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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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35/49

第35話 風の違和感

歌が終わる。

広場に拍手が響いた。子供達は満面の笑み。市場の人達も嬉しそうだった。

「ありがとー!」

カナタが手を振る。いつもの光景。最近では珍しくなくなってきた。

それでも。聞く人達は毎回楽しみにしている。不思議な歌だった。フィオナも拍手を送る。

やはり何度聞いても好きだと思う。

心が軽くなる。難しいことを考えなくて済む。

ただ聞いているだけでいい。そんな歌だった。

「どうだった?」

カナタが近寄ってくる。

フィオナは少し考えた。そして素直に答える。

「やっぱり素敵でした」

「えへへ」

カナタは照れたように笑う。本当に嬉しそうだった。

その様子を見てフィオナも笑う。

すると。

ルークが肩を竦めた。

「相変わらずだな」

「なにが?」

「褒められるとすぐ顔に出る」

「出てないよ!」

出ていた。エマも頷く。

「出てる」

「うそ!?」

全員笑った。平和だった。本当に平和だった。

◇◇◇

その後。

四人は市場を歩いていた。

フィオナも以前より緊張していない。少しずつ自然に話せるようになってきた。

「フィオは何してる人なの?」

突然だった。フィオナが固まる。護衛達も固まる。危険な質問だった。非常に危険だった。

「えっと……」

どう答えよう。

考える。悩む。困る。すると。カナタが首を傾げた。

「言いたくないなら大丈夫だよ?」

助かった。本当に助かった。フィオナは心の中で安堵する。

「今は秘密です」

「そっか!」

それで終わった。追及しない。興味が無いわけではない。

ただ。無理に聞かない。それがカナタだった。フィオナは少しだけ嬉しくなる。

◇◇◇

市場を抜ける。広場を抜ける。王都の外壁近くまで歩いた頃だった。カナタが足を止める。

「ん?」

空を見る。風が吹いていた。少し強い。

だが。それだけではない。何か妙だった。

「どうした?」

ルークが聞く。カナタは首を傾げる。

「なんか変」

「何がだ?」

「風」

ルークも空を見る。エマも見る。だが分からない。いつもの風にしか思えなかった。

「気のせいじゃない?」

フィオナも言う。

だが。

カナタは少し考え込んでいた。不思議だった。上手く言えない。

ただ。風が騒いでいる気がした。そんな感覚だった。

もちろん。証拠なんてない。だから。

「うーん……」

少し悩んで。結局笑う。

「気のせいか!」

いつものカナタだった。深く考えない。

フィオナも笑った。ルークも苦笑する。エマも少し安心した。

だが。

その時。遠くの空。本当に遠く。王都から遥か離れた森の上空。そこを巨大な影が横切ったことに。

誰も気付かなかった。

◇◇◇

その日の夕方。冒険者ギルド。カナタ達は依頼報告を終えていた。

「お疲れ様」

受付のミリアが微笑む。

「お疲れー!」

カナタも元気に返事をする。ミリアは最近気付いていた。カナタの周りには人が集まる。

自然と。本当に自然と。

ルーク。エマ。市場の人達。子供達。

そして最近は。金髪の少女までいる。

「友達増えましたね」

「うん!」

即答だった。

「フィオ!」

ミリアは微笑む。相変わらずだった。

その時だった。

ギルドの奥から声が聞こえる。

少し騒がしい。冒険者達が集まっている。

「どうしたんだ?」

ルークが振り返る。

すると。一人の冒険者が答えた。

「王都北の森だ」

「森?」

「大型魔物の目撃情報が出た」

空気が少し変わる。大型魔物。珍しくはない。

だが。

王都近郊では少ない。

「何の魔物だ?」

「まだ分からん」

冒険者は腕を組む。少し険しい顔だった。

「だが……」

そこで言葉を切る。

そして。小さく呟いた。

「妙なんだよ」

「妙?」

「森の魔物が騒がしい」

その言葉に。カナタが反応する。昼間のことを思い出した。

風。違和感。上手く説明できない感覚。偶然かもしれない。

本当に偶然かもしれない。

それでも。何となく胸騒ぎがした。

そして。

その胸騒ぎは。少しずつ。確実に。王都へ近付いていた――。

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