第41話 空から来た災厄
王都アウレリア。
北門近くの街道。その日は穏やかな天気だった。
空は青く。風も心地良い。絶好の視察日和だった。
「フィオナ様」
護衛騎士が声を掛ける。
「そろそろ到着します」
「はい」
フィオナは微笑んだ。今日の予定は孤児院訪問。王城の外れにある小さな施設だ。定期的に足を運んでいる。決して派手な公務ではない。
だが。フィオナは好きだった。子供達の笑顔が見られるから。
◇◇◇
馬車が止まる。孤児院の前。職員達が頭を下げた。
「ようこそお越しくださいました」
「こんにちは」
フィオナも微笑む。中から子供達が飛び出してくる。
「フィオナ様ー!」
「来てくれた!」
「今日は何して遊ぶの!?」
元気いっぱいだった。フィオナも思わず笑顔になる。王女である前に。一人の少女として楽しい時間だった。
◇◇◇
その頃。
討伐隊は必死に森を駆けていた。
「急げ!」
ギルドマスターが叫ぶ。前方。空。傷だらけのオスグリフォンが飛んでいる。高度は低い。速度も落ちている。
だが。
それでも速い。
「くそっ!」
ルークが舌打ちする。距離が縮まらない。
そして。王都の城壁が見え始めていた。
「まずいぞ……」
ベテラン冒険者が顔をしかめる。このままでは。王都へ入られる。
◇◇◇
その時だった。
フィオナがふと空を見上げる。違和感。何か動いた気がした。雲ではない。鳥でもない。もっと大きい。
「……?」
目を細める。
そして。見えた。巨大な翼。黄金の身体。空を切り裂く影。フィオナの顔色が変わる。
「え……?」
護衛騎士達も気付く。
そして。
次の瞬間。顔色が消えた。
「グリフォンだ!!」
絶叫。周囲が凍り付く。
◇◇◇
子供達が泣き出す。職員達も青ざめる。護衛騎士達が一斉に前へ出る。
「フィオナ様を守れ!」
怒号が飛ぶ。剣が抜かれる。盾が構えられる。完全な戦闘態勢だった。
◇◇◇
空から。オスグリフォンが降下してくる。その姿は恐ろしかった。
巨大。圧倒的。まさに災厄。普通ならそう見える。
だが。
フィオナだけは違和感を覚えた。傷だらけだった。翼も。身体も。血に染まっている。
そして。
苦しそうだった。まるで。限界まで飛び続けているように。
◇◇◇
オスグリフォンが地面へ降り立つ。大地が揺れる。子供達が悲鳴を上げる。護衛騎士達が前へ出る。
「来るぞ!」
誰かが叫ぶ。全員が覚悟した。
だが。グリフォンは襲わなかった。その代わり。後ろを振り返る。森を見る。何かを探しているように。
何かを確認しているように。そんな行動だった。
◇◇◇
その瞬間。護衛騎士の一人が動く。
「今だ!」
斬り掛かる。当然だった。相手は危険な魔物。見逃す理由はない。剣が振り下ろされる。
だが。オスグリフォンは反応する。爪が振るわれる。騎士が吹き飛ぶ。
「ぐぁっ!」
周囲が騒然となる。戦闘開始。そう思われた。
◇◇◇
だが。オスグリフォンは追撃しない。倒れた騎士も見ない。
ただ。森を見ている。その姿に。フィオナの胸がざわつく。
「どうして……」
何かがおかしい。そう思った。その時だった。
遠くから聞き慣れた声が響く。
「フィオーー!!」
フィオナが振り返る。ルークも。エマも。そして。先頭を走る少女。水色の髪。歌紡ぎのポシェット。間違えるはずがない。
「カナタ!?」
フィオナが目を見開く。
◇◇◇
カナタ達討伐隊が到着した。冒険者達が次々と展開する。騎士達も驚いている。なぜ冒険者達がここにいるのか。
だが。説明している時間はない。ギルドマスターが叫ぶ。
「囲め!」
冒険者達が動く。オスグリフォンも振り返る。
黄金の瞳。傷だらけの翼。その姿を見て。カナタは胸が痛んだ。森で見た時よりも酷い。血も増えている。
限界が近い。それでも。まだ立っている。まだ何かを守ろうとしている。
そんな姿だった。
◇◇◇
風が吹く。オスグリフォンは空を見る。
そして。森の方向を見る。最後に。
遠くを見た。まるで。大切な誰かの無事を確認するように。
その姿を見た瞬間。カナタは確信した。このグリフォンは。
最後まで。誰かを守ろうとしている――。
そして。
次の瞬間。
オスグリフォンが大きく翼を広げた。
決着の時が近付いていた――。




