第20話 初めての共同戦闘
薬草採取は順調だった。
いや。順調すぎたと言ってもいい。予定していた薬草はすべて集まり。依頼達成に必要な数も十分確保できている。
昼を少し過ぎた頃には作業が終わっていた。
「終わったー!」
カナタが両手を上げる。空は青い。風も気持ち良い。絶好の冒険日和だった。
「早すぎるだろ……」
ルークが苦笑する。
「普通こんなに早く終わらないぞ」
「そうなの?」
「そうなの」
エマも即答した。カナタは不思議そうな顔をする。本人に自覚はない。
だが神様から与えられた身体能力や感覚は普通ではない。
薬草探し程度なら驚くほど効率が良かった。
「次も一緒なら楽できそうだな」
ルークが笑う。
「それ失礼じゃない?」
エマが呆れる。
「だって本当だろ」
「うーん」
カナタは少し考えた。
そして。
「じゃあ次も頑張る!」
と笑顔で答えた。ルークとエマは思わず笑ってしまう。細かいことを気にしない。それがカナタらしかった。
帰り道。三人は森の中を歩いていた。依頼も終わった。
急ぐ必要もない。自然と会話が増える。
「そういえばさ」
ルークが言った。
「カナタってどこ出身なんだ?」
一瞬。
カナタの動きが止まる。異世界です。とは言えない。当然だ。
「えっと……遠く!」
「雑だな!」
ルークが吹き出した。エマまで肩を震わせている。
「本当に遠いんだよ!」
「どれくらい?」
「すっごく遠い!」
「説明になってない」
エマが冷静に突っ込む。カナタはむぅっと頬を膨らませた。そんなやり取りをしている時だった。
ピクリ。カナタの耳が僅かに反応する。
何か聞こえた。小さな音。木々の揺れる音とは違う。
「ん?」
足を止める。
ルークとエマも気付いた。
「どうした?」
「今何か……」
その瞬間だった。
ガサッ!!
近くの茂みが大きく揺れる。三人の表情が変わる。ルークが剣を抜く。エマも腰の短剣へ手を伸ばした。
空気が変わる。森が静かになった。
そして。
茂みの奥から姿を現した。灰色の毛並み。鋭い牙。赤い目。
体長は大型犬ほど。
「グルルル……」
低い唸り声。ルークの顔が強張る。
「ウルフか……!」
森では珍しくない魔物。だが新人には十分危険な相手だった。
しかも。一匹ではない。右。左。さらに後ろ。三匹。囲まれている。
「まずいな」
エマが小さく呟く。
新人三人。相手は魔物三匹。数は同じ。だが経験は向こうが上だ。
「どうする?」
ルークが聞く。声に少し緊張が混じる。カナタは周囲を見る。三匹ともこちらを狙っている。逃げるのは難しい。
なら。
「やるしかない!」
即答だった。
ルークとエマは顔を見合わせる。そして笑った。確かにその通りだ。新人だろうが何だろうが。
冒険者なのだから。戦うしかない。
次の瞬間。
一匹が飛び出した。
「来るぞ!」
ルークが叫ぶ。剣を振る。ウルフが飛び退く。だが別の一匹が横から襲う。
「っ!」
エマが短剣で受け流した。思った以上に速い。新人には厳しい相手だった。
だが。カナタは違った。飛び込んできたウルフを見据える。
怖くないわけではない。心臓は速くなっている。それでも。
身体が自然と動いた。横へ。一歩。最小限の動き。牙を避ける。
そして近くに落ちていた太い枝を握る。振り抜く。
ゴッ!!
鈍い音。ウルフが吹き飛んだ。
「え?」
ルークが固まる。エマも固まる。ウルフも固まっていた。
何が起きたのか分からない。一番分かっていないのはカナタ本人だった。
「当たった!」
嬉しそうだった。
「いや当たったじゃない!」
ルークが叫ぶ。
「吹っ飛んだぞ!?」
普通はそうならない。枝で殴って吹き飛ぶ魔物など聞いたことがない。
だが今は考えている余裕がない。残り二匹。
三人は連携する。ルークが正面を引き付ける。エマが横から攻撃する。カナタが援護する。
初めてとは思えないほど息が合っていた。
そして数分後。最後の一匹が逃げ出した。森に静寂が戻る。
「はぁ……」
ルークが座り込む。
「終わった……」
エマも息を吐く。カナタもようやく緊張が解けた。手を見る。少し震えていた。怖かったのだ。
もちろん。それ以上に興奮していた。
「冒険者っぽかった!」
第一声がそれだった。
ルークが吹き出す。エマも笑う。さっきまで戦っていたのに。不思議と怖さより達成感が勝っていた。
「助かった」
ルークが言う。
「え?」
「正直、一人だったら危なかった」
エマも頷く。
「私も」
カナタは少し照れた。褒められると弱い。
「私も助けてもらったよ」
それは本音だった。一人では無理だった。三人だったから乗り越えられた。
それが嬉しい。その時だった。風が吹く。水色の髪が揺れる。肩に掛けた歌紡ぎのポシェット。
その星の装飾が。ほんの一瞬だけ淡く輝いた。誰も気付かない。
だが。確かに何かが変わり始めていた。
歌だけではない。人との繋がり。信頼。助け合い。
その全てが。少しずつカナタの中で形になっていく。
そして三人は知らない。この日をきっかけに。彼らがただの共同依頼の仲間ではなく。大切な友人になっていくことを。




