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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第4話 お金がない

「美味しそう……」

街へ入った瞬間から。カナタの視線は屋台に釘付けだった。

肉。パン。果物。焼き菓子。知らない料理まである。

どれも美味しそうだった。

特に。香ばしい匂いを漂わせている串焼き。あれは危険だった。お腹が鳴る。

ぐぅぅぅぅ。

今日何回目か分からない。

「食べたい……」

真剣に呟く。

だが。大問題があった。お金がない。一枚もない。財布すらない。異世界へ来た時のままだ。

つまり。完全な無一文。

「困ったなぁ」

カナタは屋台の前で立ち止まった。串焼きが焼かれている。肉汁が落ちる。

じゅう、と音が鳴る。香りが漂う。お腹が鳴る。

「食べたい……」

二回目だった。屋台のおじさんが笑う。

「嬢ちゃん、買うかい?」

「買いたい!」

即答だった。

「銀貨二枚だ」

「ない!」

「ないのか」

「ない!」

おじさんは苦笑した。カナタは串焼きを見つめる。串焼きもカナタを見つめている気がした。

しばらく見つめ合う。当然だが状況は変わらない。

「うーん……」

どうしよう。食べたい。でもお金がない。食い逃げはダメだ。前世で教わった。

すると。後ろから声がした。

「嬢ちゃん」

振り返る。門で会った商人だった。

「あ!」

「やっぱり金無かったのか」

「無かった!」

元気よく答える。商人は笑った。予想通りだったらしい。

「どうするつもりだ?」

「考え中!」

「考えてから行動しろ」

正論だった。カナタもそう思う。少しだけ。

「仕事でも探したらどうだ?」

「仕事?」

「冒険者ギルドとかあるだろ」

冒険者ギルド。その言葉に反応した。異世界である。

冒険者ギルドは憧れだ。ゲームでもアニメでも定番だった。

「あるの!?」

「あるぞ」

「行く!」

即答だった。商人は笑う。本当に分かりやすい。

「場所はあっちだ」

指差された方向を見る。大きな建物が見えた。人の出入りも多い。確かにそれっぽい。

「ありがとう!」

「おう」

カナタは駆け出した。そして。途中で転びそうになった。慌てて壁に手を付く。

ゴッ!!

石壁が少し凹んだ。

「……」

「……」

近くを歩いていた人が固まる。

カナタも固まる。そっと手を離す。見なかったことにした。

歩き出す。何事も無かった。

たぶん。

絶対気付かれていない。そう信じたかった。しばらく進む。街の中心へ近付くにつれ、人も増えていく。

武器屋。防具屋。宿屋。雑貨屋。露店。見るもの全てが珍しい。

カナタは何度も足を止めた。その度に感動する。

「すごいなぁ」

前世では見られなかった景色だった。特に面白かったのは武器屋だ。

店先に巨大な剣が並んでいる。人より大きい。どうやって振るのだろう。気になって近付く。

「重そう」

持ち上げてみた。

ひょい。

軽かった。羽のようだった。店主が固まる。カナタも固まる。そっと戻した。

「失礼しました!」

逃げた。

店主はしばらく動けなかった。なんだったんだ今の娘は。

やがて。大きな建物が見えてきた。看板には剣と盾の紋章。

多くの冒険者が出入りしている。

「おおー!」

カナタの目が輝く。間違いない。冒険者ギルドだ。胸が高鳴る。異世界へ来た。街へ着いた。

そして。今から冒険者ギルドへ入る。テンションが上がらないはずがない。深呼吸する。

そして。勢いよく扉を開いた。

ガタンッ!

一斉に視線が集まる。

冒険者達。受付嬢。酒を飲んでいた男達。全員がこちらを見た。静寂。数秒。

そして。

カナタは満面の笑みを浮かべた。

「こんにちはー!」

元気だった。とても元気だった。ギルド内は静まり返る。

誰かが呟く。

「……誰だ?」

もちろん。まだ誰も知らない。この少女が。

後に王国中で歌われる歌姫になることを。今の冒険者達の感想は一つだけだった。

――また変なのが来た。

である。

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