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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第11話 神様からの贈り物

金色の光が舞っていた。泉のほとり。

歌を歌い終えたカナタの周囲を、小さな光の粒がゆっくりと漂っている。

まるで夜空の星が地上へ降りてきたようだった。

暖かい光。優しい光。見ているだけで心が落ち着く。

「綺麗……」

思わず呟く。異世界へ来てから不思議なことは何度もあった。

だが。こんな光景は初めてだった。小鳥達も静かだった。

兎も。鹿も。森の動物達は誰一匹騒がない。

まるで何か大切な瞬間を見守っているようだった。

光は少しずつ集まっていく。カナタの目の前へ。泉のほとりへ。

そして。一つの形を作り始めた。

「え……?」

光が重なる。淡く輝く。やがて。

そこに現れたのは小さな肩掛け鞄だった。白を基調とした可愛らしいポシェット。派手ではない。

だが不思議と目を引く。金色の刺繍が施されていた。

羽根のような模様。星のような模様。そして小さな音符にも見える意匠。どこか神聖で。どこか優しい。

そんな雰囲気を持っていた。

「ポシェット……?」

カナタはゆっくり近付く。危険な感じはしない。むしろ逆だった。

懐かしいような安心感がある。恐る恐る触れてみる。

その瞬間。頭の中へ情報が流れ込んだ。

《歌紡ぎのポシェット》

「歌紡ぎのポシェット……」

思わず読み上げる。聞いたことのない名前。

なのに。不思議としっくり来た。

まるで昔から持っていた物のような感覚だった。

「私の……?」

誰に聞くでもなく呟く。返事はない。

だが。そうだと分かった。カナタはポシェットの蓋を開く。中には一通の手紙が入っていた。

その瞬間。遠い目になった。

「絶対あの神様だ……」

嫌な予感しかしない。だが読まないわけにもいかない。観念して手紙を開く。

そこには見覚えのある文字が並んでいた。

――――――

『カナタへ』

異世界生活は楽しんでいるか。

まあ、お前のことだ。

心配はしていない。

どうせ好き勝手やっているだろう。

実際そうなのだろうしな。

これは約束していたわけではないが、せっかくなので置いておく。

餞別のようなものだと思え。

中身は収納の魔道具だ。

使い方は触れば分かる。便利だぞ。

ただし。

プレゼントはこれで最後だ。

祝福も与えた。身体も丈夫にした。これ以上は贔屓になる。

……いや、既に十分贔屓かもしれんが。

ともかく。

これから先は自分で歩け。

自分で悩み。自分で決めろ。

その方が面白い。困った時は歌え。

嬉しい時も歌え。

悲しい時も歌え。お前は歌っている時が一番お前らしい。

それだけは昔から変わらなかった。

だから安心して見ていられる。

ああ、そうだ。

この手紙は読んだら消える。

何度も読まれて照れ臭いからな。

ではな。良い旅を。追伸

少し丈夫は嘘ではない。

基準が違うだけだ。

――――――

沈黙。森は静かだった。カナタはゆっくり手紙から顔を上げる。

そして。

「嘘だよね?」

真顔で言った。小鳥達が首を傾げる。

「絶対嘘だよね?」

もう一度言う。草原で吹き飛んだ狼を思い出す。

武器屋で軽々持ち上げた大剣を思い出す。石壁を凹ませたことも思い出す。どう考えても少しではない。

「絶対少しじゃないよね?」

反論はなかった。その代わり。手紙が淡く光り始める。

「あ」

思い出した。読んだら消える。そう書いてあった。

文字が光になる。紙が光になる。

そして。ふわりと空へ溶けていった。

跡形もなく。完全に。消えた。

「本当に消えた……」

少しだけ寂しい。けれど。不思議と悲しくはなかった。

神様らしいと思った。

最後まで。少しだけ不器用で。少しだけ優しい。

「ありがと」

小さく呟く。風が吹いた。木々が揺れる。返事の代わりみたいだった。カナタは少し笑った。

そして。

改めてポシェットを見る。神様からの最後の贈り物。大切にしよう。そう思った。

肩へ掛けてみる。驚くほど軽かった。何も持っていないみたいだ。

「便利そう」

試しに薬草へ触れる。

すると。薬草が淡く光った。

次の瞬間。消えた。

「えっ!?」

慌ててポシェットを開く。中を見る。そこには薬草が綺麗に収納されていた。

「すごい!」

思わず立ち上がる。楽しい。かなり楽しい。

子供がおもちゃを手に入れたような気分だった。

次は小石。収納。成功。木の実。成功。

落ちていた枝。

成功。

「すごい!すごい!」

どんどん入る。面白い。あまりにも面白い。

その時。再び情報が頭へ流れ込んだ。

《歌紡ぎのポシェット》

歌姫の祝福と共に成長する収納魔道具

現在容量:小

「成長するんだ」

カナタは目を瞬かせた。普通の収納ではないらしい。

歌姫の祝福。

つまり。歌と共に成長するのだろうか。なんだかカナタらしい。

少し嬉しくなった。小鳥達も楽しそうに鳴いている。

ピィ。

ピピッ。

祝福してくれているようだった。

「よし!」

カナタは立ち上がる。薬草は十分。依頼も達成できる。しかも神様からプレゼントまで貰った。

今日は良い日だった。本当に。森を見渡す。

泉。花畑。動物達。全部が綺麗だった。

「また来るね」

誰に言うでもなく呟く。すると風が吹いた。花びらが舞う。まるで見送りみたいだった。カナタは笑顔になる。

そして。歌紡ぎのポシェットを肩に掛けたまま。王都アウレリアへ向けて歩き始めた。

初めての依頼を終えるために。異世界での最初の報酬を受け取るために。

そして何より――

美味しいご飯を食べるために。

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