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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第3話 なんか変な子が来た

「神様の嘘つきー!!」

カナタの叫びが草原に響いた。

もちろん返事はない。少し丈夫。そう言ったのは神様だった。

だが実際はどうだろう。狼を軽く払っただけで空の彼方へ吹き飛ばした。

少しではない。絶対に少しではない。どう考えてもおかしい。

「絶対説明不足だよね……」

文句を言いながら歩く。

しかし本気で怒っているわけではなかった。むしろ感謝している。もし普通の身体だったら。

異世界初日で魔物のご飯になっていた可能性が高い。

そう考えると恐ろしい。

「うん、助かってる」

結論。神様は雑だけど良い神様だった。

きっとそうだ。たぶん。歩く。歌を口ずさみながら。

気付けば太陽は少し傾いていた。

そして。遠くに見えていた街が、かなり近くなっている。

「おお……」

思わず足を止めた。大きい。想像よりずっと大きい。

高い城壁。巨大な門。行き交う馬車。人々の姿。

まるでファンタジー映画の世界だった。カナタはしばらく見惚れる。

前世ではゲームで何度も見た。アニメでも見た。けれど本物は違う。

空気がある。音がある。匂いがある。人が生きている。その全部が新鮮だった。

「異世界だぁ……」

何度目か分からない言葉を呟く。

でも仕方ない。だって異世界なのだから。テンションも上がる。自然と足取りも軽くなった。

やがて門の前へ到着する。そこには長い列ができていた。

商人。旅人。冒険者。様々な人が並んでいる。荷馬車も多い。

どうやら入るために順番待ちをしているらしい。

「なるほどー」

カナタも最後尾へ並ぶ。すると前に並んでいた中年の商人が振り返った。

「嬢ちゃん、一人かい?」

「うん!」

元気よく答える。商人は少し驚いた。迷いがない。警戒もない。危なっかしいくらいだ。

「旅人か?」

「そう!」

「どこから来た?」

カナタは少し考える。異世界です。そう答えるわけにもいかない。

「遠いところ!」

「どこだそれ」

商人が苦笑する。カナタも笑う。なんとなく誤魔化せた気がした。

「家族は?」

「いない!」

「護衛は?」

「いない!」

「荷物は?」

「ない!」

商人は黙った。何も持っていない。本当に何も持っていない。それでよくここまで来たものだ。

「金は?」

「ない!」

「……」

商人は空を見上げた。大丈夫だろうか、この子。少し心配になる。

「じゃあ今夜どうするんだ?」

「考えてない!」

「考えろ!」

思わずツッコミが飛ぶ。周囲から笑い声が上がった。

カナタも笑う。なんだか楽しかった。知らない世界なのに。

知らない人ばかりなのに。不思議と怖くない。

むしろ居心地が良い。列は少しずつ進んでいく。

その間もカナタはキョロキョロしていた。大きな剣を背負った冒険者。魔法使いらしきローブ姿の女性。

荷物を運ぶ商人達。全部が珍しい。見ているだけで楽しい。

そんな中。冒険者達もカナタを見ていた。

「可愛くないか?」

「可愛いな」

「貴族の娘か?」

「いや、あれは違うだろ」

ひそひそ声が聞こえる。カナタは気付いていない。完全に観光モードだった。

やがて。門の前までやって来る。大きな槍を持った門番が立っていた。

厳つい顔だ。普通なら少し怖い。しかしカナタは。

「こんにちはー!」

元気よく手を振った。門番が固まる。

なんだこの子は。という顔だった。

「……身分証は?」

「ない!」

即答。門番の眉が動く。

「所属証は?」

「ない!」

「冒険者証は?」

「ない!」

「商業証は?」

「ない!」

「金は?」

「ない!」

「お前何しに来た」

門番は真顔だった。カナタも真顔で答える。

「遊びに!」

周囲から吹き出す音が聞こえた。冒険者達が肩を震わせている。門番は頭を抱えた。どう見ても怪しい。

しかし悪人にも見えない。むしろ小動物だ。

「名前は?」

「カナタ!」

「姓は?」

「ない!」

「出身地は?」

「遠いところ!」

「雑だな!」

思わず門番が叫ぶ。今度は周囲が大笑いした。カナタも笑う。

その時だった。

ぐぅぅぅぅぅ。

大きな音が響く。静寂。全員の視線が集まる。カナタのお腹だった。

「お腹空いた!」

堂々と言い切った。門番は耐え切れなかった。

吹き出した。周囲も笑う。商人も笑う。冒険者も笑う。緊張した空気が一気に消えた。門番はため息を吐く。

「問題は起こすなよ」

「起こさない!」

「本当か?」

「たぶん!」

「たぶんかよ!」

再び笑いが起きる。結局。カナタは街へ通された。巨大な門をくぐる。

そして。目の前の景色に息を呑んだ。

石畳の道。並ぶ店。肉の焼ける匂い。焼きたてのパン。楽しそうな声。走り回る子供達。吟遊詩人の歌声。

生きている街だった。活気に満ちていた。カナタは胸の奥が熱くなる。

知らない世界。知らない人達。知らない街。

だけど。これから自分が生きる世界だ。

「わぁ……」

自然と笑顔になる。

そして。最初に思ったことは。感動でも。将来の夢でもなかった。

「美味しそう……」

屋台の串焼きを見つめながら、カナタは真剣な顔で呟いた。

まずはご飯。歌姫の第一歩はそこからだった。

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