第46話 風が運ぶ予兆
「やったぁ!」
カナタの元気な声が謁見室に響く。
風翼グリフォンの素材。しかも王様公認。想像しただけで嬉しくなってしまう。
可愛い服。かっこいい武器。どんなものが出来るのだろう。
考えるだけでわくわくした。
「しかし」
王が苦笑する。
「本当にそれで良いのだな?」
「うん!」
即答だった。
「金貨とかいらぬのか?」
「うーん」
カナタは少し考える。だが答えは変わらない。
「可愛い服の方が嬉しい!」
王が笑う。フィオナも笑う。騎士達も苦笑していた。王都を救った少女が望んだのは財宝ではなく服だった。
なかなかいない。
「分かった」
王は頷いた。
「素材は全てお前に渡そう」
「やった!」
再び喜ぶカナタ。その様子に王も満足そうだった。そして机の引き出しから一通の封書を取り出す。
「それとこれだ」
「?」
受け取る。厚みのある立派な封書だった。王家の紋章が刻まれている。
「紹介状だ」
「紹介状?」
「工房街にいる職人達へのな」
フィオナが少し驚いた顔をした。それなりに価値があるらしい。
「王都には優れた職人が多い」
王は続ける。
「お前の望む装備を作れる者もいるだろう」
カナタの目が輝く。
「職人さん!」
「うむ」
「楽しみ!」
完全に緊張が消えていた。先程まで王様相手に震えていた少女とは思えない。
「でしたら!」
フィオナが手を挙げる。全員が視線を向けた。
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
王が少し笑う。
「予想通りだな」
フィオナが少し照れる。
「だって気になりますし……」
カナタも嬉しそうだった。
「フィオも来るの?」
「はい!」
「やった!」
王女と歌のお姉ちゃん。普通なら有り得ない組み合わせだった。だが二人は気にしていない。王も止める気は無いらしい。
「護衛は付ける」
「ありがとうございます!」
フィオナが頭を下げた。
その時だった。
王の表情が少しだけ変わる。柔らかい空気が消える。国王の顔になる。
「さて」
低い声。謁見室の空気が引き締まる。
「本来はこちらも伝えておかねばならぬ」
カナタ達も自然と姿勢を正した。王は机の上の報告書へ目を落とす。
「風翼グリフォンの件だ」
その言葉だけで空気が重くなる。フィオナも表情を引き締めた。
「森の調査結果が届いた」
王は静かに続ける。
「結果から言おう」
「原因はまだ不明だ」
ルークが眉をひそめる。
「不明?」
「うむ」
王が頷く。
「だが異常は確認された」
報告書を騎士が広げる。地図だった。森の地図。そこには複数の印が付けられている。
「大型魔物の移動痕」
「縄張り放棄」
「群れの異常移動」
ルークの顔が険しくなる。冒険者だからこそ分かる。普通ではない。
「さらに」
王の声が続く。
「グリフォンの傷と一致する巨大な爪痕が発見された」
静寂。
カナタも思い出す。傷だらけだったオスグリフォン。あれほどの存在を追い詰めた何か。
「見つかっていないんですか?」
フィオナが聞く。王は首を振る。
「まだな」
「だが」
そこで言葉を切る。
「嫌な予感がする」
その一言に重みがあった。王だけではない。騎士達も同じ顔をしている。経験が警鐘を鳴らしているのだ。
「今はまだ推測だ」
「だから騒ぐつもりはない」
「だが警戒は続ける」
ルークも頷いた。それが正しい。
今の段階で街を混乱させる方が危険だ。
話が終わる。
重かった空気を変えるように王が笑う。
「すまんな」
「褒美の話の後にする話ではなかった」
「ううん」
カナタは首を振る。少しだけ。胸の奥がざわついていた。オスグリフォンの最後を思い出したから。
何かから逃げていた。何かを恐れていた。
あれは気のせいではなかったのかもしれない。王城を出る頃には夕方になっていた。
赤く染まる王都。市場も賑わっている。
「疲れたぁー!」
カナタが大きく伸びをする。ようやく緊張から解放された。
「王様良い人だったね」
「そうだな」
ルークも笑う。フィオナも嬉しそうだった。
その時だった。
「カナタさん!!」
聞き覚えのある声。勢いよく駆け寄ってくる少女。
茶色の髪。魔術師のローブ。
ミリアだった。
「ミリア!」
カナタも笑顔になる。ミリアは肩で息をしながら言った。
「聞きましたよ!」
「グリフォン討伐!!」
「うん!」
「それだけじゃありません!」
ミリアはさらに続ける。
「空を飛んだって本当ですか!?」
静寂。
ルークが目を逸らす。フィオナも視線を逸らす。カナタは首を傾げた。
「飛んだ?」
「飛びましたよね!?」
「たぶん飛んだ!」
ミリアが頭を抱えた。
「たぶんじゃありません!」
「人は飛ばないんです!」
王都の大通りに叫び声が響く。カナタはきょとんとしていた。だがミリアだけは気付いていた。
カナタの魔法は。
まだ始まったばかりなのだと――。




