第7話 王都アウレリアを歩こう
冒険者ギルドを出ると。昼の光がカナタを包んだ。思わず目を細める。
先ほどまでいたギルドの中は少し薄暗かった。
だからだろう。王都の景色がより鮮やかに見えた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。人が多い。とにかく多い。
門をくぐった時も思ったが、改めて見ると凄かった。
商人。冒険者。職人。買い物をする人々。走り回る子供達。
王都アウレリアは活気に満ちていた。石畳の道を馬車が通る。車輪の音が響く。露店からは客を呼び込む声。
遠くから聞こえる笑い声。
そして何より。美味しそうな匂いだった。
「お腹空いた……」
ぐぅぅぅ。
タイミング良くお腹が鳴った。朝から何も食べていない。
当然だった。異世界へ来て。狼に襲われて。街へ来て。
冒険者になった。
色々ありすぎて忘れていたが、まだ何も食べていないのである。
カナタは屋台の前で立ち止まった。
串焼きだった。こんがり焼けている。肉汁が落ちる。香ばしい香りが漂う。危険だった。とても危険だった。
「食べたい……」
真剣な顔で呟く。
しかし。お金がない。
一応、薬草採取の依頼は受けた。だが報酬はまだ先だ。
今の所持金。ゼロ。
完全なゼロである。
「働こう」
現実を受け入れた。お金は大事。前世でもそうだった。
異世界でも同じらしい。カナタは再び歩き始める。
すると。通りの向こうで人だかりができているのが見えた。
「ん?」
気になる。
かなり気になる。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
薬草採取は後回しでもいいのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎる。そして五秒後。
カナタは人だかりの前にいた。好奇心には勝てなかった。
人混みの隙間から覗く。そこにいたのは一人の男性だった。
派手な服。帽子。そして手には楽器。弦楽器だろうか。
見たことがない形をしている。
男性は歌っていた。明るい歌だった。旅の歌。冒険の歌。
周囲の人々は楽しそうに聞いている。
「へぇ……」
カナタの目が輝いた。吟遊詩人。ゲームや本で聞いたことがある。本当にいた。
しかも歌っている。カナタはしばらく聞き入った。
歌は上手かった。楽器も上手い。そして何より楽しそうだった。
歌い終わる。拍手が起こる。観客達が小銭を投げる。吟遊詩人は笑顔で頭を下げた。
「すごいなぁ」
カナタは呟く。
異世界にも歌はある。当たり前かもしれない。でも少し安心した。
もし歌の文化が全く無かったら寂しかっただろう。
歌は好きだ。前世からずっと。そしてこれからも。たぶん変わらない。
その時だった。視界の端が淡く光る。カナタは目を瞬かせた。
名前:カナタ
呼び名:
・歌好きの少女
祝福:
・歌姫の祝福
「ん?」
変化はない。
だが。祝福の文字がほんの少しだけ輝いて見えた。まるで喜んでいるみたいに。気のせいだろうか。
カナタは首を傾げた。しかし分からないものは分からない。
考えるのをやめた。
今はそれより。
「歌いたいなぁ」
そう思った。知らない世界。知らない街。知らない人達。
だけど歌いたい。胸の奥がむずむずする。
神社で歌っていた時と同じ感覚だった。
けれど。今は我慢する。お金を稼ぐ方が先だ。ご飯も食べたい。宿も必要だ。まずは生活基盤である。
「よし!」
気合を入れる。
薬草採取。頑張ろう。
今度こそ寄り道せずに。そう決意して歩き出した。
三分後。
武器屋の前で立ち止まっていた。
「大きい……」
店先に飾られている大剣。人より大きい。
どう見ても重そうだった。気になる。
とても気になる。店主が笑った。
「嬢ちゃん、持ってみるか?」
「いいの?」
「持てるならな!」
挑戦的な笑みだった。冒険者達も見ている。カナタは近付く。
そして。持ち上げた。ひょい。軽かった。あまりにも軽かった。羽みたいだった。
沈黙。店主が固まる。冒険者も固まる。カナタも固まる。
「あれ?」
なんか変だっただろうか。店主はゆっくり口を開く。
「あの剣……鉄だぞ?」
「そうなの?」
「そうなのじゃねぇ」
周囲から笑い声が上がる。カナタは慌てて戻した。何事もなかった。
たぶん。きっと。そう信じたい。そして逃げるようにその場を離れる。背後から店主の声が聞こえた。
「面白い嬢ちゃんだな!」
カナタは少しだけ恥ずかしくなった。
けれど。悪い気分ではなかった。異世界へ来てから。
知らない人達ばかりだ。
それなのに。みんな意外と優しい。門番も。商人も。受付嬢も。武器屋の店主も。
少し胸が温かくなる。
「頑張ろう」
今度こそ。本当に今度こそ。薬草採取へ向かう。
王都アウレリアの南門。その先に広がる森へ。
初めての依頼。初めての仕事。
そして。まだカナタは知らない。
その森で起きる出来事が、少しだけ彼女の運命を動かすことを。




