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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第25話 待っている人たち

王都アウレリアへ夕暮れが訪れる。

空は茜色に染まり。街を歩く人々も少しずつ家路についていた。市場では店仕舞いが始まり。

冒険者達も依頼を終えて酒場へ向かう。そんな穏やかな時間だった。木漏れ日の亭へ戻る途中。

カナタはふと広場へ立ち寄った。特に理由は無い。

なんとなく。本当にそれだけだった。

噴水の水音。夕暮れの風。空を見上げる。あの日と同じ景色だった。

『自由に飛べ!』を歌った日。

たった数日前。それなのに。

随分前のことのようにも感じる。

「綺麗だなぁ」

ベンチへ腰掛ける。人はまだ少ない。子供達が遊んでいる。買い物帰りの人達が通る。そんな何気ない景色。

カナタは好きだった。

その時だった。

「あっ!」

聞き覚えのある声。振り向く。以前会った子供達だった。

三人。四人。いや。今日はもっと多い。

「歌のお姉ちゃんだ!」

またその呼び方だった。カナタは苦笑する。もう訂正しても意味が無い気がしてきた。

「こんばんは」

「こんばんは!」

元気な返事。子供達はベンチの周りへ集まる。自然と輪が出来た。

「今日は歌う?」

さっそくだった。カナタは笑う。

「歌わないよ」

「えー!」

予想通りの反応。不満そうだ。

だが。どこか可愛らしい。

「聞きたいのに」

「また聞きたい!」

「私も!」

次々と声が上がる。カナタは少し困った。そこまで言われるとは思わなかった。

すると。

近くを通っていたパン屋のおばちゃんが笑った。

「みんな楽しみにしてるんだよ」

「おばちゃんまで!?」

「そりゃそうさ」

おばちゃんは当然のように答えた。

そして。周囲を見る。

実は。聞いていた人はおばちゃんだけではない。

果物屋のおじさん。雑貨店のお姉さん。魚屋のおばさん。

皆どこか楽しそうな顔をしている。

「今度はいつ歌うんだい?」

魚屋のおばさんが聞く。

「分かんないよ」

「そうかい」

少し残念そうだった。カナタは驚く。

まさか。市場の人達まで楽しみにしているとは思わなかった。

その時。後ろから声がした。

「やっぱりここにいたか」

ルークだった。エマもいる。依頼帰りらしい。

「こんばんは」

エマが手を振る。

「こんばんは!」

子供達も返事をする。いつの間にか知り合いになっていた。

王都は広い。

だが。こうして少しずつ人が繋がっていく。それが不思議だった。ルークがベンチへ座る。

「また囲まれてるな」

「助けて」

「無理」

即答だった。

子供達が笑う。カナタは頬を膨らませる。最近よく見る光景だった。その様子を見ながら。エマがぽつりと言った。

「でも」

「ん?」

「私も聞きたい」

カナタが固まる。

「エマまで!?」

少し驚いた。エマはこういうことを言うタイプではない。

だが。彼女は真面目な顔だった。

「前の歌」

「うん」

「好きだった」

短い言葉。けれど。

その一言は妙に嬉しかった。

ルークも笑う。

「俺もだな」

「ルークも!?」

「なんだその反応」

二人とも本気だった。カナタは思わず視線を逸らす。褒められるのは苦手だ。恥ずかしい。

だが。

嫌ではない。むしろ嬉しい。胸の奥が少し温かくなる。その時だった。

ふわり。

優しい風が吹く。水色の髪が揺れる。

そして。歌紡ぎのポシェットが僅かに温かくなった。

本当に小さな変化。誰も気付かない。カナタも気付かない。

だが。確かに歌姫の祝福は成長していた。

歌を聞いた人。笑顔になった人。元気をもらった人。

その想いが。少しずつ積み重なっている。数値ではない。目に見えない。けれど確かな変化だった。

やがて空が暗くなり始める。子供達も帰る時間だ。

「じゃあね!」

「またね!」

元気に手を振る。市場の人達も帰っていく。広場は少しずつ静かになった。

そして最後に。一人の女の子が振り返る。

「ねぇ」

「ん?」

「今度歌う時」

女の子は笑った。

「絶対聞きに行くね!」

その言葉を残して走っていった。カナタは少しだけ呆然とする。

周囲を見る。広場。市場。友達。顔見知り。

知らない間に。自分を待ってくれる人達が増えていた。異世界へ来た時は一人だった。

何も無かった。けれど今は違う。ここには。

カナタの歌を待っている人達がいる。

その事実は。思っていた以上に嬉しかった。夕暮れの空を見上げる。

そして。小さく呟く。

「今度……か」

まだ決めていない。

けれど。次に歌う日は。もう遠くない気がしていた。

王都アウレリアの夜。歌を待つ人達は少しずつ増えていく。

そして。歌を届ける少女もまた。

次の一歩を踏み出そうとしていた。

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