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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第28話 歌を届ける少女

歌が終わった後も。しばらく広場の熱気は冷めなかった。

子供達が集まる。市場の人達が話し掛けてくる。

冒険者達も笑顔だった。カナタは何度もお礼を言った。

少し照れながら。少し恥ずかしがりながら。

それでも。とても嬉しかった。

「ありがとう!」

「また聞かせて!」

「次も楽しみにしてるぞ!」

次々に声が飛ぶ。そのたびにカナタは笑顔で返事をした。

気付けば空はすっかり暗くなっている。ルークとエマとも別れ。ミリアとも挨拶を交わす。

そして。カナタは木漏れ日の亭へ戻った。

「ただいまー」

宿の女将が笑う。

「今日は随分賑やかだったみたいだねぇ」

「なんで知ってるの?」

「噂になってるからさ」

カナタは顔を覆った。もう完全に広まっているらしい。

恥ずかしい。でも少しだけ嬉しい。

夕食を食べる。部屋へ戻る。ベッドへ腰を下ろす。今日一日を思い返した。

広場。歌。拍手。笑顔。思い出すだけで胸が温かくなる。

異世界へ来た日。こんな未来は想像していなかった。

知らない世界。知らない街。不安もあった。

けれど。今は違う。友達がいる。待っていてくれる人達がいる。それが嬉しかった。

「楽しかったなぁ」

ぽつりと呟く。

そして。

そのままベッドへ倒れ込んだ。

身体は正直だった。今日は本当に疲れた。目を閉じる。

意識が少しずつ遠くなる。広場の歓声。拍手。笑顔。

それらがゆっくりと溶けていく。

そして――。

◇◇◇

気付くと。真っ白な世界だった。何もない。どこまでも白い空間。

風も無い。音も無い。

けれど。

見覚えがあった。

「……あ」

その先に立つ人物を見る。

懐かしい姿。穏やかな笑顔。

「久しぶりだな」

優しい声だった。カナタは目を丸くする。

「神様!」

異世界へ来る前。最後に会った存在。この世界へ送り出してくれた神様だった。

「元気そうだな」

「うん!」

即答だった。神様は思わず笑う。本当に変わらない。

「楽しいか?」

「楽しい!」

これも即答だった。

王都。友達。冒険者。歌。全部楽しい。カナタは迷わず答えた。

神様は静かに頷く。

「そうか」

その一言だけだった。

けれど。どこか嬉しそうだった。少しの沈黙。

その時だった。

ふと。カナタの頭に一つの言葉が浮かぶ。

懐かしい言葉。大切な言葉。異世界へ来る前。最後に聞いた言葉。

――この世界に歌を届けてこい。

「あっ」

思わず声が漏れる。神様は優しく笑った。

「思い出したか」

「そうだった……」

忘れていたわけではない。

本当に。

忘れていたわけではない。

ただ。毎日が忙しかった。知らない世界で生きること。

友達を作ること。冒険者として頑張ること。それだけで精一杯だった。

だから。心の奥へしまい込んでいた。それだけだった。

「私……」

カナタは少し考える。そして小さく笑った。

「ちゃんと歌届けてたんだね」

神様は頷いた。

「少しずつな」

王都だけ。まだ世界のほんの一部。

けれど。

確かに届いている。子供達へ。市場の人達へ。冒険者達へ。歌は広がっていた。

「焦る必要はない」

神様が言う。

「世界は広い」

「うん」

「一人でもいい」

「うん」

「十人でもいい」

「うん」

「百人でもいい」

神様は続ける。

「お前の歌を待つ者が増えるたび」

「……」

「世界は少しだけ優しくなる」

カナタは静かに聞いていた。その言葉が好きだった。神様らしいと思った。有名になれとは言わない。急げとも言わない。

ただ。自分らしく歌えと言ってくれる。それが嬉しかった。

「分かった!」

元気よく頷く。神様は苦笑する。

そして最後に言った。

「歌を届ける少女よ」

優しい声だった。

「これからも自由に歌え」

その言葉と共に。白い世界が光に包まれる。神様の姿も少しずつ遠ざかっていく。

そして――。

◇◇◇

朝だった。

カナタはゆっくり目を開く。窓から差し込む朝日。見慣れた天井。木漏れ日の亭の部屋。夢だったのだろうか。

たぶん。

きっと。

でも。神様の言葉だけは妙にはっきり覚えていた。

「歌を届ける少女……か」

少しだけ照れ臭い。でも悪くない。

そう思えた。

身支度を整える。歌紡ぎのポシェットを肩に掛ける。

その時。

「あれ?」

中央の金色の星。その周囲の金装飾が。ほんの少しだけ綺麗になっている気がした。

気のせいだろうか。よく分からない。

けれど。何となく嬉しい。

「ま、いっか!」

いつものカナタだった。細かいことは気にしない。

そして宿を出る。朝の王都。爽やかな風。青空。気分も良い。

だからだろうか。自然と鼻歌が漏れる。

「ふふーん♪」

自由に飛べ。

そのメロディ。

無意識だった。本当に無意識。宿の女将が笑う。

「朝から機嫌が良いねぇ」

「えへへ♪」

カナタは笑う。

そして。鼻歌を歌いながら王都を歩いていく。

自由に。楽しそうに。まるで小鳥のように。

その頃。

王都アウレリアの王城では。一つの噂が話題になっていた。

広場で歌う少女。人々を笑顔にする歌声。市場で有名な歌のお姉ちゃん。

その噂は。

静かに王族の耳へ届こうとしていた。まだ誰も知らない。

その噂に興味を持つ一人の少女――フィオナが。

近いうちにカナタの運命へ関わることになるのを。

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