第44話 王城からの招待
戦いは終わった。
傷だらけの風翼グリフォンは静かに横たわっている。先程までの激戦が嘘のようだった。風だけが吹いている。優しい風だった。
◇◇◇
誰もすぐには動かなかった。騎士達も。冒険者達も。孤児院の職員達も。
皆、巨大なグリフォンを見つめていた。
そして。
その前に立つ少女を。
◇◇◇
「カナタ!」
フィオナが駆け寄ってくる。いつもより少し必死だった。
「大丈夫!?」
「うん!」
カナタは笑う。
だが。次の瞬間。ふらついた。
「わっ」
ルークが慌てて支える。
「無茶しやがって」
「えへへ」
「褒めてねぇ」
本気で呆れていた。
◇◇◇
実際。カナタも驚いていた。あんな風に飛んだのは初めてだった。風が身体を押した。飛べる気がした。
そして本当に飛んだ。自分でも意味が分からない。
「飛んだよね私」
「飛んだな」
「飛んでましたね」
エマも頷く。
「飛んだ」
「やった!」
本人だけ嬉しそうだった。ルークは頭を抱えた。
◇◇◇
その頃。
騎士達は周辺の警戒を続けていた。
そして。
森を調査していた者達が戻ってくる。
顔色は悪い。
「報告します」
騎士団長が振り返る。
「森の奥で巨大な爪痕を発見しました」
周囲が静かになる。
「グリフォンの傷と一致します」
「原因は?」
「不明です」
その答えに空気が重くなる。グリフォンを傷付けた何か。
まだ森の奥にいる。その事実だけは変わらない。
◇◇◇
だが。今はそれ以上追えない。まずは被害確認。
そして王都への報告。優先すべきことは多かった。
◇◇◇
日が傾き始める頃。カナタ達は王都へ戻った。
すると。異様な光景が待っていた。
「帰ってきた!」
「歌のお姉ちゃんだ!」
「本当にグリフォン倒したの!?」
城門前には人だかり。噂は既に広がっていた。
◇◇◇
風翼グリフォン。王都近郊。騎士団出動。
そして。
最後に決着を付けた少女。話題にならないはずがない。
「すごーい!」
「英雄だ!」
「王都を救った!」
そんな声まで飛び交う。
◇◇◇
「ち、違うよ!?」
カナタは慌てる。
「みんなも戦ったし!」
だが。誰も聞いていない。子供達は目を輝かせている。市場の人達も興奮している。完全に時の人だった。
◇◇◇
フィオナは少し離れた場所からその様子を見ていた。自然と笑みが浮かぶ。やっぱりカナタらしい。
褒められても偉そうにしない。全部自分の手柄にもしない。
だから人が集まる。
◇◇◇
その夜。
宿へ戻ったカナタ達。夕食を食べながら話していた。
「疲れたぁ……」
カナタが机へ突っ伏す。
「そりゃそうだ」
ルークも苦笑する。人生で初めてグリフォンと戦った。
しかも飛んだ。普通なら倒れている。
◇◇◇
すると。
宿の扉が叩かれた。
コンコン。
全員が振り向く。
「こんな時間に?」
ルークが立ち上がる。扉を開く。そこにいたのは――。
王城の騎士だった。
◇◇◇
一瞬で空気が変わる。騎士は一礼する。
そして。
正式な口調で告げた。
「冒険者カナタ殿」
「へ?」
本人は間抜けな声を出した。
「国王陛下より招待状を預かっております」
静寂。
◇◇◇
カナタ。固まる。
ルーク。固まる。
エマ。固まる。
◇◇◇
「……え?」
数秒後。ようやく声が出た。
「国王?」
「はい」
「王様?」
「はい」
「その王様?」
「はい」
騎士は真面目だった。
◇◇◇
カナタはルークを見る。ルークも困惑している。エマも同じだった。理解が追い付かない。
◇◇◇
騎士は続ける。
「今回の功績」
「風翼グリフォン討伐」
「王都防衛への貢献」
「フィオナ様の救助」
そこで。
カナタが首を傾げる。
「フィオ?」
騎士が止まる。しまった。そんな顔をした。
◇◇◇
ルークとエマも違和感を覚える。
「フィオナ様……?」
騎士の額に汗が流れる。非常に嫌な予感がした。
◇◇◇
一方。
カナタはまだ何も気付いていなかった。
「フィオと同じ名前の人かな?」
真顔だった。ルークが頭を抱える。エマが顔を覆う。
騎士も遠い目になる。
そして。
王都最大級の秘密が。とんでもなく間の抜けた形で暴かれようとしていた――。




