第24話 また聞きたい歌
ギルドを出た後も。
カナタの頭の中には先ほどの言葉が残っていた。
――頑張ろうと思えた。
ただ歌っただけだった。自分が好きだから歌っただけ。
それなのに。誰かの力になれた。その事実が不思議だった。
「どうした?」
ルークが横を見る。
「難しい顔してる」
「してないよ?」
「してる」
エマまで頷いた。カナタは少し考える。そして素直に話した。
「なんかね」
「うん」
「歌って不思議だなって」
ルークとエマは顔を見合わせた。少し考える。そしてルークが言った。
「俺は分かる気がする」
「え?」
「昨日聞いた時さ」
ルークは頭を掻く。少し照れ臭そうだった。
「なんか元気出たし」
エマも頷く。
「私も」
カナタは驚く。また同じことを言われた。偶然だと思っていた。
でも。一人ではない。二人でもない。最近そう言う人が増えている。
「そんな大した歌じゃないよ?」
思わず言う。
だが。ルークは笑った。
「自分で言うなよ」
「だって本当だもん」
「それを決めるのは聞いた人だろ」
その言葉に。カナタは少し黙った。確かにそうかもしれない。歌う側ではなく。聞く側が決める。
考えたこともなかった。三人は市場へ向かう。今日の依頼は終わった。
だから少し寄り道だ。市場は相変わらず賑やかだった。
野菜。果物。布。装飾品。様々な店が並んでいる。
歩いているだけでも楽しい。
その時だった。
「おや?」
聞き覚えのある声。パン屋のおばちゃんだった。
「あら、歌のお嬢ちゃん」
「その呼び方増えてない!?」
おばちゃんは大笑いした。
否定しない。つまり認めている。
「広まってるよ」
「やめてー!」
カナタは頭を抱えた。
だが。周囲の店主達も笑っている。どうやら本当に広まっているらしい。
「そういえば」
野菜を並べていたおじさんが言った。
「俺も聞いたぞ」
「えっ」
「広場の歌」
さらに増えた。もう逃げられない。
「良かったよ」
「ありがとう……」
最近このやり取りが増えている。恥ずかしい。
でも。嫌ではない。少しだけ照れながら答える。
すると。
今度は魚屋のおばさんが話に入ってきた。
「今度また歌うのかい?」
「え?」
「聞きたい人多いよ」
周囲が頷く。本当に多かった。カナタは目を丸くする。
まさか市場の人達まで覚えているとは思わなかった。
「まだ分かんないよ」
正直な答えだった。
すると。おばさんは笑った。
「じゃあ決まったら教えておくれ」
「うん」
自然と返事をする。その様子を見ながら。ルークが小さく笑った。
「もう人気者じゃん」
「違うってば!」
「いや違わないだろ」
エマまで同意する。完全に孤立した。カナタは頬を膨らませる。
だが。どこか嬉しかった。市場を歩き続ける。
途中で子供達とも会った。やはり覚えられている。
「歌のお姉ちゃん!」
「また来た!」
「次いつ歌うの?」
質問は同じだった。
そして。期待に満ちた目をしている。カナタは少し困る。歌う予定は無い。本当に無い。
だが。期待されると弱い。
「そのうち?」
曖昧な返事。それだけで子供達は喜んだ。単純だった。
でも。
その笑顔を見ていると。悪くないと思ってしまう。
夕方。広場の近くを通る。あの日歌った場所。
噴水。ベンチ。夕焼け。全て変わらない。それなのに。少しだけ違って見えた。
歌う前は。ただ綺麗な場所だった。
今は。色々な人との思い出がある場所になっていた。足を止める。風が吹く。水色の髪が揺れる。
そして。
歌紡ぎのポシェットが僅かに温かくなった気がした。本当に一瞬。気のせいかもしれない。
だが。
どこか優しい温もりだった。
「……」
カナタは広場を見る。また歌う日が来るのだろうか。分からない。
でも。もし歌うなら。今度は少し違う気がした。前は自分が歌いたかったから歌った。
次は。聞きたいと言ってくれる人がいる。待ってくれている人がいる。それは少しだけ特別だった。
そして王都アウレリアでは。広場の歌のお姉ちゃんの噂が。
ゆっくりと。
けれど確実に広がり続けていた。誰も知らない。次に歌声が響く時。前回よりもずっと多くの人が。
その歌を待っていることを。




