↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/49

第39話 傷だらけの翼

「片方が傷付いていた」

偵察役の言葉に。討伐隊の空気が変わった。

グリフォン。それだけでも危険な相手だ。

だが。

傷付いている。その情報は誰も予想していなかった。

「どういうことだ?」

ベテラン冒険者が眉をひそめる。偵察役は首を振った。

「詳しくは分かりません」

「距離がありました」

「ですが間違いなく負傷しています」

ギルドマスターは腕を組む。険しい表情だった。

「案内しろ」

短く命じる。偵察役が頷く。

そして。討伐隊は再び動き始めた。

◇◇◇

森の奥へ。さらに奥へ。木々は高くなり。空は見えなくなる。空気も重い。まるで森そのものが緊張しているようだった。

「嫌な感じだな」

ルークが小声で呟く。エマも頷いた。

「静か過ぎる」

確かにそうだった。鳥がいない。虫も少ない。魔物の気配すらほとんど無い。本来ならあり得ない。

大型魔物が現れたとしても。ここまで森全体が静まり返ることは少ない。

◇◇◇

そして。カナタはまた風を感じていた。

冷たい風。落ち着かない風。何かを伝えようとしているような。そんな不思議な感覚。

「どうした?」

エマが聞く。

「うーん」

カナタは首を傾げた。上手く説明出来ない。

ただ。胸の奥がざわつく。

「悲しそうなんだよね」

「風が?」

「うん」

エマは少し困った顔をした。普通なら意味が分からない。

だが。

カナタが真面目な顔をしているので笑えなかった。

◇◇◇

それから三十分ほど進んだ頃だった。先頭の偵察役が再び手を上げる。全員が止まる。緊張が走る。

「見えました」

小さな声。ギルドマスターが前へ出る。

「どこだ」

偵察役が指差す。前方。木々の隙間。崖に近い開けた場所だった。全員が慎重に近付く。

そして。見た。

◇◇◇

巨大な翼。黄金の瞳。獅子の肉体。風翼グリフォン。

間違いなかった。

「……っ」

誰かが息を呑む。想像以上の威圧感だった。存在しているだけで空気が変わる。王者。そんな言葉が似合う魔物だった。

だが。

誰もが違和感を覚える。傷だらけだった。右翼の羽根は大きく失われている。

肩には深い裂傷。脚にも傷跡。体中に戦いの痕が残っていた。

しかも。かなり新しい。

「何と戦った……?」

誰かが呟く。

答えられる者はいない。

◇◇◇

そして。エマが小さく声を上げた。

「もう一体いる」

全員の視線が動く。傷付いたグリフォンの後方。崖の奥。そこに。もう一体いた。少し小柄なグリフォン。

こちらも傷はある。だが軽傷だった。

メス。おそらくそうだろう。

そして。その位置関係を見て。誰もが気付いた。オスが前。メスが後ろ。完全に守っている。

「番か」

ベテラン冒険者が呟く。誰も否定しない。そうとしか見えなかった。

◇◇◇

オスグリフォンは討伐隊を見ていた。警戒している。だが。襲ってくる気配はない。

むしろ。近付けさせないようにしているだけ。後ろのメスを守るために。そんな風に見えた。

「妙だな」

ギルドマスターが言う。

「グリフォンにしては大人しい」

確かにそうだった。縄張り意識の強い魔物なら。とっくに襲い掛かっていてもおかしくない。

だが。目の前のオスは違う。守ることを優先している。

◇◇◇

その時だった。

風が吹く。森の奥から。冷たい風。重い風。

そして。オスグリフォンの様子が変わった。

黄金の瞳が鋭くなる。翼が大きく広がる。後ろのメスも身を縮めた。怯えているようだった。

「なんだ……?」

ルークが呟く。

その瞬間。

ドォォォォン――

地響き。地面が震える。木々が揺れる。討伐隊全員が武器を構えた。何かいる。それだけは分かった。

◇◇◇

だが。姿は見えない。森のさらに奥。深部。そこから聞こえてくるだけ。それなのに。

グリフォン達は明らかに恐れていた。オスは森の奥を睨む。メスを守るように前へ出る。

そして。低く唸った。威嚇。怒り。恐怖。様々な感情が混じった声だった。カナタは息を呑む。

その姿は。まるで。何かから逃げ続けてきたように見えた。

◇◇◇

そして。オスグリフォンがこちらを見る。一瞬だけ。カナタと視線が重なった。その瞳にあったのは。

敵意ではない。憎しみでもない。覚悟だった。守らなければならない。何があっても。そんな強い意思。

「……」

カナタは拳を握る。王都を守るため。討伐は必要だ。それは分かっている。

だが。

胸の奥がざわつく。何かを間違えているような。そんな感覚が消えない。

そして。再び地響きが鳴る。今度はさっきより近かった。オスグリフォンが翼を広げる。

大きく。力強く。

まるで何かを決意したように――。

続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。