↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/49

第32話 噂の歌

市場を歩くフィオナは驚きの連続だった。

王城では見られない景色。人々の笑顔。賑やかな声。

漂うパンの香り。全てが新鮮だった。

そして何より。隣を歩く少女。カナタ。

「フィオ!」

「は、はい!」

突然呼ばれ。フィオナは少し慌てる。カナタは気にしていない。完全に自然だった。

「このパンおすすめ!」

「ありがとうございます」

「あとあっちの果物も美味しいよ!」

「そ、そうなのですね」

案内が止まらない。市場の人達も笑っている。

「あら、歌のお姉ちゃん」

「今日はお友達かい?」

パン屋のおばちゃんが声を掛ける。フィオナが固まる。お友達。その言葉が妙に嬉しかった。

「うん!」

カナタは即答だった。

「フィオ!」

紹介された。フィオナは少し照れる。王女として紹介されることはある。

だが。友達として紹介されるのは初めてだった。

「よろしくね!」

「よ、よろしくお願いします」

おばちゃんが優しく笑う。市場の人達も笑顔だった。王城とは全く違う空気。けれど嫌じゃない。むしろ心地良かった。

その時だった。

広場の方から元気な声が聞こえる。

「あっ!」

「歌のお姉ちゃんだ!」

「いたー!」

子供達だった。いつもの集団である。カナタが手を振る。

「こんにちはー!」

すると。

子供達は一斉に駆け寄ってきた。

「歌って!」

「聞きたい!」

「お願い!」

いきなりだった。フィオナが目を丸くする。本当に人気なのだ。噂は本当だった。カナタは苦笑する。

「また?」

「また!」

即答だった。子供達は遠慮しない。ルークなら呆れていただろう。エマなら苦笑していただろう。

市場の人達も笑っている。どうやらいつものことらしい。

「うーん……」

カナタは少し考える。

そして。フィオナを見る。

「フィオ」

「はい?」

「歌聞く?」

フィオナが固まる。聞くも何も。そのために来たのだ。

だが言えない。恥ずかしい。とても恥ずかしい。

「き、聞きたいです」

小さな声で答える。カナタは笑った。

「じゃあ歌おうかな!」

その瞬間。

子供達が歓声を上げた。市場のおじさん達も笑う。

「今日は運が良いな」

「久しぶりだ」

「聞いていこうか」

人が集まり始める。だが前回ほどではない。

いつもの広場。いつもの人達。穏やかな空気だった。フィオナは噴水近くのベンチへ座る。少し緊張していた。

どんな歌なのだろう。何故こんなに人気なのだろう。

気になっていた。

そして。

カナタは噴水の前へ立つ。

夕暮れの光。風。揺れる水色の髪。歌紡ぎのポシェット。

その姿はどこか自然だった。

まるで。

そこに立つことが当たり前であるかのように。

「それじゃあ」

カナタが笑う。

「少しだけね!」

歓声が上がる。

そして。

歌が始まった。優しい歌声だった。高く。

澄んでいて。

どこまでも伸びていく。

フィオナは目を見開く。思っていたのと違った。

もっと技術的なものを想像していた。もっと凄い歌手を想像していた。

だが違う。

歌が上手いのは間違いない。

それでも。それだけではない。

歌声から楽しさが伝わってくる。

歌うことが好きなのだ。

それが分かる。

だから。

自然と聞き入ってしまう。周囲の人達も同じだった。

子供達は笑顔。市場の人達も笑顔。冒険者達も足を止める。ただ聞いている。それだけなのに。心地良い。

そしてフィオナは気付く。自分も笑っていた。

いつの間にか。自然と。

王城ではあまり見せない笑顔だった。

歌は続く。風が吹く。広場を抜ける風。歌声を運ぶ風。フィオナは空を見上げた。

『自由に飛べ!』

その歌詞が胸へ刺さる。

自由。

その言葉は。王女である自分には少し遠いものだった。やるべきことがある。果たすべき責任がある。

だから。

少しだけ羨ましかった。

自由に笑うカナタが。

自由に歌うカナタが。

そして。

少しだけ憧れた。歌はやがて終わる。

大きな拍手。

歓声。笑顔。フィオナも思わず拍手していた。気付けば夢中だった。

「どうだった?」

歌い終わったカナタが近付いてくる。フィオナは少し考えた。言葉を探した。

けれど。

上手く見つからない。だから正直に答える。

「……素敵でした」

カナタは笑った。満面の笑みだった。

「ありがと!」

それだけだった。偉そうでもない。特別でもない。ただ嬉しそうだった。

フィオナは思う。王城へ帰ったら。きっとまた勉強が待っている。書類もある。礼儀作法もある。

けれど。

今日は来て良かった。本当に。そう思えた。

そしてまだ知らない。

これが。王女フィオナと。歌を届ける少女カナタの。本当の始まりになることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。