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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第33話 また会いたい

王城へ戻る馬車の中。

フィオナは窓の外を眺めていた。夕暮れの王都。少しずつ灯りが増えていく街並み。

いつも見ている景色。

それなのに。今日は少し違って見えた。

「フィオナ様」

侍女が声を掛ける。

「楽しかったですか?」

フィオナは少しだけ考える。

そして。素直に頷いた。

「はい」

短い返事。

だが。その声はとても柔らかかった。侍女は思わず笑う。久しぶりだった。こんな表情を見たのは。

王女としてではなく。一人の少女として楽しそうにしている姿を。

「歌のお姉ちゃんはどうでしたか?」

フィオナは窓の外を見る。

水色の髪。楽しそうな笑顔。市場を案内する姿。そして歌声。様々な光景が浮かぶ。

「不思議な人でした」

それが最初の感想だった。本当に不思議だった。

王女だと知らないからだろうか。全く遠慮しない。

緊張もしない。特別扱いもしない。ただ普通に話し掛けてくる。

普通に笑う。普通に友達になる。それが新鮮だった。

「フィオ!」

その呼び方を思い出す。思わず口元が緩んだ。侍女は見逃さなかった。

「あら」

「な、なんですか」

「いえ」

にこにこしている。絶対に何か思っている顔だった。フィオナは少し恥ずかしくなる。

そして。心の中で認める。

また会いたい。そう思ってしまった。

◇◇◇

一方その頃。カナタは木漏れ日の亭で夕食を食べていた。

「美味しい!」

幸せそうだった。本当に幸せそうだった。女将も笑う。

「今日は良いことあったのかい?」

「うん!」

即答だった。

「フィオと仲良くなった!」

女将が首を傾げる。初めて聞く名前だった。

「友達かい?」

「友達!」

これも即答。カナタの中ではもう友達だった。

会って数時間。それでも友達。カナタらしい。

「優しい子だったよ!」

楽しそうに話す。市場を歩いたこと。一緒に歌を聞いたこと。少し緊張していたこと。全部話した。

女将は微笑む。本当に楽しそうだった。王都へ来たばかりの頃より。

ずっと自然に笑うようになっている。

「良い友達が出来たんだねぇ」

「うん!」

カナタは満面の笑みだった。

◇◇◇

翌日。

フィオナは勉強していた。正確には。勉強しようとしていた。

だが。集中できない。全然できない。目の前の本。文字が頭に入らない。代わりに浮かぶ。

水色の髪。笑顔。歌声。

「フィオ!」

その声。

フィオナは頭を抱えた。

「フィオナ様?」

侍女が心配そうに見る。

「いえ」

大丈夫ではなかった。全然大丈夫ではない。なぜだろう。また会いたい。ただそれだけなのに。妙に気になる。

「次はいつ歌うのでしょう……」

ぽつりと呟く。侍女が聞き逃さなかった。

「行く気ですね?」

「え?」

「次も」

図星だった。フィオナは視線を逸らす。侍女はため息を吐いた。もう駄目だ。完全に気になっている。

そして。

その日の昼。王城の廊下を歩いていた時だった。近くで騎士達が話している。

「聞いたか?」

「ああ」

「広場の歌のお姉ちゃんだろ?」

フィオナの耳が反応する。早かった。とても早かった。

思わず立ち止まる。騎士達は気付かない。会話を続ける。

「冒険者達の間でも話題だぞ」

「歌が凄いらしいな」

「元気が出るって話だ」

フィオナは少し驚いた。市場だけではない。冒険者達にも広がっている。王城の騎士達まで知っている。

思っていた以上だった。

そして。

少しだけ誇らしい気持ちになる。自分のことではないのに。不思議だった。

◇◇◇

その頃。カナタは広場にいた。いつもの噴水。いつものベンチ。いつもの子供達。平和だった。

「フィオ今日来ないかなー」

ぽつりと呟く。子供達が首を傾げる。

「誰?」

「友達!」

カナタは笑う。本当に自然だった。

王女。貴族。身分。そんなものは関係ない。カナタにとっては。ただの友達だった。

風が吹く。水色の髪が揺れる。歌紡ぎのポシェットが揺れる。そして運命は少しずつ動いていく。

王女フィオナ。歌を届ける少女カナタ。

二人はまだ知らない。この出会いが。やがて王都を巻き込む大きな出来事へ繋がっていくことを――。

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