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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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22/49

第22話 少しずつ増える居場所

翌朝。

カナタはいつものように元気よく目を覚ました。

窓から差し込む朝日。鳥の鳴き声。木漏れ日の亭にもすっかり慣れてきた。

異世界へ来たばかりの頃は全てが新鮮だった。今も新鮮なことは多い。

だが。

少しずつ日常になり始めている。それがどこか嬉しかった。

「今日も頑張ろう!」

気合いを入れる。そして朝食を終えると冒険者ギルドへ向かった。王都の朝は賑やかだ。

パン屋からは焼きたての香り。市場では商人達が準備を始めている。子供達の笑い声も聞こえる。

そんな景色を見ながら歩いていると。

「おっ」

聞き覚えのある声。振り返る。

ルークだった。

「おはよう!」

カナタが手を振る。

「朝から元気だな」

「ルークも元気そう!」

「まあな」

ルークは苦笑した。そのまま二人でギルドへ向かう。途中でエマとも合流した。

三人揃うと少し賑やかになる。まだ知り合って間もない。

だが。

不思議と話しやすかった。ギルドへ到着する。依頼掲示板を見る。今日は森ではなく。王都内の雑用依頼を受けることになった。

荷物運び。倉庫整理。市場への配送補助。地味な依頼だ。

だが新人には人気らしい。

「今日は平和だな」

ルークが言う。

「昨日が大変だったからね」

エマも頷く。カナタは笑顔だった。

「平和好き!」

それは本音だった。もちろん冒険も嫌いではない。

だが。人と話したり。街を歩いたりするのも好きだった。依頼は順調に進んだ。市場の倉庫。商店街。広場近くの雑貨店。色々な場所を回る。

そして。

少しずつ顔を覚えられ始める。

「おや?」

パン屋のおばちゃんが声を掛けてきた。以前荷物を届けた店だ。

「元気そうだね」

「うん!」

「相変わらず良い返事だ」

おばちゃんが笑う。

そして。焼きたての小さなパンを一つ差し出した。

「ほら」

「えっ」

「頑張ってるご褒美」

カナタの目が輝いた。

「いいの!?」

「いいんだよ」

嬉しそうに受け取る。そして一口。

「おいしい!」

満面の笑みだった。ルークとエマが笑う。本当に美味しそうに食べる。見ているだけで幸せそうだった。

その後も依頼は続く。

雑貨店のおじさん。市場の商人。食堂の店主。少しずつ顔見知りが増えていく。

「最近よく見るな」

そんな言葉も増え始めた。カナタは気付いていない。

だが。王都での居場所が少しずつ広がっていた。

昼頃。依頼も一段落する。

三人は市場近くの広場で休憩することになった。

ベンチへ座る。風が気持ち良い。

「王都にも慣れてきた?」

エマが聞く。カナタは少し考えた。そして頷く。

「うん」

本当にそう思った。最初は何も分からなかった。

知らない世界。知らない街。知らない人達。不安もあった。

でも今は違う。宿の人達。ミリア。ルーク。エマ。

市場のおばちゃん。知っている顔が増えた。それだけで街の見え方が変わる。

「良かったな」

ルークが笑う。

「うん!」

その時だった。広場の反対側から子供達の声が聞こえてきた。

「いた!」

「本当だ!」

「歌のお姉ちゃんだ!」

カナタが固まる。嫌な予感しかしない。

そして。数人の子供達が駆け寄ってきた。

「歌のお姉ちゃん!」

「やっぱりだ!」

「広場の人だ!」

見つかった。また見つかった。カナタは思わず顔を覆う。

ルークは吹き出した。エマも笑いを堪えている。

「歌のお姉ちゃんって呼ばれてるのか」

「初めて聞いた」

「やめて!」

恥ずかしかった。とても恥ずかしかった。子供達は気にしない。むしろ楽しそうだ。

「あの歌良かった!」

「また聞きたい!」

「ねー!」

一斉に言われる。

カナタは困る。まだ歌う予定は無い。心の準備も無い。

だが。嬉しくないわけでもなかった。歌を覚えていてくれた。それが少し嬉しかった。

「今は歌わないよ?」

そう言うと。子供達は少し残念そうな顔をした。

だがすぐ笑う。

「じゃあ今度!」

「約束!」

「また聞かせて!」

元気いっぱいだった。カナタは思わず笑ってしまう。

「うん」

小さく頷く。

その瞬間。子供達は大喜びした。まるで大冒険の約束をしたかのように。そして走り去っていく。

その背中を見送りながら。ルークが言った。

「有名人だな」

「違うよ!」

即答だった。

だが。エマは少しだけ笑う。

「でも嬉しそうだった」

「えっ」

「さっき」

カナタは言葉に詰まる。

確かに。少し嬉しかった。歌を覚えていてくれる人がいた。また聞きたいと言ってくれる人がいた。それが嬉しかった。胸の奥が少し温かくなる。

そして。

肩に掛けた歌紡ぎのポシェットが。誰にも気付かれないほど僅かに輝いた。まだ小さな光。

けれど確かな変化。歌好きの少女は。

少しずつ。少しずつ。歌を届ける少女になろうとしていた。

そして王都アウレリアにも。広場の歌の少女の噂が。静かに広がり始めていた。

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