第37話 出発前夜
グリフォンは二体。その事実は王都へ大きな衝撃を与えた。
翌日。
冒険者ギルドは朝から騒がしかった。いつも以上に人が多い。依頼掲示板の前には人だかり。
酒場スペースでは冒険者達が真剣な表情で話している。普段の賑やかな空気とは違う。緊張感があった。
「すごい人だね」
カナタが辺りを見回す。
「当然だ」
ルークが答える。
「グリフォン二体だからな」
エマも頷いた。王都近郊。しかも番の可能性が高い。放置出来る相手ではない。
◇◇◇
ギルド中央。そこには大きな依頼書が貼られていた。
【緊急討伐依頼】
【風翼グリフォン討伐及び森の異常調査】
参加条件あり。
一定以上の実力を持つ冒険者。
またはギルド推薦者。
報酬も高額だった。周囲からざわめきが起こる。
「受けるのか?」
「当然だろ」
「俺達も参加する」
そんな会話が飛び交う。カナタも依頼書を見上げる。
グリフォン。まだ見たことはない。
だが。何となく気になっていた。
「森の異常調査もあるんだね」
ぽつりと呟く。
ルークが頷いた。
「ああ」
「普通じゃないらしい」
エマも続ける。
「魔物の動きがおかしい」
それは昨日も聞いた話だった。
ゴブリン。フォレストウルフ。ホーンボア。森全体が落ち着かない。まるで何かから逃げるように。
「……」
カナタは少し考え込む。風も騒がしい。森も騒がしい。何かが引っ掛かる。
だが。まだ答えは見えなかった。
◇◇◇
「カナタ!」
聞き慣れた声。振り返る。そこには金髪の少女がいた。
「フィオ!」
カナタが笑顔になる。フィオナだった。今日もお忍びらしい。シンプルな服装。だが隠しきれない気品がある。ルークとエマも軽く会釈した。
「こんにちは」
「こんにちは」
フィオナも微笑む。
そして。
すぐに依頼書へ目を向けた。表情が少し曇る。
「受けるんですか?」
その声は少し小さかった。心配している。そんな声だった。カナタはあっさり答える。
「たぶん!」
「たぶん……」
フィオナが困った顔をする。
「危険ですよね?」
「危険だな」
ルークが答えた。
「グリフォンだからな」
「……」
フィオナは少し黙る。
そして。カナタを見る。心配だった。友達だから。危険な場所へ行く。それが嫌だった。
だが。
カナタは笑う。いつも通り。
「大丈夫だよ!」
根拠は無い。全く無い。
だが。不思議と安心する笑顔だった。
「無理はしないでくださいね」
「うん!」
その返事が一番信用出来なかった。フィオナはため息を吐く。ルークとエマも同じ表情だった。
◇◇◇
昼過ぎ。
討伐隊の選抜が始まる。参加希望者は多い。
だが。全員が参加出来るわけではない。
実力。経験。連携。様々な条件が必要だった。カナタ達も呼ばれる。
「ルーク」
「はい」
「エマ」
「はい」
二人は問題なく通過。
そして。最後。
「カナタ」
名前が呼ばれる。ギルド職員達が少し顔を見合わせる。判断に迷っているようだった。実績はある。
だが。冒険者ランクはまだ高くない。
しかし。
ギルドマスターが口を開いた。
「参加許可だ」
周囲がざわめく。カナタ本人は首を傾げた。
「いいの?」
「推薦だ」
「誰の?」
ギルドマスターは少し考え。そして言った。
「ミリアだ」
カナタが振り向く。受付の奥。ミリアが微笑んでいた。
「頑張ってください」
「うん!」
元気な返事だった。
◇◇◇
夕方。解散。出発は明日の朝。王都北門集合。その知らせが伝えられる。カナタ達も宿へ戻ることになった。
帰り道。空が赤く染まっている。綺麗な夕焼けだった。
「緊張してるか?」
ルークが聞く。
「してない!」
即答だった。
「だろうな」
ルークは苦笑する。エマも小さく笑った。カナタらしい。
だが。その時。
一陣の風が吹く。夕焼けの空。北の森の方角。どこか寂しそうな風だった。
「……」
カナタが立ち止まる。風を見上げる。何かを伝えたいような。助けを求めているような。そんな不思議な感覚。
「どうした?」
「ううん」
カナタは首を振る。上手く言葉に出来ない。
ただ。胸の奥が少しだけ痛んだ。
◇◇◇
その頃。
王都から遠く離れた森の奥。巨大な翼が夜空を切り裂く。
風翼グリフォン。その片方だった。傷付いている。疲れている。
そして。
何かを守るように森の奥を見つめていた。黄金の瞳には敵意はない。あるのは焦り。そして不安。
まるで。
大切なものを失うことを恐れるような――。
翌朝。
カナタ達はまだ知らない。
この討伐が。ただの魔物討伐では終わらないことを。
そして。王都の未来を変える最初の一歩になることを――。




