第48話 風翼の素材
「詳しく聞かせろ」
ガルドの声に。工房の空気が少し変わった。先程までの子供扱いではない。職人として興味を持った声だった。
カナタは少し得意そうになる。
「えへへ」
「褒めてねぇ」
即座に返された。だが先程までと違う。少なくとも追い返される雰囲気は無かった。ガルドは近くの椅子へ腰掛ける。
「座れ」
カナタ達も近くの机を囲んだ。職人達も気になっているらしい。ちらちらと視線を向けている。
「まず聞こう」
ガルドが腕を組む。
「何が欲しい」
「可愛い服!」
即答だった。工房内から笑いが漏れる。
ガルドも呆れた顔になる。
「武器じゃねぇのか」
「武器も欲しい!」
「どっちだ」
「両方!」
元気いっぱいだった。ガルドは額を押さえた。フィオナが小さく笑う。ルーク達も慣れていた。
「理由は?」
ガルドが聞く。そこでカナタは少し真面目な顔になる。
「歌う時に着たいの」
「歌う?」
「うん」
カナタは頷く。
「もっとたくさんの人に歌を届けたいから」
ガルドは黙る。職人達も聞いている。
「それで?」
「可愛い服着た方が楽しい!」
工房に笑いが起きた。ガルドも吹き出した。真面目なのか。そうじゃないのか。よく分からない。
「じゃあ武器は?」
その質問に。カナタは少しだけ表情を変えた。
風翼グリフォン。あの日の戦いが頭をよぎる。
「守りたいから」
静かな声だった。先程までの明るさとは違う。
「戦うのは好きじゃない」
「でも」
「守りたい人がいるなら戦えるようになりたい」
フィオナが静かに聞いている。
ルークも。エマも。ミリアも。誰も口を挟まない。
「あの時」
カナタは続ける。
「フィオが危なかった」
「みんなも危なかった」
だから。
「もっと力が欲しいと思ったの」
ガルドは腕を組んだまま聞いていた。
そして。
小さく頷く。それは職人が好む理由だった。力を誇るためではない。守るため。その方がずっと好きだった。
「なるほどな」
そして。
ガルドは立ち上がった。
「来い」
「どこに?」
「素材を見る」
工房の奥へ進む。巨大な倉庫だった。中には大量の素材が並んでいる。
鉄。魔物の牙。鉱石。魔石。その一角。ひときわ大きな場所に。
風翼グリフォンの素材が保管されていた。
「おぉ……」
カナタが息を呑む。
巨大な翼。鋭い爪。美しい羽根。
そして。
魔力を宿した魔石。改めて見ると凄かった。ガルドも頷く。
「一級品だ」
職人として断言した。
「王都でも滅多に手に入らん」
フィオナも感心している。ガルドは翼へ手を置く。
「特にこの羽根だ」
「軽い」
「強い」
「魔力も通る」
職人の目が光る。完全に仕事モードだった。
「服に使える?」
カナタが聞く。
「使える」
ガルドは即答した。
「むしろ使わねぇ方が勿体ねぇ」
カナタの顔が明るくなる。
「やった!」
ガルドはさらに続ける。
「羽根飾り」
「外套」
「マント」
「全部いける」
カナタの頭の中に色々浮かぶ。風になびく白いマント。羽根の装飾。歌う時の姿。少しだけ胸が高鳴った。
その時だった。
ガルドが爪を持ち上げる。巨大な爪だった。
「こっちも面白い」
「武器か?」
「うむ」
ガルドが頷く。
そして。
床へ簡単な絵を描く。大きな剣。長い柄。巨大な刀身。
「大剣だ」
カナタの目が輝いた。
「おぉぉぉ!」
反応が子供だった。ガルドも少し笑う。
「気に入ったか」
「かっこいい!」
即答だった。
「だろうな」
ガルドは少し得意そうだった。
そして。
そこで不意に聞いた。
「お前」
「飛んだらしいな」
ミリアが反応する。
「あれは凄かったんです!」
「本当に飛んだんです!」
ガルドは無視した。視線はカナタへ向いている。
「飛んだのか?」
「ちょっとだけ!」
「どうやってだ」
「届け!」
静寂。
「……は?」
「届けってやったら飛んだ!」
ガルドが固まる。フィオナも苦笑する。ルークは慣れている。ミリアは頭を抱えた。
「だから説明になってません!」
だが。
ガルドだけは違った。じっと考えている。職人の目だった。
「風か」
小さく呟く。
そして。
グリフォンの羽根を見る。大剣を見る。カナタを見る。何かが繋がった。
「面白ぇな」
低い声だった。
「ただの武器じゃ駄目かもしれねぇ」
「え?」
「お前専用だ」
ガルドは笑う。職人の笑みだった。
「飛ぶなら飛ぶ奴用に作る」
カナタ達は目を丸くした。
「歌うなら歌う奴用に作る」
「守るなら守る奴用に作る」
そして。
ガルドは宣言した。
「王都一の装備を作ってやる」
工房が静まり返る。職人達も驚いていた。ガルドがここまで言うのは珍しい。
それほど。風翼グリフォンの素材も。歌う少女も。
職人心を刺激したのだった――。




