企業ですよ!絶対に助けになれます!」

「世界的大企業…。確かに」


 勇者も無知ではない。

 大きな組織の力を借りることができれば、捜索は絶対に捗る。

 実はその通りで、勇者はレイモンド抜きでも、ここで自動運転モード搭載の車を手に入れることが出来る。

 これがなければフェリーは動かないのだから、マリアは嘘を言っていない。

 ただ、


「でも条件があります」

「え?条件って、僕にお金は」


 ノーマルエンドになるか、ユーノエンドになるかは決まっていない。

 どちらの可能性も残したまま。加えて、ヒロインは好感度マックス。


「いいえ、お金ではなく」


 マリアは意地悪をするかもしれない。

 例えばこんなふうに


「せっかく勇者様にあえたんだし、一度手合わせして欲しい…かな」

「手合わせ?」


 メタ存在ではない勇者アルフレドは首を傾げる。

 勿論、あんなムービーを見た後でなければ気付けたかもしれないが


「それくらいなら。でも、僕は強すぎて危ないかも」

「大丈夫です。うちの地下にある武道場での手合わせですし、マリアの得意魔法は回復ですし」


 そしてまんまとマリアの策に嵌った。


     ◇


 マリアは悪びれることなく、二人を連れて階段を降りる。

 話を聞いたフィーネは首を傾げた。

 エミリは「ふぅん」と後ろで聞いていた。


「アルがやられた…。そんなことより回復魔法はどうしたのよ。もしかしてアナタ」

「そんな目を向けないでよ。勿論、勇者様のお体の回復はしたしぃ」

「それでどうして寝てるのかなぁ」

「体は回復しても、疲労は残るでしょ。リベンジするなら休んでくださいって、布団を用意したら寝ちゃったの。アナタたちが無理をさせ過ぎちゃったんじゃない?とっても可愛い寝顔を見れたからいいけど」


 ぽっと出のヒロイン、余裕すぎるマリアに、フィーネは歯嚙みした。

 無理も何も、無理をしていたのはアルフレド自身だし、彼には無理をする理由がある。

 勿論、その余裕は何も彼女が大企業のお嬢様だからではない。


「ほら。マリアは敬虔な信徒だから、変なことはしてないでしょ?」


 策かもしれないが、嘘はついていないし、卑怯な真似もしていない。

 アルフレドは見たこともない柔らかそうな布団の中ですやすやと眠っていた。

 その様子は


「ふわぁぁ…」


 と、エミリに欠伸をさせるくらい落ち着いていた。


「良かった。あの警報音が勇者様の睡眠を邪魔したんじゃないかってハラハラしてたんだから。逆に言うと、それくらい疲れてたってことよね」

 

 それはそう、フィーネもつられて眠くなる。

 順調に見えた冒険、光の女神メビウスの加護に助けられていた。

 でも、冒険なんてしたことがないから、疲れるに決まってる。


「それでも、アルは」

「大切な存在を取り戻す為に、…勇者様は諦めないでしょうね」


 ユーノルートが存在する限り、諦めエンドは存在しない。

 この冒険は、プレイヤーのレイが辛いだけじゃない。

 ヒロインたちの苦悩も孕んだ冒険だった。


「マリアは悪い子じゃないの。だから、アナタたちを助けてあげる。シータ、整えてちょうだい」


     ◇


 既に二時間。

 職員控室の時計の秒針を数え飽きたレイ。

 何人もの知らない人たちに会釈をするのにも、そろそろ飽き始めた頃。


「お疲れ様ですー。…おや?でぃーしーなんとかさん。まだ、いらしたんですか」

「あ、お疲れ様です、モンバさん。まだって誰も来ないんだけど」

「そういや、ビイタの姿もあれから見ていませんね。今日は大変な一日でしたから、運が悪かったですね。それでは私は」

「え…?そんな」

「あぁ、気になさらないでください。夜は夜で違う者が警備に来る予定ですから」

「じゃなくて‼俺、どうしたらいいんだよ」

「申し訳ありません。私は中に入られないので。それに…、早く帰るようにこれが言ってきたんです。これのあれがあれなもんで」


 門番の彼が顔を出して、そそくさと帰っていった。

 家族にとって、エクナベル家の仕事は危険。それだけではなくネクタの街も不穏。

 彼の妻が直帰させるのだって無理はない。


「って‼色々、俺を無視し過ぎじゃない?みんな会釈しかしないし。顔を見ようともしないし」


 一人激しく突っ込むが、誰も見ない。

 絶対に目立つ容姿なのに、不審がる人間は誰もいない。

 出て行く方が多いのは、夜に向かっているから。

 だから会釈の頻度も減っていく。

 そこから更に一時間経って、更に三十分後


 漸く、彼の待ち人はやって来た。


「あ。ビイタさん‼」

「…誰だ。お前は」

「来たぁぁあぁああああああ‼やっと不審がってくれたぁぁあああ‼」


 自分よりレベルの高い二人を送り込んだ。

 その時点で自分の仕事は終わったようなものだ。

 あとは追い出されるのを待つだけ。そんな暢気な長身男に忠義真の厚いビイタは言った。


「それよりお前だけか?」

「はい。俺だけっす」

「仕方ない奴らだ。お前に任せるしかないか」


 銀髪が一瞬だけ逆立つ。またしてもデジャヴ。

 アルフレドで一回クリアしたから?


「…はい?ビイタさん。俺、部外者っすよ?」

「部外者?なら頼まれてくれないか。いや、頼む。本当に頼む。金ならいくらでも出す」


 なんて考える前に目を剥く事態が起きる。

 エクナベルの副執事長ビイタが突然土下座をしたのだ。


「あの…。ビイタさんにそんな権限は…」

「問題はない。マリア様絡みだ。後付けでもあの方は金払いが良い方だ」

「え…。マリア様絡み…?確かにマハージ様ならいくらでも出しそうだけど」


 使っても使っても増える、羨ましい限りの金の実る木の持ち主だ。

 クリーンエネルギーと名を変えても、その設定は変わらない。

 そしてゲーム内転生であってもお金は欲しい。

 装備関係を上から下まで買いたい。

 だけど、終わるかもしれない世界。

 一度、絶対に終わっただろう世界。

 ユーノルートだとクリア後に世界崩壊するから、金は使い切らないといけない。

 それ以外にも色々考えることはあるだろう。

 

 でも、——体が勝手に反応した。


「い、いいですよ。ビイタさん、困ってるみたいだし」

「た…助かる」


 困っている人がいるなら、とか考えることもなく、口が勝手に動いた。

 首は傾げていたけれど。

 

「丈が足りないが、まぁいいだろう。…いや、先に前金を支払おう。…念のために契約書も」

「あ…、はい」


 誰にも分からないことだが

 今回はレイとサインをして、丈の足りないスーツと一か月は困らない金を受け取る。

 いつか使ったロッカーにレイの一張羅を押し込んで、黒いスーツに身を包む

 

「早速で悪いが、一日だけかもしれない」

「単発バイト、嫌いじゃないっすよ」

「そうか。助かる」


 忘れてしまったレイは、無かったことにされたビイタの背中を追い、その先に待っていたのは


「エイタ…さん」

「ん?見ない顔だが」

「あぁ。今日一日、働いてくれることになった」

「成程、新顔か。レイ、こっちだ」


 デジャヴのバトンタッチだった。

 エイタは書類を一瞥しただけで、部外者をエクナベルの奥地に連れて行く。

 レイは驚き戸惑うも、足取りだけは迷うことがなかった。

 とは言え、階段を上り始めた瞬間は大きく目を剥いた。


「エイタさん。二階と三階はエクナベル様の居住区画ですよね」

「マリア様関係の仕事だからな」

「それはそう…ですけど」


 アルフレドが中にいることはモンバの態度から分かる。

 でも自分が送り出したフィーネとエミリの動きが分からない。

 不安で目を泳がせていると、見覚えがあるのかないのか分からない部屋の前に連れていかれる。

 そこで見覚えのある侍女が、エイタに向かって頭を下げた。


「その方が?」

「イレギュラーだが仕方がない」

「そうですね。今日はイレギュラーの連続ですし。…レイ。中に」


 今回のデジャヴバトンタッチは一瞬で、直ぐに見覚えがあるのかないのか分からない部屋に放り込まれる。

 そして、レイの視界の端に一瞬だけピンク色の何かが映りこむ。


「ふらいんぐにーるきーーっく!」


 似たような展開。

 レイは咄嗟に飛び込み前転して、その攻撃を躱す。

 だが、その後の展開は違っていた。


「ふーん。やっぱり君だったのね。身体能力もなかなか」


 ピンクの長い髪を靡かせた、武道着を纏った少女。

 レイと認識しての一撃は、彼女の全力の一撃だった。


「ちょーーーっと待ったぁ‼本人じゃねぇか‼それは聞いてない‼」


 マリア・エクナベル。

 つまりは三番目のヒロイン。

 その顔は、顰め面だった。


「聞いてないとか言っちゃうあたり‼」

 

 正拳突きに回し蹴り、からのムーンサルトキック。

 空が弾けて、窓に嵌められたガラスが悲鳴を上げる。

 いつかの戦いよりも、数段上の攻撃だった。

 だから、反撃なんて出来る筈がない。


「なんでそんなに怒ってんだよ…」

「それに気付かないからに…、決まってる‼」


 マリアの全力右ハイキックが壁紙を切り裂く。

 流石は足技が基本の格闘モンクだ。

 回復魔法と格闘術を得意とする強キャラ。

 エミリの時と同じく、最初から勇者と同じレベルに設定されている。


「気付かないってなんのことだよ」

「そうやって躱せることよ‼保護者だったらちゃんと見てなさい‼」


 ひと際大きな部屋だ。

 それでも推定レベル15の少女には流石に狭すぎた。

 天井も床も、彼女にとっては同じ足場。反転重力になったのかと錯覚させる。


「保護者じゃない。リーダーはアルフレド。伝承でもそう伝わっている筈だ」


 恋する少女を演じながらも、


「知ってる…」


 自分より強い相手じゃないと無理というヒロインだ


「だったら」

「でも‼」


 アルフレド相手にも全力で挑んだことだろう。

 そして彼女の口から零れ落ちる。


「マリアも怖かった‼死ぬかとも思った‼」


 全力の蹴り技を連続で放つ。

 上下左右では足りずに、空を蹴っての二段飛び。


「勇者様も‼フィーネも‼エミリも‼お父様も‼お母様も‼街のみんなも‼」


 レイのクロスガードの中心に踵が突き刺さる。

 ニイジマで受けていたら死んでいただろう一撃だ。


「なのにアンタは全然、怖がってない‼」


 殺意の篭もった八つ当たりだった。

 レイにとっては、そんなこと言われても


「みんな、死ぬのが怖いのに‼アンタだけ‼ずっと…余裕…」


 それでもエクナベル家で生じた疑問の答えを示すことだった。

 勿論、レイだって色々考えている。


 自分の体の訴えと、ゲーム内転生とそれから——


「余裕なんてない。世界が壊れないかと、ずっと…」


 パァァァァァァン‼


 遂にガラスも限界を悟り、全てが弾けとんだ。

 同時にレイの体も飛ばされる。

 意表を突く攻撃。

 マリアの平手打ち、若しくはビンタはとても珍しい。


「大仰な理屈をあの子たちに押し付けないで‼世界の崩壊なんて、アタシたちには関係ない‼死んだらお終い…なんだよ?」


 桃色格闘少女の連撃は止まり

 同時に膝をついて、そのまま横たわった。


 終わりを考えているけれど、考えている終わりの内容が異なる。

 あんなことが起きた街で、たった一人だけ心に余裕を持つ男。

 無かったことにされた人たちと、記憶を失った人間との違いはそこに現れていた。

 

「死んだら終わり。そんなの…」


 とは言え、理解はできても、納得は出来ない。

 だからレイは、それでも立ち続ける。

 キャラとプレイヤーは結局、相容れない。


 と、その時


「今ので目が覚めたでしょ。シータぁ。喉乾いたー」


 トーンが変わったマリアの爽やかな声が響いた。

 

 苦渋の顔のまま居続ける男を他所に、シータがマリアに駆け寄り

 マリアは美味しそうに、お盆に乗った果汁水を飲み干した。


「これでマリアも眠れそう。アイツなら大丈夫そうだから、シータも仕事任せて寝ていいよぉ」

「…へ?」

「畏まりました。それではレイ。エイタに仕事内容を聞きなさい」

「え?」

「マリア様がお着換えされますから、退室しなさいと言っているのですけれど」


     ◇


「私も先ほどシータから聞かされたばかりだ。マリア様は君が勇者様のツレだと知っておいでだった」

「んで仕事の一つが、マリアを疲れさせること?疲れたアルフレドたちと一緒に寝たいから?」


 言いたいことだけ言って、さっさと寝る。

 部屋で起きたことの全てが、彼女の我が儘だった。

 

「地下の武道場で勇者様たちはご就寝されている。なにやら勇者様が目覚めたら全員を起こして欲しいとのこと」

「人を睡眠導入の道具にしながら、寝ずの番までしろって?」


 我が儘という設定ながら、ゲームシナリオにそれは反映されない。

 アルフレドに対する好感イベントばかりだから見えてこない。

 レイモンドの迷惑シーンがカットされたからか、それとも興味がないからか、マリアの迷惑部分がひと際目立った、イベントとは呼べないイベントだった。


「いざとなれば私もビイタも起きるが、出来ればシータは休ませてやってほしい」

「そういうことなら。マリア様に起こされたばかりだし?」


 大好きな勇者様を中心に、三人のヒロインが放射線状に寝ている。

 レイモンドに焼き付けられた記憶によると、とんでもなく高い賃金が支払われる。

 とは言え、他人の愛の花園を見守るお仕事は好んでやるものではない。

 何より、これから始まるアレを連想させる。


「レイモンドが狂った理由だったっけ…。ヒロインたちのベクトルは勇者に向き続けるが、勇者のベクトルはユーノに向き続ける。その先にあるのは世界の崩壊…。負けヒロイン全員が生贄にされるってことだ。マリア。悪いけど、考えない訳にはいかないんだ…」

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