第35話 風の違和感
歌が終わる。
広場に拍手が響いた。子供達は満面の笑み。市場の人達も嬉しそうだった。
「ありがとー!」
カナタが手を振る。いつもの光景。最近では珍しくなくなってきた。
それでも。聞く人達は毎回楽しみにしている。不思議な歌だった。フィオナも拍手を送る。
やはり何度聞いても好きだと思う。
心が軽くなる。難しいことを考えなくて済む。
ただ聞いているだけでいい。そんな歌だった。
「どうだった?」
カナタが近寄ってくる。
フィオナは少し考えた。そして素直に答える。
「やっぱり素敵でした」
「えへへ」
カナタは照れたように笑う。本当に嬉しそうだった。
その様子を見てフィオナも笑う。
すると。
ルークが肩を竦めた。
「相変わらずだな」
「なにが?」
「褒められるとすぐ顔に出る」
「出てないよ!」
出ていた。エマも頷く。
「出てる」
「うそ!?」
全員笑った。平和だった。本当に平和だった。
◇◇◇
その後。
四人は市場を歩いていた。
フィオナも以前より緊張していない。少しずつ自然に話せるようになってきた。
「フィオは何してる人なの?」
突然だった。フィオナが固まる。護衛達も固まる。危険な質問だった。非常に危険だった。
「えっと……」
どう答えよう。
考える。悩む。困る。すると。カナタが首を傾げた。
「言いたくないなら大丈夫だよ?」
助かった。本当に助かった。フィオナは心の中で安堵する。
「今は秘密です」
「そっか!」
それで終わった。追及しない。興味が無いわけではない。
ただ。無理に聞かない。それがカナタだった。フィオナは少しだけ嬉しくなる。
◇◇◇
市場を抜ける。広場を抜ける。王都の外壁近くまで歩いた頃だった。カナタが足を止める。
「ん?」
空を見る。風が吹いていた。少し強い。
だが。それだけではない。何か妙だった。
「どうした?」
ルークが聞く。カナタは首を傾げる。
「なんか変」
「何がだ?」
「風」
ルークも空を見る。エマも見る。だが分からない。いつもの風にしか思えなかった。
「気のせいじゃない?」
フィオナも言う。
だが。
カナタは少し考え込んでいた。不思議だった。上手く言えない。
ただ。風が騒いでいる気がした。そんな感覚だった。
もちろん。証拠なんてない。だから。
「うーん……」
少し悩んで。結局笑う。
「気のせいか!」
いつものカナタだった。深く考えない。
フィオナも笑った。ルークも苦笑する。エマも少し安心した。
だが。
その時。遠くの空。本当に遠く。王都から遥か離れた森の上空。そこを巨大な影が横切ったことに。
誰も気付かなかった。
◇◇◇
その日の夕方。冒険者ギルド。カナタ達は依頼報告を終えていた。
「お疲れ様」
受付のミリアが微笑む。
「お疲れー!」
カナタも元気に返事をする。ミリアは最近気付いていた。カナタの周りには人が集まる。
自然と。本当に自然と。
ルーク。エマ。市場の人達。子供達。
そして最近は。金髪の少女までいる。
「友達増えましたね」
「うん!」
即答だった。
「フィオ!」
ミリアは微笑む。相変わらずだった。
その時だった。
ギルドの奥から声が聞こえる。
少し騒がしい。冒険者達が集まっている。
「どうしたんだ?」
ルークが振り返る。
すると。一人の冒険者が答えた。
「王都北の森だ」
「森?」
「大型魔物の目撃情報が出た」
空気が少し変わる。大型魔物。珍しくはない。
だが。
王都近郊では少ない。
「何の魔物だ?」
「まだ分からん」
冒険者は腕を組む。少し険しい顔だった。
「だが……」
そこで言葉を切る。
そして。小さく呟いた。
「妙なんだよ」
「妙?」
「森の魔物が騒がしい」
その言葉に。カナタが反応する。昼間のことを思い出した。
風。違和感。上手く説明できない感覚。偶然かもしれない。
本当に偶然かもしれない。
それでも。何となく胸騒ぎがした。
そして。
その胸騒ぎは。少しずつ。確実に。王都へ近付いていた――。




